「終活」という言葉を聞くと、葬儀やお墓、遺産相続など、人生の終わりに向けた準備を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、人生100年時代を迎えた現在、終活の意味は大きく変わりつつあります。
終活は、単に死後の準備をすることではありません。自分がどのような人生を送りたいのか、病気や介護が必要になったときに何を大切にしたいのかを考え、家族や周囲の人と共有する活動でもあります。
最近では、かるたや人生ゲームを通じて終活について考える取り組みも広がっています。
これまで話題にしにくかった人生の最終段階について、楽しみながら考えるという新しい発想です。
今回は、終活を取り巻く社会環境の変化を踏まえ、人生100年時代に必要な備えについて考えます。
終活の意味が変わり始めている
従来の終活は、葬儀やお墓の準備、遺言書の作成、財産整理などが中心でした。
もちろん、こうした準備は今でも重要です。
しかし、長寿化が進む中で、人生の最終段階に至るまでの生活をどう支えるかという視点が欠かせなくなっています。
例えば、70歳で退職した人が100歳まで生きる場合、退職後の人生は30年間にも及びます。
その間には、健康状態の変化、配偶者との死別、介護の必要性、認知機能の低下など、さまざまな出来事が起こる可能性があります。
終活を人生の最後の数年間だけの問題として捉えるのでは、十分な備えができないかもしれません。
重要なのは、元気なうちから将来の生活を具体的に考えることです。
終活は人生を終えるための活動ではなく、これからの人生を自分らしく生きるための準備へと変化しているのです。
終活をゲームで学ぶ新しい取り組み
2026年10月に報じられた日本経済新聞の記事では、ゲームを通じて終活への関心を高める取り組みが紹介されています。
大阪府阪南市では、2026年6月に開かれた健康セミナーで、60代から90代の住民約40人が終活をテーマにしたかるたを楽しみました。
使用されたのは、大阪樟蔭女子大学の井尻吉信教授と学生が考案した「80GOかるた」です。
このかるたには、健康維持やフレイル予防だけでなく、葬儀や人生の最終段階に関する内容も盛り込まれています。
参加者は読み札をきっかけに、自分の考えを話し合いました。
さらに、人工呼吸器などの生命維持治療を希望するかどうかについて、冊子に記入する時間も設けられました。
愛知県岡崎市でも、タカラトミーと共同開発した「おかざきゴールデンシニア人生ゲーム」が活用されています。
ゲームのマス目には、ケアマネジャーへの相談など、高齢期の生活に関する内容が盛り込まれています。
こうした取り組みの特徴は、終活を特別な行事ではなく、日常生活の延長として考えられる点にあります。
深刻な話題だからこそ、最初のきっかけは楽しいものであってもよいのです。
人生会議の認知度はまだ低い
終活を考えるうえで重要になるのが「人生会議」です。
人生会議は、アドバンス・ケア・プランニング、略してACPと呼ばれる取り組みです。
将来、病気や事故などによって自分の意思を伝えられなくなった場合に備え、希望する医療やケアについて、家族や医療・介護関係者と繰り返し話し合います。
厚生労働省は2018年から「人生会議」という愛称を使い、普及を進めています。
しかし、2022年度の調査でACPについて「よく知っている」と回答した一般国民は5.9%にとどまりました。
2017年度の3.3%から上昇したものの、十分に浸透しているとはいえません。
医療技術の進歩によって、重い病気になっても生命を維持できる場面が増えています。
一方で、医学的に可能な治療が、必ずしも本人の望む生き方と一致するとは限りません。
例えば、回復の見込みが乏しい状況で人工呼吸器による治療を続けるかどうかは、本人の価値観によって考え方が異なります。
大切なのは、特定の治療を受けるか受けないかを早い段階で固定することではありません。
自分が何を大切にして生きたいのかを、周囲の人に知ってもらうことです。
終活を始めるのに早すぎることはない
終活は何歳から始めるべきなのでしょうか。
60歳や70歳になってから考えるものだと思っている人もいるかもしれません。
しかし、終活を始める年齢に決まりはありません。
むしろ、健康で判断能力が十分にあるうちに始めることが重要です。
例えば、50代であれば、親の介護や相続を経験する中で、自分自身の将来について考える機会があります。
60代であれば、退職後の生活設計や年金、医療、介護について具体的な準備を進めやすくなります。
70代以降であっても、家族との対話や財産整理を通じて、将来の不安を減らすことができます。
