ストックオプションで1億円の資産形成は可能か 成功事例と現実のリスク

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2026年10月22日

ストックオプションによって1億円の資産を形成することは可能なのでしょうか。

スタートアップ企業への就職や転職を考える人にとって、ストックオプションは大きな魅力の一つです。企業が急成長して株式上場を実現すれば、従業員が数千万円、場合によっては1億円を超える利益を得る可能性があります。

実際に、ストックオプションを活用して多額の資産を形成し、その資金を次の事業への挑戦に振り向けた人もいます。

しかし、ストックオプションは将来の利益を保証する制度ではありません。企業が上場できない場合や、株価が期待したほど上昇しない場合には、利益を得られないこともあります。

また、株式の希薄化、権利行使価額、税金、売却制限などによって、実際の手取り金額は大きく変わります。

今回は、ストックオプションで1億円の資産形成を実現するために必要な条件を具体的な数値で検証し、その可能性とリスクについて考えてみます。

ストックオプションで1億円を得る仕組み

ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格で自社の株式を購入できる権利です。

例えば、従業員が1株100円で購入できるストックオプションを10万株分付与されたとします。

その企業が成長し、株価が1株1,100円になった場合、従業員は1,000万円を支払って10万株を取得できます。

取得した株式を1億1,000万円で売却できれば、差額は1億円となります。

この場合、権利行使価額の10倍を超える株価上昇によって、1億円の利益が実現したことになります。

ただし、この1億円は税引前の利益です。

税制適格ストックオプションで、株式譲渡益に20.315%の税率が適用される場合、単純計算による税額は約2,032万円となります。

税引後の利益は約7,968万円です。

したがって、税引後で1億円の利益を確保するためには、他の損益や費用を考慮しない場合、約1億2,550万円の税引前利益が必要になります。

このように、1億円の資産形成を考える際には、株式の売却額と権利行使費用、税金を区別する必要があります。

1,000万円から1億円までの利益を試算する

ストックオプションによる利益は、基本的に株式の売却価額と権利行使価額との差額によって決まります。

例えば、権利行使価額が1株100円、売却時の株価が1株1,100円の場合、1株当たりの利益は1,000円です。

この条件で利益を試算すると、次のようになります。

1万株を保有していれば、税引前利益は1,000万円です。

5万株であれば5,000万円です。

10万株であれば1億円です。

税制適格ストックオプションとして20.315%の税率が適用される場合、税引後の利益はそれぞれ約797万円、約3,984万円、約7,968万円となります。

ただし、これは株式をすべて想定価格で売却できることを前提とした単純計算です。

実際には、株価が変動するほか、株式売却時の手数料や税務上の個別事情なども考慮する必要があります。

また、付与株数が多くても、企業全体の発行済株式数が非常に多ければ、企業価値に対する持分割合は小さくなります。

そのため、ストックオプションの価値を判断する際には、付与株数だけでなく、企業全体に対する持分割合を確認することが重要です。

企業価値100億円で持分1%なら1億円になるのか

ストックオプションの価値を考えるうえで、企業価値と持分割合の関係は重要です。

例えば、企業の株式価値が100億円で、従業員が完全希薄化後の株式数に対して1%に相当するストックオプションを保有している場合を考えます。

単純計算では、その株式の価値は1億円に相当します。

ただし、これは権利行使費用や税金を差し引く前の金額です。

仮に権利行使費用が1,000万円であれば、税引前利益は9,000万円となります。

税制適格ストックオプションとして20.315%の税率が適用される場合、税引後利益は約7,172万円です。

一方、企業の株式価値が500億円まで上昇すれば、同じ1%の持分に相当する株式価値は5億円となります。

権利行使費用が変わらなければ、税引前利益は4億9,000万円です。

ただし、実際の企業価値評価では、優先株式と普通株式の権利内容、資金調達条件、株式の流動性などによって評価が異なる場合があります。

特に未上場企業では、資金調達時に公表される企業価値が、そのまま従業員の保有株式の換金価値を意味するわけではありません。

企業価値が高いことと、実際に高額の利益を得られることは区別して考える必要があります。

株式の希薄化によって持分割合が低下する

スタートアップ企業では、成長に必要な資金を確保するため、増資を繰り返すことがあります。

