マンションの老朽化が進む中で、最も難しい問題の一つが「誰が責任を負うのか」という点です。
外壁の剥落や設備の故障といった問題が発生したとき、その責任はどこにあるのか。区分所有という仕組みのもとでは、この問いに単純な答えは存在しません。
本稿では、責任の所在を構造的に整理します。
個人所有でありながら共同体であるという矛盾
マンションは、専有部分については個人の所有物ですが、建物全体は共有財産です。
このため、責任の構造は二層に分かれます。
・専有部分の責任は個人
・共用部分の責任は全体
問題は、多くの重大なリスクが「共用部分」に集中している点です。
例えば、外壁や基礎構造、配管などは共用部分に該当し、個人の意思だけでは修繕することができません。
つまり、リスクは共有されているにもかかわらず、意思決定は分散しているという構造になっています。
管理組合の役割と限界
共用部分の管理責任は、管理組合が担います。
管理組合は区分所有者全員で構成され、総会や理事会を通じて意思決定を行います。
しかし、ここに大きな限界があります。
・専門知識を持たない住民による運営
・役員のなり手不足
・無関心層の存在
・高齢化による判断力の低下
このような状況では、本来必要な修繕や意思決定が先送りされることになります。
つまり、制度上は責任が明確であっても、実務上は責任が果たされないという問題が生じます。
所在不明者と責任の空白
さらに問題を複雑にするのが、所在不明の区分所有者の存在です。
相続未登記や転居などにより、所有者と連絡が取れないケースが増加しています。
この場合、以下のような問題が発生します。
・総会の議決要件を満たせない
・費用負担が滞る
・意思決定が進まない
結果として、責任の所在が制度上存在していても、実際には誰も責任を果たせない状態が生まれます。
外部不経済としてのマンション問題
老朽マンションの問題は、所有者だけにとどまりません。
管理不全が続くと、
・外壁の落下
・防災上のリスク
・周辺不動産価値の低下
といった形で、周囲に影響を及ぼします。
この時点で、問題は「私的な財産管理」から「社会的な問題」へと変化します。
つまり、責任の範囲が所有者の内部に収まらなくなるのです。
行政が関与する理由
こうした背景から、行政の関与が強化されています。
従来は、マンション管理は基本的に私的自治に委ねられていました。しかし、管理不全が社会問題化したことで、一定の介入が正当化されるようになっています。
具体的には、
・助言、指導、勧告
・報告徴収
・危険な状態への対応
といった措置が可能となっています。
これは、「責任を個人に任せきれない」という現実を制度が認めた結果といえます。
改正区分所有法が示した方向性
今回の区分所有法改正は、この責任の空白を埋めることを目的としています。
・所在不明者を除外した意思決定
・決議要件の緩和
・再生手法の多様化
これにより、「責任はあるが動けない」という状態から、「動ける状態へ」と制度が転換されています。
重要なのは、責任の所在そのものを変えたわけではなく、「責任を実行できる仕組み」を整えた点です。
責任は分散されるが、結果は集中する
マンションにおける責任の特徴は、「分散しているが、結果は集中する」という点です。
誰か一人が責任を負うわけではありませんが、管理が失敗すれば、
・資産価値の下落
・居住環境の悪化
・売却困難
といった形で、すべての所有者に影響が及びます。
この構造が、マンション問題の本質です。
結論
老朽マンションの責任は、特定の誰かに帰属するものではなく、区分所有という仕組みそのものに内在しています。
そのため、
・責任を明確にすること
・責任を実行できる仕組みを整えること
・必要に応じて外部の関与を受け入れること
が不可欠となります。
マンションは「個人の所有物」であると同時に「共同体の運営対象」です。この二面性を理解しなければ、責任の問題を正しく捉えることはできません。
参考
・日本FP協会 Journal of Financial Planning 2026年4月号 区分所有法等の改正の概要
・国土交通省 マンション政策関連資料
・法務省 建物の区分所有等に関する法律 改正資料