退職後の人生を充実させるために、ゴルフ会員権の購入を検討する人が増えています。
ゴルフ会員権の価格は2019年末と比較して約8割上昇し、関東の主要150コースの平均価格は305万円台となっています。
購入者の中心は、かつてのバブル期のような投機目的の投資家ではなく、実際にゴルフを楽しみたいと考える愛好家です。
特に注目されるのが、退職金や株式の売却益を購入資金に充てる中高年層です。
しかし、退職金は老後の生活を支える大切な資金でもあります。
ゴルフ会員権の購入によって生活の満足度が高まる一方、老後資金が不足するようでは本末転倒です。
今回は、退職金を活用してゴルフ会員権を購入する場合の資産設計について、具体的な金額を交えながら考えてみます。
退職金は老後の生活を支える重要な資金
退職金は、長年の勤務に対する報酬であると同時に、退職後の生活を支える重要な資金です。
特に60歳以降は、給与収入、年金収入、金融資産の取り崩しなどを組み合わせながら生活することになります。
退職金を受け取ったからといって、その全額を自由に使えるわけではありません。
例えば、60歳で退職金2,000万円を受け取った場合を考えてみます。
65歳から公的年金を受給するとすれば、60歳から65歳までの5年間について、給与収入などで生活費を賄えるかを確認する必要があります。
仮に毎月の生活費が30万円で、退職後に給与収入がなくなるとすれば、年間生活費は360万円です。
5年間では1,800万円になります。
この期間に退職金から生活費を支出する必要がある場合、400万円のゴルフ会員権を購入することは簡単ではありません。
一方、60歳以降も継続して働き、給与収入によって生活費を賄える場合には、資産設計の自由度が高まります。
つまり、退職金の金額だけで購入の可否を判断するのではなく、退職後の収入見通しを含めて検討することが重要です。
退職金2,000万円で400万円の会員権を購入する場合
具体的な事例で考えてみましょう。
60歳で退職金2,000万円を受け取り、400万円のゴルフ会員権を購入するケースです。
この場合、会員権の購入に退職金の20%を充てることになります。
購入後に残る退職金は1,600万円です。
ただし、会員権の購入価格以外にも、名義書換料や入会預託金、仲介手数料などが必要になる場合があります。
また、入会後には年会費やプレー料金が継続的に発生します。
例えば、会員権の取得に関連する費用を含めて450万円を支出すると、退職金の22.5%を使う計算になります。
さらに、年間のゴルフ関連支出が40万円であれば、10年間で400万円の支出になります。
取得時の450万円と合わせると、10年間の支出総額は850万円です。
これは将来の会員権売却収入などを考慮しない単純計算ですが、購入時の支出だけで判断することの危険性が分かります。
ゴルフ会員権は、一度購入すれば追加費用がかからない資産ではありません。
継続的な支出を伴う趣味として、長期的な資金計画に組み込む必要があります。
退職金3,000万円なら購入しても安心なのか
次に、退職金3,000万円を受け取るケースを考えてみます。
400万円のゴルフ会員権を購入する場合、退職金に占める割合は約13.3%です。
退職金2,000万円の場合の20%と比較すると、負担割合は小さくなります。
しかし、退職金が3,000万円あれば安心して購入できるというわけではありません。
重要なのは、退職金以外の金融資産、住宅ローンの残高、配偶者の生活費、年金収入などです。
例えば、退職金3,000万円を受け取っても、住宅ローンが1,500万円残っている場合には、実質的に自由に使える資金は限られます。
また、配偶者が年下である場合には、自分が年金受給を開始しても、配偶者の年金受給までに長い期間が残ることがあります。
夫婦の年齢差が大きい家庭では、世帯全体の年金収入が十分になるまでの期間を考慮する必要があります。
さらに、医療費や介護費用、住宅の修繕費など、将来発生する可能性がある支出にも備えなければなりません。
退職金の金額が大きいことと、趣味に使える余裕資金が大きいことは必ずしも同じではありません。
老後資金を3つに分けて考える
退職金を活用する際には、資金を3つに分けて考える方法が有効です。
第1は、日常生活を維持するための生活資金です。
食費、住居費、光熱費、通信費など、毎月必要になる支出を賄うための資金です。
公的年金や給与収入だけで不足する場合には、その不足額を金融資産から補うことになります。
第2は、将来の不測の支出に備える予備資金です。
医療費、介護費用、住宅修繕費などが該当します。
特に高齢期には、健康状態や家族構成の変化によって、予定していなかった支出が発生する可能性があります。
第3は、趣味や旅行、交流などに使う生活充実資金です。
ゴルフ会員権の購入資金は、基本的にこの生活充実資金から支出することが望ましいと考えられます。
生活資金と予備資金を十分に確保したうえで、残る余裕資金の範囲内で購入するという考え方です。
ただし、3つの資金の適切な配分は、年齢、健康状態、収入、資産、家族構成などによって異なります。
ゴルフ会員権の購入と金融資産運用を比較する
退職金400万円をゴルフ会員権の購入に充てる場合、その資金を金融資産として運用する選択肢もあります。
例えば、400万円を年率3%で20年間複利運用できたと仮定します。
追加投資や途中の引き出しを行わない場合、20年後の資産額は約722万円になります。
運用益は約322万円です。
ただし、これは税金や手数料を考慮しない仮定の計算であり、実際に年率3%の運用成果が保証されるわけではありません。
一方、ゴルフ会員権を購入した場合には、金融資産としての運用益ではなく、ゴルフを楽しむ機会や人間関係、健康維持などの価値を得ることになります。
