証券取引所のシステム障害とは何か 市場インフラ停止にどう備えるのか編

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株式市場は、現在では巨大な電子システムによって動いています。投資家の注文は証券会社を経由し、取引所のシステムで瞬時に処理されます。

そのため、取引所のシステムに障害が起きると、単なるITトラブルでは済みません。売買そのものが停止し、多くの投資家や証券会社、上場企業に影響が及ぶ可能性があります。

日本では2020年に東京証券取引所で大規模なシステム障害が発生し、終日売買できない事態となりました。この経験は、一つの市場に売買が集中するリスクと、PTSなど代替市場の重要性を改めて浮き彫りにしました。

証券取引所のシステム障害とは何か

証券取引所のシステム障害とは、株式などの注文受付や売買成立、価格配信などを行うシステムが正常に機能しなくなることです。

現在の株式市場では、

注文受付

注文照合

約定処理

価格配信

売買停止

取引参加者との接続

など、多くの処理がコンピューターによって行われています。

このどこかに重大な障害が起きれば、正常な取引ができなくなる可能性があります。

株式市場は巨大なITインフラ

かつての証券取引所では、取引所内に集まった人が声を出して売買を行う立会場が存在しました。

現在ではほぼ全面的に電子化されています。

投資家がスマートフォンから株式の買い注文を出すと、その注文は証券会社のシステムを経由して取引所へ送られます。

取引所では膨大な注文を高速処理し、

どの注文を成立させるか

何円で約定したか

残っている注文はいくつか

といった情報を更新します。

日本株市場全体を支えているのは、巨大な情報システムなのです。

システム障害が起きる原因

取引所のシステム障害にはさまざまな原因があります。

例えば、

機器の故障

ソフトウェアの不具合

ネットワーク障害

データ処理異常

設定ミス

サイバー攻撃

電源障害

などです。

金融インフラでは障害を想定してバックアップ設備を整備します。

しかし、バックアップが正常に切り替わらなかったり、設計上想定していなかったトラブルが発生したりすれば、取引停止につながることがあります。

2020年の東証システム障害

日本で象徴的な事例となったのが、2020年10月1日に発生した東京証券取引所のシステム障害です。

東証では株式売買システムに障害が発生し、その日のすべての株式売買が停止しました。

結果として投資家は丸一日、東証で株式を売買できませんでした。

日本を代表する株式市場が終日停止するという異例の事態です。

この出来事は、金融市場が一つの巨大システムに依存するリスクを強く意識させました。

なぜ終日売買停止になったのか

市場を途中から再開することは簡単ではありません。

株式市場では、すべての投資家が公平な条件で取引できることが重要です。

一部の証券会社だけが接続できる状態で市場を再開すれば、利用できない投資家が著しく不利になります。

また、

障害発生前の注文をどう扱うか

注文を取り消せるのか

どの価格から取引を再開するのか

証券会社のシステムと正常に接続できるか

など、多くの問題があります。

そのため取引所には、単にシステムを復旧するだけでなく、公平な市場を再開できるかという判断も求められます。

市場が止まると何が困るのか

株式市場が停止すると、投資家は保有株を売却できません。

例えば市場が止まっている間に海外で大きな金融危機が発生したとしても、日本株を売ることができません。

反対に重大な好材料が出ても株式を購入できません。

証券会社や機関投資家にも影響します。

株式を使ったヘッジ取引や裁定取引ができなくなり、リスク管理が難しくなるからです。

市場停止は、単に株を売買できないという問題にとどまりません。

価格発見機能も止まる

証券取引所には価格発見機能があります。

多くの投資家が売り注文と買い注文を出し、その需給によって株価が形成されます。

市場が止まれば、この価格形成も止まります。

海外市場や為替相場では大きな変化が起きているのに、日本株だけ価格が更新されないという状態になることがあります。

取引再開時には、それまでに蓄積された情報が一気に株価へ反映されるため、大きな価格変動が起きる可能性もあります。

一つの市場への集中リスク

日本株市場では長年、東証に取引が集中してきました。

これは流動性という意味では大きなメリットがあります。

大量の売り注文と買い注文が一カ所に集まれば、売買が成立しやすくなり、価格発見機能も効率的に働きます。

一方で、東証が停止すると市場全体に非常に大きな影響が及びます。

これを市場インフラの集中リスクとして考えることができます。

一つの巨大市場に依存することには、効率性と引き換えに脆弱性が生まれる側面があります。

PTSはバックアップ市場になれるのか

そこで注目されるのがPTSです。

PTSは東証とは異なるシステムで運営されています。

仮に東証でシステム障害が発生しても、PTS自体が正常に稼働していれば取引を継続できる可能性があります。

つまりPTSには、

