決算が近づき、予想以上に利益が出そうになると、「必要なパソコンや備品を今のうちに購入して節税しよう」と考えることがあります。
特に2026年度税制改正によって、少額減価償却資産の特例の対象が40万円未満まで拡大されたため、決算対策として設備や備品の購入を検討する中小企業もあるでしょう。
しかし、決算日までに注文しただけでは、その年度の経費にできるとは限りません。
代金を全額支払っていたとしても同じです。
重要なのは、決算日までに納品され、実際に事業の用に供しているかどうかです。
期末の設備投資では、「いつ買ったか」「いつ払ったか」だけでなく、「いつ使い始めたか」という視点が非常に重要になります。
期末の駆込み購入は代表的な決算対策
利益が予想以上に増えた場合、必要な設備や備品を決算前に購入することは、決算対策の1つになります。
例えば、近いうちに買い替える予定だったパソコンや事務機器があるとします。
翌年度に購入する予定だったものを当年度中に取得し、損金算入できれば、その年度の利益を圧縮できます。
特に一定の中小法人では、40万円未満の減価償却資産について、少額減価償却資産の特例を利用できる場合があります。
通常なら複数年度にわたって減価償却する資産を取得年度に全額損金算入できるため、利益が出ている年度には大きな効果があります。
ただし、単に決算日までに購入手続きを済ませればよいわけではありません。
代金を払った日だけでは決まらない
設備や備品を購入すると、「支払った日が経費になる日」と考えてしまいがちです。
しかし、減価償却資産では支払日だけで判断するわけではありません。
例えば、3月決算の会社が3月25日に39万円のパソコンを注文し、その日に代金を全額支払ったとします。
ところが、商品が届くのは4月5日だったとします。
3月31日の決算日には、まだパソコンが会社に届いていません。
当然、そのパソコンを事業で使用することもできません。
この場合、3月中に代金を支払ったという事実だけをもって、その年度の少額減価償却資産として損金算入することはできません。
支払いを急げば節税できるというわけではないのです。
重要なのは事業の用に供したかどうか
減価償却を開始するうえで重要になるのが、「事業の用に供する」という考え方です。
簡単にいえば、その資産を事業で実際に使用できる状態にして使い始めることです。
パソコンであれば、納品され、業務に利用できる状態になっていることが重要になります。
機械設備であれば、単に工場に搬入されただけではなく、設置や必要な準備が終わり、事業で使用できる状態になっているかどうかが問題になります。
つまり、「所有していること」と「事業の用に供していること」は必ずしも同じではありません。
期末の設備投資では、この違いを意識する必要があります。
納品されただけでも十分とは限らない
では、決算日までに商品が届けば問題ないのでしょうか。
ここにも注意が必要です。
例えば、3月30日にパソコンが届いたものの、箱に入れたまま倉庫に置き、実際に使用を開始したのが4月になってからだったとします。
単に納品されたというだけで、必ずその年度の損金にできるとは限りません。
重要なのは、事業の用に供していることです。
資料でも、期末までに納品されていても使っていない場合には経費にできないという考え方が示されています。
決算対策として設備を購入する場合には、納品日だけではなく、使用開始まで間に合うかを確認する必要があります。
支払いが翌年度でも経費計上できる場合がある
反対のケースも考えてみましょう。
3月決算の会社が3月中にパソコンの納品を受け、すでに業務で使用を開始していたとします。
ただし、代金の支払いは4月末です。
この場合、「まだお金を払っていないから今年度の経費にはならない」と考えるかもしれません。
しかし、支払いの有無だけで決まるわけではありません。
資料では、期末までに納品が完了し、事業の用に供していれば、代金の支払いが翌期になったとしても経費計上できると説明されています。
つまり、支払日よりも、資産が事業で使える状態になっているかどうかが重要なのです。
注文日と支払日と納品日と使用開始日を分けて考える
期末の設備購入では、日付を4つに分けて考えると分かりやすくなります。
注文日があります。
支払日があります。
納品日があります。
そして、事業で実際に使用を開始した日があります。
これらは必ずしも同じ日ではありません。
例えば、3月10日に注文し、3月15日に支払い、3月29日に納品され、4月2日に使用を開始することもあります。
この場合、「3月に注文した」「3月に支払った」「3月に納品された」という事実だけを見て判断すると、処理を誤る可能性があります。