その際、新しい株式が発行されると、既存株主の持分割合が低下することがあります。

これを株式の希薄化といいます。

例えば、ある従業員が完全希薄化後の株式数に対して1%に相当するストックオプションを保有していたとします。

その後、企業が増資を行い、完全希薄化後の株式数が25%増加した場合、従業員の付与株数が変わらなければ、持分割合は0.8%になります。

さらに増資が続けば、持分割合が低下する可能性があります。

ただし、株式の希薄化が必ずしも経済的な損失を意味するわけではありません。

増資によって調達した資金を活用し、企業価値が大きく上昇すれば、持分割合が低下しても保有株式の価値が増える場合があります。

重要なのは、持分割合だけでなく、増資後の企業価値や将来の成長可能性を総合的に判断することです。

ストックオプションを提示された際には、現在の持分割合だけでなく、将来の資金調達による希薄化の可能性も理解しておく必要があります。

1億円を超える資産形成につながった実例

ストックオプションによって得た資金が、その後の人生を大きく変えた事例があります。

自動運転技術を開発するチューリングの田中大介最高執行責任者は、その一人です。

田中氏は2016年に医療分野のデジタル化を手掛けるメドレーに入社しました。

同社は2019年に東京証券取引所へ上場しました。

田中氏は2022年8月にストックオプションを行使し、以前から保有していた株式も含めて売却しました。

売却額は合計約2億2,000万円となり、税金を差し引いた手取りは約1億8,000万円だったといいます。

その後、メドレーを退職し、チューリングに参画しました。

さらに、得られた資金の大半をチューリングへの出資に振り向けています。

この事例で注目したいのは、大きな資産を形成したことだけではありません。

ストックオプションなどによって得た資金が、新しい企業への参画や出資を可能にしたことです。

人生100年時代には、一つの会社で働き続けるだけでなく、転職、独立、起業、再就職など、複数のキャリアを経験する可能性があります。

ストックオプションは、こうした人生の転機を支える資金源になる可能性があります。

ただし、田中氏自身も、ストックオプションによる大きな利益を当然視すべきではないという趣旨の発言をしています。

成功事例は参考になりますが、同じ結果が再現できるとは限りません。

株式上場できなければ利益は得られないのか

ストックオプションによる利益を実現する代表的な方法は、企業が株式上場することです。

上場によって株式市場で売買できるようになれば、従業員が保有株式を現金化する機会が広がります。

しかし、企業が上場できなかった場合でも、利益を得る可能性が完全になくなるわけではありません。

例えば、企業が他社に買収されるM&Aによって、株式を売却できる場合があります。

また、未上場株式の売買仲介サービスを通じて、一定の条件の下で換金できる可能性もあります。

ただし、ストックオプションそのものの譲渡が制限されている場合や、権利行使後の株式について譲渡制限が設けられている場合があります。

さらに、買収時にストックオプションがどのように取り扱われるかは、契約内容によって異なります。

企業が買収されたからといって、必ず利益が実現するわけではありません。

未上場企業の場合、企業価値が高く評価されていても、実際に売却できる相手や価格が限られることがあります。

そのため、ストックオプションの価値を考える際には、株式上場だけでなく、M&Aや未上場株式の流通など、複数の出口戦略を理解する必要があります。

権利行使に必要な資金も無視できない

ストックオプションによって大きな利益を得るためには、権利行使時に必要な資金を確保しなければなりません。

例えば、1株500円で購入できるストックオプションを10万株分保有している場合、権利行使に必要な資金は5,000万円です。

株価が大きく上昇していても、5,000万円を用意できなければ、権利を行使することが難しい場合があります。

上場株式であれば、売却と権利行使を組み合わせる仕組みが利用できる場合もあります。

しかし、未上場企業では同様の方法が利用できるとは限りません。

さらに、税制非適格ストックオプションでは、権利行使時に課税が発生する可能性があります。

株式を売却できない段階で納税資金が必要になれば、資金繰りに大きな影響を与えることがあります。

したがって、ストックオプションの価値を評価する際には、将来の利益だけでなく、権利行使費用と納税資金を確保できるかどうかも確認する必要があります。

ストックオプションを老後資金に組み込む危険性

ストックオプションによって1億円の資産形成を目指すことは、夢のある話です。

しかし、その利益を老後資金の前提にすることには慎重であるべきでしょう。

例えば、50代の会社員がスタートアップ企業へ転職し、10年後にストックオプションで5,000万円の利益を得る計画を立てたとします。

