インボイス制度が始まったことで、それまで免税事業者だった個人事業者の中には、適格請求書発行事業者として登録し、新たに消費税を納めるようになった人がいます。
こうした小規模事業者の負担を軽減してきたのが2割特例です。
しかし、2割特例はいつまでも続く制度ではありません。
令和8年度税制改正では、2割特例終了後の個人事業者の負担を緩和するため、新たに3割特例が設けられます。
一方、買手側では、免税事業者などからの仕入れについて仕入税額控除を一定割合認めるインボイスの経過措置も段階的に変わっていきます。
令和9年以降は、売手側の3割特例と買手側の経過措置を分けて理解することが重要です。
2割特例は納税額を売上税額の2割にする制度
2割特例は、インボイス制度をきっかけとして免税事業者から課税事業者になった一定の事業者を対象とする負担軽減措置です。
通常、消費税の納税額を計算するには、売上げで預かった消費税から仕入れなどで支払った消費税を差し引きます。
2割特例では、この複雑な仕入税額の計算を簡略化し、売上税額の20%を納付税額とすることができます。
言い換えれば、売上税額の80%を仕入税額控除したものとして計算する仕組みです。
小規模事業者にとって、税負担だけでなく事務負担も軽減する制度です。
2割特例の次に3割特例が設けられる
令和8年度税制改正では、2割特例終了後の激変緩和措置として3割特例が設けられます。
対象となる一定の個人事業者は、売上税額の70%を仕入税額控除したものとして計算できます。
その結果、納付する消費税は売上税額の30%になります。
このため3割特例と呼ばれます。
2割特例と比較すると納付割合は20%から30%へ上がりますが、通常の方法で仕入税額を積み上げて計算する必要がないという簡便性は引き継がれます。
3割特例は個人事業者が対象になる
3割特例で特に注意したいのが、対象者です。
2割特例と3割特例は完全に同じ制度ではありません。
3割特例は、一定の個人事業者を対象とする措置です。
インボイス登録を契機として課税事業者となった場合や、一定の課税事業者選択を行った場合など、仮にインボイス制度などがなければ免税事業者となる一定の個人事業者が対象になります。
法人については、3割特例の対象ではありません。
2割特例を利用していたから自動的に3割特例も利用できると考えないことが重要です。
売上高1,000万円を超えると使えない場合がある
3割特例は、小規模事業者の負担軽減を目的とした制度です。
そのため、本来であれば免税事業者になれない事業者まで利用できるわけではありません。
例えば、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えることによって課税事業者になる場合には、3割特例を利用できません。
インボイス登録の有無にかかわらず、本来消費税を納める必要がある事業者だからです。
3割特例を利用するときには、インボイス登録の状況だけでなく、基準期間の課税売上高なども確認する必要があります。
設備投資などによる適用除外にも注意する
課税売上高が1,000万円以下なら必ず3割特例を利用できるわけでもありません。
消費税には、一定の高額な資産を取得した場合などに免税事業者へ戻ることを制限する仕組みがあります。
こうした規定によって課税事業者となっている期間については、3割特例を利用できない場合があります。
小規模な個人事業者であっても、大きな設備投資や不動産取得などを行っている場合には注意が必要です。
売上高だけで適用可否を判断しないことが大切です。
3割特例と簡易課税を比較する
3割特例を利用できる人でも、それが常に最も税負担の少ない方法とは限りません。
簡易課税制度では、事業区分に応じたみなし仕入率を使って仕入税額控除を計算します。
例えば、みなし仕入率が90%となる卸売業では、単純化すると売上税額の10%が納付額になります。
みなし仕入率が80%となる小売業などでは、売上税額の20%が納付額となります。
これに対して3割特例では、売上税額の30%を納付します。
業種によっては簡易課税の方が税負担を抑えられる場合があるため、比較が必要です。
3割特例から簡易課税へ移るための特例もある
通常、簡易課税制度を選択するには、原則として適用を受けようとする課税期間が始まる前までに届出書を提出する必要があります。
しかし、3割特例を利用した後に簡易課税へ移行する場合には、一定の届出特例が設けられます。
3割特例を適用した課税期間の翌課税期間について一定の要件を満たす場合、申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出することで、簡易課税を選択できる仕組みです。
3割特例を利用した後の選択肢まで考えて制度設計されている点が重要です。
買手側ではインボイス経過措置が続く
3割特例は、主に売手である小規模事業者の納税額を軽減する制度です。
これとは別に、買手側には免税事業者などからの仕入れに関する経過措置があります。
インボイス制度では、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについて、原則として仕入税額控除を受けることができません。
ただし、急激な負担増を避けるため、一定期間は仕入税額の一部を控除できる措置が設けられています。
令和8年度税制改正では、この経過措置を延長しながら、控除できる割合を段階的に縮小していくことになっています。
控除割合は7割、5割、3割へ縮小する
改正後のインボイス経過措置では、免税事業者などからの一定の課税仕入れについて、控除割合が段階的に7割、5割、3割へ縮小していきます。
つまり、経過措置が続くから買手の負担が変わらないわけではありません。
控除割合が低下するほど、同じ金額を免税事業者などから仕入れても、買手が控除できない消費税相当額は増えていきます。
取引先がインボイス発行事業者であるかどうかが、企業の実質的な仕入コストへ徐々に大きく影響することになります。
売手と買手では見る制度が違う
令和9年以降の消費税制度を理解するときには、売手側と買手側を分けると整理しやすくなります。
売手である一定の個人事業者については、3割特例を利用できるかが重要です。
一方、その事業者から商品やサービスを購入する買手にとっては、相手が適格請求書発行事業者なのか、経過措置を何割利用できるのかが重要になります。
同じインボイス制度に関連する措置でも、納税者の立場によって確認する制度が違います。
令和10年以降も制度変更は続く
消費税実務の変更は令和9年で終わりません。
3割特例は令和9年と令和10年に含まれる一定の課税期間を対象とする時限的な措置です。
インボイス経過措置についても、控除割合が段階的に縮小していきます。
さらに令和10年4月1日からは、越境ECについて特定少額資産の譲渡や第2種プラットフォーム事業者による新しい課税制度が始まります。
事業者は1年ごとの改正を見るだけでなく、数年間の制度変更を時系列で把握する必要があります。
結論
令和9年以降の消費税実務では、2割特例終了後の3割特例と、インボイス経過措置の変化が重要になります。
3割特例では、一定の個人事業者について売上税額の70%を仕入税額控除したものとして計算し、売上税額の30%を納付します。
ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合や、一定の設備投資などによって本来課税事業者となる場合には利用できないことがあります。
また、卸売業や小売業などでは、3割特例より簡易課税の方が税負担を抑えられる場合もあります。
一方、買手側では免税事業者などからの仕入れについて、経過措置による控除割合が段階的に7割、5割、3割へ縮小していきます。
令和9年以降は、単にインボイス登録をしているかどうかを見るだけでは足りません。
売手は3割特例や簡易課税を比較し、買手は仕入先ごとのインボイス登録状況と控除割合を確認するという、双方からの管理が重要になります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 令和8年・役に立つ消費税実務問答集