令和8年度税制改正では、企業の国内投資を後押しするため、新たに大胆な投資促進税制が創設されました。
国税庁は令和8年9月4日、令和8年度の法人税関係法令の改正に対応した租税特別措置法関係通達の改正を公表しました。
今回の通達改正では、大胆な投資促進税制について、生産等設備の範囲や取得価額の判定方法、貸付用資産の考え方など、実務上重要となる取扱いが明らかにされています。
特に注目したいのが、企業が取得した設備を委託先へ貸与した場合の取扱いです。
単純に設備を他社へ貸しているというだけで、直ちに税制優遇の対象外になるわけではありません。
大胆な投資促進税制とは
大胆な投資促進税制は、一定の大規模な設備投資を行う企業に対して、法人税負担を軽減する制度です。
対象となるのは、青色申告書を提出する法人です。
一定の要件を満たす特定生産性向上設備等を取得し、国内にある自社の事業の用に供した場合に税制優遇を受けることができます。
対象となる資産には、機械装置だけでなく、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物、一定のソフトウエアなども含まれます。
ただし、単に設備を購入すればよいわけではありません。
産業競争力強化法に基づく一定の確認を受ける必要があります。
対象となる確認期間は、改正産業競争力強化法が施行された令和8年7月31日から令和11年3月31日までです。
即時償却と税額控除を選択できる
この制度の大きな特徴は、税制優遇の方法を選択できることです。
一つは特別償却です。
対象設備の取得価額から普通償却限度額を控除した残額を特別償却できるため、実質的には取得年度に即時償却することができます。
設備投資を行った年度の所得を大きく圧縮できるため、投資直後の法人税負担を軽くする効果があります。
もう一つが法人税額の特別控除です。
機械装置などについては取得価額の7パーセント、建物、建物附属設備、構築物については取得価額の4パーセント相当額を法人税額から控除できます。
即時償却は課税時期を先送りする効果が中心ですが、税額控除は一定額の法人税そのものを減らす仕組みです。
したがって、どちらを選択するかは、企業の利益水準や将来の収益見通しなどを踏まえて判断することになります。
貸付用資産は原則として対象外
注意しなければならないのが貸付用資産です。
大胆な投資促進税制では、対象設備を国内にある法人自身の事業の用に供することが要件となっており、貸付けの用に供した場合は原則として対象になりません。
これは、自社の生産性向上のための設備投資を促進するという制度の目的を考えると理解しやすいでしょう。
単純に設備を購入して第三者へ貸し、その貸付料を受け取るような投資まで優遇する制度ではないということです。
ところが、実際の企業活動では、それほど単純ではありません。
製造業などでは、自社が設備を購入し、それを取引先や委託先の工場へ設置するケースがあります。
形式だけを見れば、他社への設備の貸与です。
そこで問題になるのが、このような設備まで貸付用資産として税制優遇の対象外になるのかという点です。
委託先への設備貸与でも対象になる場合がある
今回の通達では、この点について重要な考え方が示されました。
法人が取得した特定機械装置等を委託先へ貸与している場合であっても、その設備が専らその法人のために行う製品の加工などに使用されるのであれば、その設備は法人自身の営む事業の用に供したものとして取り扱うことが明らかにされています。
ここは非常に重要です。
設備がどこに置かれているかだけで判断するのではありません。
誰の事業のために、その設備が使用されているのかという実態を見ることになります。
たとえば、メーカーが専用の製造設備を購入し、部品加工を委託している会社へその設備を貸与したとします。
委託会社がその設備を使って、専らメーカーのための部品を製造しているのであれば、形式上は設備を他社へ貸与していても、実質的にはメーカー自身の生産活動の一部を構成していると考えることができます。
このようなケースについて、直ちに貸付用資産として排除しないことが通達で明確になったわけです。
生産等設備とは何か
今回の通達では、生産等設備の範囲についても整理されています。
生産等設備に該当するのは、法人が行う生産等活動の用に直接供される減価償却資産によって構成される設備です。
つまり、会社が所有している資産なら何でも対象になるわけではありません。
その法人の生産活動やサービス提供などの事業活動に直接使われていることが重要になります。
税制優遇を検討するときには、設備の名称だけを見るのではなく、実際にどのような事業活動に使用されているのかを確認する必要があります。
取得価額の判定にも注意が必要
大胆な投資促進税制では、一定規模以上の設備投資であることも要件となるため、取得価額の判定が重要になります。
今回の通達では、取得価額をどの単位で判定するのかについても取扱いが新設されています。
さらに、国庫補助金などとの関係で圧縮記帳を適用している場合についても、特定機械装置等の取得価額要件をどのように判定するのかが示されています。
大型の設備投資では、複数の機械や設備を組み合わせて一つの生産ラインを構築するケースもあります。
そのため、設備投資総額だけを見るのではなく、税法上どの資産単位で取得価額を判定するのかを確認することが重要です。
中小企業者の判定時期も明確化
今回の通達では、中小企業者に該当するかどうかの判定時期についても新たな取扱いが設けられています。
税制優遇制度では、中小企業者であるかどうかによって適用関係が変わることがあります。
企業規模は増資や組織再編などによって変化することもあるため、いつの時点で中小企業者に該当するかを判定するのかは実務上重要な問題です。
制度を利用するときには、設備そのものの要件だけでなく、法人側の要件についても確認しておく必要があります。
税制優遇は設備を買った後ではなく投資計画の段階から考える
大胆な投資促進税制で特に注意したいのは、設備を購入してから税制優遇を検討するのでは遅い場合があることです。
この制度では、産業競争力強化法に基づく確認などの手続きが関係します。
さらに、確認を受けた日から一定期間内に設備を取得して事業の用に供することなど、時期に関する要件もあります。
大規模な設備投資では、設備の選定、契約、発注、納品、稼働まで長期間かかることも珍しくありません。
そのため、税務部門だけで制度を確認するのではなく、経営企画、設備投資担当、製造部門などが投資計画の段階から税制要件を共有しておくことが重要になります。
結論
大胆な投資促進税制は、一定の設備投資について即時償却または税額控除を選択できる、企業にとって影響の大きい制度です。
機械装置などでは取得価額の7パーセント、建物などでは4パーセントの税額控除を選択できるため、大規模投資では法人税額への影響も大きくなります。
一方で、重要なのは税率や控除率だけではありません。
今回の国税庁通達によって、どの設備が生産等設備になるのか、取得価額をどのように判定するのか、委託先へ貸与した設備をどのように扱うのかといった実務上の判断基準が明らかになりました。
特に、委託先へ設備を貸与していても、その設備が専ら自社のための製品加工などに使用されている場合には、自社の事業の用に供したものとして扱われる点は重要です。
税制では形式的に誰が設備を使っているかだけではなく、その設備が実質的に誰の事業活動のために使われているのかを見る場面があります。
大型設備投資ほど税制優遇の金額も大きくなります。
だからこそ、設備を取得した後に税務処理を考えるのではなく、投資計画を立てる段階から制度の適用要件を確認することが大切です。
参考
税のしるべ 2026年9月14日号 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など
国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について