日本のJ REIT市場では、NAV倍率1倍割れが常態化しています。
現物不動産の価格が上昇しているにもかかわらず、REITの投資口価格には十分に反映されていません。
一方、米国のREIT市場は違った発展を遂げてきました。
M&Aが活発で、割安になったREITが買収されたり非公開化されたりすることがあります。
さらにデータセンターや通信基地局、ヘルスケア施設など、時代に合わせて新しい不動産分野を取り込んできました。
日本と米国では何が違うのでしょうか。
米国はREIT発祥の国
REITは米国で1960年に誕生しました。
大型不動産へ直接投資することが難しい一般の投資家でも、REITを通じて不動産投資に参加できる仕組みとして発展しました。
日本で東京証券取引所にJ REIT市場が開設されたのは2001年です。
米国には日本より約40年長いREIT市場の歴史があります。
その長い歴史のなかで、市場環境の変化に合わせてREITの姿も変わってきました。
米国ではM&Aが活発
米国REIT市場の大きな特徴がM&Aです。
REITの市場価格が保有資産の価値や収益力に比べて大幅に安くなれば、別のREITや投資ファンドなどが買収する可能性があります。
買収によって別のREITと統合されることもあります。
場合によっては上場をやめて非公開化されます。
つまり、すべてのREITが上場したまま永遠に残ることを前提としていません。
市場から十分な評価を得られなくなれば、別の形へ変わることがあります。
割安なまま放置されにくい
M&Aが活発な市場では、極端な割安状態を修正する力が働きやすくなります。
例えば、純資産価値が1000億円あるREITが市場では600億円程度と評価されているとします。
その状態が続けば、外部の投資家から見て買収する魅力が高まる可能性があります。
買収によって資産を効率的に運用できると判断すれば、現在の市場価格より高い価格を提示しても採算が合うかもしれません。
こうした買い手の存在そのものが、極端な割安状態を放置しにくくします。
市場価格が低くなりすぎれば買収対象になるという緊張感が、市場の価格形成にも影響します。
非公開化も市場の新陳代謝になる
REITが証券取引所に上場していること自体が目的ではありません。
上場市場から十分な評価を得られず、別の所有形態の方が資産価値を高められるのであれば、非公開化するという選択肢があります。
非公開化されれば、そのREITは上場市場から退出します。
一見すると市場規模が小さくなるように見えます。
しかし、競争力を失ったREITが残り続けるより、退出と新規参入が繰り返される方が市場全体の活力につながるという考え方があります。
これが市場の新陳代謝です。
新しいREITも登場する
市場の新陳代謝は退出だけではありません。
新しい成長分野を投資対象とするREITも登場します。
米国では、オフィス、住宅、商業施設といった伝統的な不動産だけがREITの対象ではありません。
データセンターがあります。
通信基地局があります。
高齢者施設などのヘルスケア関連不動産もあります。
経済や社会の変化に合わせて、不動産として収益を生み出す新しい資産をREIT市場へ取り込んできました。
データセンターが成長資産になる
生成AIやクラウドサービスの拡大には大量のデータ処理能力が必要です。
そのためデータセンターへの需要が増えます。
データセンターも土地と建物を必要とする不動産です。
さらに大量の電力、通信設備、冷却設備などが必要になります。
デジタル経済が拡大するほど、データセンターという不動産への需要が高まる可能性があります。
米国REIT市場では、こうした新しい経済成長を不動産投資へ取り込む仕組みが発達してきました。
通信基地局も不動産になる
スマートフォンや高速通信が普及すれば、通信基地局が必要になります。
通信会社は基地局を設置するための土地や設備を利用し、その対価を支払います。
この継続的な収入を不動産投資の対象として考えることができます。
従来の不動産投資というと、ビルやマンションを想像しがちです。
しかし米国REITでは、社会インフラの変化そのものを新しい不動産投資の対象へ広げてきました。
高齢化もREITの投資対象になる
高齢者施設などのヘルスケア分野も米国REITの重要な投資対象です。
高齢化が進めば、高齢者向け住宅や医療関連施設などへの需要が増える可能性があります。
施設を運営する会社と不動産を所有する主体を分ければ、REITが建物を保有し、運営会社から賃料を受け取る仕組みをつくることができます。
