金利が上がっても資産は目減りする――インフレと実質利回りの落とし穴

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

金利上昇によって、銀行預金や個人向け国債などの安全資産から得られる利息が増えています。長く続いた超低金利時代には、預金に資金を置いてもほとんど収益を期待できませんでしたが、現在は元本の安全性を重視しながら一定の利息を確保しやすくなっています。

2026年10月募集分の個人向け国債では、固定3年、固定5年、変動10年のいずれも表面利率が年2%を超える水準となりました。

しかし、金利が上昇したからといって、資産の価値が必ず守られるわけではありません。

その理由は、物価上昇です。

例えば、預金金利が年2%であっても、物価が年3%上昇すれば、預金残高は増えていても、購入できる商品やサービスの量は減少する可能性があります。

さらに、預金利息には税金がかかるため、実際に受け取る利息は表示金利より少なくなります。

人生100年時代の資産管理では、預金残高などの名目金額だけでなく、物価上昇を考慮した実質的な購買力を守ることが重要です。

名目利回りと実質利回りの違い

金融商品の利回りには、名目利回りと実質利回りという2つの考え方があります。

名目利回りは、預金や債券などに表示される金利や収益率です。

例えば、100万円を年2%の定期預金に1年間預けた場合、税引き前の利息は2万円です。

この場合、名目利回りは年2%です。

一方、実質利回りは、物価上昇による購買力の変化を考慮した利回りです。

例えば、名目利回りが年2%で、物価上昇率が年3%であれば、実質利回りは概算でマイナス1%となります。

正確には、名目利回りを1.02、物価上昇率を1.03として計算するため、実質利回りは約マイナス0.97%です。

つまり、資産の金額が増加していても、実質的な価値は低下する場合があります。

税引き後の利回りでは購買力の低下が大きくなる

国内の銀行預金の利息には、原則として20.315%の税金が課されます。

そのため、年2%の預金金利であっても、税引き後の利回りは約1.594%です。

例えば、500万円を年2%で1年間運用した場合、税引き前の利息は10万円です。

税引き後の利息は約7万9,685円となり、預金残高は約507万9,685円になります。

しかし、同じ期間に物価が3%上昇した場合、前年に500万円で購入できた商品やサービスを購入するには、515万円が必要になる計算です。

この場合、預金残高は約8万円増えていても、同じ購買力を維持するには約7万円不足します。

税引き後利回り1.594%と物価上昇率3%を用いて計算すると、実質利回りは約マイナス1.37%となります。

金融商品の利回りを比較する際には、税引き前の数字だけでなく、税引き後の収益と物価上昇率を合わせて考える必要があります。

10年間の物価上昇が資産に与える影響

物価上昇の影響は、1年間では小さく見えても、長期間では大きくなります。

例えば、現在1,000万円で購入できる商品やサービスについて、物価が毎年2%上昇した場合を考えます。

5年後には、同じ商品やサービスを購入するために約1,104万円が必要になります。

10年後には約1,219万円、20年後には約1,486万円が必要になります。

30年後には約1,811万円です。

つまり、物価が年2%ずつ上昇し続けると、30年間で必要な金額は約1.81倍になります。

一方、1,000万円を無利息の預金で保有し続けた場合、30年後の残高は1,000万円のままです。

名目上の元本は減っていませんが、購入できる商品やサービスの量は大幅に減少します。

老後資金のように数十年間にわたって使用する資金では、物価上昇の影響を無視できません。

固定金利の預金にはインフレリスクがある

定期預金は、預入時点の金利を一定期間確保できる金融商品です。

例えば、年2%の5年定期預金に預け入れた場合、原則として満期まで年2%の金利が適用されます。

この仕組みは、将来金利が低下する場合には有利に働きます。

しかし、預入後に物価上昇率や市場金利が大きく上昇した場合には、相対的に不利になる可能性があります。

例えば、年2%の定期預金を保有している間に、新たな定期預金の金利が年3%へ上昇した場合、既存の預金には引き続き年2%が適用されます。

また、物価上昇率が年4%となれば、税引き後の実質利回りは大幅なマイナスになります。

そのため、金利上昇局面では、定期預金の預入期間を慎重に選ぶことが重要です。

短期と中期の定期預金を組み合わせる方法も考えられます。

個人向け国債の固定金利と変動金利

個人向け国債には、固定3年、固定5年、変動10年の3種類があります。

固定3年と固定5年は、購入時点の利率が満期まで変わりません。

そのため、将来の受取利子を見通しやすい一方、金利や物価が大きく上昇した場合には、実質利回りが低下する可能性があります。

一方、変動10年は半年ごとに適用利率が見直されます。

市場金利が上昇すれば、受取利子が増える可能性があります。

ただし、変動10年の利率は物価上昇率に直接連動するわけではありません。

また、基準金利に0.66を乗じて適用利率が決まるため、市場金利の上昇がそのまま同じ幅で反映されるわけではありません。

したがって、変動10年であっても、インフレによる購買力の低下を完全に防げるわけではありません。

インフレに強い資産と弱い資産

一般に、現金や固定金利の預金は、物価上昇によって実質的な価値が低下しやすい資産です。

一方、株式や不動産などは、長期的には物価上昇の影響を収益や価格に反映できる可能性があります。

例えば、企業が商品価格を引き上げ、その結果として売上高や利益が増加すれば、株価の上昇につながる場合があります。

ただし、すべての企業が価格転嫁できるわけではありません。