両者は性質が異なるため、単純に金銭的な損得だけで比較することはできません。
例えば、年間40回ゴルフを楽しみ、それによって運動習慣や交流の機会が生まれるのであれば、金銭では測りにくい価値があります。
一方、ほとんど利用しなくなった場合には、高額な会員権を保有し続ける合理性は低下します。
重要なのは、金融資産として増やすことと、人生を充実させるために使うことのバランスです。
60歳で購入する場合と70歳で購入する場合
ゴルフ会員権の購入時期についても考えてみましょう。
60歳で購入する場合、80歳まで利用できれば20年間の利用期間があります。
400万円の会員権を20年間利用すると仮定すれば、取得価格を単純に利用年数で割った年間負担額は20万円です。
一方、70歳で購入し、80歳まで利用する場合には10年間となります。
同じ400万円の会員権でも、取得価格を利用年数で割った年間負担額は40万円です。
もちろん、80歳でゴルフをやめるとは限りませんし、会員権を売却して資金を回収できる可能性もあります。
また、60歳時点では仕事が忙しく、70歳になってからの方が利用頻度が高くなる人もいるでしょう。
そのため、単純に早く購入した方が有利とはいえません。
購入時期を判断する際には、年齢だけでなく、今後の就労予定、健康状態、利用頻度、家族との時間などを総合的に考える必要があります。
特に60歳以降も働き続ける人は、平日にゴルフ場を利用できる機会が限られることがあります。
会員権の価格だけでなく、実際にどの程度利用できるかが重要です。
購入前に年間利用回数を試算する
ゴルフ会員権を購入する前には、年間の利用回数を具体的に試算することをおすすめします。
例えば、取得関連費用450万円、年間固定費12万円、利用期間15年間という条件を設定します。
取得関連費用を15年間で単純配分すると、年間30万円です。
これに年間固定費12万円を加えると、年間42万円になります。
年間利用回数が20回であれば、1回当たり2万1,000円です。
年間40回であれば、1回当たり1万500円です。
年間60回であれば、1回当たり7,000円になります。
これらは取得関連費用と固定費だけを配分した金額であり、実際のプレー料金、交通費、食事代などは含んでいません。
また、会員権の将来売却額や預託金の返還可能性も考慮していません。
それでも、利用頻度によって実質的な負担感が大きく変わることが分かります。
会員権を購入する場合には、ビジターとして利用し続ける場合との総費用比較も必要です。
年間数回しか利用しないのであれば、会員権を購入しない方が経済的に合理的な場合もあります。
会員権購入を慎重に考えるべきケース
ゴルフ会員権の購入を慎重に考えるべきケースもあります。
まず、退職金の大部分を生活費に充てる必要がある場合です。
年金収入だけでは生活費が不足し、その不足額を退職金で補う予定であれば、高額な会員権の購入は老後資金を圧迫する可能性があります。
次に、住宅ローンなどの借入金が多く残っている場合です。
金利上昇局面では、借入金の返済負担が増える可能性もあります。
さらに、健康状態や家族の介護などによって、継続的にゴルフを楽しめるか不透明な場合も慎重な判断が必要です。
会員権は、必要になったときに必ず希望価格で売却できるとは限りません。
人気コースであっても、相場の変動や買い手の不足によって売却に時間がかかる場合があります。
また、ゴルフ場の経営悪化によって、会員権の価値が大きく低下する可能性もあります。
そのため、購入資金には、当面使う予定のない余裕資金を充てることが基本になります。
退職後の資産設計は使うことも重要
老後の資産設計というと、資産を減らさないことや、できるだけ長く運用することに関心が集まりがちです。
しかし、資産を保有すること自体が人生の目的ではありません。
長年働いて蓄えた資金を、健康や趣味、家族との時間、人間関係の充実に活用することにも意味があります。
特に60代から70代は、比較的活動的に趣味を楽しめる貴重な時期になる場合があります。
もちろん、健康状態や体力には個人差があります。
それでも、将来のために資産を残すことだけを重視して、現在の生活を過度に制限する必要があるとは限りません。
大切なのは、必要な老後資金を確保したうえで、使うべき資金を適切な時期に使うことです。
ゴルフ会員権の購入も、こうした資産活用の一つとして位置付けることができます。
結論
退職金でゴルフ会員権を購入する場合、最も重要なのは、会員権の価格ではなく、老後の資産全体とのバランスです。
退職金2,000万円の人が400万円の会員権を購入する場合と、退職金3,000万円の人が同じ会員権を購入する場合では、負担割合が異なります。
しかし、購入の可否は退職金の金額だけでは判断できません。
年金収入、継続雇用による給与収入、金融資産、住宅ローン、配偶者の年齢、医療費や介護費用への備えなどを総合的に考える必要があります。
また、会員権は購入時の費用だけでなく、年会費やプレー料金などの継続負担も伴います。
購入前には、少なくとも10年から20年程度の利用期間を想定し、総費用と利用頻度を試算しておくことが望ましいでしょう。
人生100年時代の資産設計では、資産を増やすこと、守ること、使うことの3つを適切に組み合わせる必要があります。
ゴルフ会員権は、金融資産としての値上がりを期待するものではなく、健康や交流、生きがいを得るための生活充実資産として考えることが重要です。
退職金をどれだけ残すかだけでなく、退職金を使ってどのような人生を送りたいのか。
その問いに対する答えが、ゴルフ会員権購入の判断基準になるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月18日 ゴルフ会員権8割高、愛好家が猛アプローチ バブル期とは異なる熱狂