企業のレジリエンスとは何か 効率を多少犠牲にしても危機に耐えられる会社を作る仕組み編

経営

企業経営では長い間、無駄を減らして効率を高めることが重視されてきました。

在庫を減らす。仕入先を絞る。生産拠点を集約する。人員を必要最小限にする。

こうした取り組みは平常時には企業の利益率を高めます。

しかし、感染症、自然災害、戦争、経済制裁、サイバー攻撃など予想外の出来事が起きたとき、効率を極限まで追求した経営が逆に企業の弱点になることがあります。

そこで重要になるのが企業のレジリエンスです。

レジリエンスとは、危機が発生しても事業を継続し、被害を受けたとしても立ち直り、環境の変化に適応していく力を意味します。

レジリエンスとは何か

レジリエンスは、もともと回復力や復元力を意味する言葉です。

企業経営では、予想外の危機や環境変化が起きた場合でも事業を継続し、状況に応じて組織や事業を変化させながら回復する能力を指します。

重要なのは、危機を完全に防ぐことではありません。

自然災害や戦争など、企業自身では防ぐことのできない出来事があります。

そのため、何も起こらないようにするだけではなく、何かが起きることを前提に会社を作る必要があります。

一つの工場が停止したら別の工場で生産する。

一つの仕入先から部品が入らなければ別の企業から購入する。

オフィスが使えなくても従業員が別の場所から仕事を続けられる。

こうした仕組みを持つことが企業のレジリエンスにつながります。

効率的な会社ほど危機に弱いことがある

平常時の効率性と危機への強さは、必ずしも同じではありません。

たとえば、一つの巨大工場に生産を集中させるとします。

複数の小さな工場を運営するより設備や人員を効率的に利用できるため、生産コストを下げられる可能性があります。

しかし、その工場が自然災害で停止すると会社全体の生産が止まってしまいます。

仕入先についても同じです。

最も安い企業一社に大量発注すれば価格交渉力を高められます。

ところが、その企業からの供給が止まれば代替先がありません。

平常時には無駄に見える余裕が、危機の際には企業を守ることがあります。

在庫を持たない経営の弱点

効率経営の代表的な考え方の一つが在庫削減です。

在庫を持つと倉庫が必要になります。

在庫に投入した資金も回収するまで利用できません。

商品や部品が古くなれば価値が下がる可能性もあります。

そのため必要な部品を必要なときに調達することで在庫を最小限にする経営が広がってきました。

平常時には非常に合理的です。

しかし、物流が止まった場合には問題が生じます。

重要部品の在庫が数日分しかなければ、供給停止から数日で工場を止めなければなりません。

一方、一定量の在庫があれば、その間に代替調達先を探すことができます。

在庫は単なるコストではなく、企業が対応策を取るための時間を買う役割も持っているのです。

すべての在庫を増やせばよいわけではない

レジリエンスを高めるために、すべての商品や部品の在庫を大量に持てばよいわけではありません。

それでは経営効率が大幅に悪化します。

重要なのは、事業を止める可能性のある部品を見つけることです。

価格が数十円しかない小さな部品でも、その部品がなければ数百万円の商品を完成できないことがあります。

その場合、その部品については多めの在庫を持つ意味があります。

反対に、簡単に代替品を購入できるものについて大量の在庫を持つ必要はありません。

部品の価格ではなく、なくなった場合に事業へどれだけ大きな影響を与えるのかで判断することが重要です。

調達先を複数持つ意味

レジリエンスを高めるもう一つの方法が調達先の分散です。

一つの部品を一社から100パーセント購入すれば、発注量をまとめることができるため価格を下げやすくなります。

しかし、その企業の工場が停止すれば自社も影響を受けます。

そこで同じ部品を複数の企業から購入します。

たとえば主力企業から70パーセント、第2の企業から30パーセントを購入する方法があります。

第2の企業の価格が多少高ければ、平常時の調達コストは増えます。

しかし、主力企業の供給が止まったとき、第2の企業へ発注を増やせる可能性があります。

複数の調達先を維持するための追加コストは、供給停止に備える保険料と考えることもできます。

地域を分散することも重要になる

企業名を分散するだけでは十分ではない場合があります。

二つの仕入先が同じ地域に工場を持っていれば、一つの自然災害で両方の工場が停止する可能性があります。

同じ国に集中していれば、輸出規制によって両社から同時に購入できなくなる可能性もあります。

