不動産価格が上昇しているとき、銀行の不動産融資は比較的安定しているように見えます。
借り手が返済できなくなったとしても、担保に取っている土地や建物を売却すれば、融資したお金を回収できる可能性が高いからです。
しかし、不動産価格が下落すると状況は変わります。
銀行が融資するときに想定していた担保価値が低下し、物件を売却しても融資残高を回収できなくなる可能性があるためです。
金利が上昇する局面では、借り手の返済負担増加と不動産価格の下落が同時に起きる可能性があります。
銀行にとって重要なのは、不動産価格が上昇している現在だけではなく、価格が下落した場合にも融資を回収できるかを考えることです。
不動産担保とは何か
銀行が企業や個人にお金を貸すとき、土地や建物を担保にすることがあります。
これが不動産担保です。
担保は、借り手が返済できなくなった場合に備える仕組みです。
例えば不動産会社が銀行から8億円を借りて10億円の物件を購入したとします。
その物件に銀行の抵当権などが設定されていれば、借り手が返済できなくなった場合、銀行は担保となっている不動産から融資を回収することができます。
そのため不動産の価値は、銀行の融資判断における重要な要素になります。
ただし、担保があるから絶対に安全というわけではありません。
担保評価は購入価格と同じではありません
銀行は不動産の購入価格だけを見て融資するわけではありません。
土地や建物の価値、立地、賃料収入、周辺の取引価格など、さまざまな要素を考慮して担保価値を評価します。
さらに重要なのは、将来売却するときにも同じ価格で売れるとは限らないことです。
例えば10億円で取引されている不動産でも、銀行が必ず10億円の担保価値を認めるとは限りません。
市場環境が悪化した場合や、短期間で売却しなければならなくなった場合まで考えて評価する必要があります。
融資時点の市場価格だけを前提にすると、不動産価格が下落したときに問題が表面化するからです。
不動産価格が下落すると担保の余裕が小さくなります
例えば10億円の不動産に対して銀行が8億円を融資したとします。
購入時点では、不動産価格10億円に対して融資額8億円です。
単純化すれば2億円の差があります。
ところが、その不動産の市場価格が8億円まで下落するとどうでしょうか。
融資残高がまだ8億円近く残っていれば、不動産価格と融資残高の差がほとんどなくなります。
さらに価格が6億円まで下落すると、担保を売却しても融資残高をすべて回収できない可能性が出てきます。
不動産価格が下がるほど、銀行を守っていた担保の余裕が小さくなっていくのです。
価格下落だけで不良債権になるわけではありません
ここは重要なポイントです。
担保となっている不動産価格が下がっただけで、銀行融資が直ちに不良債権になるわけではありません。
借り手が契約通り返済を続けていれば、基本的には返済によって融資残高は減っていきます。
銀行にとって最も重要なのは借り手の返済能力です。
問題になるのは、不動産価格の下落と借り手の返済能力の悪化が重なった場合です。
この2つが同時に起こると、銀行のリスクは急速に大きくなります。
金利上昇が返済能力を低下させることがあります
不動産事業では、多額の借入金を利用することがあります。
そのため金利上昇の影響を受けやすい場合があります。
例えば100億円の借入金がある事業を単純化して考えます。
金利が1パーセントなら年間の利息は1億円です。
金利が2パーセントなら2億円になります。
3パーセントなら3億円です。
借入額が大きいほど、わずかな金利上昇でも支払利息の増加額は大きくなります。
賃料収入などが同じなのに利息負担が増えれば、不動産事業者の利益や資金繰りを圧迫します。
金利上昇は不動産価格にも影響します
金利上昇にはもう1つの側面があります。
不動産を購入するときの借入コストが高くなれば、投資家が購入できる価格も変わります。
また、安全性の高い債券などから得られる利回りが高くなれば、投資家が不動産に求める収益率も高くなる可能性があります。
同じ賃料収入しか得られない物件であれば、投資家が以前と同じ高い価格で購入しなくなることも考えられます。
つまり金利上昇は、借り手の返済負担を増やすだけではありません。
不動産価格そのものを押し下げる方向に働く場合もあります。
銀行にとって厳しいのは2つが同時に起きることです
銀行にとって注意が必要なのは、返済能力の悪化と担保価格の下落が同時に起きる場合です。
借り手の利息負担が増える。
不動産事業の採算が悪化する。
返済が難しくなる。
同時に不動産市況も悪化する。
担保となっている不動産価格が下落する。
この状態で借り手が返済できなくなれば、銀行は担保を処分して融資の回収を図ることになります。
しかし、そのときには担保価格そのものが下がっている可能性があります。
銀行にとっては、返済してもらえないうえに担保を売却しても全額を回収できないという状態になりかねません。
不良債権になるまでには段階があります
融資先の経営状態が悪化したからといって、すべてが突然回収不能になるわけではありません。
銀行は借り手の財務状況や返済状況を継続的に確認します。
業績が悪化して返済能力に問題が生じれば、銀行は融資の回収可能性をより慎重に評価する必要があります。
返済条件の変更が必要になることもあります。
さらに経営状態が悪化し、融資の一部を回収できない可能性が高くなれば、銀行は将来の損失に備える必要があります。
その結果、貸倒引当金の積み増しなどが銀行の利益を圧迫することがあります。
最終的に回収できなかった部分は銀行の損失になります。
担保より返済能力を見ることが重要です
銀行の融資審査では担保は重要です。
しかし、担保だけに依存した融資には危険があります。
本来、融資したお金は借り手が事業などから生み出す資金によって返済してもらうものだからです。
不動産会社であれば、賃料収入や物件売却による収益などから元本と利息を返済します。
担保は、返済できなくなったときの最後の回収手段という性格があります。
そのため銀行には、現在の不動産価格だけではなく、借り手が将来にわたって返済を続けられるかを見る目利きが求められます。
不動産価格が高いときほど注意が必要です
不動産価格が上昇している局面では、問題のある融資でも表面化しにくいことがあります。
仮に事業がうまくいかなくても、高くなった物件を売却して借入金を返済できる場合があるからです。
しかし、それは借り手の事業そのものに十分な返済能力があることとは別の話です。
不動産価格が下落すると、それまで価格上昇によって隠れていた問題が見えるようになることがあります。
金融庁が不動産融資の案件審査やリスク管理を重点的に確認する背景には、こうした事情があります。
結論
不動産価格が下落しただけで、銀行の融資が直ちに不良債権になるわけではありません。
借り手が返済を続けている限り、担保価格の下落だけで問題が決まるわけではないからです。
しかし、不動産価格の下落と借り手の返済能力の悪化が同時に起こると状況は大きく変わります。
銀行が融資したお金を借り手から回収できず、担保となる不動産を売却しても融資残高を回収できない可能性が生まれます。
特に金利上昇局面では、借り手の利息負担増加と不動産価格への下押し圧力が同時に生じる可能性があります。
だからこそ銀行には、現在の担保価格だけに頼らず、金利が上昇した場合や不動産価格が下落した場合まで想定して融資を審査することが求められます。
不動産融資の本当の安全性を決めるのは、担保があるかどうかだけではありません。
借り手自身が長期にわたって返済を続けられるかどうかを見ることが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 不動産融資のリスク注視