非上場株式の評価見直しは、単なる制度変更ではなく、自社株対策の前提そのものを変える可能性があります。
これまでの対策は、評価通達に基づく一定のロジックのもとで最適化されてきました。しかし、評価の軸が変わることで、その前提は大きく揺らぎます。
本稿では、これまでのシリーズを踏まえ、今後の自社株対策をどのように設計すべきかを整理します。
従来の自社株対策の基本構造
まず、これまでの自社株対策の基本は以下の通りです。
・類似業種比準方式を前提とした株価コントロール
・利益・配当の調整による評価引下げ
・評価ルールを前提としたスキーム設計
・評価通達の範囲内での最適化
この構造は、「評価ルールをどう使うか」という発想に基づいています。
見直しによって崩れる前提
今回の見直しで最も重要なのは、「評価の軸」が変わる点です。
想定される変化は以下の通りです。
・収益要素から資産要素へのシフト
・類似業種比準方式への依存低下
・評価の実態適合性の重視
これにより、
・利益操作による株価コントロール
・形式的な評価対策
といった従来手法の有効性は低下する可能性があります。
新しい自社株対策の基本原則
今後の対策は、従来とは異なる原則に基づく必要があります。
資産構造を前提に考える
評価が資産ベースに近づく場合、
・何を保有するか
・どこに資産を持つか
が直接株価に影響します。
つまり、
・資産の持ち方そのものが対策になる
という発想への転換が必要です。
一時的操作から構造設計へ
従来は、
・決算対策
・一時的な利益調整
といった短期的対応が有効な場面もありました。
しかし今後は、
・グループ構造の設計
・資産と事業の分離
・長期的なバランスの最適化
といった「構造的な対応」が中心になります。
税務最適化から全体最適へ
自社株対策は税務だけで完結するものではありません。
・事業承継
・経営戦略
・資金繰り
・ガバナンス
との整合性が不可欠です。
税額最小化だけを目的とした対策は、長期的には不合理となる可能性があります。
実務で求められる具体的対応
今後の実務において重要となる対応は以下の通りです。
株価の定期的な再評価
・複数の評価方式による試算
・資産・収益の変動の反映
・将来シナリオの検証
これにより、リスクの早期把握が可能になります。
資産ポートフォリオの見直し
・過大な内部留保の再検討
・遊休資産の整理
・資産と事業の切り分け
評価の観点からも、資産の質と構成が重要になります。
承継戦略の再設計
・株式移転のタイミング
・後継者への配分
・税負担と経営権のバランス
制度変更を前提とした再設計が必要です。
説明可能性の確保
今後は、
・なぜその構造なのか
・なぜその取引を行ったのか
を説明できることがより重要になります。
税務調査の観点からも、合理性の確保は不可欠です。
「何もしないリスク」の再認識
今回の見直しにおいて、最も注意すべきは「何もしないこと」です。
・評価上昇に無防備
・承継時の税負担増
・対策機会の逸失
といったリスクが現実化する可能性があります。
制度変更は避けられませんが、対応の有無は選択できます。
今後の実務のキーワード
今後の自社株対策を考える上でのキーワードは以下の通りです。
・構造
・バランス
・説明可能性
・シナリオ思考
これらはすべて、「単一の最適解が存在しない時代」に対応するための視点です。
結論
非上場株式評価の見直しは、自社株対策の「技術」を変えるだけでなく、「考え方」を変えるものです。
これからの基本戦略は、
・評価ルールに依存しない
・資産と事業の構造で考える
・短期ではなく長期で設計する
という方向にシフトします。
重要なのは、「制度に適応する」のではなく、「制度変化を前提に設計する」という発想です。
自社株対策は、もはや税務テクニックではなく、経営戦略そのものの一部として再定義される段階に入っています。この視点を持つことが、今後の最も重要な差別化要因となります。
参考
・税のしるべ 2026年4月20日
インタビュー 私が見た 税を巡る 点と線 北本高男氏に非上場株式の相続税評価見直しの行方を聞く