2028年から一定の暗号資産取引について、株式などに近い申告分離課税が適用される見込みです。
ここで重要になる言葉が特定暗号資産です。
新しい税制では、暗号資産であればすべて一律に20%の分離課税になるわけではありません。
どの暗号資産を、誰を相手として取引したのかによって、分離課税の対象になるかどうかが変わります。
特に国内の登録業者と海外の取引所では、税務上の扱いが異なる可能性があります。
2028年以降の暗号資産投資を考えるうえでは、特定暗号資産という新しい区分を理解しておくことが重要になります。
特定暗号資産とは何か
2026年度税制改正では、一定の暗号資産について特定暗号資産という区分が設けられています。
対象となるのは、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等です。
そして居住者などが、暗号資産取引業を行う者に対して特定暗号資産の譲渡等をした場合、その所得を他の所得と分離して課税する仕組みとなります。
税率は所得税15%、個人住民税5%の合計20%が基本です。
つまり、新制度では暗号資産そのものだけを見るのではありません。
制度上登録された暗号資産であることや、対象となる業者を通じた取引であることなどが重要になります。
暗号資産税制が、これまでより金融規制と密接に結び付くことになります。
国内登録業者との関係が重要になる
これまで暗号資産の税金を考えるときには、どれだけ利益が出たのかという所得計算が中心でした。
新制度では、それに加えてどこで取引したのかが重要になります。
分離課税の対象として想定されているのは、暗号資産取引業を行う者に対して行う特定暗号資産の譲渡等です。
国内で暗号資産取引サービスを提供する事業者には、金融規制上の登録制度があります。
こうした規制された市場で取り扱われる暗号資産を税制上も区別することで、投資家保護と税務上の把握を組み合わせる仕組みです。
国内登録業者を利用しているからといって、その業者で行うあらゆる取引が無条件で分離課税になると考えるのではなく、対象となる暗号資産と取引内容を確認する必要があります。
ビットコインだから対象とは限らない
特定暗号資産という言葉を見ると、ビットコインやイーサリアムなど主要な暗号資産を意味するように思えるかもしれません。
しかし、単純に時価総額が大きい暗号資産を特定暗号資産と呼ぶわけではありません。
税制上重要なのは、金融商品取引業者登録簿への登録など制度上の要件です。
したがって、
有名な暗号資産だから分離課税になる。
価格が高い暗号資産だから対象になる。
国内で保有しているから対象になる。
という判断はできません。
どの暗号資産が制度上の対象となっているのかを確認する必要があります。
税制と金融規制が連動する点が、新しい暗号資産税制の大きな特徴です。
対象となる取引にも条件がある
特定暗号資産であれば、どのような取引でも分離課税になるわけではありません。
2026年度税制改正では、居住者等が暗号資産取引業を行う者に対して特定暗号資産の譲渡等をした場合について、申告分離課税を適用する仕組みが示されています。
つまり、特定暗号資産という資産の要件と、どのような相手に対して取引したのかという取引の要件の両方を見る必要があります。
これは上場株式などとは少し違った注意点です。
暗号資産は取引所だけでなく、自分で管理するウォレットを使った送金や個人間取引など、さまざまな方法で移転できます。
そのため、新しい分離課税制度では対象となる取引の範囲を確認することが非常に重要になります。
海外取引所を利用した場合はどうなるのか
特に注意したいのが海外の暗号資産取引所です。
暗号資産はインターネット上で取引できるため、日本に住みながら海外の取引所を利用することもできます。
しかし、新しい分離課税制度は、金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産等や、対象となる暗号資産取引業者との取引を前提としています。
そのため、海外取引所で売却したからといって、自動的に20%の申告分離課税が適用されるわけではありません。
分離課税の要件を満たさない取引については、従来の課税方式が残ることになります。
同じ暗号資産を売却した場合でも、国内の対象業者を通じた取引なのか、それ以外の取引なのかによって課税方式が異なる可能性があるわけです。
国内と海外で税率が変わる可能性がある
例えば、ある人が同じ種類の暗号資産を国内の対象業者と海外取引所の両方で保有しているとします。
国内の対象業者を通じた取引について分離課税の要件を満たせば、その利益には所得税15%、住民税5%を基本とする税率が適用されます。
