会計不正は経理部だけの問題ではない 利益目標と人事評価の危険な関係

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企業で会計不正が発覚すると、最初に注目されるのは経理部門です。

誰が仕訳を入力したのか。

誰が数字を修正したのか。

誰が監査法人に説明したのか。

もちろん、これらの検証は必要です。

しかし、大規模な会計不正を経理担当者だけの問題として考えると、本当の原因を見落とす可能性があります。

なぜその数字を作る必要があったのか。

なぜ担当者は不適切な処理を拒否できなかったのか。

なぜ上司や経営陣に問題を報告できなかったのか。

その背景には、利益目標や人事評価、企業文化が関係している場合があります。

ニデックの問題は、会計不正と経営管理の関係を考える重要な事例です。

会計数字は現場から作られる

企業の決算は経理部だけで作られているわけではありません。

売上高の基礎になる販売情報は営業部門から届きます。

在庫情報は工場や物流部門から届きます。

設備投資の情報は事業部門から届きます。

将来の事業計画は経営企画や各事業部門が作ります。

減損会計では、その事業計画が重要な前提になります。

つまり経理部門は、会社全体から集めた情報を会計数字に変換する役割を担っています。

元になる情報に問題があれば、経理部門だけでは正しい決算を作れません。

強い利益目標そのものが悪いわけではない

企業経営には目標が必要です。

売上高を増やす。

利益率を改善する。

コストを削減する。

市場シェアを高める。

こうした目標がなければ組織の方向性が定まりません。

高い目標が社員の能力を引き出し、企業成長につながることもあります。

問題になるのは、目標が絶対化されたときです。

達成できなかった理由を説明できない。

未達になると強く責任を追及される。

現実的な下方修正を認めない。

どんな方法でも数字を合わせることが優先される。

こうなると、目標は経営管理の道具ではなく、組織をゆがめる圧力になる可能性があります。

利益目標と会計数字は近い関係にある

利益目標には特徴があります。

実績が会計数字として明確に表れることです。

目標利益100億円に対して実績が90億円なら、10億円の未達です。

そこで本来考えるべきなのは、なぜ10億円足りなかったのかです。

販売数量が少なかった。

販売価格が下がった。

原材料費が上昇した。

新製品の立ち上がりが遅れた。

こうした原因を分析し、次の経営判断につなげることが重要です。

ところが目標達成そのものが目的になると、別の発想が生まれる可能性があります。

どうすれば残り10億円を決算上作れるかという発想です。

ここから会計不正につながる危険が生まれます。

人事評価と結びつくと圧力は強くなる

利益目標が人事評価や昇進と強く結びついている場合には、さらに注意が必要です。

目標を達成すれば昇進する。

未達なら降格する。

賞与が大幅に減る。

経営会議で厳しく追及される。

こうした制度があれば、社員にとって会計数字は自分自身の処遇に直結します。

合理的な範囲で成果を評価することは当然です。

しかし、数字だけで人を評価すると、数字を良く見せることへの動機が強くなります。

評価制度が意図せず不正を促す仕組みになっていないかを確認する必要があります。

悪い情報ほど上に届かなくなる

強い目標達成圧力がある組織では、もう1つの問題が生まれます。

悪い情報が経営トップまで届きにくくなることです。

工場の稼働率が計画を下回っている。

新製品が売れていない。

顧客から値下げを要求されている。

設備投資を回収できそうにない。

こうした情報を報告した担当者が強く責任を追及される環境では、報告を遅らせる心理が働く可能性があります。

もう少し待てば回復する。

次の四半期には改善する。

新規顧客が取れれば計画を達成できる。

そうして問題の先送りが続けば、経営者が実態を把握する時期も遅れます。

減損会計にも影響する

ニデックは2026年3月期に6,321億円の減損損失を計上しました。

戒田理夫社長は、その背景について過剰な設備投資の蓄積が原因との認識を示しています。

減損では将来の事業計画が重要になります。

将来売上高。

販売数量。

利益率。

設備稼働率。

市場成長率。

これらを予測して資産の回収可能性を判断します。

もし事業部門が高い利益目標を前提に事業計画を作れば、将来キャッシュフローも大きくなります。

結果として資産価値が高く評価され、減損認識が遅れる可能性があります。

