2026年度税制改正によって、少額減価償却資産の特例の対象となる取得価額が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。
これによって、30万円台のパソコンや事務機器なども、一定の要件を満たせば取得年度に全額を損金算入できる可能性が広がりました。
ところが、ここで実務上注意したい問題があります。
「40万円未満」という金額を、税込価格で判定するのか、それとも税抜価格で判定するのかという問題です。
結論からいえば、どちらで判定するかは企業が採用している消費税の経理方式によって異なります。
税抜経理なら税抜価格、税込経理なら税込価格で判定します。
そのため、まったく同じ商品を同じ価格で購入しても、企業によって少額減価償却資産の特例を利用できるかどうかが変わる可能性があります。
特に40万円前後の設備を購入するときには注意が必要です。
40万円未満という基準だけでは判断できない
少額減価償却資産の特例では、一定の中小法人が取得した40万円未満の減価償却資産について、取得価額を全額損金算入することができます。
ここで重要なのが「取得価額」です。
例えば、販売価格が税込41万8,000円のパソコンがあったとします。
消費税率を10%とする単純な例では、税抜価格は38万円です。
税込価格だけを見れば40万円以上です。
一方、税抜価格なら40万円未満です。
では、このパソコンは特例の対象になるのでしょうか。
答えは、その企業が採用している経理方式によって変わります。
税抜経理なら税抜価格で判定する
企業が税抜経理を採用している場合、少額減価償却資産の特例の取得価額も税抜価格で判定します。
先ほどの例で考えてみます。
税抜価格38万円、消費税3万8,000円、税込価格41万8,000円のパソコンです。
税抜経理を採用している企業では、取得価額の判定に使用するのは38万円です。
38万円は40万円未満です。
したがって、他の適用要件を満たしていれば、少額減価償却資産の特例の対象になり得ます。
店頭や見積書に表示されている税込価格が40万円を超えているからといって、それだけで対象外とは判断できません。
税込経理なら税込価格で判定する
一方、税込経理を採用している企業では、税込価格によって判定します。
同じ税抜38万円、税込41万8,000円のパソコンで考えてみましょう。
税込経理の場合、判定に使用する金額は41万8,000円です。
40万円未満ではありません。
したがって、少額減価償却資産の特例の金額基準から外れることになります。
購入した商品も支払った金額も同じなのに、税抜経理か税込経理かによって結果が変わるわけです。
この違いは、40万円の境界付近にある設備ほど重要になります。
税込39万円なら分かりやすい
例えば、税込価格39万円の事務機器を購入した場合を考えてみます。
税込経理であれば39万円なので、40万円未満です。
税抜経理であれば税抜価格はさらに小さくなるため、やはり40万円未満となります。
このように税込価格そのものが40万円未満であれば、金額基準については比較的判断しやすくなります。
問題になるのは、税込価格では40万円以上になる一方、税抜価格では40万円未満になる価格帯です。
この範囲では、自社の経理方式を確認しなければ正しい判定ができません。
10万円と20万円の判定でも考え方は同じ
税込みか税抜きかという問題は、40万円未満の特例だけの話ではありません。
少額資産には、ほかにも金額基準があります。
取得価額10万円未満の少額の減価償却資産では、一定の場合に全額を損金算入できます。
20万円未満であれば、一括償却資産として3年間で均等に損金算入する方法があります。
そして一定の中小法人については、40万円未満の少額減価償却資産の特例があります。
これらの金額判定についても、自社の経理方式を踏まえて取得価額を確認する必要があります。
10万円、20万円、40万円という数字だけを覚えていても、税込みか税抜きかを間違えれば処理を誤る可能性があります。
見積書の総額だけで判断しない
設備を購入するときには、見積書やカタログに表示された金額を見て判断することが多いでしょう。
特に一般消費者向けの商品では、税込価格が目立つように表示されています。
しかし、税抜経理を採用している企業であれば、少額減価償却資産の判定では税抜価格を確認する必要があります。
反対に、税込経理を採用している企業では、税抜価格だけを見て40万円未満だから大丈夫と判断すると誤る可能性があります。
