通勤時間を運動時間に変える 忙しい現役世代の健康戦略

人生100年時代
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健康のために運動した方がよいと分かっていても、働く世代にとって最大の問題は時間です。

仕事が終わってからスポーツクラブへ行く。朝早く起きてジョギングをする。休日にまとまった時間を確保して運動する。

どれも理想的ですが、仕事や家事が忙しくなると続けることが難しくなります。

そこで注目したいのが通勤時間です。

通勤は多くの会社員が仕事のために使っている時間です。この時間の一部を身体活動に変えることができれば、新たに運動時間を確保しなくても歩数を増やせます。

健康のために時間をつくるのではなく、すでにある時間を健康に使うという考え方です。

運動する時間がないという現実

働く世代には多くの役割があります。

仕事だけではありません。

家事をする。

子育てをする。

親の介護をする。

資格取得などの勉強をする。

自分の時間も必要です。

その中に毎日30分や1時間の運動時間を新たに追加するのは簡単ではありません。

健康づくりを本人の努力だけに任せると、忙しくなったときに真っ先に削られるのが運動時間になりがちです。

だからこそ、特別な時間を必要としない方法を考える必要があります。

通勤は毎日繰り返される

通勤を利用する最大の利点は、習慣になっていることです。

運動を始めようとすると、いつ運動するかを決めなければなりません。

今日は歩くか。

明日は走るか。

仕事が遅くなったからやめるか。

毎回判断することになります。

一方、通勤は仕事に行く限り発生します。

その中に歩く行動を組み込めば、毎朝「今日は運動しよう」と決断する必要がありません。

健康づくりでは、この仕組み化が重要です。

都市では通勤そのものが運動になる

東京大学の研究グループによる調査では、1日の平均歩数が最も多かった東京都豊島区は7,750歩でした。

一方、最も少なかった宮崎県小林市は4,026歩で、その差は約3,700歩あります。

背景の一つとして考えられるのが移動手段の違いです。

都市部では自宅から駅まで歩きます。

駅構内でも歩きます。

階段を上り下りします。

電車を乗り換えます。

そして駅から勤務先まで再び歩きます。

本人が運動を目的としていなくても、通勤そのものが身体活動になっています。

都市生活には、いわば隠れた運動時間が存在しているのです。

車通勤では運動が消えやすい

地方では状況が異なります。

自宅から勤務先まで車で移動し、会社の駐車場から建物まで数分歩くだけという人も多いでしょう。

公共交通が十分ではない地域では、自動車通勤をやめることは現実的ではありません。

問題は車を使うことではなく、車を利用すると通勤に伴う身体活動がほとんどなくなることです。

そこで必要になるのが、車通勤と歩行を組み合わせる発想です。

車か徒歩かという二者択一にする必要はありません。

駐車場から健康を考える

例えば勤務先に複数の駐車場所がある場合、歩くことが可能な人は建物から少し離れた場所を利用する方法があります。

朝に数分歩く。

帰宅時にも数分歩く。

それだけでも往復で身体活動が増えます。

もちろん、身体の状態や天候、安全性への配慮は必要です。

全員に遠い駐車場所を強制するべきでもありません。

重要なのは、歩きたい従業員が歩くことのできる選択肢をつくることです。

地方企業にとって駐車場は単なる車の保管場所ではなく、健康経営を考える場所にもなり得ます。

1駅手前より続けやすい方法を考える

都市部では「1駅手前で降りて歩きましょう」とよく言われます。

確かに歩数を増やす方法としては有効です。

しかし毎日実行するとなると、負担になる人もいるでしょう。

朝から1駅分歩けば出勤時間を早めなければなりません。

帰宅が遅くなった日は早く家に帰りたいものです。

そこで、もっと小さな工夫から始める方法があります。

駅で階段を使う。

会社まで少しだけ遠回りする。

昼食のために外へ出る。

帰宅途中に少し歩いて買い物をする。

