終活について家族と話し合ったことはあるでしょうか。
葬儀やお墓、相続、介護、延命治療など、人生の最終段階に関する話題は、誰にとっても簡単に切り出せるものではありません。
親に終活の話を持ちかけると、まだ元気なのに縁起でもないと反発されることがあります。一方、親自身も子どもに心配をかけたくないという思いから、将来の希望を伝えずにいることがあります。
こうした家族間の心理的な壁を取り除く方法として、最近注目されているのが終活ゲームです。
かるたや人生ゲームを楽しみながら、医療や介護、葬儀、財産管理などについて自然に考える機会をつくる取り組みが広がっています。
終活ゲームの目的は、単に高齢者に知識を伝えることではありません。
普段は話しにくい人生の最終段階について、本人と家族が気軽に対話を始めるきっかけをつくることにあります。
今回は、終活ゲームの具体的な取り組みを紹介しながら、家族との対話を促す方法と、その実務的な意義について考えます。
終活を話題にすることが難しい理由
終活の必要性を理解していても、実際に家族で話し合うことは簡単ではありません。
その背景には、日本社会に根強く残る死に関する話題への心理的な抵抗があります。
例えば、70代の親に対して、将来どのような介護を受けたいのかと尋ねた場合を考えてみましょう。
親は、自分が介護を必要とする状態を想像したくないかもしれません。
また、子どもが葬儀や相続について質問すると、財産を目当てにしているのではないかと誤解される可能性もあります。
逆に、親が自分から葬儀や相続の話を始めると、子どもが不安を感じることもあります。
このように、終活には本人と家族の双方に心理的な負担が生じやすいという特徴があります。
しかし、話し合いを避け続ければ、本人の希望が分からないまま重大な判断を迫られる可能性があります。
終活で重要なのは、いきなり結論を出すことではなく、自然に話し始められる環境を整えることです。
大阪府阪南市で広がる終活かるた
2026年6月、大阪府阪南市で開かれた健康セミナーでは、60代から90代の住民約40人が終活をテーマにしたかるたを楽しみました。
使用されたのは、大阪樟蔭女子大学の井尻吉信教授とゼミの学生が考案した「80GOかるた」です。
このかるたには、健康維持やフレイル予防に関する内容だけでなく、葬儀や人生の最終段階について考える読み札も含まれています。
例えば、葬儀は家族と親しい友人だけで行いたいという希望を表現した読み札があります。
参加者は絵札を取りながら、その内容について自分の考えを話し合いました。
さらに、かるたの終了後には、人工呼吸器などの生命維持治療について希望を記入する時間も設けられました。
この取り組みで注目したいのは、楽しむことと考えることが一体になっている点です。
最初から医療や葬儀について真剣に話し合う場を設けると、参加をためらう人もいるでしょう。
しかし、かるたであれば、遊びの延長として自然に話題に触れることができます。
ゲームが終活への心理的な入口になっているのです。
愛知県岡崎市では人生ゲームを活用
終活ゲームの取り組みは大阪府だけではありません。
愛知県岡崎市では、タカラトミーと共同で「おかざきゴールデンシニア人生ゲーム」を開発しました。
このゲームには、高齢期の生活に関するさまざまな出来事が盛り込まれています。
例えば、ケアマネジャーに将来の相談をして不安を解消するという内容のマス目があります。
参加者はゲームを進めながら、介護や生活支援、健康管理などについて考えることができます。
一般的な人生ゲームでは、就職、結婚、住宅購入、子育てなどが人生の大きな出来事として扱われます。
一方、高齢期をテーマにした人生ゲームでは、介護サービスの利用や将来の生活設計などが重要なテーマになります。
これは人生100年時代の社会環境を反映した取り組みといえるでしょう。
高齢期にも多くの選択肢があり、準備によって生活の安心感を高められることを、ゲームを通じて学べる点に特徴があります。
ゲームが家族の本音を引き出す
終活ゲームには、単なる知識の習得を超えた効果が期待できます。
それは、本人が大切にしている価値観を周囲の人が知るきっかけになることです。
例えば、家族で終活をテーマにしたゲームをしている場面を考えてみましょう。
葬儀についての話題が出たとき、父親が大きな葬儀は必要ないと話すかもしれません。
一方、母親は親しい友人には最後のお別れをしてもらいたいと考えているかもしれません。
子どもは、それまで両親の考えを知らなかったことに気付くでしょう。
こうした会話は、普段の食卓ではなかなか生まれないものです。
ゲームという共通の話題があることで、本人の希望を尋ねることへの抵抗が小さくなります。
ただし、ゲームの中で話した内容を、そのまま最終的な意思決定として扱うことは適切ではありません。
その場の雰囲気によって発言が変わることもあります。
重要なのは、ゲームをきっかけにして、その後も継続的に対話することです。
人生会議への入口としての役割
終活ゲームは、人生会議を始めるきっかけにもなります。
人生会議とは、将来の医療やケアについて、本人が家族や医療・介護関係者と繰り返し話し合う取り組みです。
正式にはアドバンス・ケア・プランニングと呼ばれ、ACPという略称が使われています。