そのため調達先の企業だけではなく、地域や国も分散する必要があります。

日本。

米国。

欧州。

東南アジア。

複数の地域に供給網を持つことで、一つの地域で問題が起きても別の地域から調達できる可能性があります。

世界経済のブロック化が進むほど、地域分散の重要性は高まります。

生産拠点にも余裕を持たせる

生産拠点についても同じ考え方ができます。

一つの巨大工場ですべての商品を生産する方が効率的な場合があります。

しかし、その工場が停止すると全社の生産が止まります。

複数の工場で同じ商品を生産できるようにしておけば、一つの工場が停止しても他の工場で一部を補うことができます。

もちろん設備が重複するためコストは高くなります。

それでも、工場が長期間停止した場合の売上損失まで考えれば合理的な場合があります。

レジリエンスを考えるときには、平常時の設備稼働率だけではなく、危機時に代替できる能力をどの程度持つのかも重要になります。

人材のレジリエンスも必要になる

企業のレジリエンスは工場やサプライチェーンだけではありません。

人材についても同じです。

ある重要な業務を一人の従業員しかできない会社を考えてみます。

その従業員が突然退職したり長期間働けなくなったりすると、業務が止まる可能性があります。

そこで業務を標準化し、複数の人が担当できるようにします。

情報を個人の頭の中だけに置かず、社内で共有します。

人工知能やデジタル技術を使って知識を蓄積することも考えられます。

特定の人に依存しすぎない組織を作ることもレジリエンスの一部です。

効率性重視から強靱性重視へ

企業経営では、これまで効率性が非常に重視されてきました。

余剰在庫は削減する。

余っている設備は売却する。

重複した業務は統合する。

こうした改善によって利益率を高めてきました。

しかし、余裕を完全になくしてしまうと環境変化に対応する力まで失う可能性があります。

今後必要になるのは、効率性を捨てることではありません。

どの部分では効率性を優先し、どの部分では意図的に余裕を持つのかを判断することです。

重要部品には在庫を持つ。

重要業務には複数の担当者を置く。

重要な生産には代替拠点を用意する。

こうした選択的な余裕が企業の強靱性につながります。

レジリエンスは利益率だけでは測れない

企業の経営成績を見るとき、利益率や資本効率などが重視されます。

しかし、レジリエンスへの投資は平常時の数字だけを見ると非効率に見えることがあります。

在庫を増やせば運転資金が増えます。

複数の工場を持てば設備投資が増えます。

複数の仕入先を維持すれば調達単価が上がることがあります。

それでも危機時に事業を継続できれば、長期間で見た企業価値を守ることができます。

短期的な利益率を最大化することと、長期的な企業価値を最大化することは必ずしも同じではないのです。

2050年の企業経営ではレジリエンスが競争力になる

2050年までを考えれば、企業はさまざまな変化に直面する可能性があります。

人工知能。

気候変動。

自然災害。

地政学的対立。

経済制裁。

サイバー攻撃。

新しい感染症。

どの危機がいつ起きるのかを正確に予測することはできません。

だからこそ、特定の危機だけに備えるのではなく、何が起きても対応できる企業体質を作ることが重要になります。

危機が起きたときに競合企業より早く回復できれば、それ自体が競争力になります。

レジリエンスは守りの経営だけではありません。

危機を乗り越えて市場シェアを拡大するための攻めの能力にもなり得るのです。

結論

企業のレジリエンスとは、予想外の危機が発生しても事業を継続し、被害から回復し、環境の変化に適応できる能力です。

効率性を徹底的に追求すれば、在庫、余剰設備、複数の仕入先などは無駄に見えることがあります。

しかし、その無駄に見える余裕が危機の際には企業を守ります。

重要なのは、効率性を捨てることではありません。

すべてに余裕を持つのでもありません。

事業を止める可能性のある重要な部分を見極め、そこには意図的に余裕や代替手段を持たせることです。

世界が安定しているなら、最も効率的な企業が強いかもしれません。

しかし、何が起きるか分からない世界では、最も効率的な企業が最も強いとは限りません。

多少のコストを負担してでも変化に耐えられる会社を作ることが、2050年を見据えた企業経営では重要になっていくのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 企業経営は2050年見据えて

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