オフィスで仕事をする人にとって、長時間座り続けることは当たり前になっています。
朝、会社に着いてパソコンを開く。そのまま午前中を過ごし、昼食後も再び座って仕事をする。会議もオンラインで済めば、自席からほとんど動かないまま夕方を迎えることもあります。
仕事をしているのだから問題はないように見えます。
しかし、身体活動の不足や長時間座り続ける生活は、従業員の健康だけではなく、企業の生産性にも関係する問題です。
これからの健康経営では「どれだけ運動しているか」だけではなく、「仕事中にどれだけ座り続けているか」にも目を向ける必要があります。
デスクワークは歩数を減らしやすい
東京大学の研究グループが約150万人を対象に調べたところ、自治体によって1日の平均歩数には大きな差がありました。
最多だった東京都豊島区は7,750歩、最少だった宮崎県小林市は4,026歩です。
地域によって約3,700歩もの差があります。
ただし、通勤である程度歩いている都市部の会社員でも安心はできません。
駅まで歩き、会社まで歩いていても、勤務時間中の大半を椅子に座って過ごしている可能性があるからです。
通勤時の歩数と勤務中の座りすぎは、別々に考える必要があります。
座ること自体が悪いわけではない
もちろん、座って仕事をすること自体が問題なのではありません。
経理、総務、法務、企画、システム開発など、パソコンを使った仕事では座る時間が長くなるのは当然です。
問題になるのは、長時間ほとんど身体を動かさない状態が続くことです。
厚生労働省は、身体活動が不足したり座っている時間が長くなったりすると、筋肉や骨など運動器の障害などのリスクが高まるとしています。
企業として考えるべきなのは、デスクワークをなくすことではありません。
デスクワークの中に、どうやって小さな身体活動を組み込むかです。
腰痛や肩こりは小さな問題ではない
長時間パソコンに向かっていると、腰痛や肩こり、目の疲れなどを感じる人は少なくありません。
こうした不調は、入院を必要とするような病気とは違うため、企業側から見えにくいという特徴があります。
従業員は会社に来ています。
欠勤もしていません。
パソコンにも向かっています。
しかし、腰が痛い、肩が重い、身体がだるいといった状態で、本来の能力を十分に発揮できているとは限りません。
企業にとって重要なのは、欠勤者だけではありません。
出勤していても体調不良によって生産性が低下している人にも目を向けることです。
健康問題を生産性の問題として考える
従業員の健康管理というと、福利厚生の一つと考えられがちです。
しかし、人手不足が進む社会では見方を変える必要があります。
従業員1人が健康に働ける期間を延ばす。
体調不良による欠勤を減らす。
仕事中の集中力を維持する。
腰痛などによる業務効率の低下を防ぐ。
こうした取り組みは、人材を有効に活用するための経営課題でもあります。
採用が難しい企業ほど、現在働いている社員が健康に働き続けられる環境をつくる意味は大きくなります。
健康経営は福利厚生費ではなく、人への投資という側面を持っています。
仕事を中断することへの抵抗感
身体活動を増やすうえで意外に大きな障害になるのが、仕事中に席を立つことへの心理的な抵抗です。
忙しい職場では、席に座ってパソコンに向かっている人ほど働いているように見えることがあります。
反対に頻繁に席を立つと、仕事をしていないように見られるのではないかと感じる人もいるでしょう。
しかし、長時間座り続けることと生産性の高さは同じではありません。
短時間でも身体を動かし、気分を切り替えて仕事に戻る方が働きやすい人もいます。
職場文化そのものを見直す必要があります。
社内の小さな移動を増やす
身体活動を増やすために、勤務時間中に本格的な運動をする必要はありません。
例えば、別の階への移動では階段を利用する。
コピーや資料を取りに席を立つ。
昼休みには外へ出る。
休憩時間に少し歩く。
可能な場合は対面で話しに行く。
こうした小さな移動でも身体を動かす機会になります。
