2027年4月から、軽減税率の対象となる飲食料品の消費税率を8パーセントから1パーセントへ引き下げることが予定されています。
食品の税率引下げというと、スーパーや飲食店、消費者への影響が注目されがちです。
しかし、食品をつくる農家や農業法人にも大きな影響があります。
農家は農産物を販売する一方で、肥料、農薬、農業機械、資材、燃料、各種サービスなどを購入しています。
売上側の税率が1パーセントへ大幅に下がっても、すべての仕入れの税率が同じように1パーセントへ下がるわけではありません。
この売上と仕入れの税率差が、農家の消費税計算を大きく変える可能性があります。
農家も消費税と無関係ではない
農業を営んでいるからといって、消費税がかからないわけではありません。
農家が国内で農産物を販売すれば、その取引について消費税の課税関係が生じます。
現在、軽減税率の対象となる飲食料品の販売には8パーセントが適用されています。
今回の税率引下げが実施されれば、対象となる農産物の販売には原則として1パーセントが適用されることになります。
課税事業者である農家にとっては、売上時に計算する消費税額が大幅に小さくなります。
農業にはさまざまな仕入れがある
一方、農家は農産物を生産するために多くの支出をしています。
肥料や農薬があります。
農業機械や設備があります。
ビニールハウスなどに使う資材があります。
修理費、運送費、通信費なども発生します。
これらのすべてが、農産物の販売と同じ1パーセントになるわけではありません。
標準税率が適用される仕入れや経費もあります。
そのため、農産物の売上税額だけが大幅に減少する一方、仕入れや経費で負担する消費税額は相対的に大きく残る可能性があります。
本則課税では還付が生じる可能性がある
本則課税では、売上にかかる消費税額から、控除できる仕入税額を差し引いて納付税額を計算します。
例えば単純化して、農産物の販売にかかる売上税額が30万円だったとします。
一方、肥料や機械、資材などについて控除できる仕入税額が50万円あったとします。
この場合、仕入税額の方が20万円大きくなります。
一定の要件を満たせば、その差額が還付につながる可能性があります。
税率が8パーセントから1パーセントへ下がれば、こうした状況が生じる農家が増える可能性があります。
農業機械を購入する年は影響が大きくなりやすい
農業では、毎年同じ金額の設備投資をするわけではありません。
トラクターや収穫機など、高額な農業機械を購入する年があります。
ビニールハウスなどの設備を新設する年もあります。
こうした年には仕入れや設備投資にかかる消費税額が大きくなります。
一方、農産物の販売にかかる税率が1パーセントになれば、売上税額は小さくなります。
そのため設備投資の時期によっては、本則課税による還付額が大きくなる可能性があります。
免税事業者では還付を受けられない
農家の中には、一定の要件を満たして消費税の納税義務が免除されている免税事業者もいます。
免税事業者であれば、原則として消費税の申告や納税をする必要はありません。
しかし、仕入れや設備投資で消費税を負担しても、免税事業者のままでは原則として消費税申告による還付を受けることはできません。
そこで税率1パーセントへの引下げを契機として、課税事業者を選択して本則課税による申告を行うことを検討する農家が出てくる可能性があります。
免税でいることが必ず有利とは限らなくなるわけです。
簡易課税の農家にも影響する
簡易課税を適用している農家も注意が必要です。
簡易課税では、実際の仕入税額をそのまま使うのではなく、売上税額と事業区分に応じたみなし仕入率によって仕入税額控除を計算します。
そのため、農業機械などを購入して実際には多額の消費税を負担していても、その金額がそのまま税額計算に反映されるわけではありません。
税率引下げによって売上税額が大幅に減ると、本則課税との計算結果の違いがこれまで以上に重要になる可能性があります。
簡易課税には特例が設けられる
今回の税率引下げでは、簡易課税についても特例を設ける案が示されています。
1パーセントが適用される対象飲食料品の売上については、事業区分にかかわらず、売上税額と同額を仕入税額として控除する考え方です。
例えば売上税額が10万円なら、この部分について10万円を控除するため、納付税額は実質的にゼロになります。
これによって、簡易課税を利用している食品関連事業者に税率引下げ後も納税額が残る問題を抑えます。
農産物を販売する農家にとっても重要な特例になります。
それでも本則課税とは同じにならない
ただし、この簡易課税の特例によって本則課税とまったく同じ結果になるわけではありません。
簡易課税の特例では、1パーセントの売上税額と同額まで控除することで、その部分の納付税額をゼロにする考え方です。
一方、本則課税では実際の仕入税額を使います。
実際の仕入税額が売上税額を上回れば、還付が生じる可能性があります。
農業機械などの設備投資が大きい農家では、この違いが重要になる場合があります。
本則課税への移行支援も重要になる
今回示された対応では、農林漁業者や食品関連事業者などが簡易課税や免税から本則課税へ移行する場合の支援も検討されています。
課税方式を変更すれば、消費税の計算方法や帳簿管理が変わります。
仕入税額控除を受けるためには、帳簿やインボイスなどについても適切な対応が必要です。
これまで簡易課税や免税で比較的簡単な税務処理をしていた小規模な農家にとって、本則課税への移行は事務負担の増加につながります。
そのため相談対応や税理士費用などを含めた支援が重要になります。
税額だけで課税方式を決めない
本則課税なら還付を受けられる可能性があるからといって、すべての農家が本則課税へ移行すればよいわけではありません。
設備投資が少ない農家もあります。
仕入れの構成も農家ごとに異なります。
本則課税に変更すれば、実際の仕入税額を把握するための経理事務も増えます。
また、課税事業者を選択した場合の継続適用などにも注意が必要です。
売上、仕入れ、設備投資、事務負担を複数年度で比較することが重要になります。
農家にとって税率引下げは販売価格だけの問題ではない
食品の消費税率が1パーセントになると聞くと、農産物の販売価格がどう変わるかに目が向きます。
しかし農家の経営から見ると、もっと広い問題です。
売上税額が変わります。
仕入税額との関係が変わります。
免税事業者のままでよいのかという問題があります。
簡易課税を続けるのか、本則課税へ移るのかという選択もあります。
農業機械の購入時期も税額に影響する可能性があります。
消費税率の引下げは、生産者の税務や資金繰りにもつながっているのです。
結論
2027年4月から飲食料品の消費税率が8パーセントから1パーセントへ下がれば、農産物を販売する農家にも大きな影響が及びます。
農産物の売上税額は大幅に減る一方、肥料、農薬、農業機械、資材などには標準税率が適用される取引もあります。
本則課税では、売上税額より控除できる仕入税額が大きくなり、還付が生じる可能性があります。
一方、免税事業者は原則として消費税申告による還付を受けられず、簡易課税では実際の仕入税額をそのまま計算に使いません。
そのため税率1パーセントへの引下げを契機として、免税、簡易課税、本則課税のどの仕組みを利用するのかがこれまで以上に重要になります。
特に高額な農業機械や設備を購入する農家では、課税方式によって消費税の計算結果が大きく異なる可能性があります。
食品の税率引下げは、消費者がスーパーで支払う価格だけの問題ではありません。
食品を生産する農家の税務、設備投資、資金繰りまで含めて影響する制度変更なのです。
参考
税のしるべ 2026年8月28日 令和8年8月31日号 自民税調が消費税率引下げに伴う税制上の課題対応を議論、中間申告制度の特例案など示す
税のしるべ 2026年9月4日 令和8年9月7日号 自民税調で消費税率引下げ時の特例案を提示、簡易課税制度の特例など3案