最後の使用開始が4月になっているからです。
決算対策では、購入手続きの完了ではなく、事業供用までのスケジュールを管理する必要があります。
パソコンでは初期設定にも注意する
パソコンは、購入して届けばすぐに業務で使えるとは限りません。
初期設定、業務用ソフトウェアのインストール、社内ネットワークへの接続、セキュリティ設定、データ移行などが必要になる場合があります。
決算日の直前に大量のパソコンを購入したものの、設定作業が間に合わず、箱に入ったまま翌年度を迎えることも考えられます。
このようなケースでは、「決算日までに届いたから大丈夫」と安易に判断しないことが重要です。
設備の種類によって、事業で使用できる状態になるまでに必要な作業は異なります。
決算直前の購入であれば、その時間まで逆算して発注する必要があります。
大型設備ではさらに時間がかかる
事業供用日の問題は、パソコンだけではありません。
機械設備や店舗設備では、さらに注意が必要です。
設備そのものが決算日までに納品されても、据付工事や試運転が終わっていなければ、まだ事業で使用できない場合があります。
内装工事などについても、契約や代金の支払いだけでなく、実際に完成し、事業で使用できる状態になっているかを確認する必要があります。
設備が大型になるほど、発注から納品、設置、試運転、使用開始までの期間は長くなります。
決算直前になって設備投資を決めても、その年度の減価償却に間に合わない可能性があります。
40万円未満でも条件は同じ
少額減価償却資産の特例が40万円未満へ拡大されたことで、「39万円のパソコンなら決算前に買えば全額経費になる」と考えるケースもあるでしょう。
しかし、40万円未満というのは、あくまで特例を利用するための金額要件の1つです。
決算日までに事業の用に供していなければ、その年度に特例を利用することはできません。
39万円だから自動的に全額損金になるわけではないのです。
金額基準を満たしているか。
対象となる法人か。
年間300万円の限度額の範囲内か。
そして、いつ事業の用に供したのか。
複数の条件を確認する必要があります。
証拠を残しておくことも重要
決算日の直前に設備を購入した場合には、いつ事業の用に供したのかを後から確認できるようにしておくことも重要です。
注文書や請求書だけでは、注文日や購入金額は分かっても、実際にいつ使用を開始したのかまでは分からない場合があります。
納品書、設置記録、設定記録など、実際の状況に応じた資料を保存しておくと確認しやすくなります。
特に金額の大きな設備については、決算日をまたぐかどうかによって減価償却費が大きく変わる場合があります。
税務処理だけではなく、社内の固定資産管理という意味でも、取得から使用開始までの記録を整理しておくことが大切です。
節税のためだけに駆込み購入しない
もう1つ忘れてはいけないのが、設備投資そのものの必要性です。
例えば、利益が出ているからという理由だけで39万円のパソコンを購入したとします。
特例を利用して39万円を全額損金算入できれば、税負担は減ります。
しかし、39万円の現金支出がなくなるわけではありません。
節税できる金額よりも、購入代金として出ていく資金のほうが大きいのが通常です。
近いうちに必要になる設備を前倒しで購入するのであれば合理性があります。
一方、税金を減らすことだけを目的に不要な設備を購入すれば、会社の資金繰りを悪化させる可能性があります。
決算対策では、「税金が減るか」より先に「本当に必要な設備か」を考えることが基本です。
結論
決算直前にパソコンや設備を購入することは、一定の場合には有効な決算対策になります。
しかし、決算日までに注文しただけでは十分ではありません。
代金を支払っただけでも十分ではありません。
重要なのは、決算日までに納品され、実際に事業の用に供していることです。
反対に、期末までに事業の用に供していれば、代金の支払いが翌年度になっても経費計上できる場合があります。
つまり、設備投資の税務では、支払日よりも事業供用日が重要になります。
決算直前の設備投資では、注文日、支払日、納品日、使用開始日をそれぞれ分けて管理する必要があります。
特にパソコンの設定や機械の据付工事などが必要な場合には、購入から事業供用までの時間も考慮しなければなりません。
「決算日までにお金を払えば節税できる」という考え方ではなく、「決算日までに本当に事業で使い始められるのか」という視点を持つことが、期末の設備投資で失敗しないための重要なポイントです。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A