高齢者を狙った特殊詐欺や悪質商法では、被害に遭っている本人が自分で被害に気付けないことがあります。
認知機能が低下している場合だけでなく、巧妙な説明を信じ込み、家族や周囲の人から止められても契約や送金を続けてしまうケースもあります。
こうした被害を防ぐには、本人からの相談を待つだけでは十分ではありません。
地域のさまざまな人や機関が高齢者の異変に気付き、必要な支援へつなげる仕組みが必要になります。
そのための制度の一つが消費者安全確保地域協議会です。
自治体、消費生活センター、福祉関係者、民生委員などが連携して高齢者などを見守ることから、一般に見守りネットワークとも呼ばれています。
見守りネットワークとは何か
消費者安全確保地域協議会は、消費者被害に遭いやすい高齢者や障害者などを地域で見守るための仕組みです。
消費者安全法に基づき、地方公共団体が設置することができます。
特殊詐欺や悪質な訪問販売などの被害は、消費生活センターだけで防げるものではありません。
例えば、一人暮らしの高齢者の家に知らない業者が頻繁に出入りするようになったとしても、本人が相談しなければ消費生活センターがその事実を知ることは困難です。
一方、日常的に本人と接している民生委員や介護事業者、金融機関などであれば、異変に気付く可能性があります。
そこで、それぞれの機関が個別に対応するのではなく、地域の関係者がネットワークをつくり、消費者被害の早期発見や防止につなげます。
なぜ高齢者には見守りが必要なのか
高齢者の消費者被害には、発見が遅れやすいという特徴があります。
本人が被害に気付いていなかったり、被害に遭ったことを恥ずかしいと感じて家族に相談しなかったりすることがあるためです。
認知機能が低下している場合には、契約したこと自体を忘れてしまうこともあります。
同じ業者から繰り返し商品を購入したり、複数の業者から不要な契約を勧められたりして、被害が拡大するケースも考えられます。
特殊詐欺でも同じです。
犯人から家族や銀行員には話さないよう指示され、本人が周囲からの説得を拒むことがあります。
本人が助けを求めてから対応する仕組みだけでは、被害を防げない場合があります。
そのため、周囲が異変を発見する見守り型の仕組みが重要になります。
自治体や民生委員の役割
消費者安全確保地域協議会には、地域のさまざまな関係者が参加します。
中心になるのは自治体や消費生活センターです。
そこに福祉関係者、社会福祉協議会、地域包括支援センター、民生委員などが加わることが考えられます。
民生委員は地域住民の生活に近い場所で活動しているため、高齢者の日常生活の変化に気付きやすい立場にあります。
例えば、普段は落ち着いて生活していた高齢者が突然お金について不安を訴えるようになったり、見慣れない業者が頻繁に訪問するようになったりすることがあります。
地域包括支援センターや介護関係者であれば、認知機能や生活状況の変化に気付くことがあります。
それぞれが持つ小さな気付きを適切につなぐことで、大きな消費者被害を防げる可能性があります。
銀行や信用金庫が参加する意味
見守りネットワークに金融機関が参加することには大きな意味があります。
銀行や信用金庫は、高齢者の金融行動の変化を把握できる立場にあるからです。
例えば、普段は少額しか引き出さない人が突然多額の現金を引き出そうとしたり、これまで取引のなかった口座へ高額の振り込みをしようとしたりする場合があります。
還付金を受け取るためと言ってATMを操作しようとする高齢者がいれば、還付金詐欺を疑うこともできます。
また、通帳を何度も紛失する、同じ内容を繰り返し質問するといった変化から、認知機能の低下が疑われる場合もあります。
金融機関は医療や福祉の専門機関ではありませんが、お金の動きを通じて異変を発見できる重要な存在です。
その情報を地域の見守りにつなげることで、詐欺被害が発生する前に支援できる可能性があります。
本人同意なしで情報共有できる仕組み
消費者安全確保地域協議会の重要な特徴の一つが、一定のルールのもとで構成員間の情報共有が可能になることです。
通常、個人に関する情報を第三者へ提供する場合には、本人の同意が重要になります。
しかし、消費者被害に遭っている高齢者について、必ず本人同意を得なければ情報を共有できないとすると、見守りが機能しない場合があります。
