海外の通販サイトやオンラインモールから、数千円程度の商品を購入することは珍しくなくなりました。
世界中の事業者が日本の消費者へ直接商品を販売できるようになった一方、現在の消費税制度は、こうした大量の少額輸入を十分に想定してつくられたものではありません。
そこで令和8年度税制改正では、越境ECに対する消費税制度が大きく見直されます。
大きな転換点となるのが令和10年4月1日です。
一定の1万円以下の商品について販売段階で日本の消費税を課税する制度が始まり、大規模なオンラインモールにはプラットフォーム課税が導入されます。
海外通販の消費税は、輸入時を中心に課税する仕組みから、販売、決済、輸入を一体的に捉える仕組みへ変わります。
現在は輸入時の課税が中心になる
海外から商品を購入すると、国外から日本へ商品が発送されます。
現在の制度では、こうした取引について輸入時の消費税が重要になります。
原則として、外国貨物を保税地域から引き取る者が輸入消費税を負担します。
しかし、少額の輸入貨物については一定の免税制度があります。
一般に課税価格が1万円以下となる一定の貨物については、輸入消費税が免除されます。
少額輸入の拡大で制度の前提が変わった
少額輸入の免税制度には、少額の貨物1件ごとに税額を計算し徴収する事務負担を軽減する意味があります。
しかし、越境ECの普及によって状況が変わりました。
1件では数千円の商品でも、それが大量に日本へ輸入されれば市場全体では大きな金額になります。
国内の事業者が同じような商品を販売すれば消費税が課税される一方、海外から直接送られる少額貨物では輸入時に消費税が免除される場合があります。
越境ECの拡大によって、従来の制度をそのまま維持することの影響が大きくなってきました。
特定少額資産という新しい考え方が導入される
令和10年4月1日から重要になるのが、特定少額資産の譲渡です。
国外から国内へ発送される通信販売のうち、1つの商品について税抜きの対価が1万円以下となる一定の取引が対象になります。
新制度では、こうした一定の商品の販売を日本国内で行われた課税資産の譲渡として扱います。
つまり、海外から商品が送られてくる場合でも、販売そのものを日本の消費税の課税対象にします。
輸入段階だけで税金を考える従来の仕組みから、大きく発想を変える制度です。
海外の販売者にも日本の消費税が関係する
特定少額資産の譲渡については、原則として商品を販売した事業者が日本の消費税を申告して納付します。
販売者が日本企業か外国企業かだけで決まるわけではありません。
海外にしか拠点を持たない事業者でも、日本の消費者へ対象商品を販売すれば、日本の消費税制度への対応が必要になる場合があります。
インターネットによって国境を越えた販売が容易になったことに合わせ、消費税の課税方法も変わることになります。
輸入時との二重負担を調整する
販売段階で消費税を課税すると、輸入時の消費税との関係を整理する必要があります。
販売時に日本の消費税を納め、さらに商品が日本へ入るときにも輸入消費税を負担すれば、同じ商品について負担が重なる可能性があります。
そこで新制度では、特定少額資産販売事業者という登録制度が設けられます。
一定の要件を満たして登録を受けた事業者が販売する対象商品については、一定の場合に輸入時の消費税を免除する仕組みです。
販売段階で課税し、輸入段階との重複を調整します。
登録制度によって販売と通関を結び付ける
特定少額資産販売事業者の登録を受けるためには、課税事業者であることなど一定の要件があります。
登録中は原則として免税事業者になることができません。
登録申請は令和9年10月1日から行えることとされています。
また、輸入申告では登録番号や対象となる取引であることを示す必要があります。
販売者は、輸入者や通関業者などへ必要な情報を伝えることになります。
オンライン上の販売情報と、税関での輸入手続きを結び付ける仕組みになるわけです。
大規模モールにはプラットフォーム課税が導入される
海外販売者を直接納税者にするだけでは、越境ECの消費税を十分に把握できない場合があります。
世界中には多数の販売者が存在し、日本に拠点を持たない小規模事業者も少なくありません。
そこで導入されるのが、第2種プラットフォーム事業者によるプラットフォーム課税です。
一定の要件を満たす大規模なオンラインモールについては、国税庁長官が第2種プラットフォーム事業者として指定します。
50億円を超える取引規模が1つの基準になる
第2種プラットフォーム事業者の指定では、一定の対象取引についてプラットフォームを通じて受領される対価が、課税期間中に50億円を超えることが基準になります。
