大型の設備投資では、国や自治体などの補助金を利用することがあります。
さらに、設備が大胆な投資促進税制の要件を満たせば、即時償却や税額控除を検討することになります。
そこで気になるのが、補助金と税制優遇を同時に利用できるのかという問題です。
補助金を受け取ったから税額控除を利用できないと単純に決まるわけでも、補助金と税額控除をそのまま満額で重ねられると決まるわけでもありません。
特に重要になるのが、補助金を受けた設備について圧縮記帳を行う場合の取得価額です。
補助金、圧縮記帳、設備投資税制を一体として確認する必要があります。
補助金と税制優遇は仕組みが違う
まず、補助金と税制優遇を分けて考える必要があります。
補助金は、一定の要件を満たした事業者に対して資金を交付する仕組みです。
一方、税制優遇は法人税などの負担を軽減する仕組みです。
大胆な投資促進税制では、一定の要件を満たす設備について即時償却または税額控除を選択します。
資金を受け取る補助金と、税負担を軽くする税制では支援の方法が異なります。
そのため、一方を利用したからもう一方が自動的に利用できる、あるいは利用できなくなるとは限りません。
それぞれの制度の要件を確認する必要があります。
補助金を受け取ると課税関係が生じることがある
企業が設備投資のために補助金を受け取った場合、その補助金について法人税上の課税関係を考える必要があります。
せっかく設備投資を支援するために補助金を受け取っても、受け取った年度に課税所得が大きく増えれば、設備投資に使える資金が減ることがあります。
そこで一定の場合に利用されるのが圧縮記帳です。
圧縮記帳によって、補助金を受け取った年度の税負担を調整することができます。
ただし、圧縮記帳をすると設備の税務上の金額にも影響します。
ここから大胆な投資促進税制との関係が生まれます。
圧縮記帳をすると帳簿上の金額が変わる
たとえば企業が1億円の設備を取得したとします。
その設備について一定の補助金を受け、要件を満たして圧縮記帳を行ったとします。
圧縮記帳によって設備の税務上の帳簿価額が小さくなれば、その後の減価償却にも影響します。
ここで重要なのは、
実際の設備購入額
補助金の金額
圧縮記帳額
圧縮後の税務上の金額
を区別することです。
すべてを同じ取得価額として扱うことはできません。
大胆な投資促進税制でも圧縮記帳との関係が問題になる
令和8年度の法人税関係法令の改正に対応した国税庁の通達では、大胆な投資促進税制について圧縮記帳の適用を受けた場合の取得価額要件の判定に関する取扱いが新設されています。
これは実務上重要なポイントです。
大胆な投資促進税制には、一定規模以上の設備であることなどの要件があります。
圧縮記帳を行えば税務上の帳簿価額が変わるため、どの金額によって取得価額要件を判定するのかという問題が生じます。
したがって、補助金を利用する企業は、圧縮記帳だけで税務処理を終わらせるのではなく、設備投資税制との関係まで確認する必要があります。
税額控除は取得価額と密接に関係する
大胆な投資促進税制では、一定の機械装置などについて取得価額の7%、建物、建物附属設備、構築物について4%相当額の税額控除が設けられています。
税額控除を選択すると、一定額を法人税額から直接差し引くことになります。
そのため、取得価額をどのように取り扱うのかは非常に重要です。
補助金を受けた設備について、
設備の購入額をそのまま使うのか
圧縮記帳の影響をどのように考えるのか
どの金額を税額控除計算の基礎とするのか
を制度に沿って確認する必要があります。
単純に設備の請求書金額へ7%または4%を掛ければよいと考えるのは注意が必要です。
即時償却を選ぶ場合にも同じ問題がある
補助金との関係は税額控除だけの問題ではありません。
大胆な投資促進税制では、即時償却を選択することもできます。
即時償却では、対象設備について通常の減価償却に加えて特別償却を行うことにより、取得初期に大きく費用化することができます。
一方、圧縮記帳を行えば、設備の税務上の金額が変わります。
そのため、
圧縮記帳
通常の減価償却
特別償却
という複数の税務処理が関係してきます。
どの金額を基礎に、どの順序で処理するのかを正しく整理する必要があります。
補助金の交付要件も別に確認する
税法上利用できるかどうかだけを確認すればよいわけではありません。
補助金側にも独自のルールがあります。
補助対象となる経費があります。
対象となる設備があります。
事業実施期間があります。
設備の処分などについて制限が設けられている場合もあります。
他の支援制度との併用について条件が設けられていることもあります。
したがって、税制上問題がないから補助金との併用も必ず認められるとは限りません。
補助金側と税制側の両方から確認する必要があります。
投資採算は税引後で比較する
設備投資を判断するときには、設備価格だけを見るのではなく、補助金や税制を含めた実質的な負担を考えることが重要です。
たとえば10億円の設備投資でも、補助金を受けられる場合と受けられない場合では必要資金が変わります。
即時償却を利用できれば、投資初期の法人税負担が変わる可能性があります。
税額控除を利用できれば、法人税額そのものを直接減らせる可能性があります。
ただし、それぞれの制度には要件があります。
最も支援額が大きく見える組み合わせが、その企業にとって必ず最適とは限りません。
利益水準や将来の事業計画なども含めて考える必要があります。
補助金の申請前から税務部門を関与させる
補助金は事業部門や経営企画部門が中心となって申請することがあります。
一方、圧縮記帳や設備投資税制は経理や税務部門が担当することが多いでしょう。
担当部門が分かれていると、補助金の採択後に初めて税務部門が設備投資を知るケースも考えられます。
しかし、大胆な投資促進税制には産業競争力強化法に基づく確認や事業供用などの要件があります。
補助金の申請、設備の発注、制度上の確認、取得、事業供用、税務申告を一つのスケジュールとして管理することが重要です。
支援額だけで設備投資を決めない
補助金と税制優遇を組み合わせると、設備投資の負担を大きく軽減できる場合があります。
しかし、支援制度を利用すること自体が投資目的になってはいけません。
重要なのは、その設備が企業の生産性や収益力を高めるかどうかです。
補助金がなければ採算が合わない設備なのか。
税制優遇が終了しても競争力を維持できるのか。
設備導入後に十分な利益やキャッシュフローを生み出せるのか。
税制や補助金は投資判断を支援する手段であって、設備投資そのものの収益性に代わるものではありません。
結論
設備投資に補助金を利用する場合でも、大胆な投資促進税制との関係を検討する余地があります。
ただし、補助金を受けたから税額控除を当然に受けられるわけでも、補助金を受けたら税制優遇を一切利用できないと単純に決まるわけでもありません。
重要になるのが圧縮記帳と取得価額の関係です。
国税庁の通達でも、圧縮記帳を適用した場合の取得価額要件の判定について取扱いが設けられています。
さらに税額控除を選択する場合には、その計算の基礎となる取得価額を正しく確認する必要があります。
補助金には補助金の要件があり、税制には税制の要件があります。
両方を利用する設備投資では、補助金、圧縮記帳、取得価額、即時償却、税額控除を一つの流れとして整理することが重要です。
設備を購入してから税制を考えるのではなく、投資計画を作る段階から補助金と税制を同時に検討することが、制度を適切に活用するポイントになります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など
国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について