ゴルフ会員権の価格が再び上昇しています。
関東の主要150コースの平均価格は305万円台となり、2009年以来の高値圏に達しました。2019年末と比較すると約8割の上昇です。
かつてゴルフ会員権といえば、バブル経済を象徴する投機対象の一つでした。しかし、今回の価格上昇には、当時とは大きく異なる特徴があります。
価格を押し上げているのは、短期間の売買益を狙う投資家ではなく、実際にゴルフを楽しみたいと考える愛好家です。
特に、退職金や株式の売却益を活用して、退職後の生活を充実させようとする中高年層の需要が注目されています。
今回は、ゴルフ会員権の価格上昇の背景と、バブル期との違いについて考えてみます。
ゴルフ会員権の価格が約17年ぶりの高値圏に
関東ゴルフ会員権取引業協同組合によると、主要150コースの平均会員権価格は305万円台となっています。
2019年末との比較では約8割上昇しました。ただし、消費税額の表示方法が変更されているため、厳密な同一条件での比較ではありません。
価格上昇の象徴的な事例が、長野県御代田町の大浅間ゴルフクラブです。
同クラブの会員権取得費用は、手数料などを含めて約1,400万円となり、2019年の約350万円から4倍に上昇しました。
大浅間ゴルフクラブは、浅間山の南麓に位置する高原型のゴルフ場です。
標高約1,000メートルにあり、夏場でも比較的涼しくプレーできることに加え、都心から車で約2時間という利便性があります。
さらに、冬季には提携するゴルフ場を利用できることも魅力となっています。
このように、単にゴルフ場でプレーできるというだけでなく、立地、気候、施設の品質、会員サービスなどが総合的に評価される時代になっています。
バブル期との最大の違いは購入目的
1980年代後半から1990年代初頭にかけてのバブル期には、ゴルフ会員権が投機対象として活発に売買されました。
一部の名門ゴルフ場では、会員権価格が1億円を超える水準まで上昇しました。
当時は、ゴルフをプレーすることよりも、会員権を保有することで値上がり益を得ることが重視される場面がありました。
企業が接待目的で購入する需要も旺盛でした。
しかし、バブル崩壊によって会員権価格は大幅に下落し、多くの保有者が損失を抱えることになりました。
これに対して、現在の価格上昇は実際の利用を目的とする需要が中心です。
会員として優先的に予約したい、休日に安定してプレーしたい、同じ趣味を持つ仲間と交流したいといった動機が購入につながっています。
つまり、今回の価格上昇は、金融資産としての期待だけではなく、ゴルフを楽しむための利用価値が重視されている点に特徴があります。
もっとも、実需が中心であるからといって、価格下落のリスクがなくなるわけではありません。
価格上昇を主導するのは中価格帯
今回のゴルフ会員権市場で注目したいのは、価格帯別の上昇率です。
ゴルフ会員権仲介会社の桜ゴルフが関東圏536コースを調査したところ、2019年末からの価格上昇率は、300万〜500万円程度の中価格帯で76%となりました。
一方、1,000万円以上の高価格帯では38%の上昇でした。
中価格帯の上昇率が高価格帯を大きく上回っています。
これは、今回の需要が一部の超富裕層だけによるものではないことを示しています。
例えば、定年退職を迎えた会社員が退職金の一部を活用して会員権を購入するケースが考えられます。
また、長年保有していた株式の売却益を、老後の趣味や交流に振り向ける人もいるでしょう。
300万〜500万円という価格は決して小さな金額ではありません。
しかし、退職後の20年、30年という期間を考えた場合、長く楽しめる趣味への支出として検討する人が増えていると考えられます。
退職金を金融資産から生活資産へ転換する動き
ここで重要なのは、退職金の使い方に対する考え方の変化です。
従来、退職金は老後の生活費として預貯金などで保有することが一般的でした。
もちろん、生活費や医療費、介護費用などに備える資金を確保することは欠かせません。
しかし、人生100年時代には、資産を減らさないことだけが老後の目的ではありません。
健康を維持し、人間関係を広げ、日々の生活に楽しみを持つことも重要です。
ゴルフ会員権は、こうした生活の充実に資金を振り向ける選択肢の一つといえます。
例えば、400万円の会員権を購入し、20年間利用すると仮定します。
購入額を単純に20年間で割ると、年間20万円です。
