地方創生というと、国や地方自治体が取り組む政策というイメージがあります。
人口を増やす。
観光客を呼び込む。
地域企業を育てる。
新しい雇用を作る。
こうした仕事は行政が中心になって進めるものだと思われがちです。
しかし、実際の地方創生では地方銀行や信用金庫などの地域金融機関も重要な役割を担っています。
総務省のローカル10000プロジェクトでも、国や自治体による公的支援だけではなく、地域金融機関などの融資や出資と組み合わせて新しい事業を支えることが大きな特徴になっています。
なぜ銀行や信用金庫が地方創生に関わるのでしょうか。
そこには地域貢献だけではなく、地域金融機関自身の経営にも関係する理由があります。
地域金融機関とは何か
地域金融機関という言葉には、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合などが含まれます。
いずれも地域の個人や企業から預金を集め、その資金を地域の企業や住民などへ融資する重要な役割を担っています。
全国規模で事業を展開する大手銀行と比べると、特定の地域との結び付きが強いことが特徴です。
特に信用金庫は、地域の中小企業や住民などを主な取引対象とする協同組織の金融機関です。
地域経済が成長すれば取引先企業も成長します。
反対に地域経済が縮小すれば、金融機関の取引基盤も縮小します。
つまり、地域金融機関と地域経済は切り離して考えることができません。
地方銀行は地域企業にお金を供給する
企業が事業を行うには資金が必要です。
工場を建てる。
機械を購入する。
店舗を改装する。
従業員を採用する。
新商品を開発する。
こうした活動には先にお金が必要になる場合があります。
企業が必要な資金をすべて自己資金で用意できるとは限りません。
そこで銀行から借り入れます。
地域金融機関は、地域の企業へ資金を供給することで事業活動を支えています。
企業が融資を受けて設備投資を行い、売り上げを増やすことができれば、銀行には利息収入が入ります。
企業の成長と金融機関の収益はつながっているのです。
信用金庫は地域との結び付きがさらに強い
信用金庫も地域経済で重要な役割を担っています。
地方銀行と信用金庫は同じように見えますが、組織の性格には違いがあります。
地方銀行は株式会社として運営されています。
一方、信用金庫は地域の会員による協同組織の金融機関です。
営業地域も一定の地域に限定されています。
そのため、地域の中小企業や住民との結び付きが非常に強い金融機関です。
地域企業が減れば信用金庫の融資先も減ります。
地域住民が減れば預金や住宅ローンなどの取引も減ります。
信用金庫にとって地域経済を維持することは、自らの経営基盤を維持することにも直結します。
地域企業が減ると金融機関も困る
人口減少は地域金融機関の経営にも影響します。
人口が減れば地域の消費が減ります。
消費が減れば小売店や飲食店などの売り上げが減ります。
企業が廃業すれば、銀行の融資先が減ります。
住宅を購入する人が減れば住宅ローンの需要も減ります。
新しい会社が生まれなければ、新規融資の機会も少なくなります。
さらに企業が設備投資をしなくなれば、資金需要そのものが縮小します。
地域金融機関にとって、地域経済の縮小は単なる社会問題ではありません。
自分たちの市場そのものが小さくなる問題なのです。
融資先企業を育てることが銀行の利益になる
そこで重要になるのが、既存の企業へ融資するだけではなく、企業そのものを育てるという考え方です。
たとえば、地域の食品会社が新しい商品を開発するとします。
設備投資に3000万円必要になり、金融機関が融資したとします。
新商品が売れれば会社の売り上げが増えます。
利益も増える可能性があります。
従業員を新しく雇うかもしれません。
さらに生産能力を増やすため、数年後に追加の設備投資をするかもしれません。
すると金融機関には新しい融資の機会が生まれます。
企業が成長すれば預金取引や決済取引なども増える可能性があります。
一つの企業を育てることが、金融機関にとって長期的な取引拡大につながるのです。
新しい融資先を作る必要がある
人口が増え、企業数も増えている地域であれば、金融機関は新しく生まれた企業から融資先を探すことができます。
しかし、人口減少地域では状況が違います。
企業の廃業が増え、新しく起業する会社が少なければ、融資先は自然に減っていきます。
そこで地域金融機関自身が、新しい事業の誕生を支援する必要があります。
創業を支援する。
既存企業の新規事業を支援する。
事業承継を支援する。
地域企業同士を結び付ける。
こうした活動を通じて、将来の融資先を育てます。
ローカル10000プロジェクトのような制度は、そのための一つの機会にもなります。
第二創業を支援する意味
新しい会社を一から作ることだけが地域の新規事業ではありません。
既存企業が新しい分野へ進出する第二創業も重要です。
長年日本酒を造ってきた会社がクラフトビールへ参入する。
農家が農産物を生産するだけでなく観光農園を始める。
建設会社が遊休施設を活用した観光事業へ進出する。
こうした取り組みです。
既存企業にはすでに人材、技術、顧客、信用などがあります。
そのため、完全な新規創業と比べて利用できる経営資源があります。
地域金融機関も既存の取引先であれば、経営者や財務状況について一定の情報を持っています。
新しい事業へ挑戦する企業を見つけ、資金を提供することが地域経済の新陳代謝につながります。
地域金融機関は企業同士をつなげられる
地域金融機関には、お金を貸す以外にも大きな強みがあります。
多くの地域企業と取引していることです。
たとえば、ある農家が新しい加工食品を作りたいと考えているとします。
しかし、自分では加工設備を持っていません。
金融機関の取引先に食品加工会社があれば、両社を紹介できる可能性があります。
食品会社が新しい販売先を探している場合には、小売会社や飲食店を紹介できるかもしれません。
観光事業者と宿泊施設を結び付けることも考えられます。
一社では不足している経営資源を別の会社との連携で補うわけです。
このような企業同士の紹介は、地域内の取引を増やすことにもつながります。
地域の情報を持っていることが強みになる
地域金融機関は、長年の取引を通じて地域に関する多くの情報を持っています。
どの企業に高い技術があるのか。
どの経営者が新規事業に積極的なのか。
どの地域に使われていない建物があるのか。
どの農産物に販売拡大の余地があるのか。
どの会社が後継者問題を抱えているのか。
こうした情報は決算書だけでは分かりません。
地域金融機関が持つ情報とネットワークを利用すれば、新しいビジネスの種を見つけられる可能性があります。
金融機関の役割が、資金を貸すだけの金融仲介から、地域の事業を作る役割へ広がっているのです。
地方創生は金融機関の生き残りにも関係する
地域金融機関が地方創生に取り組む理由を、社会貢献だけで考えると本質を見落とします。
地域金融機関にとって地域は自分たちの市場です。
地域企業が成長すれば融資需要が生まれます。
住民の所得が増えれば預金や金融商品の取引も増える可能性があります。
新しい会社が生まれれば、新しい取引先になります。
反対に企業が次々と廃業し、人口が減少すれば金融機関自身の収益機会も減ります。
地域経済を支えることと金融機関自身の経営基盤を守ることは、同じ方向を向いているのです。
融資して終わりではない
従来の銀行業務では、お金を貸して利息を受け取り、返済状況を管理することが中心でした。
しかし、人口減少時代には、それだけでは地域の融資先そのものが減ってしまいます。
そのため、融資前から企業と一緒に事業を考え、融資後も成長を支援することが重要になります。
売り上げが計画通り伸びているか。
新しい販路が必要ではないか。
人材不足が成長を妨げていないか。
事業承継の準備が必要ではないか。
こうした課題を企業と一緒に考えます。
企業が成長すれば金融機関も長期間取引できます。
一社の成功を次の企業へ広げることができれば、地域全体の経済基盤も強くなります。
ローカル10000プロジェクトで金融機関が重要な理由
ローカル10000プロジェクトでは、地域金融機関などによる民間資金の存在が重要になります。
自治体は地域政策という視点から事業を見ます。
金融機関は事業性という視点から事業を見ます。
さらに地域金融機関は、融資後も企業との関係を続けます。
事業が成長すれば追加融資が必要になるかもしれません。
新しい取引先を紹介できる場合もあります。
最初の公的支援が終了した後も、金融機関と企業の関係は続きます。
これが地域ビジネスを一時的な補助金事業で終わらせないために重要になります。
結論
地方銀行や信用金庫などの地域金融機関が地方創生を支援する理由は、単なる地域貢献だけではありません。
地域企業の成長が金融機関自身の経営基盤にも直結しているからです。
人口が減り、企業が廃業し、設備投資が減れば、金融機関の融資先も減少します。
反対に、新しい事業が生まれ、企業が成長すれば、新しい融資需要や金融取引が生まれます。
そのため地域金融機関には、すでに存在する融資先を奪い合うだけではなく、新しい事業や企業を育て、将来の融資先を作るという役割があります。
さらに、多くの地域企業と取引している金融機関は、企業同士を結び付け、新しい取引や事業を生み出すこともできます。
地域企業が成長する。
雇用が増える。
地域の所得が増える。
新しい投資が生まれる。
金融機関の取引も増える。
この循環を作ることができれば、地方創生と地域金融機関の経営を同時に支えることができます。
地域金融機関にとって地方創生とは、地域のためだけに行う活動ではありません。
地域経済を育てることによって、自らの将来の顧客と市場を育てる取り組みでもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 地元密着ビジネスが最多 総務省採択、昨年度108件
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 神奈川・小田原の交付金事業 尊徳が導く相互扶助の輪