オフィス賃料が上昇すると、なぜ建物だけではなく、その下にある土地の価格まで上昇するのでしょうか。
一見すると、毎月支払われるオフィス賃料と土地価格は別のものに思えます。
しかし投資用不動産の世界では、この2つには密接な関係があります。
不動産の価値を考えるときには、その不動産から将来どれくらいの収益を得られるのかが重要だからです。
賃料が上昇すると不動産の収益力が高まり、その不動産を取得するために投資家が支払える金額も大きくなります。
この仕組みを理解すると、東京のオフィス賃料上昇が商業地の地価を押し上げている理由も分かりやすくなります。
オフィスビルは賃料を生み出す資産
自分が住む住宅の場合、建物の価値は広さや立地、築年数、設備などから考えることが多いでしょう。
一方、投資用のオフィスビルでは、そこからどれだけ収益を得られるのかが非常に重要です。
オフィスビルの所有者は企業などにスペースを貸し、その対価として賃料を受け取ります。
例えば毎月1000万円の賃料を受け取れるビルなら、単純計算では年間1億2000万円の賃料収入になります。
もちろん、そのすべてが利益になるわけではありません。
建物の管理費や修繕費、固定資産税などさまざまな費用が発生します。
それらを差し引いて、どの程度の収益を生み出せるのかが不動産の価値を考える重要な材料になります。
賃料が上がれば収益力が高くなる
同じオフィスビルでも賃料が上昇すれば、収益力は高くなります。
例えば年間1億2000万円だった賃料収入が、賃料上昇によって年間1億4000万円になったとします。
費用が大きく変わらなければ、オーナーが得られる収益も増えます。
投資家から見れば、以前より多くの利益を生み出せる不動産になったということです。
すると、その不動産を購入したいと考える投資家が増える可能性があります。
購入希望者が増えれば、売買価格も上昇しやすくなります。
オフィス賃料の上昇が不動産価格へ波及する基本的な仕組みです。
投資家はいくらまで払えるのかを考える
投資家は、不動産価格が高いか安いかだけで購入を決めるわけではありません。
購入価格に対してどれだけの収益を得られるのかを考えます。
例えば年間5000万円の収益を生む不動産があったとします。
仮に投資家が5%程度の収益性を求めるのであれば、単純化すると10億円という価格が1つの目安になります。
一方、同じ不動産の年間収益が6000万円まで増えれば、同じ5%という条件なら12億円まで価格が上昇しても同程度の収益性になります。
実際の不動産投資では将来の賃料、空室、修繕費、金利なども考えるため、これほど単純ではありません。
それでも、収益が増えれば投資家が支払える価格も高くなるという基本的な関係があります。
収益から不動産価値を考える
不動産が生み出す収益をもとに価値を考える方法を、収益還元の考え方といいます。
商業用不動産では特に重要です。
オフィスビルや賃貸マンション、ホテル、物流施設などは、利用者から得られる収益が投資価値を左右します。
オフィスなら賃料、賃貸マンションなら家賃、ホテルなら宿泊収入、物流施設ならテナントからの賃料です。
将来にわたって安定して高い収益を得られると考えられる不動産ほど、高い価格で取引されやすくなります。
土地価格についても同じです。
その土地を利用して高い収益を生み出せるのであれば、土地そのものにも高い価格を支払えるようになります。
建物の収益力が土地価格に反映される
例えば同じ広さの土地が2つあったとしても、場所によって土地価格は大きく異なります。
東京都心の駅前と、オフィス需要の少ない地域では、その土地に建てた建物から得られる賃料が違うからです。
東京都心であれば、高い賃料でもオフィスを借りたい企業が存在します。
その土地にオフィスビルを建てれば、大きな賃料収入を期待できます。
そうであれば、不動産会社や投資家は土地を高値で購入しても事業として成立させられる可能性があります。
反対に賃料が低い地域では、土地を高く購入してしまうと投資資金を回収できません。
土地価格は、その土地から将来どれだけ収益を生み出せるかという期待にも左右されます。
空室率も重要になる
賃料が高くても、入居者がいなければ収益は得られません。
そこで重要になるのが空室率です。
空室率が低い地域では、オフィスを借りたい企業が多く、安定した賃料収入を得られる可能性が高くなります。
2026年6月末時点では、東京都心5区の大規模オフィスの平均空室率は0.8%でした。
空室が非常に少ない状態です。
空室率が低く、さらに賃料も上昇しているのであれば、投資家から見ると収益性だけでなく収益の安定性も期待しやすくなります。
こうした状況が東京の不動産価格や地価を支える要因になります。
金利が上がると逆方向の力が働く
ただし、賃料が上昇すれば必ず同じ割合で土地価格が上昇するわけではありません。
重要なのが金利です。
不動産投資では金融機関から多額の資金を借りることがあります。
金利が上昇すると借入金の利息負担が増えるため、投資家が不動産から得られる実質的な利益は小さくなります。
また、安全性の高い債券などから得られる利回りが上昇すれば、不動産投資にもより高い収益率が求められるようになります。
その結果、賃料が上昇していても、不動産価格の上昇が抑えられることがあります。
不動産価格を見る場合には、賃料と金利をセットで考える必要があります。
建築費も土地に払える価格を左右する
もう1つ重要なのが建築費です。
不動産会社が土地を購入してオフィスビルを建設する場合、事業費は大きく土地代と建築費に分けることができます。
建築費が大幅に上昇すれば、事業全体に使える資金のうち土地に回せる金額が少なくなります。
賃料が上昇していても、それ以上のペースで建築費が上昇すれば開発の採算が悪化することがあります。
東京では高い賃料によって建築費上昇をある程度吸収できても、賃料を上げにくい地方では同じことが難しくなります。
これが東京と地方で地価の動きに差が生まれる理由の1つです。
地価を見るなら賃料を見る
土地価格を考えるとき、多くの人は土地の売買価格そのものに注目します。
しかし商業地では、その土地の上に建つ建物がどれだけ収益を生み出せるのかを見ることも重要です。
オフィス賃料が上昇しているのか。
空室率が低下しているのか。
新しいオフィスの供給は増えるのか。
金利は上昇しているのか。
建築費はいくらになっているのか。
こうした数字を組み合わせると、土地価格がなぜ上昇しているのかを理解しやすくなります。
結論
オフィス賃料が上昇すると、そのオフィスビルから得られる収益が増えます。
収益力が高くなれば、投資家はその不動産に以前より高い価格を支払えるようになります。
そして、その土地を使って高い収益を生み出せるのであれば、土地そのものの価値も上昇します。
これがオフィス賃料の上昇が土地価格へ波及する基本的な仕組みです。
ただし、不動産価格は賃料だけで決まりません。
空室率、金利、建築費、将来の供給量なども大きく影響します。
商業地の地価を見るときには、土地価格だけを追いかけるのではなく、その土地が将来どれだけの収益を生み出せるのかを見ることが重要です。
地価とは、土地の現在の値段であると同時に、その土地から将来得られる収益に対する市場の評価でもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 東京の商業地11.4%上昇
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 基準地価、5年連続上昇 建築費高騰