金利上昇によって、銀行預金や個人向け国債などの安全資産から得られる利息が増えています。一方、NISAを利用した株式投資信託などへの長期分散投資も、家計の資産形成における重要な選択肢となっています。
これまでの超低金利時代には、預金だけでは資産を増やすことが難しく、投資の必要性が強調されてきました。しかし、預金や個人向け国債の利回りが改善した現在では、すべての余裕資金を価格変動のある金融商品へ振り向ける必要性は以前より低下しています。
ただし、安全資産だけで長期的な資産形成を行う場合には、物価上昇によって実質的な購買力が低下する可能性があります。
一方、NISAで運用する株式投資信託には、長期的な成長を期待できる反面、価格変動によって資産が大きく減少するリスクがあります。
人生100年時代の資産管理では、安全資産とNISAを対立する選択肢として考えるのではなく、それぞれの役割を明確にして組み合わせることが重要です。
安全資産と成長資産は役割が異なる
家計の金融資産は、大きく安全資産と成長資産に分けて考えることができます。
安全資産には、普通預金、定期預金、個人向け国債などがあります。
これらは元本の安全性や換金性を重視し、生活費や将来の支出に備えるための資金に適しています。
一方、成長資産には、株式や株式投資信託などがあります。
これらは価格変動リスクを伴いますが、長期的には企業の利益成長や経済成長による収益を期待できます。
重要なのは、金融商品そのものの優劣ではありません。
例えば、3年後に必要な教育費を株式投資信託で運用すると、必要な時期に市場価格が下落している可能性があります。
反対に、20年以上使用する予定のない資金をすべて普通預金に置くと、物価上昇によって購買力が低下する可能性があります。
資金の使用目的と運用期間に応じて、適切な金融商品を選ぶことが基本です。
NISAは非課税制度であり元本保証制度ではない
NISAは、一定の要件を満たす金融商品の運用益を非課税とする制度です。
2024年から始まった新しいNISAでは、年間投資枠が最大360万円、非課税保有限度額が1,800万円となっています。
つみたて投資枠と成長投資枠を組み合わせることで、長期的な資産形成に活用できます。
例えば、課税口座で投資信託を購入し、100万円の売却益が発生した場合、原則として約20万円の税金がかかります。
一方、NISA口座で同じ売却益が発生した場合、対象となる運用益は非課税です。
ただし、NISAを利用しても、投資信託の価格変動リスクがなくなるわけではありません。
また、NISA口座で発生した損失は、課税口座の利益と損益通算できません。
そのため、非課税というメリットだけで投資金額を決めることは適切ではありません。
生活防衛資金はNISAより預金を優先する
安全資産とNISAを組み合わせる際には、まず生活防衛資金を確保する必要があります。
生活防衛資金は、失業、病気、介護、災害など、予期しない出来事に備える資金です。
一般的には生活費の6カ月〜1年分が一つの目安ですが、必要額は世帯の収入構造や家族構成によって異なります。
例えば、毎月の生活費が30万円であれば、6カ月分は180万円、1年分は360万円です。
この資金を株式投資信託で運用し、市場価格が20%下落した場合、300万円の資産価値は240万円になります。
必要なときに資金が不足する可能性があります。
そのため、生活防衛資金については、普通預金や貯蓄預金など、元本の安全性と換金性を重視する金融商品で管理することが基本です。
5年以内に使う資金は安全資産を中心にする
教育費、住宅購入資金、車の買い替え費用など、5年以内に使用する予定の資金については、安全資産を中心に管理することが合理的です。
例えば、3年後に300万円の教育費が必要になる場合、固定3年の個人向け国債や定期預金などが選択肢になります。
ただし、国債の満期日や定期預金の満期日が実際の支払日より後になる場合には、資金計画に支障が生じる可能性があります。
また、個人向け国債は原則として発行後1年間は中途換金できません。
そのため、使用時期が近い資金については、普通預金などで確保する必要があります。
NISAで運用している資金についても、使用時期が近づいた段階で必要額を安全資産へ移す方法が考えられます。
10年以上使わない資金はNISAを検討する
10年以上使用する予定のない資金については、NISAを利用した長期分散投資が選択肢になります。
例えば、毎月3万円を20年間積み立てる場合、元本の合計は720万円です。
仮に年3%で運用できた場合、20年後の資産額は約985万円になります。
年5%で運用できた場合には、約1,233万円となります。
ただし、これらは毎月末に積み立て、一定の利回りで複利運用できたと仮定した試算です。
実際の株式市場では、毎年同じ利回りが得られるわけではありません。
また、元本割れする可能性もあります。
長期投資では、短期的な価格変動に対応できる資金だけを投資対象とすることが重要です。
金融資産1,000万円の配分例
例えば、金融資産1,000万円を保有する50代の世帯を考えます。
この世帯では、生活防衛資金として300万円、今後5年以内に必要な教育費や住宅関連費用として300万円を確保する必要があるとします。
この場合、600万円を預金や個人向け国債などの安全資産で管理する方法があります。
残り400万円については、長期間使用する予定がないことを確認したうえで、NISAなどを活用した分散投資を検討できます。
ただし、これは資産配分の一例です。
住宅ローンの返済が残っている世帯や、収入が不安定な世帯では、安全資産の割合を高める必要がある場合があります。
一方、十分な年金収入や金融資産がある世帯では、長期運用資金を増やせる可能性があります。
重要なのは、年齢だけで配分を決めるのではなく、家計全体の資金需要を把握することです。
株式市場の下落に備える安全資産の役割
