2027年3月から導入予定のOTC類似薬の追加負担制度は、患者の薬代だけでなく、医療機関や調剤薬局の消費税実務にも影響を与える可能性があります。
今回の制度では、市販薬と成分や効能が似ている医療用医薬品について、薬剤費の25%を保険外の追加負担とし、残りの75%について公的医療保険を適用する仕組みが予定されています。
厚生労働省は、この追加負担部分について、恒久的に消費税を非課税とするよう要望しています。
しかし、現在の消費税制度では、公的医療保険が適用される社会保険医療は原則として非課税である一方、選定療養などの保険外負担には消費税が課される場合があります。
そのため、OTC類似薬の追加負担を非課税とする場合には、既存制度との整合性だけでなく、医療機関や薬局における会計処理の整理が必要になります。
さらに、医療機関や薬局には、消費税特有の問題があります。
それが、非課税売上げに対応する仕入税額控除が原則として認められないという問題です。
患者に消費税を請求しないことと、医療機関や薬局が消費税を負担しないことは、必ずしも同じではありません。
今回は、OTC類似薬の追加負担制度が医療機関や薬局の消費税実務に与える影響について、課税売上げと非課税売上げの区分、仕入税額控除、控除対象外消費税、インボイス制度、会計システムへの対応という観点から解説します。
社会保険医療は消費税非課税とされている
日本の消費税制度では、事業者が国内で対価を得て行う資産の譲渡や役務の提供などが原則として課税対象になります。
しかし、社会政策上の配慮などから、一定の取引については消費税が非課税とされています。
その代表例が社会保険医療です。
健康保険法や国民健康保険法などに基づく一定の診療や調剤については、消費税法の規定により非課税とされています。
例えば、医療機関で保険診療を受けた場合、患者が支払う自己負担部分について消費税が別途加算されることはありません。
また、医療機関が公的医療保険から受け取る診療報酬についても、社会保険医療に該当する部分は非課税です。
調剤薬局についても同様です。
医師の処方箋に基づく保険調剤については、患者負担部分と保険給付部分を合わせた調剤報酬が原則として非課税となります。
ただし、医療機関や薬局が行うすべての取引が非課税になるわけではありません。
自由診療や一定の選定療養、市販薬の販売などについては、消費税が課される場合があります。
したがって、医療機関や薬局では、収入の内容ごとに消費税の課税区分を適切に判断する必要があります。
OTC類似薬の追加負担は課税売上げになるのか
今回の制度改正で最も重要な税務上の論点は、薬剤費の25%に相当する追加負担をどのように扱うかという問題です。
例えば、薬剤費が1,000円で、患者の自己負担割合が3割の場合を考えます。
新制度では、薬剤費の25%に当たる250円が保険外の追加負担となります。
残り750円については公的医療保険が適用され、患者は225円を負担します。
したがって、患者が支払う薬剤費相当額は475円です。
一方、公的医療保険から支払われる金額は525円となります。
薬剤費の総額は1,000円で変わりません。
ここで、250円の追加負担が消費税非課税となれば、薬剤費に係る収入全体が非課税として扱われる方向になります。
一方、追加負担部分が課税対象となれば、250円について消費税の計算が必要になります。
仮に追加負担額250円を税抜対価とし、標準税率10%が適用される場合には、消費税相当額は25円です。
この場合、患者の支払額は500円となります。
ただし、これは課税された場合の影響を理解するための仮定計算です。
実際の消費税区分は、今後の税制改正や制度上の取扱いによって決まります。
医療機関や薬局では、正式な課税関係が確定するまで、非課税処理を前提としてシステム変更を進めないことが重要です。
選定療養との違いが税務処理を複雑にする
今回のOTC類似薬制度と比較するうえで重要なのが、選定療養制度です。
選定療養とは、患者が希望して特別なサービスなどを受ける場合に、保険診療と組み合わせて追加負担を求める仕組みです。
代表的なものに、差額ベッド代があります。
また、後発医薬品が存在する先発医薬品を患者が希望した場合にも、選定療養として追加負担が発生する制度があります。
これらの追加負担は、原則として消費税の課税対象です。
一方、OTC類似薬の追加負担については、厚生労働省が非課税を要望しています。
仮に非課税が認められれば、同じ保険外負担であっても、制度によって消費税区分が異なることになります。
例えば、薬局では、長期収載品の選定療養に係る追加負担を課税売上げとして処理する一方、OTC類似薬の追加負担を非課税売上げとして処理する必要が生じる可能性があります。
さらに、OTC類似薬と長期収載品の両制度に該当する場合には、どちらの追加負担制度を適用するかという判断も必要です。
制度上の取扱いを誤れば、患者への請求額だけでなく、消費税申告にも影響するおそれがあります。
医療機関や薬局では、制度ごとの課税区分を明確に管理できる仕組みが必要になります。
医薬品の仕入れには消費税が課される