ここで重要なのは、単純にオンラインモール全体の流通総額が50億円を超えれば指定されるという意味ではないことです。
制度の対象となる一定の取引について、プラットフォームを通じて受領される対価を見る必要があります。
大規模なプラットフォームを納税主体として利用することで、多数の海外販売者に個別に対応するよりも消費税を把握しやすくする仕組みです。
モールが販売したものとみなされる
第2種プラットフォーム事業者を介した一定の取引について、その対価がプラットフォームを通じて受領される場合には、消費税法上、プラットフォーム事業者が販売したものとみなされます。
実際の商品を用意して発送するのは海外の販売者かもしれません。
しかし、消費税の計算ではプラットフォーム事業者が販売者になります。
その結果、プラットフォーム事業者が日本の消費税を申告し、納付します。
対象となった同じ取引について、実際の海外販売者が重ねて消費税を申告して納付する必要はありません。
インボイスにも影響する
プラットフォーム課税は、納税だけの問題ではありません。
第2種プラットフォーム事業者が適格請求書発行事業者である場合、プラットフォーム課税の対象取引については、そのプラットフォーム事業者がインボイスの交付義務を負います。
オンラインモールでは、商品情報、販売金額、決済情報に加えて、消費税やインボイスに関する情報まで一体的に管理する必要があります。
巨大なECプラットフォームが、単なる商品の販売場所ではなく、税務インフラの一部としての役割も担うことになります。
消費者からは見えにくい大改革になる
令和10年4月以降も、消費者がスマートフォンで海外の商品を注文する操作そのものは大きく変わらないかもしれません。
しかし、その裏側では消費税の流れが大きく変わります。
海外販売者が消費税を納める取引があります。
プラットフォーム事業者が販売者とみなされて納税する取引もあります。
さらに輸入段階では、特定少額資産販売事業者の登録情報などを使って課税関係を確認します。
消費者から見えないところで、販売、決済、税務、通関の情報がこれまで以上に結び付くことになります。
国内事業者にも無関係ではない
今回の改正は、海外事業者だけの問題ではありません。
海外通販の商品と競争している国内事業者にとっても重要です。
国内で商品を販売する事業者は、原則として日本の消費税制度に従っています。
海外から直接発送される少額商品について販売段階で消費税を課税することで、国内販売と海外通販の課税条件を近づける方向になります。
また、海外のオンラインモールへ出店する日本企業や、物流、通関、決済などに関係する国内企業にも新しい実務対応が必要になる可能性があります。
令和10年4月に向けて準備期間がある
新制度の適用開始は令和10年4月1日です。
それまでには、海外販売者、オンラインモール、物流会社、通関業者などがシステムや業務フローを整える必要があります。
特定少額資産販売事業者の登録申請は令和9年10月1日から始まります。
したがって、令和10年4月になって初めて対応を考えるのでは遅い場合があります。
日本向けの越境ECに関係する事業者は、自社が販売者なのか、プラットフォームなのか、輸入や通関に関与する事業者なのかを整理し、必要な対応を確認することが重要です。
結論
令和10年4月1日は、海外通販に対する日本の消費税制度の大きな転換点になります。
国外から国内へ発送される通信販売のうち、1つの商品について税抜きの対価が1万円以下となる一定の取引は、特定少額資産の譲渡として販売段階で日本の消費税が課税されます。
一定の要件を満たして特定少額資産販売事業者として登録した事業者については、販売段階での課税と輸入段階での課税が重ならないよう、一定の輸入消費税を免除する仕組みが設けられます。
さらに、一定規模以上のオンラインモールでは第2種プラットフォーム事業者によるプラットフォーム課税が始まり、一定の取引について実際の海外販売者ではなくモール運営者が消費税を申告して納付します。
これまでの海外通販では、商品が日本へ入る輸入段階が消費税を考える中心でした。
令和10年4月以降は、誰が販売したのか、誰が代金を受け取ったのか、誰が輸入したのか、どのプラットフォームを利用したのかまで含めて課税関係を判断することになります。
越境ECの拡大によって、消費税制度も国境で税金を徴収する仕組みから、デジタル上の販売と決済まで捉えて徴収する仕組みへ大きく変わっていきます。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 令和8年・役に立つ消費税実務問答集