金利上昇によって、銀行預金や個人向け国債などの安全資産を取り巻く環境が大きく変化しています。
長く続いた超低金利時代には、預金に資金を置いても十分な利息を期待できませんでした。しかし、日本銀行の金融政策の正常化によって、普通預金、定期預金、個人向け国債などの金利が上昇し、元本の安全性を重視しながら一定の収益を確保しやすくなっています。
一方、人生100年時代には、退職後の生活が30年以上続く可能性があります。
そのため、金融資産を単に減らさないことだけでなく、生活費や医療・介護費を賄いながら、長期間にわたって資産を維持することが重要です。
また、物価上昇によって、預金残高が減っていなくても、実質的な購買力が低下する可能性があります。
50代、60代、70代では、収入構造や資金の使用目的が異なるため、適切な安全資産の保有方法も変わります。
人生100年時代の資産管理では、年齢だけで金融商品を選ぶのではなく、収入、支出、資産残高、健康状態、将来の資金需要を踏まえて、安全資産と成長資産の役割を設計することが重要です。
資産寿命は運用利回りだけで決まらない
資産寿命とは、保有する金融資産が生活を支えられる期間を意味します。
資産寿命を考える際には、運用利回りだけでなく、毎年の収支が重要になります。
例えば、退職時に2,000万円の金融資産を保有し、毎年100万円を取り崩す場合、運用収益がなく、物価や支出も変わらないと仮定すれば、20年間で資金を使い切る計算です。
一方、毎年の取り崩し額が50万円であれば、単純計算では40年間になります。
つまり、資産寿命は運用利回りだけでなく、生活費と収入の差額によって大きく変わります。
また、退職後も一定期間働く場合には、資産の取り崩し開始時期を遅らせることができます。
資産寿命を延ばすためには、金融商品の選択だけでなく、働き方や生活費の管理も含めて考える必要があります。
50代は退職後の資金計画を具体化する時期
50代は、退職後の生活設計を具体的に考え始める重要な時期です。
子どもの教育費や住宅ローン返済など、大きな支出が続いている世帯もあります。
一方、子どもの独立や住宅ローンの完済によって、家計に余裕が生まれる世帯もあります。
この時期に重要なのは、退職時点で必要になる資金を見積もることです。
例えば、60歳で退職する予定なのか、65歳まで働く予定なのか、70歳まで働く可能性があるのかによって、必要な金融資産は異なります。
また、公的年金の受給開始時期や受給見込額も重要です。
50代では、生活防衛資金や数年以内に必要な資金を安全資産で確保しながら、長期的に使用する予定のない資金については、NISAなどを活用した分散投資を検討することが考えられます。
50代の安全資産は退職前後の支出に備える
例えば、55歳で金融資産2,000万円を保有している世帯を考えます。
このうち、生活防衛資金として300万円、今後5年間の教育費や住宅修繕費として500万円が必要になる場合、少なくとも800万円は安全資産で確保することが考えられます。
残り1,200万円については、退職予定時期や収入の安定性を踏まえて運用方法を検討します。
ただし、退職後すぐに生活費の取り崩しが始まる場合には、さらに安全資産を増やす必要がある可能性があります。
一方、60歳以降も安定した給与収入が続く場合には、長期運用できる資金を確保しやすくなります。
50代の資産管理では、退職までの年数だけでなく、退職後の収入と支出を見通すことが重要です。
60代は資産形成から取り崩しへの移行期
60代は、給与収入から公的年金収入へ移行する人が増える時期です。
退職金を受け取る場合には、金融資産の残高が一時的に大きく増えることもあります。
しかし、まとまった退職金を受け取ったからといって、すべてを一度に運用する必要はありません。
例えば、退職金2,000万円を受け取った場合、まず今後の生活費不足額を確認することが重要です。
公的年金の手取り収入が月25万円、生活費が月30万円であれば、毎月5万円、年間60万円の不足が生じます。
この場合、5年間の不足額は300万円です。
少なくとも数年分の不足額を安全資産で確保しておけば、株式市場が下落した場合でも、生活費のために投資信託を売却する必要性を抑えられます。
60代では、資産を増やすことと同時に、安定的な取り崩しの仕組みを整えることが重要です。