社会保険医療が非課税である一方、医療機関や薬局が医薬品を仕入れる際には、原則として消費税が課されます。
医療用医薬品は、通常、消費税の標準税率10%の対象です。
例えば、薬局が医薬品を税抜100万円で仕入れた場合、消費税10万円を含む110万円を支払います。
一般的な課税事業者であれば、売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除することができます。
しかし、非課税売上げに対応する課税仕入れについては、原則として仕入税額控除が認められません。
そのため、保険調剤を中心とする薬局では、医薬品の仕入れに含まれる消費税がコストになる場合があります。
これは、医療機関や薬局における控除対象外消費税の問題です。
患者に消費税を請求しないことは、患者負担の軽減につながります。
しかし、医療機関や薬局の立場では、仕入れに含まれる消費税を控除できないという問題が残ります。
今回のOTC類似薬の追加負担が非課税とされても、この基本的な構造が変わるわけではありません。
控除対象外消費税は医療機関経営に影響する
控除対象外消費税は、医療機関や薬局の経営を考えるうえで重要な問題です。
例えば、ある医療機関が医療機器を税抜1,000万円で購入した場合を考えます。
消費税10%を含めた支払額は1,100万円です。
この医療機器が社会保険医療などの非課税売上げのために使用され、仕入税額控除が認められない場合、消費税100万円は医療機関側の負担になります。
また、医薬品や診療材料、外部委託費などについても、課税仕入れに該当するものには消費税が含まれます。
こうした仕入れに係る消費税を控除できなければ、医療機関の経営コストが増加します。
診療報酬では、消費税負担を考慮した対応が行われています。
しかし、医療機関ごとに設備投資の規模や課税仕入れの構成が異なるため、実際の負担額には差が生じます。
特に、高額な医療機器を購入する医療機関では、控除対象外消費税が経営に与える影響が大きくなる場合があります。
今回のOTC類似薬制度では、患者の追加負担に消費税を課すかどうかが議論されています。
しかし、医療機関経営の観点では、非課税売上げに対応する仕入税額控除の問題も併せて考える必要があります。
課税売上割合への影響を確認する必要がある
医療機関や薬局が消費税申告を行う場合、課税売上割合が重要になることがあります。
課税売上割合とは、一定の計算方法により、課税売上げと非課税売上げなどの関係を示す割合です。
一般課税で仕入税額控除を計算する場合には、課税売上割合や課税売上高などに応じて、控除方法が異なります。
例えば、個別対応方式では、課税仕入れを課税売上げにのみ対応するもの、非課税売上げにのみ対応するもの、共通して対応するものに区分します。
課税売上げにのみ対応する課税仕入れについては、原則として仕入税額を控除できます。
非課税売上げにのみ対応する課税仕入れについては、原則として控除できません。
共通して対応する課税仕入れについては、課税売上割合を用いて控除額を計算します。
今回のOTC類似薬の追加負担が課税売上げとなる場合には、課税売上割合に影響する可能性があります。
一方、非課税売上げとなる場合には、非課税売上げとして集計することになります。
ただし、課税売上割合の変化が、そのまま仕入税額控除額の増減につながるとは限りません。
事業者の課税売上高、採用する控除方式、仕入れの用途区分などによって影響が異なるためです。
また、簡易課税制度を適用している事業者では、一般課税とは異なる方法で納付税額を計算します。
したがって、医療機関や薬局では、自らの消費税申告方式を踏まえて制度改正の影響を確認する必要があります。
非課税と不課税の違いにも注意が必要
消費税実務では、非課税と不課税を区別することが重要です。
非課税取引とは、本来は消費税の課税対象となる取引であっても、法律によって消費税を課さないこととされている取引です。
社会保険医療は、その代表例です。
一方、不課税取引とは、そもそも消費税の課税対象となる要件を満たさない取引です。
例えば、一定の寄附金や損害賠償金などが該当します。
非課税取引と不課税取引は、どちらも消費税を請求しないという点では似ています。
しかし、課税売上割合の計算などでは取扱いが異なります。
今回のOTC類似薬の追加負担について、非課税とすることが決定した場合には、原則として非課税売上げとして管理することになります。
単に消費税が発生しないという理由で、不課税売上げとして処理することは適切ではありません。
医療機関や薬局の経理担当者は、制度上の課税区分を正確に理解する必要があります。
インボイス制度との関係はどうなるのか
2023年10月から、消費税の適格請求書等保存方式であるインボイス制度が始まっています。
インボイス制度では、課税事業者が一定の課税取引について適格請求書を交付する場合、登録番号や適用税率、消費税額などの記載が必要になります。
一方、非課税取引については、その取引自体に係る消費税額は発生しません。
今回のOTC類似薬の追加負担が非課税となれば、その追加負担部分について消費税額を記載する必要はありません。