東証との競争相手

という役割だけでなく、

東証停止時の代替市場

としての役割も期待できます。

金融庁がPTSの成長を促してきた背景には、こうした市場インフラの強靱化という観点もあります。

ただしPTSがあれば安心とは限らない

もっとも、PTSが存在するだけで東証停止時の問題がすべて解決するわけではありません。

普段から東証に大量の流動性が集中している場合、突然PTSへすべての注文を移すことは簡単ではありません。

例えば、

証券会社がPTSへ接続しているか

PTSで十分な売買量を処理できるか

投資家の注文を自動的にPTSへ切り替えられるか

市場価格をどのように形成するか

といった問題があります。

バックアップ市場として機能させるには、平常時から一定の取引量と接続環境を持つ必要があります。

証券会社側の対応も重要

市場インフラの強靱化は、取引所だけの問題ではありません。

投資家は証券会社を通じて注文を出すため、証券会社のシステムも重要です。

証券会社には、

複数市場への接続

障害発生時の注文処理

バックアップシステム

顧客への情報提供

などの対応が求められます。

東証が止まっても証券会社がPTSへ注文を送れなければ、投資家は代替市場を利用できません。

市場全体のレジリエンスには、取引所、PTS、証券会社を含めた仕組みが必要です。

SORとの関係

複数市場をつなぐうえで重要なのがSORです。

通常時にはSORは、

東証

PTS

その他の取引場所

を比較し、有利な市場へ注文を振り分けます。

こうした仕組みが発達していれば、一つの市場に障害が起きた場合に、正常に動いている市場へ注文を振り分けやすくなります。

もちろん実際には障害時専用のルールや制御も必要ですが、複数市場へ接続された市場構造そのものが、代替経路を持つことにつながります。

流動性の分散には別の問題もある

一方、バックアップのために複数市場を育成すれば、市場分断という別の問題が生じます。

東証に集まっていた注文がPTSへ分散すれば、一つの市場あたりの流動性が低下する可能性があります。

つまり、

平常時の効率性を高めるなら流動性を集中させたい

障害への強さを高めるなら複数市場を育てたい

というトレードオフがあります。

市場制度では、この二つをどう両立するかが重要です。

サイバー攻撃への備えも重要

近年は、システム障害だけでなくサイバー攻撃も金融市場の大きなリスクです。

取引所がサイバー攻撃を受け、

システムが停止する

注文データが破壊される

情報が漏えいする

といった事態が起きれば、市場への影響は極めて大きくなります。

そのため取引所には、

サイバーセキュリティ対策

データのバックアップ

代替拠点

復旧訓練

などが求められます。

市場レジリエンスを考える場合、自然災害だけでなくデジタル面のリスクも重要になっています。

災害への備えも欠かせない

日本では地震や台風など大規模災害への備えも必要です。

取引所の主要拠点が被災した場合でも市場を継続できるよう、

遠隔地のバックアップ設備

電源の多重化

通信回線の多重化

代替オフィス

などを整備する必要があります。

金融市場は経済活動の基盤であるため、大規模災害時にも可能な限り機能を維持することが求められます。

PTS制度改革との関係

金融庁がPTS制度の見直しを検討している背景には、PTSの取引量が急速に拡大していることがあります。

PTSの成長を認めれば、東証との市場間競争が進みます。

同時に、東証にトラブルが起きた際の代替市場としての能力も高まる可能性があります。

そのためPTS政策は、

競争政策

だけではなく、

市場インフラ政策

として見ることも重要です。

PTSが日本株市場の重要な一部になるのであれば、平常時の競争だけでなく、非常時にどのような役割を担うのかも制度上検討する必要があります。

結論

証券取引所のシステム障害とは、注文受付や約定処理、価格配信など株式市場を支える電子システムが正常に動かなくなることです。

2020年の東証システム障害では、株式市場が終日停止し、一つの取引所に売買が集中するリスクが明らかになりました。

東証への集中は高い流動性と効率的な価格形成を実現する一方、障害発生時の影響を大きくするという弱点もあります。

PTSが一定の取引量を持ち、証券会社が複数市場へ接続する環境が整えば、一つの市場が停止した場合に別の市場が補完する可能性があります。

ただし、本当にバックアップ市場として機能させるには、十分な流動性、システム処理能力、証券会社との接続、市場監視などを平常時から整えておく必要があります。

PTS制度改革を考える際には、市場間競争による価格やサービスの改善だけでなく、日本の株式市場を止まりにくくするという市場インフラの強靱化も重要な視点になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私設取引「PTS」、制度見直し検討 金融庁 シェア10%上限引き上げ議論 売買活況で対応急ぐ

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