一方、海外取引所などを利用した取引が新制度の対象にならなければ、その利益については別の課税関係を検討する必要があります。
結果として、同じ人が同じ暗号資産を売却しても、取引方法によって異なる税務処理が必要になる可能性があります。
これまで以上に、取引所ごとの取引記録を区分して管理することが重要になります。
なぜ国内登録業者を中心とした制度にするのか
分離課税の対象を一定の登録業者との取引に限定することには理由があります。
一つは投資家保護です。
暗号資産を金融商品として扱う以上、一定のルールに従って事業を行う業者を通じた取引を制度の中心にする必要があります。
もう一つが税務当局による取引の把握です。
新制度では、暗号資産取引業者に対して税務署への報告制度も設けられます。
その年に特定暗号資産の取引を行った人について、氏名、住所、個人番号、取引した特定暗号資産の名称など一定の情報を記載した報告書を、翌年1月31日までに税務署長へ提出する仕組みです。
分離課税という税制上のメリットと、取引情報を把握する仕組みが一体となっていることが分かります。
マイナンバーによる取引情報の把握も進む
報告書には個人番号も記載されることになります。
つまり、税務署側では納税者と暗号資産取引情報を結び付けやすくなります。
これは株式投資などの金融取引に近い仕組みです。
暗号資産について分離課税を認める一方で、適正な申告を確保するための情報インフラも整備するわけです。
これまで暗号資産については、複数の取引所やウォレットを利用すると取引全体を把握することが難しいという問題がありました。
制度整備が進めば、国内登録業者を通じた取引について税務当局が把握できる情報は増えていくことになります。
自分のウォレットを使う場合にも注意する
暗号資産では、取引所で購入した暗号資産を自分で管理するウォレットへ移動することがあります。
自分の取引所口座から自分のウォレットへ単純に移しただけであれば、それだけで直ちに売却益が発生するわけではありません。
しかし、その後ウォレットから商品購入に利用したり、他人へ譲渡したり、別の暗号資産と交換したりすれば、課税関係が生じる可能性があります。
新制度では、国内登録業者の中だけで完結する取引と、外部ウォレットを経由する取引とでは、記録管理の難しさも変わります。
いつ取得し、どのウォレットへ移し、その後どのように処分したのかを自分で説明できるようにしておく必要があります。
特定暗号資産とそれ以外を分けて管理する時代になる
2028年以降は、暗号資産を一括して管理するだけでは不十分になる可能性があります。
特定暗号資産に該当するのか。
対象となる暗号資産取引業者を通じた取引なのか。
それ以外の取引なのか。
どの取引に分離課税が適用されるのか。
こうした区分が所得計算に直接影響します。
複数の国内取引所や海外取引所、ウォレットを利用する人ほど、取得価額や売却価額だけではなく取引経路まで記録しておくことが重要になります。
税制優遇と市場規制はセットで考える
特定暗号資産という制度から見えてくるのは、日本の暗号資産政策の方向性です。
暗号資産について株式などに近い20%の分離課税を認める。
一方で、金融商品として規制し、登録された業者を通じた市場を整備する。
さらに取引業者から税務署へ取引情報を報告させる。
つまり、税負担を金融商品に近づけるだけではありません。
投資家保護、市場監視、税務当局への情報提供を含め、暗号資産市場全体を既存の金融市場に近い仕組みへ移行させようとしているのです。
結論
特定暗号資産とは、2028年以降の暗号資産税制を理解するうえで重要になる新しい区分です。
2026年度税制改正では、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等を特定暗号資産とし、一定の暗号資産取引業者に対して譲渡等をした場合、その所得を他の所得と分離して20%の税率で課税する仕組みが設けられています。
重要なのは、暗号資産ならすべて分離課税になるわけではないことです。
暗号資産の種類だけではなく、制度上の登録状況や取引相手などによって課税関係が変わります。
特に海外取引所や外部ウォレットを利用している場合には、国内登録業者での取引と同じ税制が適用されるとは限りません。
2028年以降の暗号資産投資では、何を買ったのかだけではなく、どこで、誰を相手に、どのように取引したのかまで税金に影響する時代になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 資産運用の税、ルール点検 暗号資産、28年に税率変更
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 金融商品として規制