NISAでは、証券会社や銀行で販売されている金融商品なら何でも非課税で買えるわけではありません。
株式には対象になるものがあります。
投資信託も対象になります。
しかし、すべての投資信託が対象になるわけではありません。
預金や現在の個人向け国債もNISAの対象ではありません。
ここで疑問が生まれます。
なぜ国が投資家の商品選びに線を引くのでしょうか。
その理由を理解するには、NISAが単なる投資口座ではなく、税制を使って国民の資産形成を後押しする政策であることを押さえる必要があります。
NISAの商品は法律や制度によって決まる
NISAの商品範囲を、証券会社や銀行が自由に決めているわけではありません。
NISAは租税特別措置法などに基づく税制優遇制度です。
そのため、どのような金融商品を非課税対象にするのかについても制度上のルールがあります。
金融機関は、そのルールの範囲内で自社が取り扱う商品を利用者へ提供します。
つまり、
金融機関が販売している商品
と、
NISAで買える商品
は同じではありません。
証券会社の画面に商品が表示されていても、それだけでNISA対象になるわけではないのです。
NISAには二つの投資枠がある
現在のNISAには大きく二つの投資枠があります。
つみたて投資枠と成長投資枠です。
つみたて投資枠は年間120万円まで利用できます。
成長投資枠は年間240万円まで利用できます。
両方を合わせれば年間最大360万円です。
ただし、この二つでは対象となる金融商品の範囲が違います。
ここがNISAの商品選びを理解する重要なポイントです。
つみたて投資枠は対象商品がかなり絞られている
つみたて投資枠は、長期、積立、分散による資産形成を支援することを強く意識した制度です。
そのため、一定の基準を満たした投資信託などが対象になります。
例えば販売手数料や信託報酬などについて一定の要件があります。
長期的な積立投資に適した商品に対象を絞る考え方です。
世の中には非常に多くの投資信託があります。
短期的な値動きを狙う商品もあれば、複雑な仕組みの商品もあります。
それらをすべて税制優遇するのではなく、長期的な資産形成というNISAの目的に合う商品を選別しているわけです。
成長投資枠では対象が広がる
一方、成長投資枠では、つみたて投資枠より幅広い商品へ投資できます。
上場株式なども対象になります。
投資家自身が企業を選んで株式を購入することもできます。
一定の投資信託や上場投資信託なども対象です。
そのため、
積立中心で資産形成をする人
だけではなく、
個別株にも投資したい人
にも利用しやすい仕組みになっています。
ただし、成長投資枠も無制限ではありません。
ここでも対象外となる商品があります。
成長投資枠でも対象外の商品がある
例えば整理銘柄や監理銘柄などは対象外となります。
また、信託期間が短い一定の投資信託や、毎月分配型の一定の投資信託、デリバティブ取引を用いた一定の投資信託なども対象外です。
なぜでしょうか。
NISAは投資による利益を非課税にする制度ですが、投機的な取引を何でも支援する制度ではないからです。
特に長期的な資産形成という政策目的との整合性が重視されています。
非課税という強いメリットを与える以上、
「どのような商品を国が税制で後押しするのか」
という判断が必要になります。
預金はなぜNISAに入らないのか
ここで興味深いのが預金です。
預金の利息にも通常は税金がかかります。
それなら銀行預金もNISAに入れて、利息を非課税にすればよいと思うかもしれません。
しかし現在、一般的な預貯金はNISAの対象ではありません。
その背景にはNISAの政策目的があります。
日本では家計金融資産の大きな部分が現金や預金で保有されてきました。
政府が進めてきたのは、こうした家計のお金を投資へ振り向けることです。
もし預金までNISAで非課税にすれば、
「預金から投資へ動いてもらう」
という政策誘導の力が弱くなります。
預金が悪いという意味ではありません。
生活資金や緊急時の資金を預金で保有することは重要です。
しかしNISAは、預金そのものを優遇するためにつくられた制度ではないのです。
個人向け国債も現在は対象ではない
同じように、現在の個人向け国債もNISAの対象ではありません。
個人向け国債を購入すると利子を受け取ることができますが、その利子には原則として税金がかかります。
この個人向け国債をNISAの対象に加える構想が注目されています。