厚生労働省の2022年度調査では、ACPについて「よく知っている」と回答した一般国民は5.9%でした。
2017年度の3.3%から上昇したものの、認知度は依然として低い状況です。
人生会議が普及しにくい理由の一つには、医療や死に関する話題を日常生活の中で取り上げる機会が少ないことが考えられます。
そこで、終活ゲームを活用する意義があります。
例えば、将来どこで生活したいかという話題から始め、介護が必要になった場合の希望を話し合うことができます。
さらに、病気になったときに誰に相談したいか、どのような生活を大切にしたいかといった内容へと話を広げられます。
人生会議では、医療行為の選択だけでなく、本人の価値観や生活上の希望を共有することが重要です。
終活ゲームは、その第一歩として活用できるでしょう。
家族で終活ゲームを実践する方法
終活ゲームを家庭で取り入れる場合、必ずしも専用の商品を購入する必要はありません。
家族で質問を書いたカードを用意するだけでも、対話のきっかけをつくることができます。
例えば、次のようなテーマが考えられます。
将来も今の住まいで暮らしたいか。
介護が必要になった場合、在宅介護と施設介護のどちらを希望するか。
大切な財産や書類はどこに保管しているか。
葬儀はどのような形を希望するか。
人生で最も大切にしていることは何か。
こうした質問について、家族が順番に自分の考えを話します。
ここで大切なのは、相手の回答を否定しないことです。
例えば、親が施設介護を希望すると話した場合、子どもが自宅で介護するから大丈夫だと即座に否定してしまうと、本音を話しにくくなる可能性があります。
また、答えたくない質問には無理に回答する必要はありません。
終活ゲームは、家族の考えを統一するためのものではなく、それぞれの価値観を理解するためのものだからです。
話し合った内容を記録することが重要
終活ゲームを通じて家族の希望を知ることができたら、その内容を記録しておくことをおすすめします。
例えば、エンディングノートを活用する方法があります。
エンディングノートには、医療や介護の希望、財産に関する情報、葬儀の希望、家族へのメッセージなどを整理できます。
ただし、エンディングノートに記載した内容が、すべて法的な効力を持つわけではありません。
特に財産の承継について法的な効果を持たせるためには、法律上の要件を満たした遺言書などが必要になります。
また、医療に関する希望についても、記録した内容が将来のあらゆる状況で機械的に適用されるわけではありません。
本人の現在の意思や病状、医学的な状況を踏まえ、医療・ケアチームと話し合う必要があります。
記録はあくまで、本人の意思や価値観を理解するための重要な手掛かりです。
さらに、希望は時間とともに変化することがあります。
そのため、年に1回など、定期的に内容を見直す機会を設けるとよいでしょう。
終活ゲームの普及に期待される社会的効果
終活ゲームは、家庭だけでなく、自治体や地域社会でも活用できる可能性があります。
高齢者向けの健康教室、地域包括支援センターの講座、老人クラブの活動などで取り入れることが考えられます。
特に、一人暮らしの高齢者にとっては、終活について相談できる相手が身近にいない場合があります。
地域の集まりでゲームを活用すれば、同世代の人と考えを共有する機会になります。
また、地域包括支援センターや専門職への相談につながる可能性もあります。
ただし、ゲームに参加しただけで、医療や介護、財産管理の問題が解決するわけではありません。
具体的な課題が明らかになった場合には、医師、ケアマネジャー、税理士、司法書士、弁護士など、内容に応じた専門家への相談が必要になります。
終活ゲームは、専門家による支援を代替するものではなく、必要な支援につながる入口として位置付けることが重要です。
結論
終活ゲームは、人生の最終段階について考える心理的な負担を軽減し、家族や地域社会で対話を始めるきっかけになる取り組みです。
大阪府阪南市の80GOかるたや、愛知県岡崎市の人生ゲームは、終活を身近な話題に変える工夫として注目されます。
人生100年時代には、医療、介護、財産管理、相続、葬儀など、将来に備えて考えておくべき課題が数多くあります。
しかし、最初からすべてを決める必要はありません。
大切なのは、家族が互いの考えを知り、必要なときに話し合える関係を築いておくことです。
終活ゲームを通じて交わした何気ない会話が、将来の重要な意思決定を支えることもあるでしょう。
終活は、一人で黙々と準備するものではありません。
家族とともに考え、必要な情報を共有し、状況に応じて見直していく活動です。
まずは、家族が集まる機会に、将来の暮らしについて一つ質問してみることから始めてはいかがでしょうか。
その小さな対話が、本人にとっても家族にとっても、安心できる将来への第一歩になるはずです。
参考
日本経済新聞 2026年10月16日 終活ゲームで身近に かるたなど開発、家族と話すきっかけに
厚生労働省 2022年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査
厚生労働省 2018年3月 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン