未上場株のディスカウントとは何か 直近の増資価格より安く売買される理由編

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未上場企業が資金調達したときに、一株1万円という価格が付いたとします。

その半年後、ベンチャーキャピタルが保有している同じ会社の株式を売却しようとしたところ、一株8000円でなければ買い手が見つからないことがあります。

会社の業績が大きく悪化していなくても、このような価格差が生じる場合があります。

理由の一つが未上場株特有の流動性です。

上場株なら証券取引所で売却できますが、未上場株にはいつでも売買できる市場がありません。買った株を将来売却できる保証もありません。

そのため投資家は、換金しにくいリスクを価格に反映して購入価格を低く設定することがあります。

これが未上場株のディスカウントを理解する重要なポイントです。

未上場株のディスカウントとは何か

ディスカウントとは割引という意味です。

未上場株では、企業価値から考えられる価格や直近の資金調達価格より低い価格で株式が売買されることがあります。

例えば直近の増資で一株1万円という価格が付いていたとします。

その後、2次流通で一株8000円で取引されれば、増資価格に対して20パーセント低い価格で売買されたことになります。

この価格差だけを見れば、会社の企業価値が20パーセント低下したようにも見えます。

しかし必ずしもそうとは限りません。

会社の事業価値とは別に、未上場株そのものが持つ換金の難しさなどが価格へ反映される場合があるからです。

流動性ディスカウントとは何か

重要なのが流動性ディスカウントです。

流動性とは、資産を希望する時期に現金へ換えやすいかどうかを示す考え方です。

上場株には比較的高い流動性があります。

例えば上場企業の株式を100万円分持っていれば、通常は証券取引所が開いている時間に売却注文を出せます。

価格を調整すれば買い手が見つかりやすく、現金化までの期間も比較的短くなります。

一方、未上場株は違います。

売却したいと思っても、買い手を自分で見つけなければならない場合があります。

買い手が見つかっても価格交渉が必要です。

会社の承認や株主間契約上の手続きなどが必要になることもあります。

何カ月たっても売却できない可能性があります。

この換金の難しさを投資家が価格に反映するのが流動性ディスカウントです。

同じ企業価値でも上場株とは条件が違う

例えば、まったく同じ事業内容と将来性を持つ二つの会社があると仮定します。

一社は上場会社で、もう一社は未上場会社です。

上場会社の株式なら必要になったときに市場で売却できます。

未上場会社の株式は、購入すると数年間売却できない可能性があります。

投資家から見ると、この二つの株式の使い勝手は同じではありません。

急に資金が必要になっても未上場株はすぐ現金化できないかもしれません。

企業の業績が悪化してもすぐ売却できない可能性があります。

そのため同じような事業価値であっても、未上場株なら価格を安くしてほしいと考える投資家が現れます。

換金できない期間のリスクを負う代わりに、購入価格を低くするわけです。

直近の増資価格がそのまま使えない理由

スタートアップでは、直近の資金調達価格が企業価値を考える重要な基準になります。

しかしプライマリー取引とセカンダリー取引では条件が違う場合があります。

例えば会社が新しい投資家に優先株を発行し、一株1万円で資金調達したとします。

この優先株には、会社が売却された場合などに普通株より先に一定額を受け取れる権利が付いているかもしれません。

一方、2次流通でVCや従業員が売却する株式が普通株なら、経済的な条件が同じとは限りません。

さらに資金調達時には会社が成長資金を必要としているため、投資家との交渉条件も2次流通とは異なります。

一株1万円という数字だけを比較して、一株8000円の2次流通価格は必ず割安だと判断することはできないのです。

買い手が少ないほど価格は下がりやすい

市場参加者の少なさもディスカウントを生む要因です。

例えばVCが保有する株式を10億円で売却したいとします。

買い手候補が10社あれば、複数の投資家と価格交渉できます。

一社が8億円、別の会社が9億円、さらに別の会社が10億円を提示する可能性があります。

一方、買い手候補が一社しかいなければ交渉力が弱くなります。

その投資家から8億円でなければ買わないと言われれば、売り手には売却するか保有を続けるかという限られた選択肢しかありません。

流動性が低いとは、単に売却まで時間がかかるということだけではありません。

買い手が少ないため、売り手が価格交渉で不利になりやすいことも意味します。

売却期限が価格を下げる理由

さらに重要なのが売り手側の期限です。

VCファンドには運用期間があります。

投資先企業が順調に成長していても、ファンドの期限が来れば保有株式を売却して投資家へ資金を返す必要があります。

例えばファンドの期限まで5年あるなら、VCは希望価格で購入してくれる投資家が現れるまで待てるかもしれません。

しかし期限まで半年しかなければ事情が変わります。

一株1万円で売りたいと考えていても、その価格で買い手が見つからなければ、一株8000円や7000円で売却する判断を迫られる可能性があります。

買い手は売り手の時間的制約も考えて価格を提示します。

企業価値そのものではなく、売り手が待てないことによって価格が下がる場合があるのです。

従業員株式でもディスカウントは起こり得る

ストックオプションを行使して取得した従業員株式でも同様です。