安全資産は、株式市場が下落した場合にも重要な役割を果たします。
例えば、金融資産1,000万円のうち、400万円を株式投資信託、600万円を安全資産で保有している場合を考えます。
株式投資信託が30%下落すると、400万円の資産価値は280万円になります。
金融資産全体では、1,000万円から880万円へ減少します。
一方、1,000万円をすべて株式投資信託で保有していた場合、30%の下落によって700万円になります。
安全資産を組み合わせることで、金融資産全体の価格変動を抑えられる可能性があります。
ただし、安全資産にも金利変動やインフレなどのリスクがあります。
特にMRFは元本保証商品ではないため、銀行預金や個人向け国債と同じ安全性があるわけではありません。
安全資産があることで投資を継続しやすくなる
長期投資では、株式市場の下落時に投資を継続できるかどうかが重要になります。
例えば、株式投資信託の価格が30%下落した場合、資産価値が大きく減少したことに不安を感じ、売却してしまう可能性があります。
しかし、当面の生活費や将来必要な資金を安全資産で確保していれば、生活費のために投資信託を売却する必要性を抑えられます。
また、定期的な積立投資を継続しやすくなる可能性があります。
ただし、株式市場が必ず短期間で回復するとは限りません。
安全資産を保有していても、投資期間やリスク許容度を超える損失が発生する可能性があります。
そのため、投資を始める前に、どの程度の価格下落まで受け入れられるかを考えることが重要です。
年齢だけで資産配分を決めない
一般に、年齢が高くなるほど安全資産の割合を増やす考え方があります。
しかし、年齢だけで適切な資産配分が決まるわけではありません。
例えば、60代でも安定した給与収入があり、70歳まで働く予定の人と、60歳で完全に退職する人では、資金需要が異なります。
また、同じ70代でも、公的年金だけで生活費を賄える人と、毎月金融資産を取り崩す必要がある人では、必要な安全資産の金額が異なります。
さらに、配偶者の収入、住宅ローンの有無、医療・介護への備えなども重要です。
そのため、年齢を一つの参考情報としながら、収入、支出、資産残高、運用期間を総合的に考える必要があります。
NISAの年間投資枠を使い切る必要はない
NISAには年間最大360万円の投資枠がありますが、毎年必ず上限まで投資する必要はありません。
例えば、年間の余裕資金が100万円の世帯であれば、その範囲内でNISAを活用することが合理的です。
生活防衛資金や教育費を取り崩してまで、年間投資枠を使い切ることは適切ではありません。
また、NISAの非課税保有限度額1,800万円は、すべての人が必ず到達すべき目標ではありません。
重要なのは、家計の資金計画に無理のない範囲で投資を継続することです。
NISAは資産形成を支援する制度であり、投資金額を増やすこと自体が目的ではありません。
定期的なリバランスで配分を維持する
安全資産と成長資産を組み合わせた場合、時間の経過とともに資産配分が変化します。
例えば、当初は安全資産60%、成長資産40%で運用していたとしても、株式市場が上昇すれば成長資産の割合が高くなります。
反対に、株式市場が下落すれば、安全資産の割合が高くなります。
このような変化に対応する方法がリバランスです。
リバランスとは、資産の売買や新たな資金の配分によって、当初設定した資産配分に近づけることです。
例えば、年1回、金融資産全体の割合を確認し、必要に応じて調整する方法があります。
ただし、売却に伴う税金や手数料、NISAの非課税保有限度額の取り扱いなどにも注意が必要です。
頻繁な売買によって費用が増えることは避ける必要があります。
退職後は取り崩しを前提に考える
退職後は、金融資産を増やすことだけでなく、取り崩しながら生活することが重要になります。
例えば、公的年金の手取り収入が月25万円、生活費が月30万円であれば、毎月5万円の不足が生じます。
年間では60万円です。
この場合、数年分の不足額を安全資産で確保し、残りの長期資金をNISAなどで運用する方法が考えられます。
例えば、5年分の不足額は300万円です。
この300万円を預金や個人向け国債などで管理すれば、株式市場が下落した場合でも、当面の生活費を確保しやすくなります。
ただし、個人向け国債には中途換金の条件があるため、実際の支出時期に合わせた管理が必要です。
退職後の資産運用では、資産配分だけでなく、取り崩す順番や時期も重要になります。
結論
金利上昇によって、預金や個人向け国債などの安全資産の魅力が高まっています。
一方、NISAを利用した株式投資信託などへの長期分散投資は、資産形成やインフレへの対応策として重要な役割を持っています。
ただし、安全資産と成長資産は、どちらか一方を選ぶものではありません。
生活防衛資金や数年以内に必要な資金は安全資産で確保し、10年以上使用する予定のない資金については、NISAなどを活用した長期分散投資を検討することが基本です。
また、株式市場の下落時に生活費のための売却を避けられるよう、安全資産を一定額保有することも重要です。
NISAの年間投資枠を無理に使い切る必要はなく、家計の収支や将来の資金需要を踏まえて投資金額を決める必要があります。
人生100年時代の資産管理では、資産を守ることと増やすことを両立させ、定期的に配分を見直すことが求められます。
安全資産とNISAを組み合わせる目的は、短期的な運用収益を最大化することではなく、必要な資金を確保しながら、長期的な資産形成を継続できる家計をつくることです。
参考
日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金利上昇『安全資産』を選ぶ MRFと国債、用途で使い分け」
金融庁「NISA制度の概要」
金融庁「家計管理と生活設計」
金融庁「長期・積立・分散投資」
財務省「個人向け国債の商品概要」
預金保険機構「預金保険制度の解説」