銀行の仕事は、お金を貸すことだけではありません。
貸したお金をきちんと返してもらえる相手なのかを判断することも、銀行の重要な仕事です。
この判断能力は一般に銀行の目利きと呼ばれます。
特に不動産融資では目利きが重要になります。
土地や建物という担保があるため、一見すると安全な融資に見えやすいからです。
しかし、不動産価格が上昇しているときほど、借り手の本当の返済能力が見えにくくなることがあります。
金融庁が不動産向け融資の案件審査やリスク管理を重点的に確認する背景にも、この問題があります。
銀行の目利きとは何か
銀行の目利きとは、融資先の事業や財務状況などを分析して、将来にわたって返済できるかを判断する能力です。
単純に会社の売上高や利益を見るだけではありません。
どのような事業で利益を得ているのか。
今後も収益を維持できるのか。
借入金は多すぎないか。
金利が上昇しても返済できるのか。
経営者には十分な経営能力があるのか。
こうしたさまざまな要素を組み合わせて融資を判断します。
融資した時点では優良企業だったとしても、数年後まで同じ状態が続くとは限りません。
将来を見ることが銀行の目利きでは重要になります。
融資の基本は返済能力を見ることです
銀行がお金を貸す場合、最も基本となるのは借り手の返済能力です。
企業であれば、事業によって生み出す利益や資金から借入金を返済します。
不動産事業であれば、賃料収入や物件販売によって得られる資金などが返済の原資になります。
例えば賃貸マンションを購入するために銀行から融資を受けた場合を考えてみます。
毎月1000万円の賃料が入ってきても、それだけでは安全とはいえません。
管理費や修繕費、固定資産税などの支出があります。
さらに銀行への元本返済と利息支払いがあります。
空室が増えれば賃料収入も減ります。
こうした支出を差し引いた後でも十分に返済できるかを見る必要があります。
担保があれば安全とは限りません
不動産融資では土地や建物を担保にすることが一般的です。
そのため、借り手が返済できなくなっても不動産を売却すればよいと考えたくなります。
しかし、本来の融資では担保は最後の回収手段です。
銀行にとって望ましいのは、借り手が事業を続けながら約束通り元本と利息を返済することです。
返済できなくなってから担保を売却することを最初から前提にするものではありません。
不動産を売却するにも時間や費用がかかります。
さらに、そのときの市場環境によっては期待した価格で売却できない可能性もあります。
担保があることと、融資が安全であることは同じではありません。
担保依存融資とは何か
借り手の事業や返済能力よりも、担保となる不動産の価値を重視して融資する考え方を担保依存融資と呼ぶことがあります。
例えば借り手の事業収益だけを見ると十分な返済余力がない場合でも、価値の高い土地を持っているから融資できると判断するケースです。
もちろん担保価値を確認すること自体は銀行の重要なリスク管理です。
問題になるのは、担保があるという理由で借り手の返済能力の確認が不十分になることです。
不動産価格が上昇している時期には、特にこの問題が見えにくくなります。
不動産価格上昇が問題を隠すことがあります
例えば銀行が10億円の不動産に8億円を融資したとします。
その後、不動産価格が12億円に上昇したとします。
銀行から見ると担保価値には余裕が生まれています。
借り手の事業収益が多少悪化していても、最終的には物件を売却すれば借入金を返済できる可能性があります。
この状態では融資の問題が表面化しにくくなります。
さらに物件価格が上昇すれば、売却によって利益を得ることさえできます。
すると借り手の事業そのものに十分な返済能力があるのかという問題が見えにくくなることがあります。
価格上昇を返済能力と勘違いしてはいけません
ここで区別したいのが、事業による返済能力と資産価格の上昇です。
賃貸不動産であれば、本来は賃料収入などから安定的に借入金を返済できることが重要です。
ところが物件価格が上昇していると、売却すれば返済できるという考え方が強くなることがあります。
これは事業から返済しているのではなく、資産価格の上昇に助けられている状態ともいえます。
不動産価格が上昇し続けるなら問題は表面化しないかもしれません。
しかし、価格上昇が止まると状況は変わります。
金利上昇を想定した審査も必要です
現在の返済額だけを見て融資を判断することにも注意が必要です。
金利が上昇すれば借り手の利息負担が増える可能性があるからです。
例えば100億円を借りている不動産事業者なら、単純計算では金利が1パーセント上昇すると年間の利息負担は1億円増えます。
賃料収入が同じであれば、その分だけ返済余力は小さくなります。
銀行には、現在の金利で返済できるかだけではなく、金利がさらに上昇した場合でも返済できるかを確認することが求められます。
こうした厳しい条件を仮定して影響を確認することもリスク管理の重要な考え方です。
空室や賃料下落も考える必要があります
不動産事業では金利以外にもさまざまなリスクがあります。
賃貸マンションなら空室が増える可能性があります。
オフィスなら景気悪化によって企業が退去することがあります。
ホテルなら宿泊需要が減少する可能性があります。
物流施設やデータセンターでも、需要や契約状況が将来変化する可能性があります。
銀行の目利きでは、現在の収益だけを見るのではなく、収入が減少した場合にも返済できるかを見る必要があります。
良い時期ほど審査が重要になります
不動産価格が下落しているときは、銀行も慎重になります。
むしろ注意したいのは不動産価格が上昇し、取引が活発になっている時期です。
物件を購入すれば値上がりする。
売却すれば利益が出る。
担保価値も上昇する。
こうした環境が続くと、銀行も借り手もリスクに対する警戒が弱くなる可能性があります。
しかし銀行融資は長期間続きます。
融資した時点の好調な市場環境が、返済期間中ずっと続く保証はありません。
良い時期に悪い時期を想定できるかどうかが重要になります。
銀行は融資した後も見続けます
目利きは融資を実行する前だけに必要なものではありません。
融資した後も借り手の業績や不動産の状況を継続的に確認する必要があります。
賃料収入は計画通りなのか。
空室率が上昇していないか。
建築費や管理費が増えていないか。
借入金が急増していないか。
金利上昇によって返済負担が重くなっていないか。
こうした変化を早く把握できれば、問題が深刻になる前に対応できる可能性があります。
銀行の目利きとは、融資するときの審査能力だけではありません。
融資後に変化を見抜く能力も含まれます。
結論
銀行の目利きとは、担保となる不動産の価格を見ることではなく、借り手が将来にわたって返済を続けられるかを判断することです。
不動産融資では土地や建物という担保があるため、融資が安全に見えやすい特徴があります。
特に不動産価格が上昇している局面では、物件を売却すれば借入金を返済できるため、借り手の事業そのものが抱えている問題が表面化しにくくなります。
しかし、不動産価格の上昇は借り手の返済能力そのものではありません。
金利が上昇する。
空室が増える。
賃料が下がる。
不動産価格が下落する。
こうした環境になっても返済を続けられるかを見る必要があります。
銀行に本当に求められる目利きとは、現在の好調な不動産価格を見ることではなく、環境が悪化したときにも返済できる融資なのかを見抜くことなのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 不動産融資のリスク注視