ただし、医療機関や薬局が同じ請求書や領収書で課税取引と非課税取引を扱う場合には、それぞれを適切に区分する必要があります。
例えば、薬局が保険調剤と併せて市販薬を販売した場合、保険調剤部分は非課税、市販薬の販売部分は原則として課税取引になります。
また、長期収載品の選定療養に係る追加負担については、課税取引としての処理が必要です。
インボイス制度への対応では、取引ごとの消費税区分を正確に管理することが基本になります。
なお、インボイスの交付義務は、取引の相手方や適格請求書発行事業者としての登録状況などによって判断されます。
患者への領収書が、すべての場合にインボイスとしての記載要件を満たさなければならないわけではありません。
会計システムとレセプトコンピューターの対応
今回の制度改正では、医療機関や薬局の会計システムへの影響も考えられます。
特に調剤薬局では、医薬品ごとに追加負担の対象となるかどうかを判定する必要があります。
対象となる77成分、1,042品目について、医薬品の種類や効能などを確認し、適切な患者負担額を計算する仕組みが求められます。
さらに、長期収載品の選定療養との関係も整理する必要があります。
同じ医薬品について複数の追加負担制度が関係する場合、どちらの制度を適用するかによって患者負担額が異なる可能性があります。
また、消費税の課税区分が異なれば、会計データの集計方法にも影響します。
そのため、制度開始前には、レセプトコンピューターや会計ソフトが正式な制度内容に対応しているかを確認する必要があります。
経理担当者だけでなく、窓口担当者や薬剤師なども制度の仕組みを理解することが重要です。
患者から負担額について質問された場合に、適切に説明できる体制を整える必要があります。
制度改正に伴う事務負担を抑えるためには、システム対応と職員研修を計画的に進めることが求められます。
制度開始前に確認したい税務実務上の課題
医療機関や薬局では、今回の制度改正に向けて、いくつかの事項を確認しておく必要があります。
第1は、追加負担部分の消費税区分です。
厚生労働省は非課税を要望していますが、最終的な取扱いは今後の税制改正などによって決まります。
第2は、既存の選定療養制度との関係です。
長期収載品の選定療養に係る追加負担と、OTC類似薬の追加負担を適切に区分する必要があります。
第3は、会計処理への影響です。
課税売上げと非課税売上げの区分が変わる場合には、消費税申告に必要な集計方法を見直す必要があります。
第4は、仕入税額控除への影響です。
一般課税を適用している事業者では、課税売上割合や仕入れの用途区分などを確認する必要があります。
第5は、システムと職員への対応です。
患者負担額の計算、領収書の表示、会計データの集計などについて、正式な制度内容に沿った準備が必要になります。
特に重要なのは、制度の正式決定前に課税区分を確定したものとして処理しないことです。
今後公表される法令や行政通知などを確認し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することが望まれます。
結論
2027年3月から導入予定のOTC類似薬の追加負担制度は、医療機関や調剤薬局の消費税実務にも影響する可能性があります。
厚生労働省は、薬剤費の25%に相当する追加負担について、恒久的な消費税非課税を要望しています。
しかし、既存の選定療養制度では、保険外の追加負担に消費税が課される場合があります。
そのため、制度間の整合性を確保するとともに、医療機関や薬局が適切に税務処理できるよう、課税関係を明確にする必要があります。
また、社会保険医療が非課税であることによって、医療機関や薬局では仕入税額控除が制限される問題があります。
患者に消費税を請求しないことと、医療機関や薬局が消費税を負担しないことは同じではありません。
今回の追加負担が非課税とされても、控除対象外消費税の問題が解消されるわけではないのです。
さらに、課税売上割合、インボイス制度、会計システム、レセプトコンピューターなどへの対応も重要になります。
制度改正の目的は、医療費の抑制と患者負担の公平性を確保することです。
しかし、その実現のために医療機関や薬局の事務負担が過度に増加すれば、医療現場の生産性に悪影響を与える可能性があります。
今後の制度設計では、患者負担の軽減だけでなく、消費税制度との整合性、医療機関の経営、薬局の実務負担を総合的に考える必要があります。
今回のOTC類似薬制度は、社会保険医療の消費税非課税制度が抱える構造的な問題を改めて浮き彫りにしています。
医療保険制度の改革が進むなかで、患者、医療機関、薬局のそれぞれにとって公平で分かりやすい消費税制度を構築することが、今後ますます重要になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月9日朝刊「OTC類似薬の新たな負担は非課税に 厚労省要望、似た制度とは矛盾」
国税庁 消費税の非課税取引に関する資料
国税庁 仕入税額控除の計算方法に関する資料
国税庁 適格請求書等保存方式に関する資料
厚生労働省 OTC類似薬に係る患者負担の見直しに関する資料