例えば直近の資金調達で一株1万円の価格が付いていたとします。

従業員が1000株を保有していれば、単純計算では1000万円の価値があるように見えます。

しかし実際に2次流通で売却すると、一株8000円になる可能性があります。

この場合、現金化できる金額は800万円です。

さらに税金や取引条件なども考える必要があります。

ストックオプションの価値を考えるときには、直近の資金調達価格を掛けただけの金額と、実際に売却できる金額が一致するとは限らないことを理解しておく必要があります。

ディスカウントがあること自体は異常ではない

未上場株が直近の資金調達価格より安く売買されると、企業価値が急落したように受け取られることがあります。

しかしディスカウントが存在すること自体は必ずしも異常ではありません。

売却までの期間が分からない。

情報が上場会社ほど多くない。

買い手が限られている。

株式の種類や権利内容が違う。

こうした条件を投資家が考慮すれば、一定のディスカウントを要求することには合理性があります。

重要なのは、なぜ価格差が生じているのかを確認することです。

会社の業績悪化によるものなのか。

流動性の低さによるものなのか。

株式の権利内容の違いによるものなのか。

理由によって価格差の意味は大きく異なります。

ダウンラウンドとは何が違うのか

未上場株のディスカウントと混同しやすいのがダウンラウンドです。

ダウンラウンドとは、会社が新しく資金調達するときに、前回より低い企業価値や株価で新株を発行することです。

例えば前回の資金調達では一株1万円だった会社が、次の資金調達では一株7000円で新株を発行したとします。

これは会社自身が新しい株式を前回より低い価格で発行しているため、ダウンラウンドになります。

一方、セカンダリー市場でVCが一株7000円で既存株を売却しても、それだけで会社がダウンラウンドを実施したことにはなりません。

会社が新株を発行したわけではないからです。

ここは重要な違いです。

2次流通価格の下落が次の増資に影響することはある

ただし、セカンダリー市場の価格と次回の資金調達価格が無関係というわけではありません。

例えば直近の増資価格が一株1万円だったのに、2次流通では一株6000円前後の取引が何度も成立しているとします。

次の資金調達で会社が再び一株1万円を提示しても、投資家は疑問を持つでしょう。

市場では6000円で買える株式を、なぜ新株なら1万円で買わなければならないのかという問題が生じます。

そのため2次流通市場が発達すると、そこで形成された価格が次のプライマリー取引にも影響する可能性があります。

セカンダリー市場が企業価値の価格発見機能を持つということです。

流動性が高まればディスカウントは縮小しやすい

未上場株の2次流通市場が発達すれば、流動性ディスカウントにも変化が生じる可能性があります。

例えば現在は株式を売却するのに一年かかる市場だったとします。

専門の証券会社が仲介し、多数の機関投資家が参加することで数カ月程度で買い手を見つけられるようになれば、換金の難しさは小さくなります。

さらに取引事例が増えれば、価格の参考情報も増えます。

買い手にとっても将来の売却可能性が高まります。

流動性リスクが小さくなれば、その分だけ大きなディスカウントを要求する必要性も低下します。

つまり2次流通市場の発達は、売買件数を増やすだけではなく、未上場株の価格そのものにも影響する可能性があります。

ディスカウントは市場の未成熟度を映す

未上場株のディスカウントには企業固有のリスクだけでなく、市場そのものの成熟度も反映されます。

買い手が少ない市場。

取引価格が分からない市場。

売却に長期間かかる市場。

こうした市場では投資家が大きなリスクを負うため、その分だけ安い価格を要求しやすくなります。

反対に多くの投資家が参加し、継続的に取引され、価格情報が蓄積される市場では換金可能性が高まります。

未上場株の2次流通市場を整備する意味は、単に売却の場を用意することではありません。

未上場であることに伴う価格面の不利を小さくすることにもつながるのです。

結論

未上場株のディスカウントとは、直近の資金調達価格や企業価値から考えられる価格より低い価格で株式が売買されることです。

その代表的な理由が流動性ディスカウントです。

上場株なら市場で売却できますが、未上場株は買い手を探す必要があり、いつ現金化できるか分かりません。

この換金の難しさを投資家が価格に反映し、安い価格でなければ購入しないことがあります。

さらに買い手候補の少なさやVCファンドの運用期限なども価格を下げる要因になります。

ただし、セカンダリー取引で直近の増資価格を下回ったからといって、必ずしも会社がダウンラウンドになったわけではありません。

ダウンラウンドとは、会社自身が前回より低い価格で新株を発行して資金調達することだからです。

一方で2次流通価格が継続的に低ければ、次回の資金調達価格にも影響する可能性があります。

未上場株の2次流通市場が発達し、買い手が増え、取引事例が蓄積されれば、流動性リスクは小さくなります。

その結果、流動性ディスカウントも縮小する可能性があります。

未上場株が安く売られる理由は、必ずしも会社の価値が下がったからではありません。

売りたいときに売れるという選択肢そのものにも価値があります。

未上場株のディスカウントは、その流動性の価値が株価に表れたものと考えると理解しやすいでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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