また、終活は一度行えば終わりというものではありません。
健康状態や家族構成、経済状況が変われば、希望する生活や医療の内容も変わる可能性があります。
定期的に見直すことが必要です。
終活にはお金の問題も欠かせない
終活というと、気持ちの整理や家族との対話が注目されますが、実際には経済的な準備も重要です。
特に確認しておきたいのは、老後の生活費、医療費、介護費用、住まいの維持費、葬儀費用などです。
例えば、65歳から95歳までの30年間について、毎月の生活費が年金収入を5万円上回ると仮定します。
この場合、不足額は次のようになります。
5万円×12か月×30年間=1,800万円
これは物価上昇や運用収益、臨時支出などを考慮しない単純計算ですが、長い老後に備える必要性を示しています。
さらに、介護施設への入居や住宅の修繕などによって、まとまった資金が必要になることもあります。
終活では、財産を誰に残すかだけでなく、自分自身の生活を支えるために、どの程度の資金を確保しておくかを考えることが大切です。
相続対策を優先するあまり、本人の老後資金が不足するようでは本末転倒です。
家族が困らないための情報整理
終活の実務で重要なのは、家族が必要な情報を把握できる状態にしておくことです。
例えば、預貯金口座、証券口座、生命保険、不動産、借入金などの情報が整理されていなければ、本人が判断能力を失った場合や亡くなった場合に、家族が対応に苦労する可能性があります。
近年は、インターネット銀行やネット証券、電子マネーなど、紙の通帳や証書が存在しない金融資産も増えています。
こうした資産は、家族が存在自体を知らない可能性があります。
そこで役立つのが、財産一覧やエンディングノートです。
ただし、エンディングノートには、原則として遺言書のような法的効力はありません。
財産の承継方法を法的に定めたい場合には、適切な方式による遺言書の作成などを検討する必要があります。
また、インターネットサービスのパスワードを誰でも見られる場所に記載することは、情報漏えいの危険があります。
情報の存在と保管場所を家族に伝えつつ、安全性にも配慮することが重要です。
家族との対話が最大の終活になる
終活で最も難しいのは、家族との話し合いかもしれません。
親が終活の話題を避けたり、子どもが親に死後のことを尋ねるのをためらったりするケースは少なくありません。
しかし、本人の希望が分からないまま重大な判断を迫られることは、家族にとって大きな負担になります。
例えば、突然の病気で本人が意思表示できなくなった場合、家族は医療方針について難しい判断に直面する可能性があります。
そのとき、本人が普段から何を大切にしていたのかを知っていれば、医療チームとの話し合いに役立ちます。
ただし、家族が本人に代わってあらゆる医療行為を自由に決定できるわけではありません。
本人の意思や推定される意思を尊重し、医療・ケアチームとともに方針を検討することが基本です。
最初から重い話題を取り上げる必要はありません。
どこで暮らしたいか、介護が必要になったらどうしたいか、家族にどのような負担をかけたくないかといった身近な話題から始めることができます。
終活ゲームは、こうした対話への入口として有効な方法の一つといえるでしょう。
結論
人生100年時代の終活は、人生の終わりを準備するだけの活動ではありません。
これからの人生をどのように生きたいのかを考え、その希望を実現するための備えです。
医療や介護の希望を整理すること、老後の生活資金を確認すること、財産や契約に関する情報をまとめること、そして家族と価値観を共有することが重要になります。
終活を始めるために、特別な知識や大きな費用が必要なわけではありません。
まずは家族と将来について話してみることから始められます。
かるたや人生ゲームのように、楽しみながら考える方法もあります。
大切なのは、終活を縁起でもない話として遠ざけないことです。
元気なうちに準備しておくことが、将来の自分自身の安心につながり、家族の負担を軽くすることにもなります。
終活とは、人生を諦めるための活動ではなく、最後まで自分らしく生きるための活動なのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月16日 終活ゲームで身近に かるたなど開発、家族と話すきっかけに
厚生労働省 2022年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査
厚生労働省 2018年3月 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン