自社株対策は評価改正前に急いだ方がよいのか 制度が決まる前に動くリスクを考える編

税理士
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非上場株式の評価方法について、国税庁で抜本的な見直しの議論が進んでいます。

新しい評価方式では、会社の収益力をより強く株式評価へ反映する可能性があります。

そのため、利益を安定して出している会社や、純資産を長年蓄積してきた会社では、自社株評価額が上昇するのではないかという懸念があります。

そうなると経営者が考えたくなるのが、評価方法が変わる前に後継者へ株式を移した方がよいのではないかということです。

しかし、制度の詳細がまだ確定していない段階で、税負担だけを理由に株式移転を急ぐことにはリスクがあります。

自社株は単なる金融資産ではありません。

会社の経営権そのものに関係する財産だからです。

改正前に株式を移したくなる理由

仮に現在の評価方法では自社株が1億円、新しい評価方法では2億円になるとします。

同じ株式を後継者へ贈与するのであれば、評価額が低いうちに移した方が税負担を抑えられる可能性があります。

このため、制度変更によって評価額が上がると予想される場合、改正前の贈与を検討したくなるのは自然です。

特に自社株の評価額が大きい会社ほど、評価方法の違いによる影響も大きくなる可能性があります。

ただし新制度はまだ確定していない

最初に確認したいのは、今回の評価見直しについて、最終的な制度がまだ固まっていないことです。

残余利益方式などの考え方が議論されていますが、評価額を大きく左右する還元率などの具体的な数値が重要になります。

経過措置が設けられるのかも重要です。

正式な施行時期も確認する必要があります。

つまり、現段階では自社株が新制度で必ず大幅に上昇すると断定することはできません。

制度の方向性だけを見て、大きな財産移転を急ぐことには慎重さが必要です。

自社株の贈与は簡単にやり直せない

現金を銀行口座間で移すことと、自社株を後継者へ贈与することは意味が違います。

株式を移せば、株主が変わります。

議決権も移る可能性があります。

会社の重要事項を決める力にも影響します。

経営者が後になって「やはり株式を戻したい」と考えても、簡単に元へ戻せるとは限りません。

再び株式を移転すれば、別の税務上の問題が生じる可能性があります。

そのため、自社株の移転は税金だけで判断するものではありません。

経営権まで一緒に移る可能性がある

株式には財産価値だけでなく議決権があります。

後継者へ株式を大量に移せば、会社の経営権も後継者へ移る可能性があります。

まだ後継者として十分な経験を積んでいない段階で株式を渡しすぎると、経営上の問題が生じることも考えられます。

先代経営者が引き続き経営を主導したいのに、株式上は後継者の方が強い権限を持つという状況になることもあります。

事業承継では、経営の承継と株式の承継をどのようなタイミングで進めるのかが重要です。

贈与税だけを見てはいけない

改正前の生前贈与を検討するとき、どうしても贈与税に目が向きます。

しかし、考えるべきなのは贈与税だけではありません。

将来の相続税があります。

他の財産との関係があります。

後継者以外の相続人との関係もあります。

会社の議決権構成も変わります。

事業承継税制を利用するのかどうかも関係します。

つまり、自社株の移転は相続全体と会社経営全体の中で考える必要があります。

他の相続人とのバランスも重要

例えば、子どもが3人いて、そのうち1人だけが会社を継ぐとします。

自社株の大部分を後継者へ生前贈与すれば、後継者だけが大きな財産を受け取ることになります。

その後の相続で、他の相続人との財産配分が問題になる可能性があります。

会社の承継という観点では、後継者へ議決権を集中させることに合理性がある場合があります。

一方で、家族全体の相続という観点では、他の財産をどう配分するのかも考えなければなりません。

税負担を抑えるためだけに株式を急いで移すと、後から家族間の調整が難しくなることがあります。

株価が本当に今後上がるとは限らない

新しい評価制度が導入されても、すべての会社の評価額が上昇するとは限りません。

会社の利益、純資産、業種などによって影響は異なります。

また、将来会社の業績そのものが変化する可能性もあります。

例えば、現在は高収益でも、数年後に設備投資によって利益が低下することがあります。

逆に、現在は利益が少なくても、事業が成長して評価額が上昇することもあります。

制度変更だけでなく、会社自身の将来も考える必要があります。

評価改正前なら必ず有利とは限らない

「旧制度のうちに移せば必ず得をする」という考え方には注意が必要です。

仮に新制度で評価額が上がったとしても、経過措置や事業承継税制によって税負担が緩和される可能性があります。

逆に、改正前に急いで贈与したことで、現在多額の贈与税が発生する可能性もあります。

最終的にどちらが有利なのかは、制度全体を比較しなければ判断できません。

事業承継税制を利用する場合

事業承継税制を利用する場合には、通常の贈与とは異なる検討が必要になります。

一定の要件を満たせば、非上場株式に係る贈与税や相続税について納税猶予を受けられる仕組みがあります。

自社株評価額が高い会社では、この制度の利用によって負担を大きく抑えられる可能性があります。

一方で、制度には要件や手続きがあります。

後継者の要件、会社の要件、株式保有などを確認する必要があります。

したがって、評価改正だけを理由に通常の贈与を急ぐ前に、事業承継税制を含めた比較が必要です。

持株会社の設立を急ぐべきなのか

自社株対策として、持株会社の設立を検討するケースもあります。

持株会社には、グループ会社の株式をまとめたり、経営権を整理したりする役割があります。

しかし、持株会社を作れば必ず自社株評価が下がるというものではありません。

組織再編には法人税や所得税、株式評価など複数の論点があります。

さらに、今回の評価制度変更によって持株会社の株式評価にも影響が出る可能性があります。

制度の詳細が分からない段階で、評価対策だけを目的として組織再編を急ぐことには慎重さが必要です。

配当を増やして株価を下げればよいのか

内部留保が増えると純資産も増えるため、配当によって会社から資金を外へ出せば自社株評価を下げられるのではないかと考えることもあります。

しかし、これも単純ではありません。

配当そのものが株式評価の要素になる場合があります。

また、多額の配当を出せば会社の資金が減ります。

設備投資や運転資金として必要な資金まで社外へ流出させれば、会社の経営基盤を弱くする可能性があります。

税務対策のために本来必要な会社資金を減らすことが適切なのかは、慎重に考える必要があります。

役員退職金なども経営上の合理性が必要

事業承継の時期には、先代経営者へ役員退職金を支給することがあります。

退職金の支給によって会社の利益や純資産に影響が生じるため、自社株評価にも関係する場合があります。

しかし、退職金は自社株評価を下げるためだけに支給するものではありません。

実際に退職するのか。

退職金額に合理性があるのか。

会社の資金繰りに問題がないのか。

こうした点を確認する必要があります。

節税策と租税回避は違う

税制で認められた制度を適切に利用して税負担を抑えること自体が問題なのではありません。

しかし、今回の評価見直しでは、評価制度を利用した租税回避への対応も議論されています。

そのため、形式だけを整えて株価を一時的に低くするような取引については、今後さらに厳しく見られる可能性があります。

財産評価基本通達6項など、通常の評価方法とは異なる評価を行う仕組みも存在します。

自社株対策では、取引の経済合理性も重要になります。

「税金を安くすること」が事業承継の目的ではない

事業承継の最大の目的は、会社を次の世代へ安定して引き継ぐことです。

税負担を軽くすることは重要ですが、それ自体が最終目的ではありません。

税金を減らすために経営権を早く渡しすぎる。

税金を減らすために会社の資金を減らす。

税金を減らすために不自然な組織再編を行う。

こうした行動によって会社経営に問題が生じれば、本末転倒です。

今できるのはシミュレーション

制度が確定する前でも、できることがあります。

現在の自社株評価額を計算します。

現在贈与した場合の税負担を試算します。

将来相続した場合も試算します。

事業承継税制を利用した場合も確認します。

さらに、新しい評価方法について具体的な数字が示された段階で、新旧制度を比較します。

こうした複数のシナリオを用意しておくことで、制度が決まった後に冷静な判断ができます。

「何もしない」という選択肢も比較する

事業承継対策を考えるときには、「今すぐ何かをする」案だけを比較するのでは不十分です。

今は何もしない。

新制度の内容を確認してから動く。

数年後に株式を移す。

相続まで保有する。

こうした選択肢も比較する必要があります。

結果として、制度が明らかになるまで現状を維持することが最も合理的な場合もあります。

後継者との話し合いが先になる場合もある

自社株を後継者へ移す前に、後継者本人が本当に会社を継ぐ意思を持っているのかも確認する必要があります。

株式を移してから後継者が会社を辞めたいと言い出せば、大きな問題になります。

経営能力だけでなく、本人の意思、家族の理解なども重要です。

事業承継は、税務上の数字だけで完成するものではありません。

改正前に確認したいこと

評価方法の変更が気になる場合でも、まず確認したいのは現在の会社の状況です。

経営者の株式保有割合。

現在の自社株評価額。

会社の利益と純資産。

後継者。

承継予定時期。

他の相続人。

事業承継税制の利用可能性。

納税資金。

これらを整理したうえで、新しい制度の内容を当てはめて考える必要があります。

最終的には会社ごとに判断が違う

評価改正前に株式を移した方がよい会社もあるかもしれません。

一方、制度確定を待った方がよい会社もあります。

事業承継税制を利用した方がよい会社もあります。

相続で引き継ぐ方が合理的な場合もあります。

会社の財務内容、家族構成、後継者、経営者の年齢、株式評価額などによって判断は変わります。

したがって、一律に「改正前に贈与すべき」と考えることはできません。

結論

非上場株式の評価方法が大きく見直される可能性がある以上、改正前の自社株対策を検討することには意味があります。

しかし、それと「今すぐ株式を移すべき」という話は同じではありません。

現段階では、新しい評価方法の具体的な還元率や経過措置、正式な施行時期など、重要な部分が確定していません。

さらに、自社株の贈与は税金だけでなく、議決権、経営権、家族間の財産配分、将来の相続にも影響します。

一度実行すれば簡単には元へ戻せない場合もあります。

だからこそ、今の段階で重要なのは駆け込みで株式を動かすことではなく、現在の自社株評価や事業承継計画を整理し、新旧制度を比較できる準備をしておくことです。

制度の詳細が示されたときに、

今贈与する

新制度後に贈与する

事業承継税制を利用する

相続まで保有する

といった複数の選択肢を比較して判断することが重要です。

自社株対策の目的は、税金だけを少なくすることではありません。

会社を次の世代へ安定して引き継ぐことです。

その目的を見失わずに、制度改正への対応を考える必要があります。

次回は、このシリーズの最後として、非上場株式評価の大改正に中小企業オーナーはどう備えるべきなのかを取り上げます。

現在の自社株評価、後継者、承継時期、税理士との情報共有など、今から確認しておきたい実務ポイントをまとめます。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く

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