効率化という観点だけなら、できるだけ席を立たずに仕事を完結させる方が合理的に見えます。
しかし、健康という視点を加えると、少し非効率に見える動きにも意味が出てきます。
デジタル化には別の側面もある
企業では業務のデジタル化が進んでいます。
紙の資料を取りに行く必要がなくなる。
オンライン会議なら会議室まで移動する必要がない。
社内チャットを使えば、同僚の席まで行く必要もありません。
業務効率という意味では大きな進歩です。
一方で、仕事に伴っていた小さな身体活動まで失われる可能性があります。
デジタル化をやめる必要はありません。
むしろ業務を効率化したうえで、失われた身体活動をどこで補うかを考える必要があります。
便利になればなるほど、意識しなければ身体を動かさなくても仕事ができる時代になっているからです。
テレワークではさらに歩かなくなることもある
テレワークも同じです。
通勤がなくなれば時間を有効活用できます。
一方、自宅の机からほとんど動かずに1日を終えることも可能になります。
会社員なら通勤だけで一定の歩数が確保されていた人でも、自宅勤務になればその歩数がなくなります。
朝に散歩する。
昼休みに外へ出る。
仕事が終わったら歩く。
こうした行動を意識的に組み込まなければ、身体活動量が大きく減る可能性があります。
働き方の自由度が高まるほど、健康管理についても新しい仕組みが必要になります。
会社が歩数を管理する必要はない
一方で、企業が従業員の健康データを細かく管理すればよいという話でもありません。
毎日の歩数を報告させる。
歩数ランキングを公表する。
一定の歩数を目標として義務付ける。
こうした方法は、人によっては負担になります。
年齢や体力、仕事内容、身体の状態によって適切な活動量は異なります。
企業が目指すべきなのは、社員を強制的に運動させることではありません。
身体を動かしたい人が自然に動ける職場をつくることです。
スニーカーを認めることも、その一つでしょう。
小さな休憩を認める職場へ
仕事では集中する時間が必要です。
しかし、長時間座り続けることを勤勉さの象徴にする必要はありません。
席を立つ。
少し歩く。
身体を伸ばす。
昼休みに外へ出る。
そして再び仕事に戻る。
こうした行動を自然にできる職場であれば、従業員も無理なく身体を動かすことができます。
制度を新しくつくらなくても、管理職が率先して席を立ったり、昼休みに歩いたりするだけで職場の雰囲気が変わることもあります。
健康経営は制度だけではなく、職場文化の問題でもあります。
人手不足時代ほど健康への投資が重要になる
人口減少によって働き手が減っていけば、企業にとって人材の価値はさらに高まります。
採用しても人が集まらない。
若い人材が少なくなる。
社員の平均年齢が上昇する。
こうした状況では、現在いる従業員に長く健康に働いてもらうことが重要になります。
そのためには病気になってから対応するだけでは不十分です。
日常の働き方そのものを健康につながるものへ変えていく必要があります。
座りすぎ対策は、その入り口の一つです。
結論
デスクワーク中心の企業では、座っている時間が長いことが当たり前になっています。
さらにデジタル化やオンライン会議が進めば、席を立たなくても仕事を完結できる場面は増えていくでしょう。
便利になること自体は歓迎すべきです。
しかし、効率化によって身体を動かす機会まで失われていないかは確認する必要があります。
階段を使う。
昼休みに歩く。
短時間でも席を立つ。
スニーカーで通勤する。
こうした小さな行動を取り入れやすい職場をつくることは、従業員の健康だけでなく企業の生産性にも関係します。
これからの健康経営で重要なのは、社員に運動を命じることではありません。
座り続けなくても働ける環境をつくることです。
人手不足が進む時代だからこそ、従業員が健康に働き続けられる環境そのものが、企業の競争力になっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月6日朝刊 歩かぬ地方、都市との差1日30分 「スニーカービズ」通勤で歩数稼げ