本人自身が詐欺だと認識していなかったり、認知機能の低下によって十分な意思確認が難しかったりするためです。
消費者安全確保地域協議会では、消費者の安全確保のために必要な場合、法令に基づく仕組みの中で構成員間の情報共有を行うことができます。
これによって、本人から相談がなくても、支援が必要な人を地域で見守ることが可能になります。
情報を自由に共有できるわけではない
本人同意なしの情報共有が可能だからといって、参加者が高齢者の個人情報を自由に交換できるわけではありません。
共有する情報は、消費者被害を防止するという目的に必要な範囲で取り扱う必要があります。
誰について、どのような情報を、どの構成員の間で共有する必要があるのかを適切に判断しなければなりません。
また、協議会の構成員には、活動を通じて知った秘密を適切に取り扱うことが求められます。
見守りを理由として必要以上に高齢者の生活へ介入すれば、本人のプライバシーや自己決定を損なう可能性があります。
高齢者を守ることと、本人の権利を守ることの両方が重要です。
異変を発見した後につなげる
見守りネットワークの役割は、特殊詐欺を発見するだけではありません。
例えば、金融機関が高齢者の不自然な出金に気付いた場合、その場の振り込みを止めるだけでは根本的な解決にならないことがあります。
認知機能の低下によって財産管理そのものが難しくなっていれば、別の日に再び詐欺被害に遭う可能性があるからです。
地域包括支援センターなどにつなげることで、本人の生活状況を確認し、必要に応じて日常生活自立支援事業や成年後見制度などの利用を検討できます。
消費者被害を入口として、その背景にある生活上の問題まで支援することが重要になります。
地域のさまざまな目で高齢者を守る
高齢者の日常生活には、多くの人や事業者が関わっています。
民生委員は生活上の変化に気付くことがあります。
介護事業者は認知機能や身体状況の変化に気付くことがあります。
金融機関は不自然なお金の動きに気付くことがあります。
それぞれが見ている情報は異なります。
一つの機関だけでは単なる偶然に見える変化でも、複数の情報を組み合わせると、特殊詐欺や悪質商法の兆候が見えてくる場合があります。
見守りネットワークの強みは、こうした異なる立場の人たちを地域でつなげることにあります。
金融と福祉と消費者行政がつながる
これまで高齢者の問題は、分野ごとに対応される傾向がありました。
預金や送金の問題は金融機関、介護や生活上の問題は福祉機関、悪質商法は消費生活センターという形です。
しかし、高齢者の特殊詐欺被害には、こうした問題が重なっていることがあります。
認知機能が低下し、日常的なお金の管理が難しくなった結果として詐欺被害に遭うこともあります。
その場合、振り込みを一度止めるだけでは十分ではありません。
金融機関、福祉機関、消費者行政などが情報をつなぎ、本人の生活全体を見ながら支援する必要があります。
消費者安全確保地域協議会は、そのための地域の基盤の一つになります。
結論
消費者安全確保地域協議会は、高齢者などの消費者被害を防ぐため、自治体や消費生活センター、福祉関係者、民生委員などが連携する地域の見守りネットワークです。
本人が被害を訴えるのを待つのではなく、日常生活の中で周囲が異変を発見し、必要な支援へつなげることに大きな意味があります。
銀行や信用金庫が参加すれば、不自然な預金の引き出しや振り込みなど、お金の動きから高齢者の異変を発見できる可能性も高まります。
また、消費者の安全確保のために必要な場合には、法令に基づく仕組みの中で本人同意なしの情報共有を行えることも重要な特徴です。
ただし、見守りのためであっても個人情報を無制限に共有してよいわけではありません。
高齢者のプライバシーや自己決定を尊重しながら、必要な情報を必要な関係者につなぐことが求められます。
金融、福祉、消費者行政などがそれぞれの専門性を持ち寄り、地域全体で高齢者を見守ることが、特殊詐欺や悪質商法を防ぐ重要な仕組みになっていきます。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日朝刊 高齢者の詐欺被害防止、金融機関と福祉連携 本人同意なしで情報共有