企業が保有する売掛金や貸付金の中には、何年も回収できないまま残っているものがあります。
経理担当者からは、
「もう時効だから貸倒損失にしてもよいのではないか」
という相談を受けることがあります。
しかし、税務上は「時効になった=貸倒れ」と単純には考えません。時効と貸倒損失は似ているようで全く異なる制度だからです。
今回は、消滅時効と貸倒損失の関係について分かりやすく解説します。
消滅時効とは何か
消滅時効とは、一定期間権利を行使しない状態が続いた場合に、その権利が消滅する制度です。
売掛金や貸付金などの金銭債権にも消滅時効が適用されます。
この制度は、長期間放置された権利関係を整理し、法律関係を安定させることを目的としています。
ただし、時効期間が経過しただけでは、直ちに債権がなくなるわけではありません。
時効完成だけでは貸倒れにならない理由
税務で誤解されやすいのが、この点です。
時効期間が経過しても、債務者が時効を主張しなければ、債権はそのまま残る場合があります。
つまり、
「時効期間が過ぎた」
という事実だけでは、
「回収不能になった」
とは言い切れません。
そのため、税務上も時効完成だけを理由に貸倒損失を認めることはできません。
時効の援用が重要になる
消滅時効は、原則として債務者が「時効を援用する」という意思表示をして初めて、その効果が確定します。
援用とは、
「時効が成立しているので支払いません。」
という法律上の意思表示です。
この援用が行われると、債権者は法的に請求することができなくなります。
税務上も、このような事実は貸倒損失を判断する重要な要素になります。
回収不能かどうかは総合的に判断される
たとえ時効が援用されたとしても、それだけで直ちに貸倒損失になるとは限りません。
税務では、
・債務者の財産状況
・回収努力の経緯
・時効援用の内容
・債権回収の可能性
などを総合的に判断します。
逆に、時効援用がなくても、実質的に回収不能であることが客観的に証明できれば、貸倒損失が認められるケースもあります。
つまり、時効だけで判断する制度ではないのです。
時効を中断する行為にも注意する
企業が督促状を送ったり、債務者から一部でも返済を受けたりすると、時効に影響を与える場合があります。
また、債務者が債務を認める発言や書面を交わした場合にも、時効の進行に関係することがあります。
そのため、
「もう時効だと思っていた。」
という認識だけで会計処理を進めるのは危険です。
時効の成立状況を正しく確認することが重要になります。
会計処理と税務処理は一致しないこともある
会計では、回収可能性が極めて低いと判断すれば、貸倒引当金や貸倒損失を計上することがあります。
一方、税務では法人税法や法人税基本通達に基づき、客観的な要件を満たしているかどうかが重視されます。
そのため、
会計では費用になっていても、
税務では損金にならない、
というケースもあります。
この違いを理解しておくことは、法人税申告を行う上で非常に重要です。
税務調査では何を確認されるのか
時効を理由に貸倒処理を行った場合、税務調査では次のような資料が確認されます。
・契約書
・請求書
・督促記録
・内容証明郵便
・時効援用通知
・弁護士とのやり取り
・債務者の財産状況
これらの資料から、債権が本当に回収不能になったのかが判断されます。
十分な資料が残されていれば、税務上の説明もしやすくなります。
時効管理は債権管理の一部である
売掛金や貸付金の管理では、残高だけを見るのではなく、いつ請求し、いつ回収し、いつ時効が到来するのかまで把握することが重要です。
適切な債権管理を行っていれば、貸倒損失を計上するタイミングや、税務上必要となる資料も整理しやすくなります。
日頃から債権管理を徹底することが、税務リスクの軽減にもつながります。
結論
消滅時効は、一定期間権利を行使しなかった場合に認められる法律上の制度ですが、税務上は「時効になったから貸倒れ」と単純には判断されません。
時効の援用の有無や回収努力、債務者の財産状況などを総合的に確認し、客観的に回収不能であることが重要になります。また、会計処理と税務処理では判断基準が異なることもあるため、それぞれの制度を正しく理解することが必要です。
時効と貸倒損失の違いを理解し、適切な債権管理と証拠資料の保存を行うことが、適正な税務処理につながるでしょう。
参考
税のしるべ
2026年7月20日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」税理士・東辻 淳次
第3回/通達で貸倒損失の計上可否が明らかに