会計問題と経営計画は密接につながっています。

経理部門が最後の防波堤になる

こうした状況で重要になるのが経理部門です。

事業部門から提出された数字をそのまま決算に使うのではなく、合理性を確認する必要があります。

この売上予測は現実的なのか。

なぜ利益率が急に改善するのか。

過去の事業計画は達成できていたのか。

設備投資を本当に回収できるのか。

経理部門には、事業部門や経営陣に対して疑問を投げかける役割があります。

ある意味では、会社内部に存在する最後の防波堤です。

経理部門の独立性が重要になる

しかし、経理部門にも同じ利益目標が強く課されていたらどうでしょうか。

経理担当者自身が利益達成について評価される。

事業部門から強い圧力を受ける。

経営トップの意向に反する会計処理を主張すると人事上不利になる。

このような状態では、経理部門が防波堤として機能しにくくなります。

経理部門は事業を支援する部門であると同時に、正しい財務報告を守る部門でもあります。

この2つの役割を両立させるためには、一定の独立性が必要です。

経営トップの言葉が組織文化を作る

企業文化は社内規程だけで作られるものではありません。

経営トップが日常的に何を評価し、何を叱るかによって形成されます。

利益目標を達成した社員だけを評価する。

悪い数字を報告した社員を強く叱責する。

計画未達を認めない。

こうした行動が続けば、社員は何を求められているのかを学習します。

逆に、問題を早期に報告した社員を評価する。

計画未達の原因を冷静に分析する。

悪い情報ほど早く共有する。

会計上必要な損失を適切に認識する。

こうした姿勢を経営トップが示せば、組織の行動も変わります。

不正防止には人事制度の点検も必要

会計不正の再発防止策というと、経理規程や承認手続きの強化が中心になりがちです。

しかし、それだけでは十分ではありません。

人事評価制度も確認する必要があります。

売上高や利益だけで評価していないか。

短期的な数字に偏っていないか。

内部統制やコンプライアンスへの取り組みも評価しているか。

問題を早期報告した社員が不利益を受けない仕組みになっているか。

管理職が部下に過度な目標達成圧力をかけていないか。

不正を生む動機そのものを小さくすることが重要です。

数字を作る会社から数字を使う会社へ

本来、会計数字は経営の結果です。

売上高が不足していれば営業戦略を見直す。

利益率が低ければコスト構造を改善する。

設備が余っていれば投資計画を修正する。

事業価値が低下していれば減損を認識する。

会計数字を現実に合わせるのではなく、現実を改善するために会計数字を使うことが重要です。

数字を良く見せる会社と、数字から問題を発見する会社では、同じ管理会計制度を使っていても企業文化は大きく異なります。

結論

会計不正が起きたとき、仕訳を行った経理担当者だけを処分して終われば、同じ問題が再び起きる可能性があります。

なぜ不適切な会計処理が必要になったのか。

どのような利益目標があったのか。

その目標は人事評価とどう結びついていたのか。

悪い情報を上司に報告できる環境だったのか。

経理部門は経営陣に対して異論を言える立場だったのか。

ここまで検証する必要があります。

高い利益目標そのものが問題なのではありません。

問題は、目標達成が正しい財務報告より優先される組織になってしまうことです。

会計不正を防ぐために必要なのは、経理システムの改善だけではありません。

利益目標、人事評価、経営者の行動、情報伝達、企業文化まで含めて見直すことです。

会計不正は経理部門で表面化します。

しかし、その原因は会社全体の経営の仕組みの中に存在していることがあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 過去との決別がニデック存続の条件だ

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 PwC「信頼できぬ」 迫る有報提出期限、水面下で攻防

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 ニデック、人事の刷新必須 上場維持への条件

日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 ニデック減損、過剰投資の蓄積原因 戒田社長「最後に貢献」

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