60代の退職金は預金と国債を組み合わせる
退職金のうち、数年以内に使用する予定の資金については、普通預金、定期預金、個人向け国債などが選択肢になります。
普通預金は日常生活や緊急時の支出に適しています。
定期預金は、一定期間使用しない資金について、預入時点の金利を確保できます。
個人向け国債には固定3年、固定5年、変動10年があり、資金の使用時期や金利動向に応じて選択できます。
ただし、個人向け国債は原則として発行後1年間は中途換金できません。
また、中途換金時には所定の調整額が差し引かれます。
そのため、退職直後に必要となる生活費や医療費まで個人向け国債に充てることは避ける必要があります。
退職金の管理では、金融商品ごとの利回りだけでなく、資金を使用する時期を優先することが重要です。
70代は資産の管理負担も考慮する
70代では、資産運用の収益性だけでなく、管理のしやすさも重要になります。
例えば、複数の銀行や証券会社に口座を開設し、多数の金融商品を保有している場合、資産全体の状況を把握することが難しくなる可能性があります。
また、年齢を重ねるにつれて、金融機関の手続きや資産の管理を家族が支援する場面も考えられます。
そのため、金融資産の管理方法をできるだけ分かりやすく整理することが重要です。
例えば、日常生活費を管理する銀行口座、緊急時の資金を保有する口座、中長期の資金を運用する口座など、目的別に整理する方法があります。
ただし、口座を一つに集約しすぎると、預金保険制度の保護範囲や金融機関のシステム障害などへの対応に注意が必要です。
安全性と管理のしやすさの両立が求められます。
70代以降は医療・介護への備えが重要になる
70代以降は、医療費や介護費への備えが一段と重要になります。
公的医療保険や介護保険によって一定の負担軽減が図られますが、すべての費用が公的制度で賄われるわけではありません。
例えば、住宅のバリアフリー改修、介護用品の購入、施設入居に伴う費用などが発生する可能性があります。
また、配偶者の介護が必要になった場合には、家計の支出構造が変化することもあります。
そのため、70代以降の安全資産は、生活費の不足を補う資金だけでなく、予期しない医療・介護費に対応する資金としても重要です。
ただし、将来の医療・介護費を正確に予測することは困難です。
公的制度の内容や家族の状況を踏まえながら、一定の余裕を持った資金計画を立てる必要があります。
金利上昇時代の安全資産の選び方
金利上昇によって、預金や個人向け国債の利回りが改善しています。
例えば、500万円を年2%で1年間運用した場合、税引き前の利息は10万円です。
税引き後の利息は約7万9,685円となります。
ただし、金利が高い商品であっても、資金を必要なときに引き出せなければ、家計管理に支障が生じる可能性があります。
また、銀行預金には預金保険制度がありますが、MRFなどの投資信託には元本保証がありません。
個人向け国債についても、中途換金の条件を理解する必要があります。
安全資産を選ぶ際には、利回り、元本の安全性、換金性、税金、管理のしやすさを総合的に比較することが重要です。
インフレによる購買力の低下に注意する
安全資産を保有していても、物価上昇によって実質的な購買力が低下する可能性があります。
例えば、預金金利が年2%であっても、税引き後の利回りは約1.594%です。
一方、物価上昇率が年3%であれば、実質利回りは約マイナス1.37%となります。
この状態が長期間続けば、預金残高が増えていても、同じ生活水準を維持するために必要な金額が増加します。
特に老後資金は、20年から30年以上にわたって使用する可能性があります。
そのため、短期的な元本の安全性だけでなく、長期的な購買力の維持も重要になります。
ただし、インフレ対策を理由に、生活費や医療・介護費まで株式投資へ振り向けることは慎重に考える必要があります。
NISAは長期資金の運用に活用する
NISAは、対象となる株式や投資信託の運用益が非課税になる制度です。
長期的に使用する予定のない資金については、NISAを活用した分散投資が選択肢になります。
例えば、60代であっても、十分な年金収入があり、10年以上使用する予定のない資金を保有している場合には、長期投資を検討できます。
一方、70代で毎月金融資産を取り崩して生活している場合には、価格変動の大きい資産の割合を抑える必要がある可能性があります。