その利益を住宅ローンの返済や老後資金に充てる予定だった場合、企業が上場できなければ計画が大きく狂う可能性があります。

また、企業の成長が順調でも、株式市場の環境によって上場時期が延期される場合があります。

株式上場後に株価が下落することもあります。

そのため、老後資金や生活資金については、預貯金、公的年金、退職金、分散投資などを基本に考えることが重要です。

ストックオプションは、利益が実現した場合に資産形成を加速させる追加的な機会として位置付ける方が合理的でしょう。

特に60代以降は、資産を増やすことと同時に、生活資金を安定的に確保することが重要になります。

ストックオプションと新NISAを組み合わせる

ストックオプションと新NISAは、資産形成の仕組みが異なります。

ストックオプションは、自分が働く企業の成長によって利益を得る可能性があります。

一方、新NISAは、株式や投資信託などへの投資を通じて、長期的な資産形成を目指す制度です。

新NISAでは、年間投資枠が最大360万円、非課税保有限度額が1,800万円となっています。

制度上の非課税保有期間は無期限です。

ストックオプションによる利益は、企業の成長に大きく依存します。

これに対して、新NISAでは幅広い企業や地域に分散投資する商品を選ぶことができます。

例えば、給与収入から毎月一定額を新NISAで積み立てながら、ストックオプションを追加的な資産形成の機会として保有する方法が考えられます。

ストックオプションによって大きな利益が実現した場合には、税金や生活資金を確保したうえで、売却代金の一部を分散投資に振り向けることも選択肢になります。

ただし、ストックオプションによって取得した株式を、そのまま新NISA口座へ移管することはできません。

新NISAを利用する場合には、制度上認められた方法で新たに対象商品を購入する必要があります。

重要なのは、企業の成長に期待する資産形成と、長期的な分散投資を区別することです。

60代以降の専門人材にも可能性がある

ストックオプションによる資産形成は、若い世代だけのものではありません。

スタートアップ企業では、財務、経理、税務、法務、内部統制、経営企画などの専門知識を持つ人材が必要とされています。

例えば、60代の専門人材がスタートアップ企業に参画し、株式上場に向けた管理体制の整備を担当するケースが考えられます。

その際、現金報酬に加えてストックオプションが付与されれば、企業の成長成果を共有できる可能性があります。

ただし、60代以降は権利行使期間や勤務継続条件と、自分のキャリア計画が合致しているかを確認する必要があります。

例えば、権利が確定するまで4年間の勤務が必要な場合、65歳で参画すれば69歳までの勤務が前提となる可能性があります。

また、退職時に未確定の権利が消滅する契約であれば、予定より早く退職した場合に利益を得られないことがあります。

ストックオプションの将来価値だけでなく、現金報酬、勤務条件、健康状態、生活資金などを総合的に判断することが重要です。

結論

ストックオプションによって1億円の資産形成を実現することは、仕組みの上では可能です。

企業価値が大きく上昇し、十分な持分割合を保有していれば、数千万円から1億円を超える利益を得られる場合があります。

実際に、ストックオプションなどによって多額の資産を形成し、その資金を次の事業への挑戦に活用した人もいます。

しかし、ストックオプションには企業の成長、株式上場、株価変動、株式の希薄化、権利行使費用、税金、売却制限など、多くの不確実性があります。

企業価値が高く評価されていても、実際に株式を売却して現金化できなければ、生活資金として利用することはできません。

そのため、ストックオプションを確実な給与や退職金と同じように考えることは適切ではありません。

特に人生100年時代の資産形成では、公的年金、退職金、預貯金、新NISAなどによる長期的な資産形成を基本とし、ストックオプションを追加的な成長機会として位置付けることが重要です。

また、ストックオプションの本当の価値は、単に大きな利益を得ることだけではありません。

企業の成長に参加し、その成果を将来の独立、起業、転職、新しい挑戦につなげられることにもあります。

1億円という金額だけに注目するのではなく、企業の成長可能性と自分の人生設計を照らし合わせながら、冷静に判断することが求められます。

参考

日本経済新聞 2026年10月21日 ストックオプション、就活の検討材料に 働く意欲と将来の報酬を左右

日本経済新聞 2026年10月17日 未上場ストックオプション取引、エヌストックが仲介 社員の換金手軽に

国税庁 ストックオプションに対する課税

経済産業省 ストックオプション税制に関する資料

金融庁 新しいNISA制度の概要

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