グループ監査とは何か 海外子会社を含む巨大企業を一つの監査法人だけでは監査できない理由編

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大企業の有価証券報告書を見ると、国内外に数百社、場合によっては千社を超える子会社や関連会社を抱えている企業があります。

日本の親会社だけを監査すれば、こうした企業の決算全体を確認できるわけではありません。

連結財務諸表には、日本の親会社だけでなく、国内子会社や海外子会社などの数字も含まれるからです。

世界各地に広がる企業グループをどのように監査するのか。

そこで重要になるのが「グループ監査」です。

企業活動がグローバル化するほど、監査も一つの会社を見る仕事から、企業グループ全体を見る仕事へと広がっていきます。

グループ監査とは何か

グループ監査とは、親会社や子会社などから構成される企業グループの財務諸表を対象とする監査です。

上場企業では連結財務諸表が重要になります。

例えば日本の親会社が100社の子会社を持っている場合、連結財務諸表にはそれらの会社の売上高や利益、資産、負債などが反映されます。

海外子会社で売上高が過大計上されていれば、日本の親会社が直接不正をしていなくても、連結財務諸表が誤る可能性があります。

したがって監査人も、親会社だけではなく企業グループ全体から重要な虚偽表示が生じるリスクを考える必要があります。

連結財務諸表とは何か

連結財務諸表とは、親会社とその子会社などを一つの企業グループとして見た財務諸表です。

例えば親会社の売上高が5000億円、子会社の売上高が3000億円あるとします。

単純にそれぞれの会社だけを見ていては、企業グループ全体の事業規模や収益力を把握しにくくなります。

そこで企業グループを一つの経済主体と考えて財務諸表を作成します。

このとき、グループ会社間の取引などは一定のルールに基づいて消去します。

投資家が巨大企業の業績を見るとき、親会社単体の数字より連結数字が重視される理由です。

一つの監査法人だけでは難しい理由

企業グループが日本国内だけに存在するのであれば、監査体制も比較的組みやすいでしょう。

しかし、世界各国に子会社が存在する巨大企業では事情が違います。

米国、中国、欧州、東南アジアなど、世界中に事業拠点が存在することがあります。

現地の言語も異なります。

商慣習や法制度も異なります。

監査対象となる資料も現地で保管されています。

日本の監査チームだけが世界中のすべての子会社を直接訪問して監査することは、現実には難しい場合があります。

そこで、現地の監査人がグループ監査の一部の作業に関与することがあります。

構成単位監査人とは何か

グループ監査では、子会社などの構成単位について監査手続きを行う別の監査人が関与する場合があります。

こうした監査人は、一般に構成単位監査人と呼ばれます。

例えば日本企業の米国子会社について、現地の監査人が必要な監査手続きを実施するケースです。

中国子会社なら中国の監査人、欧州子会社なら欧州の監査人が関与することもあります。

現地の監査人は、言語や商慣習、現地制度などについて知識を持っています。

企業のグローバル化に対応するため、監査も国境を越えた分業が必要になるのです。

主たる監査人の責任はなくならない

ここで誤解してはいけないのは、海外子会社を現地の監査人が担当すれば、親会社側の監査人は関係なくなるわけではないということです。

グループ財務諸表について監査意見を形成する監査人は、グループ全体の監査について重要な役割を担います。

どの子会社に重要なリスクがあるのかを把握し、どのような監査手続きを行う必要があるのかを検討します。

構成単位監査人へ必要な指示を出し、その作業内容や結果について適切に関与することも重要です。

単に「海外部分は現地の監査人に任せました」で終わるわけではありません。

企業グループ全体を一つの監査としてまとめる必要があります。

すべての子会社を同じように監査するわけではない

巨大企業には数百社もの子会社が存在することがあります。

すべての会社を同じ深さで監査することが、必ずしも効果的とは限りません。

重要なのは、企業グループの財務諸表に重要な虚偽表示を生じさせる可能性のある領域を見極めることです。

例えばグループ全体の売上高の大部分を占める海外子会社があれば、重要性は高くなります。

規模はそれほど大きくなくても、複雑な取引を行っていたり、過去に会計問題が発生していたりすれば重要なリスクが存在する可能性があります。

売上高や資産規模だけではなく、質的なリスクを見ることも必要です。

海外子会社との情報共有が重要になる

グループ監査では、監査人同士の情報共有が非常に重要です。

例えば現地の監査人が海外子会社で不自然な売上取引を発見したとします。

その情報が親会社側の監査人へ適切に伝わらなければ、企業グループ全体への影響を十分に評価できません。

逆に親会社側で「特定地域の売上高に不正リスクがある」と判断したのであれば、その情報を現地の監査人へ伝える必要があります。

どの取引を重点的に調べるのか。

どのような監査証拠を集めるのか。

問題が発生した場合に誰へ報告するのか。

こうした連携がグループ監査の品質を左右します。

海外子会社の経営者が不正に関与する場合もある

グループ監査を難しくする要因の一つが、現地経営者による不正です。

例えば本社から高い利益目標を与えられた海外子会社の経営者が、売上を前倒しして目標を達成しようとする場合があります。

経営者自身が不正に関与すると、現地の内部統制が無効化される可能性もあります。

さらに複数の社員や取引先まで協力すれば、不正の発見は難しくなります。

そのためグループ監査では、現地の数字だけでなく、経営者の姿勢や内部統制の状況なども重要な情報になります。

親会社の管理体制も監査上重要になる

海外子会社で問題が起きたとき、現地子会社だけに原因があるとは限りません。

日本の本社が海外子会社を十分に管理していなかった可能性もあります。

例えば本社が毎月の売上高と利益だけを確認し、その数字がどのように作られているのかをほとんど確認していなければ、問題の発見が遅れる可能性があります。

海外子会社から異常な好業績が報告され続けているのに、本社が理由を詳しく確認していないケースも考えられます。

企業グループ全体の内部統制を見る場合、本社が海外子会社をどのように監督しているのかも重要になります。

投資家にとってもグループ監査は重要

個人投資家がグローバル企業を見る場合、連結売上高や連結利益だけを確認することが多いかもしれません。

しかし、その数字が世界各地の多数の会社を合計して作られていることを意識する必要があります。

海外事業の比率が高い企業ほど、海外子会社の管理や監査の重要性も高まります。

有価証券報告書のKAMに、海外子会社の売上高、のれん、固定資産などが取り上げられている場合があります。

それは監査人が、その領域を監査上特に重要な事項と判断したことを意味します。

監査報告書を読むことで、企業グループのどこに監査上の重要な論点があるのかを知る手掛かりになります。

結論

グループ監査とは、親会社だけではなく国内外の子会社などを含む企業グループの財務諸表を対象とする監査です。

巨大企業では世界各地に多数の子会社が存在するため、一つの監査チームだけですべてを直接監査することは難しい場合があります。

そこで現地の監査人が監査手続きに関与することがあります。

しかし、海外子会社の監査を現地へ任せれば終わりではありません。

グループ財務諸表について監査意見を形成する監査人は、企業グループ全体のリスクを把握し、構成単位監査人の作業に適切に関与する必要があります。

企業のグローバル化によって、会計不正のリスクも国境を越えるようになりました。

一つの海外子会社で起きた不正が、日本の親会社の連結決算を大きく変えることもあります。

だからこそグループ監査では、世界各地の監査人が単に作業を分担するだけではなく、リスクと情報を共有しながら一つの監査として機能することが重要なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載

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