もし実現すれば、NISAの商品範囲を考えるうえで大きな変化になります。
なぜなら、株式や投資信託と国債では、お金の行き先が違うからです。
株式などへの投資は企業や市場を通じて民間経済と結びつきます。
一方、国債は政府が資金を調達するための金融商品です。
国債をNISAに入れるということは、税制優遇によって個人の資金を国債へ向かわせる政策的な意味も持つことになります。
対象商品を変えるとお金の流れも変わる
ここがNISAの商品範囲を考えるうえで最も重要なところです。
税金がかかる商品と非課税の商品があれば、その他の条件が同じなら非課税の商品を選びたい人が増える可能性があります。
つまりNISAの商品指定には、
「国民に何を買ってほしいのか」
という政策的なメッセージが含まれます。
株式や投資信託を対象にすれば、家計のお金を投資市場へ誘導する効果が期待できます。
国債を対象にすれば、国債へ個人資金を誘導する効果が期待できます。
預金まで対象にすれば、預金を保有し続けることにも税制上のメリットが生じます。
何をNISAに入れるかによって、家計金融資産の行き先が変わる可能性があるのです。
すべての商品を非課税にするとNISAの意味が薄れる
それなら、すべての金融商品をNISA対象にすれば公平ではないかという考え方もあります。
確かに利用者にとっては便利です。
しかし、すべての商品を同じように非課税にすると、NISAを使って特定の政策目的を実現する意味が弱くなります。
預金でも非課税。
株式でも非課税。
国債でも非課税。
短期的な投機商品でも非課税。
となれば、長期的な資産形成を支援する制度というNISAの性格が曖昧になります。
さらに非課税対象を広げれば、本来なら国に入る税収も減る可能性があります。
非課税にはコストがあります。
だからこそ、対象商品には一定の線引きが必要になるのです。
商品選定には政策目的が表れる
NISAの商品範囲を見ると、その時々の政府が家計金融資産をどこへ向かわせたいのかが見えてきます。
これは意外に重要な視点です。
NISAを利用する側から見ると、
「何が買えるのか」
が重要です。
しかし政策側から見ると、
「何を非課税にするのか」
が重要になります。
似ていますが意味は違います。
非課税対象にするということは、その金融商品を保有する行動に税制上のメリットを与えるということだからです。
したがってNISAの商品範囲を変更する議論では、商品の安全性や利回りだけでなく、
なぜその商品を税制優遇する必要があるのか
という政策目的まで確認する必要があります。
NISAの商品拡大は単なるサービス改善ではない
個人向け国債など新しい商品をNISAへ加える議論が出ると、
「選択肢が増えるので便利になる」
と考えがちです。
もちろん利用者にとって選択肢が増えることにはメリットがあります。
しかしNISAの場合、それだけではありません。
対象商品を増やすということは、その商品から得られる利益について税金を取らない範囲を広げることでもあります。
つまり税制改正です。
そして税制優遇を通じて、家計のお金の流れを変える可能性があります。
NISAの商品追加は、金融機関の商品ラインアップを増やす話とは性格が違うのです。
結論
NISAに入れられる商品を金融機関が自由に決めているわけではありません。
NISAは国の税制優遇制度であるため、対象商品には制度上の条件があります。
現在のNISAには、つみたて投資枠と成長投資枠があり、それぞれ対象商品の考え方も異なります。
特につみたて投資枠では、長期、積立、分散による資産形成という目的に沿って商品が絞られています。
一方、成長投資枠では幅広い商品を購入できますが、それでも何でも対象になるわけではありません。
重要なのは、
「買える商品を増やすか」
という視点だけでNISAの商品拡大を考えないことです。
NISAで非課税対象にするということは、国が税収の一部を手放して、その金融商品への投資を後押しすることでもあります。
だからこそ、個人向け国債をNISAへ加える議論でも、
「安全な商品が増えて便利になる」
だけでは十分ではありません。
なぜ国債を税制で優遇するのか。
その結果、家計のお金はどこへ向かうのか。
NISAの商品範囲を見ることは、政府が国民のお金をどこへ動かそうとしているのかを見ることでもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月6日 朝刊 「なんでもNISA」の陥穽