人口構造の変化をREIT市場の成長につなげることができるわけです。
日本は伝統的不動産の比重が大きい
日本のJ REITにも物流施設やホテル、ヘルスケア施設などへ投資するREITがあります。
しかし、記事では日本は制度上の制約もあり、オフィスなど伝統的な不動産の比重がなお大きいと指摘されています。
オフィスや住宅そのものが悪いわけではありません。
問題は、経済の成長分野が変化しているのに、REIT市場の資産構成が十分に変化できるかどうかです。
AIやデジタル化、高齢化などによって不動産需要の中心が変われば、REITもそれに合わせて変化する必要があります。
日本ではスポンサー制度が再編を難しくする
日本のREIT市場には、スポンサー制度という特徴があります。
不動産会社や鉄道会社などが資産運用会社へ出資し、REITへ物件を供給します。
この仕組みはJ REIT市場の安定した成長を支えてきました。
一方、スポンサーとREITの結び付きが強いため、スポンサーの垣根を越えたM&Aが難しくなる場合があります。
割安なREITがあっても、外部投資家が簡単に買収して再編できるとは限りません。
米国との違いを考えるうえで重要な点です。
市場規模の差は新陳代謝の差でもある
記事によると、米国REIT市場の時価総額は2020年以降で2割超増加しています。
この成長を単純に不動産価格の上昇だけで説明することはできません。
市場では買収や非公開化による退出がある一方、新しい成長分野のREITが拡大しています。
つまり、古いものが退出し、新しいものが成長する仕組みがあります。
市場規模を長期的に拡大させるには、既存のREITをすべて守ることより、市場全体が変化できることが重要だという見方ができます。
安定だけでは成長できない
日本のJ REIT市場は、安定した分配金を重視する市場として成長してきました。
超低金利時代には、この特徴に大きな魅力がありました。
しかし長期金利が上昇すると、投資家は債券などでも一定の利回りを得られます。
REITには安定した分配金だけでなく、資産価値や収益の成長も求められるようになります。
市場全体が変化できなければ、日本株や海外株などとの資金獲得競争で不利になる可能性があります。
日本が米国から学べること
米国と日本では法律、税制、不動産市場の構造が異なります。
そのため米国の制度をそのまま日本へ導入すればよいわけではありません。
しかし、重要な考え方は参考になります。
市場環境が変わればREITの仕組みも変えること。
割安なREITのM&Aや非公開化を可能にすること。
新しい成長分野を投資対象として取り込むこと。
競争力を失ったREITを残すことだけを目的にしないことです。
市場の安定と同時に、新陳代謝を促す仕組みが必要になります。
結論
米国REIT市場が成長してきた背景には、単なる不動産価格の上昇だけではなく、市場の新陳代謝があります。
割安なREITは買収や非公開化の対象になります。
一方で、データセンター、通信基地局、ヘルスケア施設など新しい成長分野がREIT市場へ取り込まれてきました。
退出と成長が同時に起きることで、市場そのものが時代に合わせて変化してきたのです。
日本のJ REIT市場では、スポンサー制度などが市場の安定を支えてきました。
しかし、その安定がスポンサーの垣根を越えた再編を難しくしている面もあります。
市場創設から25年を迎え、長期金利も大きく上昇しました。
これからのJ REITに必要なのは、現在の銘柄をそのまま維持することだけではありません。
成長するREITが大きくなり、競争力を失ったREITは統合や買収によって姿を変え、新しい資産が市場へ入ってくる仕組みをつくれるかどうかです。
米国REITの成長が示しているのは、不動産市場が成長するだけではREIT市場は成長しないということです。
REIT市場そのものが変化できる仕組みを持つことが、長期的な成長には欠かせません。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 不動産高騰でもREIT低迷
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 よろい脱ぎ、時代に合った変革を
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 REIT(不動産投資信託)