NISAは、個人の長期的な資産形成を支援するための税制優遇制度です。
株式や投資信託などから得られる売却益や配当などを一定の条件のもとで非課税にできるため、個人投資家にとって重要な資産形成の仕組みになっています。
ところが、日本の個別株にはNISAと少し相性の悪い仕組みがあります。
100株を1単元として売買する単元株制度です。
NISAには年間の投資枠が用意されていても、1銘柄を買うために数100万円必要なら、その銘柄をNISAへ組み入れることは難しくなります。
NISAという非課税の器を用意するだけでは十分ではありません。
その器に入れやすい金額で株式を購入できる市場にすることも重要なのです。
NISAの投資枠とは何か
現在のNISAには、つみたて投資枠と成長投資枠があります。
年間投資枠は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円です。
合計すると年間360万円まで投資できます。
個別の上場株式は、一定の条件のもとで成長投資枠を利用して購入できます。
NISA口座で購入した株式から得られる売却益などについては、制度の要件を満たせば非課税になります。
個人が長期的に資産形成するうえで大きなメリットがあります。
NISAの枠があっても株を買えるとは限らない
ここで注意したいのが、NISAの年間投資枠と株式の最低投資額は別の問題だということです。
たとえば成長投資枠が年間240万円あったとしても、買いたい会社の最低投資額が300万円なら通常の100株単位では購入できません。
非課税枠が240万円残っていても、その銘柄を100株買うための金額が枠を上回っているからです。
つまり、
NISAでいくら投資できるか
実際にその株をいくらから買えるか
は別々に考える必要があります。
株価1万円なら100万円必要になる
日本の上場株式は100株単位で売買するのが基本です。
株価1万円の会社なら、
1万円掛ける100株
で最低投資額は約100万円になります。
株価2万円なら約200万円です。
株価3万円なら約300万円になります。
株価だけを見ると1万円や2万円でも、実際に通常の市場で購入するには100倍の資金が必要です。
この100株という単位が、NISAで個別株へ投資するときの制約になる場合があります。
高額株では成長投資枠を超えてしまう
極端な高額株では問題がさらに分かりやすくなります。
最低投資額が500万円の会社があったとします。
NISAの成長投資枠は年間240万円です。
通常の100株単位で500万円必要なら、その銘柄をそのままNISAの成長投資枠で購入することはできません。
最低投資額が年間投資枠を上回っているからです。
NISAが個人の株式投資を促す制度であっても、市場側の投資単位が大きければ利用できる銘柄が事実上制約されることになります。
最低投資額が高いと分散投資もしにくい
最低投資額の問題は、1銘柄を買えるかどうかだけではありません。
分散投資にも影響します。
たとえば成長投資枠240万円を使って複数の日本企業へ投資したいとします。
1銘柄あたり最低投資額が80万円なら、単純に考えると3銘柄程度で240万円に達します。
一方、1銘柄10万円程度なら、より多くの銘柄へ資金を振り分けることができます。
もちろん実際の投資では株価変動などがありますが、最低投資額が小さいほど資金配分の自由度は高くなります。
NISAで個別株を使った分散投資を行うためにも、最低投資額は重要です。
株式分割で最低投資額を下げられる
現在の100株制度を維持したまま最低投資額を下げる代表的な方法が株式分割です。
たとえば株価2万円の会社を考えます。
100株購入するには約200万円必要です。
この会社が1株を10株に分割すると、理論上の株価は約2000円になります。
100株購入するための金額は約20万円です。
会社全体の価値や既存株主の持分割合が株式分割だけで変わるわけではありません。
株式を細かくすることで、投資家が購入しやすい金額にするわけです。
株式分割はNISAを使いやすくする
株式分割によって最低投資額が200万円から20万円へ下がれば、NISAの成長投資枠で利用しやすくなります。
240万円の年間投資枠に対して200万円の株を1銘柄購入すれば、残る枠は40万円程度です。
一方、最低投資額が20万円なら、他の銘柄にも資金を振り分けやすくなります。