購入前に確認すべきなのは、商品の価格だけではありません。
自社がどの経理方式を採用しているのかという点も重要です。
40万円ちょうどにも注意する
もう1つ注意したいのが、「40万円未満」という表現です。
40万円以下ではありません。
したがって、判定に使用する取得価額がちょうど40万円であれば、40万円未満には該当しません。
39万9,999円なら40万円未満ですが、40万円なら対象外です。
この違いはわずか1円ですが、税務上の判定では明確に区別されます。
30万円未満から40万円未満へ対象が拡大されたことで、今後は40万円近辺の設備について、この境界を意識する場面が増えると考えられます。
付随費用を忘れてはいけない
設備の取得価額を考える場合には、本体価格だけを見ればよいとは限りません。
資産を取得して事業の用に供するために直接必要となった一定の費用などは、取得価額に含まれることがあります。
そのため、本体価格だけなら40万円未満だったとしても、取得価額に含めるべき費用を加えた結果、40万円未満という基準を超える可能性があります。
特例を利用できるかどうかを判断するときには、単純に商品本体の値札を見るだけでは不十分な場合があります。
最終的な取得価額がいくらになるのかを確認することが重要です。
40万円未満でも年間300万円の上限がある
金額判定をクリアしたからといって、必ず全額を即時償却できるわけではありません。
少額減価償却資産の特例には、年間合計300万円という損金算入限度額があります。
例えば、税抜経理の会社が38万円のパソコンを複数購入したとします。
1台ごとの金額は40万円未満なので、金額基準には該当します。
しかし、年間を通じた対象資産の取得価額の合計が300万円の限度に達すれば、それ以上について同じように特例を利用できるわけではありません。
2026年度税制改正では1件当たりの対象金額は40万円未満へ引き上げられましたが、年間300万円の限度額は据え置かれています。
そのため、30万円台の設備を多数購入する会社では、以前よりも年間限度額の管理が重要になります。
税込経理か税抜経理かは決算前に確認しない
少額減価償却資産の判定を決算時にまとめて行う会社もあるでしょう。
しかし、40万円前後の設備については、購入する前に確認したほうが安全です。
決算になってから、「税抜価格なら40万円未満だから即時償却できると思っていたが、自社は税込経理だった」と分かっても、すでに設備投資は終わっています。
特に決算直前の設備購入では、少額減価償却資産の特例を利用することを前提に購入するケースがあります。
その場合には、購入前に自社の経理方式と取得価額を確認しておく必要があります。
価格だけで設備を選ぶことにも注意する
40万円という境界があると、39万円台の商品を選んだほうが税務上有利ではないかと考えたくなります。
確かに、特例の適用可否という点では取得価額に大きな意味があります。
しかし、税制だけを理由に設備を選ぶのは慎重に考える必要があります。
会社にとって本当に必要な性能や耐久性を持つ設備が42万円であり、性能の劣る設備が39万円だったとします。
税務上の取扱いだけを理由に39万円の設備を選び、その後業務効率が低下するのであれば、本末転倒です。
税制は設備投資を判断する材料の1つであって、設備投資そのものの目的ではありません。
必要な設備を選んだうえで、利用できる税制を検討するという順番が基本です。
結論
少額減価償却資産の特例が40万円未満へ拡大されたことで、中小企業が即時償却できる設備の範囲は広がりました。
しかし、「40万円未満」という数字だけを見て適用できるかどうかを判断することはできません。
税抜経理を採用している企業では税抜価格、税込経理を採用している企業では税込価格によって取得価額を判定します。
そのため、同じ設備を同じ価格で購入しても、企業の経理方式によって判定結果が異なることがあります。
さらに、40万円ちょうどは対象にならないこと、取得価額に含まれる費用にも注意すること、年間300万円の損金算入限度額があることも確認する必要があります。
少額資産の税務では、10万円、20万円、40万円という基準そのものに目が向きがちです。
しかし、実務ではその数字を「何を基準に判定するのか」が同じくらい重要です。
設備を購入してから判断するのではなく、特に境界付近の金額であれば購入前に経理方式と取得価額を確認しておくことが、処理の間違いを防ぐことにつながります。
参考
企業実務 2026年10月号 減価償却費と節税の疑問と誤解Q&A