重要なのは、年齢だけで投資の可否を決めることではありません。
収入、支出、金融資産の残高、運用期間、リスク許容度を踏まえて判断する必要があります。
また、NISAは元本保証制度ではないため、短期的な価格下落に対応できる資金だけを投資対象とすることが基本です。
資産の取り崩し順序を考える
退職後の資産管理では、どの金融商品から取り崩すかも重要です。
例えば、普通預金、定期預金、個人向け国債、株式投資信託を保有している場合を考えます。
日常生活費については、普通預金から支払うことが基本です。
定期預金や個人向け国債については、満期日や中途換金条件を確認しながら、必要な資金を補充する方法があります。
一方、株式投資信託については、市場価格が大きく下落した時期に生活費のために売却することをできるだけ避ける工夫が必要です。
ただし、株式市場の回復時期を正確に予測することはできません。
そのため、数年分の生活費不足額を安全資産で確保し、長期運用資金と分けて管理することが考えられます。
また、売却に伴う税金やNISAの非課税枠の取り扱いにも注意が必要です。
年1回の資産点検を習慣にする
人生100年時代の資産管理では、金融資産の状況を定期的に確認することが重要です。
例えば、年1回、金融資産の残高、年間収支、今後の支出予定、預金や国債の満期日などを確認する方法があります。
また、退職後は公的年金の受給額や生活費の変化も確認する必要があります。
物価上昇によって生活費が増加していれば、安全資産として必要な金額も変わる可能性があります。
さらに、家族構成や健康状態の変化によって、医療・介護への備えを見直す必要が生じる場合もあります。
資産配分は一度決めれば終わりではありません。
生活環境の変化に応じて、預金、個人向け国債、投資信託などの割合を調整することが重要です。
家族が理解できる資産管理を目指す
高齢期の資産管理では、本人だけでなく、家族が資産の状況を把握できることも重要です。
例えば、銀行口座や証券口座の一覧、保有する金融商品の種類、満期日、保険契約などを整理しておく方法があります。
ただし、暗証番号やパスワードを安易に共有することは避ける必要があります。
また、認知機能の低下などによって本人による財産管理が難しくなる可能性もあります。
そのため、必要に応じて任意後見契約や家族信託などの制度を検討することも考えられます。
ただし、これらの制度にはそれぞれ法的な要件や費用、利用上の制約があります。
資産管理の方法を家族と共有しながら、必要に応じて専門家へ相談することが重要です。
結論
人生100年時代の資産管理では、50代、60代、70代それぞれの生活段階に応じて、安全資産の役割を見直す必要があります。
50代では、退職後の資金計画を具体化し、教育費や住宅関連費用などを安全資産で確保することが重要です。
60代では、退職金や公的年金を踏まえ、生活費の不足額を補いながら資産寿命を延ばす仕組みを整える必要があります。
70代以降は、医療・介護への備えに加え、金融資産の管理のしやすさや家族による支援も重要になります。
また、金利上昇によって預金や個人向け国債の利回りが改善していても、物価上昇によって実質的な購買力が低下する可能性があります。
そのため、短期的に必要な資金は安全資産で確保し、長期的に使用する予定のない資金については、NISAなどを活用した分散投資を検討することが考えられます。
さらに、資産の取り崩し順序や管理方法を定期的に見直すことも重要です。
人生100年時代において、金融資産は単に増やすためのものではなく、長い人生を安心して生活するための基盤です。
安全資産管理の最終的な目的は、金融資産の残高を最大化することではなく、必要なときに必要な資金を確保しながら、人生の最後まで生活の安心と選択肢を維持することです。
参考
日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金利上昇『安全資産』を選ぶ MRFと国債、用途で使い分け」
金融庁「家計管理と生活設計」
金融庁「NISA制度の概要」
財務省「個人向け国債の商品概要」
預金保険機構「預金保険制度の解説」
厚生労働省「公的年金制度の概要」
厚生労働省「介護保険制度の概要」
総務省統計局「消費者物価指数」