東京証券取引所も、株式分割による投資単位の引き下げには、NISAで個別株を組み入れやすくする効果があるとしています。
株式分割は株価を見やすくするだけではなく、NISAの使い勝手にも関係するわけです。
東証が最低投資額の引き下げを求める理由
東京証券取引所は上場企業に対して、望ましい投資単位として50万円未満を求めてきました。
さらに個人投資家の間では10万円程度まで最低投資額を下げてほしいというニーズが強いとして、企業に対応を促しています。
背景には個人投資家を日本株市場へ呼び込みたいという狙いがあります。
NISAによって個人の投資資金を増やしても、購入したい株式が100万円や200万円単位でなければ買えないのでは、制度の効果を十分に生かせません。
税制と市場制度の両方を使いやすくする必要があります。
それでも株式分割には限界がある
株式分割には大きな効果がありますが、企業ごとの判断に委ねられるという限界があります。
最低投資額が高くなった企業が必ず株式分割するとは限りません。
また株式分割をして最低投資額を下げても、その後株価が大きく上昇すれば再び最低投資額は高くなります。
そのたびに企業が株式分割を検討する必要があります。
市場全体で最低投資額を小さくするのであれば、より根本的な方法があります。
単元株制度そのものを見直すことです。
1株取引ならNISAの自由度が大きくなる
単元株制度を撤廃し、1株から通常の市場で取引できるようになった場合を考えてみます。
株価1万円なら約1万円から購入できます。
現在なら100株で約100万円必要です。
1株単位になれば、NISAの成長投資枠240万円を細かく配分できます。
たとえば株価1万円の異なる企業を10社選び、それぞれ1株ずつ購入するなら約10万円です。
さらに投資したければ、それぞれの銘柄を少しずつ買い増すこともできます。
100株単位では難しかった柔軟な資金配分が可能になります。
若年層ほど1株投資の効果は大きい
NISAを使って資産形成を始める若年層にとって、最低投資額は特に重要です。
投資可能な資金が10万円しかない人にとって、最低投資額100万円の株は事実上投資対象になりません。
しかし1株1万円なら購入できます。
さらに毎月1万円ずつ投資して、少しずつ株式を買い増す方法も取れます。
投資資金が十分に貯まるまで待って100株をまとめて購入する必要がなくなります。
NISAの非課税メリットを、資産の大きい人だけでなく資産形成の初期段階にいる人も利用しやすくなります。
NISAと1株投資は役割が違う
NISAと単元株制度の見直しは、それぞれ別の役割を持っています。
NISAは投資から得られる利益に対する税負担を軽くする制度です。
1株投資は、株式を購入するために必要な最低金額を小さくする仕組みです。
言い換えれば、
NISAは税金のハードルを下げる
1株投資は購入金額のハードルを下げる
という違いがあります。
両方が組み合わされることで、個人投資家が日本株へ投資しやすい環境になります。
結論
NISAと現在の単元株制度が相性の悪い面を持つ理由は、NISAに十分な年間投資枠があっても、日本株を買うには原則として100株分の資金が必要だからです。
株価1万円なら最低投資額は約100万円です。
株価3万円なら約300万円となり、NISAの成長投資枠で購入することが難しくなります。
さらに最低投資額が高ければ、NISAの資金を複数の個別株へ分散することも難しくなります。
現在は株式分割によって1株あたりの株価を下げ、最低投資額を小さくする方法があります。
しかし株式分割は企業ごとの判断です。
単元株制度そのものが撤廃されて1株から通常の市場で購入できるようになれば、株価1万円の会社なら約1万円から投資できます。
NISAは非課税という税制面から資産形成を支援する制度です。
単元株制度の見直しは、必要資金という市場制度の面から投資への入口を広げる改革です。
NISAという大きな非課税の器を用意するだけでなく、その器へ1株ずつ自由に日本企業を入れられるようにする。
単元株制度の撤廃は、NISAをより使いやすい資産形成制度にするという意味でも重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 総会資料の書面交付を廃止 企業の負担軽く
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 総会デジタル化、少額投資後押し