企業が保有する上場株式の価格が大幅に下落した場合、法人税の計算で評価損を損金に算入できることがあります。
その判断で重要になるのが、いわゆる50%基準です。
しかし、株価が取得価額の50%以下になれば、必ず評価損を損金に算入できると考えるのは正確ではありません。
反対に、株価が2年間にわたって50%以上下落していなければ、評価損を損金に算入できないという理解も誤りです。
国税庁は2009年4月に公表した「上場有価証券の評価損に関するQ&A」で、株価の回復可能性について、法人が合理的な判断基準を設けることの重要性を説明しています。
今回は、このQ&Aに示された4つの論点を中心に、上場株式の評価損を損金に算入するための判断基準と実務上の注意点を整理します。
上場株式の評価損に必要な2つの要件
法人税法では、売買目的外の上場有価証券等について、その価額が著しく低下した場合、一定の要件のもとで評価損の損金算入を認めています。
法人税基本通達9-1-7では、価額が著しく低下したことについて、2つの要件が示されています。
第1は、事業年度末の価額が、その時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることです。
第2は、近い将来、その価額の回復が見込まれないことです。
この2つの要件を満たすことが重要になります。
例えば、税務上の帳簿価額が1,000万円の上場株式について、期末時価が400万円まで下落したとします。
下落率は60%です。
この場合、50%基準に関する要件は満たしています。
しかし、それだけで600万円の評価損が損金に算入されるわけではありません。
近い将来に株価が回復する可能性があると判断されれば、評価損の損金算入が認められない場合があります。
したがって、50%基準は損金算入を自動的に認める基準ではなく、株価の回復可能性を検討するための重要な判断基準と理解する必要があります。
2年間の株価下落は絶対条件ではない
上場株式の評価損について、過去2年間にわたり株価が50%程度以上下落していなければ損金算入できないという説明を耳にすることがあります。
しかし、国税庁のQ&Aでは、必ずしもそのような条件が必要ではないことが明示されています。
重要なのは、事業年度末時点における株価の回復可能性について、合理的な判断が行われているかどうかです。
例えば、ある会社が取得価額1,000万円の上場株式を保有していたとします。
前期末の株価は900万円でしたが、当期中に発行会社の業績が急速に悪化し、当期末には400万円まで下落しました。
この場合、株価が大幅に下落した期間は1年未満です。
それでも、発行会社の財務状況や事業環境などを踏まえ、近い将来に株価が回復する見込みがないと合理的に判断できるのであれば、評価損の損金算入が認められる可能性があります。
反対に、2年間にわたり株価が大幅に下落していたとしても、それだけで損金算入が確定するわけではありません。
株価の回復可能性について、個別の事情を踏まえた判断が必要です。
株価の回復可能性は何を根拠に判断するのか
株価が近い将来に回復するかどうかを正確に予測することは困難です。
株式市場では、企業業績だけでなく、金利、為替、景気動向、投資家心理など、多くの要因によって価格が変動するためです。
そこで国税庁のQ&Aでは、株価の回復可能性について画一的な基準を設けることは困難であると説明しています。
そのうえで、法人が合理的な判断基準を示す場合には、その基準を尊重する考え方が示されています。
判断に当たっては、過去の市場価格の推移、市場環境の動向、発行会社の業況などを総合的に検討します。
例えば、発行会社が主力事業で継続的な赤字を計上している場合や、主要な販売先を失った場合などには、株価の回復可能性を慎重に検討する必要があります。
ただし、赤字や業績悪化という事実だけで、回復可能性がないと断定することはできません。
将来の事業計画、財務改善策、業界全体の見通しなども確認する必要があります。
重要なのは、判断に利用した情報と、その情報から導いた結論との間に合理的な関係があることです。
証券アナリストなど第三者の見解も活用できる
株価の回復可能性について、企業が独自に判断することは容易ではありません。
特に、発行会社の事業内容が専門的である場合や、海外市場の影響を大きく受ける場合には、社内の情報だけで判断することが難しくなります。
このような場合、国税庁のQ&Aでは、専門性を有する客観的な第三者の見解を合理的な判断の根拠の1つとすることが考えられると説明しています。
具体的には、証券アナリストによる個別銘柄の分析、業種別の見通し、業界動向に関する調査、発行会社の企業情報などです。
例えば、保有株式の発行会社について、複数の証券アナリストが業績悪化の長期化を予測している場合、その分析は回復可能性を判断する材料になります。
もっとも、アナリストが株価の下落を予想しているという理由だけで、評価損の損金算入が認められるわけではありません。
分析の前提条件や発行会社の実際の状況を確認し、会社として合理的な結論を導く必要があります。
第三者の見解を利用する場合も、最終的な判断を行うのは株式を保有する法人です。
監査法人のチェックを受けた形式基準の重要性
国税庁のQ&Aでは、監査法人のチェックを受けて継続的に使用する形式基準についても説明しています。
例えば、上場株式の回復可能性を判断するために、過去一定期間の株価動向に関する形式基準を会社が策定したとします。
その基準について、自社の監査を担当する監査法人から税効果会計等の観点で合理性のチェックを受け、継続的に使用するのであれば、税務上も合理的な判断基準として認められるとされています。
