租税回避というと、納税者が自分で複雑な取引を考え、税負担を減らす姿を想像するかもしれません。
しかし、国税庁が警戒しているのは、それだけではありません。
2027年度の機構要求では、プロモーターが商品化して販売する租税回避スキームが急速に拡大し、複雑化、巧妙化していることを背景として、租税回避対策企画官の新設が要求されています。
ここで重要になるのがプロモーターという存在です。
租税回避の仕組みそのものが商品として販売されれば、一つのスキームが多数の納税者へ広がる可能性があります。
プロモーターとは何か
租税回避の世界でいうプロモーターとは、租税回避につながる取引の仕組みを考案したり、顧客へ提供したりする者を指す言葉として使われます。
ポイントは、単に税金について一般的な助言をすることとは異なる点です。
複数の契約や取引、法人、金融商品などを組み合わせ、一つの税負担軽減の仕組みとして設計することがあります。
そして、その仕組みを複数の顧客へ提供すれば、同じような取引が各地で繰り返されることになります。
国税庁から見ると、個々の納税者だけではなく、スキームを設計して広げる側についても把握する必要が出てきます。
なぜ租税回避が商品になるのか
税制は非常に複雑です。
所得税、法人税、相続税、消費税など、それぞれに細かな制度があります。
さらに会社法、民法、金融商品、不動産、海外取引などが組み合わされると、取引の選択肢はさらに増えます。
その結果、複数の制度を組み合わせることで税負担が大きく変わる場合があります。
そこで、特定の取引を組み合わせた仕組みを設計し、それを一つのパッケージとして顧客へ提供するという発想が生まれます。
税負担を減らせるというメリットを示すことができれば、その仕組み自体に商品価値が生まれるからです。
一人の租税回避と商品化された租税回避は違う
一人の納税者が特殊な取引を行っている場合、税務当局はその納税者について事実関係を調査できます。
しかし、同じスキームが商品として100人、1000人と広がった場合は状況が変わります。
一件ずつ税務調査をして初めて同じ仕組みだと気づくのでは、対応が後手に回る可能性があります。
さらに、それぞれの納税者が異なる地域にいれば、担当する税務署や国税局も異なる可能性があります。
個々の税務署だけで見ていると、一つの巨大なスキームが全国に広がっていることに気づきにくくなるわけです。
ここに情報を集約する必要性があります。
スキームはなぜ複雑化するのか
税務当局が特定の租税回避方法を把握すると、その方法に対して課税上の対応が行われることがあります。
場合によっては税制改正によって制度上の対応が取られることもあります。
すると、別の取引方法が考案される可能性があります。
さらに複数の法人や契約などを組み合わせれば、取引全体の構造は複雑になります。
一つ一つの契約だけを見れば通常の取引に見えても、全体をつなげて見ると税負担を軽減する一つの仕組みになっているケースも考えられます。
そのため税務当局には、個々の取引だけではなく全体像を把握する能力が求められます。
税務署単位ではなく国税庁全体で見る
こうした問題に対応するために重要なのが情報の集約です。
例えば、東京で確認された取引と大阪で確認された取引が、実は同じプロモーターによって設計された同じスキームだったという可能性があります。
それぞれを別々の案件として処理するより、共通する仕組みとして分析した方が効率的です。
どのようなスキームなのか。
どの程度広がっているのか。
誰が提供しているのか。
どの税目に影響するのか。
現行税制で対応できるのか。
こうした情報を集約して分析する司令塔が必要になります。
租税回避対策企画官が求められる理由
国税庁は2027年度の機構要求で、課税部課税総括課に租税回避対策企画官を新設することを要求しています。
さらに企画官を支える課長補佐1人の増設も求めています。
この企画官には、複雑化する租税回避スキームへの対応を総合的に進める司令塔としての役割が想定されています。
従来のように個々の納税者を調査するだけではなく、複数の案件から共通する特徴を見つけ、スキームそのものを把握することが重要になっていると考えられます。
税務行政が個別案件中心から情報分析型へ広がっていることを象徴する動きともいえます。
税務調査だけでは解決できない場合もある
さらに重要なのは、すべての租税回避問題を税務調査だけで解決できるとは限らないことです。
新しい取引方法が登場した場合、現行の税法では十分に対応できないことがあります。
その場合、税務当局がどれだけ取引を把握しても、現在の法律のままでは課税が難しい可能性があります。
そこで税制改正という方法が出てきます。
国税庁は必要に応じて財務省主税局とも連携し、規制強化につなげることを想定しています。
つまり、租税回避スキームの把握は税務調査だけの問題ではなく、将来の税制そのものにも関係します。
プロモーターを見ることが早期発見につながる
商品化された租税回避スキームへの対応では、利用者だけを見るより、その供給源を把握することが重要になります。
一つのスキームを利用する納税者が多数存在していても、その背後に共通する設計者や提供者が存在するのであれば、そこから全体像を把握できる可能性があるからです。
これは感染症への対応に少し似ています。
一人一人の症例を見るだけでなく、共通する感染経路を探すことで全体像を把握しやすくなります。
租税回避についても、個々の申告だけでなく、スキームがどこから生まれ、どのように広がっているのかを見ることが重要になるわけです。
結論
租税回避スキームのプロモーターとは、税負担を軽減するための取引の仕組みを設計し、それを顧客へ提供する者を指す言葉として使われます。
問題が大きくなるのは、その仕組みが商品化され、多数の納税者へ広がる場合です。
一人の納税者による特殊な取引であれば個別の税務調査で対応できますが、同じスキームが広範囲に販売されれば、個々の税務署だけでは全体像を把握しにくくなります。
そのため国税庁には、全国から情報を集め、スキームそのものを分析する機能が必要になります。
2027年度に新設が要求されている租税回避対策企画官は、まさにその司令塔として位置付けられています。
税務行政の対象は、申告書に記載された数字だけではありません。
その数字を生み出した取引の仕組み、さらにその仕組みを設計して広げる存在まで視野に入れる方向へ変化しているのです。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を