大きな目標より、毎日続けられる小さな行動を選ぶ方が現実的です。

スニーカーが通勤を変える

通勤で歩数を増やすときに重要になるのが靴です。

革靴やヒールなどでは、長い距離を歩くことが負担になる場合があります。

そこでスニーカービズという考え方が出てきます。

福井県では2017年からスニーカービズに取り組み、実施した日は平均歩数が1,273歩増えました。

歩幅も平均5センチ伸びています。

香川県と新潟県も2026年7月からスニーカービズを開始しました。

スポーツ庁も2026年9月から、歩きやすい靴を利用して日常生活の活動量を増やす取り組みを始めています。

歩いてくださいと呼びかけるだけでなく、歩きやすい条件を先につくることがポイントです。

会社にもできることがある

通勤は勤務時間外だから、健康管理は社員本人の問題だと考える企業もあるかもしれません。

しかし企業側にもできることがあります。

スニーカー通勤を認める。

服装規定を柔軟にする。

自転車通勤や徒歩通勤について安全面を含めたルールを整える。

更衣スペースを設ける。

駐車場の利用方法を工夫する。

こうした環境があれば、従業員は通勤時に身体を動かしやすくなります。

運動を義務付けるのではなく、身体を動かす選択肢を増やすのです。

テレワークでは通勤運動がなくなる

通勤を健康という視点から考えると、テレワークについても興味深い問題が見えてきます。

テレワークには通勤時間がなくなるという大きな利点があります。

一方、それまで駅まで歩いていた人は、その身体活動も同時に失います。

自宅の机で仕事を始め、そのまま1日を過ごせば、歩数が大きく減る可能性があります。

そこでテレワークの日には、通勤の代わりとなる行動を意識的につくる方法があります。

仕事を始める前に短時間歩く。

昼休みに外へ出る。

仕事が終わったら散歩する。

通勤時間がなくなった分の一部を身体活動に振り替えるわけです。

働き方が変われば、健康づくりの方法も変える必要があります。

通勤時間は無駄なのか

長時間通勤は、働く人に大きな負担になります。

そのため、通勤時間は短い方がよいという考え方には十分な理由があります。

ただし、通勤時間をすべて無駄な時間と考える必要もありません。

徒歩による移動部分については、身体活動の時間として見ることもできます。

例えば電車で30分座る時間と、駅まで10分歩く時間では身体への意味が違います。

通勤時間の長短だけでなく、その時間をどのように過ごしているかを見ることが重要です。

健康づくりは時間管理でもある

現役世代の健康づくりを考えるとき、運動の知識だけでは不十分です。

限られた24時間をどう使うかという時間管理の問題でもあります。

睡眠時間を削って運動すればよいわけではありません。

家族との時間を犠牲にする必要もありません。

だからこそ、すでに存在している時間の中に身体活動を組み込むことに意味があります。

通勤。

昼休み。

買い物。

仕事中の移動。

こうした時間を少しずつ活用すれば、新たな運動時間を大量に確保しなくても身体活動を増やすことができます。

結論

忙しい現役世代に「もっと運動しましょう」と言うだけでは、なかなか行動にはつながりません。

必要なのは、運動するための時間を新たにつくることではなく、すでにある時間を利用する発想です。

その代表が通勤です。

駅まで歩く。

階段を使う。

少し遠回りする。

車通勤でも駐車場所を工夫する。

歩きやすい靴を履く。

一つ一つは小さな行動ですが、通勤は繰り返されます。

毎日の10分は、1日だけの1時間より長く続けやすいかもしれません。

健康づくりで重要なのは、特別な日に頑張ることではなく、普通の日に自然に身体を動かすことです。

通勤を単なる移動時間から身体活動の時間へ変えることが、忙しい現役世代にとって現実的な健康戦略になるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月6日朝刊 歩かぬ地方、都市との差1日30分 「スニーカービズ」通勤で歩数稼げ

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