原材料費や人件費の上昇によって利益が圧迫され、株価が下落する場合もあります。

また、不動産についても、賃料や価格が必ず物価上昇率と同じように上昇するわけではありません。

したがって、株式や不動産はインフレへの対応策になり得ますが、元本の安全性が高い金融商品ではありません。

インフレへの対応と価格変動リスクの管理を両立させる必要があります。

生活防衛資金は実質利回りがマイナスでも必要

物価上昇によって預金の実質利回りがマイナスになる場合でも、生活防衛資金をすべて投資へ振り向けることは適切ではありません。

生活防衛資金は、失業、病気、介護、災害などに備える資金です。

そのため、必要なときに確実に利用できることが重要になります。

例えば、生活費の1年分として360万円を確保している場合、この資金を株式投資信託で運用し、市場価格が20%下落すると、資産価値は288万円になります。

72万円の評価損が発生する計算です。

この時期に失業や病気が重なれば、損失を抱えた状態で資産を売却する必要が生じる可能性があります。

生活防衛資金については、インフレによる購買力の低下を一定程度受け入れても、流動性と元本の安全性を優先することが合理的です。

老後資金ではインフレへの対応が重要になる

老後資金は、退職後20年から30年以上にわたって使用する可能性があります。

そのため、短期的な元本の安全性だけでなく、長期的な購買力の維持も重要になります。

例えば、退職時に2,000万円の金融資産を保有していても、物価が年2%上昇し続ければ、20年後には同じ生活水準を維持するために約1.49倍の支出が必要になる計算です。

ただし、公的年金には物価や賃金の変動を反映する仕組みがあります。

一方、マクロ経済スライドなどによって、年金額の改定率が物価上昇率を下回る場合もあります。

そのため、年金収入だけで物価上昇による生活費の増加を完全に補えるとは限りません。

老後資金では、生活費の数年分を安全資産で確保しながら、長期的に使用する資金の一部を分散投資する方法が考えられます。

NISAはインフレ対策の選択肢になる

NISAは、対象となる株式や投資信託の運用益が非課税になる制度です。

長期的な資産形成では、税金による収益の減少を抑えられることが利点になります。

例えば、100万円を運用して20万円の利益が生じた場合、課税口座では原則として約4万円の税金がかかります。

一方、NISA口座では、対象となる運用益が非課税になります。

ただし、NISAは税制上の優遇制度であり、物価上昇に連動して資産価値が増える仕組みではありません。

株式市場が下落すれば、NISA口座で保有する投資信託も値下がりします。

したがって、NISAを利用する場合には、長期的に使用する予定のない資金を対象に、分散投資を行うことが重要です。

インフレ率を一律に考えない

物価上昇率は、家計によって感じ方が異なります。

例えば、食費や光熱費の割合が高い世帯では、食品やエネルギー価格の上昇が家計に大きく影響します。

一方、住宅ローンを完済している世帯と、家賃を支払っている世帯では、住居費の変化による影響が異なります。

また、高齢者世帯では、医療・介護に関連する支出が増える可能性があります。

そのため、一般的な消費者物価指数だけでなく、自分の家計で実際に増加している支出を確認することが重要です。

例えば、毎月の生活費が30万円から33万円に増加した場合、年間の支出は36万円増えます。

預金利息が増えても、その増加額だけで生活費の上昇を補えるとは限りません。

家計の実質的な負担を把握することが、資産管理の出発点になります。

安全資産と成長資産の役割を分ける

インフレに対応するためには、すべての資金を高い利回りの商品へ移すのではなく、資金の役割を分けることが重要です。

日常生活や緊急時に必要な資金は、普通預金などで確保します。

数年以内に使用する資金は、定期預金や個人向け国債などで管理します。

一方、10年以上使用する予定のない資金については、株式投資信託などへの分散投資を検討できます。

ただし、適切な配分は年齢、収入、家族構成、金融資産の残高、リスク許容度によって異なります。

特に退職後は、資産を取り崩しながら生活するため、短期的な価格変動によって生活資金が不足しないようにする必要があります。

安全資産と成長資産の役割を明確にすることが、長期的な購買力を守るうえで重要です。

結論

金利上昇によって、預金や個人向け国債などの安全資産から得られる利息が増えています。

しかし、名目上の資産残高が増えていても、物価上昇によって実質的な購買力が低下する可能性があります。

特に、税引き後の利回りが物価上昇率を下回る場合には、実質利回りがマイナスになります。

固定金利の預金や個人向け国債は、将来の受取利息を見通しやすい一方、インフレによる購買力の低下には注意が必要です。

また、変動10年の個人向け国債も、物価上昇率に直接連動する商品ではありません。

生活防衛資金については元本の安全性と流動性を優先し、長期的に使用する資金については、NISAなどを活用した分散投資を検討することが考えられます。

人生100年時代の資産管理では、金融資産の金額だけでなく、その資産によって将来どの程度の生活を維持できるかという視点が欠かせません。

金利上昇時代に資産を守るためには、名目利回りの高さだけでなく、税金と物価上昇を考慮した実質的な購買力を確認することが重要です。

参考

日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金利上昇『安全資産』を選ぶ MRFと国債、用途で使い分け」

日本銀行「金融市場調節方針」

総務省統計局「消費者物価指数」

国税庁「利子所得の課税関係」

金融庁「NISA制度の概要」

財務省「個人向け国債の商品概要」

厚生労働省「公的年金制度の概要」

タイトルとURLをコピーしました