月額では約1万7,000円になります。
ただし、実際には年会費、プレー料金、交通費、名義書換料などが別途必要です。また、将来売却できる場合には回収額が生じる一方、価格下落や売却不能のリスクもあります。
したがって、この計算は会員権の取得額を利用期間で単純配分したものであり、実際の年間負担額を示すものではありません。
それでも、老後の資産をどのような生活価値に変えていくかという視点は重要です。
人気コースへの集中と地域格差
ゴルフ会員権市場のもう一つの特徴は、地域による価格格差の拡大です。
2019年末と比較した会員権価格の上昇率の中央値は、東京都が2.7倍、山梨県が2.3倍、沖縄県が2.2倍となっています。
一方、山形県や青森県では約4割下落しています。
こうした違いには、人口集積、交通アクセス、気候、ゴルフ場のブランド力などが関係していると考えられます。
首都圏から短時間で移動できるゴルフ場は、週末だけでなく平日の利用にも適しています。
また、夏場に涼しい高原型のコースや、冬場でもプレーしやすい温暖な地域のコースには、それぞれ異なる需要があります。
これに対して、人口減少が進む地方では、利用者の確保が難しくなっています。
全国のゴルフ場数は2026年7月時点で2,153施設となり、2002年度のピークから1割以上減少しました。
さらに、ゴルフ場の約4分の1が赤字とされています。
会員権価格が上昇しているからといって、ゴルフ場業界全体の経営が好調になっているわけではありません。
会員権価格の上昇とゴルフ場の利益は別問題
ゴルフ会員権の価格上昇について、誤解しやすい点があります。
それは、会員権の市場価格が上がっても、ゴルフ場の収益が直接増えるとは限らないことです。
既存の会員権が会員間で売買された場合、その売買代金は原則として売り手に支払われます。
ゴルフ場が売買代金をそのまま受け取るわけではありません。
ゴルフ場の主な収入源は、プレー料金や年会費などです。
名義書換料を受け取る場合もありますが、会員権価格の上昇がそのまま営業利益の増加につながるわけではありません。
一方、コースの維持管理費、人件費、光熱費などは上昇しています。
そのため、会員権価格が高騰している人気コースと、経営難に直面する地方のゴルフ場が同時に存在するという構造になっています。
会員権を購入する場合には、市場価格だけでなく、ゴルフ場そのものの経営状況も確認する必要があります。
会員の高齢化が今後の大きな課題
ゴルフ会員権市場の中長期的な見通しを考えるうえでは、会員の高齢化も無視できません。
関東の名門ゴルフ場では、会員の平均年齢が70歳前後という事例もあります。
現在のゴルフ人気を支えている中高年層が、今後も同じ頻度でプレーを続けられるとは限りません。
年齢を重ねるにつれて、体力や健康状態、移動手段などが変化するためです。
その一方で、ゴルフは比較的長い期間楽しめるスポーツでもあります。
適切な運動量を保ち、無理のない範囲で続ければ、健康維持や社会参加の機会になります。
今後、ゴルフ場が持続的に発展するためには、既存会員へのサービス充実に加えて、若年層や女性、初心者などの新しい利用者を増やすことが重要になるでしょう。
結論
ゴルフ会員権の価格上昇は、バブル期のような投機的な熱狂とは異なる特徴を持っています。
今回の中心にあるのは、ゴルフを実際に楽しみたいという利用者の需要です。
特に、退職金や株式の売却益を活用して、退職後の生活を充実させようとする中高年層の動きは、人生100年時代の資産活用を考えるうえでも興味深いものです。
ただし、ゴルフ会員権は預貯金のように元本が保証される資産ではありません。
価格変動に加え、流動性の低さ、維持費、ゴルフ場の経営悪化、預託金返還に関する問題など、さまざまなリスクがあります。
大切なのは、会員権を値上がり益を狙う金融商品として考えるのではなく、生活を充実させるための支出として評価することです。
退職後の資産管理では、お金を増やすことと同じくらい、蓄えたお金をどのように使うかが重要になります。
ゴルフ会員権の価格上昇は、老後の資産を単に保有する時代から、健康や交流、生きがいのために活用する時代への変化を映し出しているのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年10月18日 ゴルフ会員権8割高、愛好家が猛アプローチ バブル期とは異なる熱狂