ここで重要なのは、客観性と継続性です。
監査法人のチェックを受けることで、判断基準の客観性が確保されると考えられます。
さらに、同じ基準を継続して使用することで、会社の利益状況に応じて評価損を計上するような恣意的な処理を排除できます。
ただし、監査法人のチェックを受けていれば、どのような基準でも認められるわけではありません。
税務上の観点から明らかに不合理な基準は認められません。
また、利益が多い年度だけ基準を変更したり、損失が生じた年度だけ基準の使用を取りやめたりするような処理も問題になります。
なお、ここでいう監査法人のチェックは、独立した監査法人や公認会計士による財務諸表監査の一環として行われるものです。
単なる経営コンサルティングや税理士による関与とは区別されています。
翌期に株価が回復した場合はどうなるのか
評価損を損金に算入した翌期に株価が上昇した場合、前期の処理を修正する必要があるのでしょうか。
この点についても、国税庁のQ&Aは明確な考え方を示しています。
株価の回復可能性は、各事業年度末時点において合理的な判断基準に基づいて判断するものです。
したがって、翌事業年度以降に株価が上昇したとしても、その事後的な事情だけを理由として、前期の評価損の損金算入を遡って修正する必要はありません。
例えば、取得価額1,000万円の上場株式について、当期末の時価が400万円となり、合理的な判断に基づいて600万円の評価損を損金に算入したとします。
翌期に株価が700万円まで回復したとしても、当期末時点の判断が合理的であったのであれば、当期の処理を遡って修正する必要はありません。
ただし、当期末時点で入手可能だった重要な情報を無視していた場合など、当初の判断自体に問題があった場合は別です。
事後的な株価上昇によって判断が誤りになるわけではありませんが、当初の判断の合理性は必要です。
この違いを理解することが重要です。
過年度に否認された評価損を翌期以降に損金算入する場合
会計上は減損処理を行ったものの、税務上の要件を満たさなかったため、評価損を申告加算した場合を考えます。
取得価額1,000万円の上場株式について、前期に600万円の減損処理を行い、会計上の帳簿価額が400万円になったとします。
前期には税務上の損金算入要件を満たさなかったため、600万円を申告加算しました。
その後、当期末において株価の回復可能性を判断した結果、税務上の要件を満たすことになりました。
この場合、過去に損金算入を否認された評価損について、当期に申告調整によって損金算入することが認められます。
ただし、損金算入できる金額は、当期末の株価と税務上の帳簿価額との差額を基礎として計算します。
例えば、当期末の株価が450万円であれば、税務上の帳簿価額1,000万円との差額である550万円が損金算入の対象となります。
一方、当期末の株価が350万円まで下落していても、当期に追加の会計上の減損処理を行っていない場合には、過去に損金経理した600万円が損金算入の対象となります。
税務上の評価損の損金算入は、あくまでも損金経理した金額の範囲内に限られるためです。
このように、過年度の評価損否認金がある場合には、税務上の帳簿価額と会計上の帳簿価額を区別して管理する必要があります。
税務調査に備えた判断資料の保存
上場株式の評価損について、税務調査で重要になるのは、評価損を計上した時点の判断が合理的であったことを説明できるかどうかです。
特に、株価の回復可能性については、将来の予測を伴うため、判断の根拠を残しておくことが重要です。
具体的には、事業年度末の株価資料、過去の株価推移、発行会社の決算資料、業績予想、業界動向に関する分析資料、証券アナリストのレポートなどが考えられます。
さらに、社内でどのような検討を行い、誰が判断したのかを記録しておくことも有効です。
監査法人のチェックを受けている場合には、判断基準の内容や継続適用の状況を確認できる資料も重要になります。
ここで注意したいのは、評価損を計上した後に、都合のよい資料だけを集めることではありません。
決算時点で入手可能だった情報に基づき、合理的な判断を行ったことを説明できる状態にしておく必要があります。
結論
上場株式の評価損について、50%基準は重要ですが、それだけで損金算入の可否が決まるわけではありません。
事業年度末の株価が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、近い将来に回復する見込みがないことについて、合理的な判断が求められます。
また、過去2年間にわたる株価下落は絶対的な条件ではありません。
法人が合理的な判断基準を設け、その基準に基づいて回復可能性を検討することが重要です。
監査法人のチェックを受けた形式基準を継続的に使用することは、判断の客観性と継続性を確保するうえで有効です。
さらに、翌期に株価が回復したとしても、前期末時点の合理的な判断を遡って修正する必要はありません。
一方、過年度に損金算入を否認された評価損については、その後の事業年度に要件を満たした場合、一定の範囲で損金算入が認められます。
有価証券の評価損の税務では、株価が何%下落したかという数値だけでなく、判断の合理性、継続性、証拠資料の整備が重要です。
50%基準を形式的に適用するのではなく、企業の実態と市場環境を踏まえて判断することが、適正な法人税申告と税務調査への備えにつながります。
参考
日本税理士会連合会 講義資料① 損金の計算・実務 太田達也
国税庁 2009年4月 上場有価証券の評価損に関するQ&A
法人税法第33条
法人税法施行令第68条
法人税基本通達9-1-2、9-1-7