特例承継計画とは何か 事業承継税制を使う前に都道府県へ計画を出す理由編

税理士
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事業承継税制の特例措置を利用すると、後継者が先代経営者から非上場株式を相続や贈与によって取得した場合、一定の要件のもとで相続税や贈与税の納税猶予を受けることができます。

ただし、会社の株式を引き継いだ後に税務署へ申告すれば、誰でも自動的に特例措置を利用できるわけではありません。

重要になるのが「特例承継計画」です。

特例承継計画は、どの会社が、誰から誰へ事業を引き継ぎ、その後どのように会社を経営していくのかを示す計画です。

事業承継税制の特例措置を利用するための重要な入口となっています。

特例承継計画とは事業承継の予定を示す計画

特例承継計画とは、中小企業が事業承継税制の特例措置を利用するために作成する計画です。

計画には、会社の基本的な情報だけではなく、先代経営者や後継者、事業承継後の経営方針などを記載します。

つまり、

誰が会社を経営しているのか

誰に会社を引き継ぐのか

いつごろ事業承継するのか

承継後にどのような経営を行うのか

といった内容を事前に整理します。

事業承継税制は、非常に大きな税負担軽減につながる制度です。

そのため、単に相続税や贈与税を減らすためだけに利用するのではなく、実際に事業を引き継ぐ計画があることを確認する必要があります。

特例承継計画は、そのための重要な手続きです。

税務署ではなく都道府県へ提出する

特例承継計画の特徴の一つは、税務署ではなく都道府県へ提出することです。

事業承継税制は相続税や贈与税に関係するため、すべての手続きを税務署で行うように思えるかもしれません。

しかし、制度を利用するまでには大きく分けて二つの段階があります。

まず、中小企業として事業承継税制の対象となるための認定などに関する手続きがあります。

こちらは都道府県が関係します。

その後、実際に相続税や贈与税の納税猶予を受けるため、税務署で税務申告を行います。

つまり、

都道府県で事業承継に関する手続き

税務署で相続税や贈与税に関する手続き

という役割分担になっています。

特例承継計画の提出は、その最初の段階に位置します。

誰が特例承継計画を作成するのか

特例承継計画は、事業承継を予定している中小企業が作成します。

中心となるのは会社と経営者です。

先代経営者から誰へ会社を引き継ぐのかを決め、承継後の経営についても考える必要があります。

ただし、会社だけで自由に計画を作って提出すればよいわけではありません。

特例承継計画では、認定経営革新等支援機関による指導や助言を受ける仕組みになっています。

事業承継税制は、税金だけではなく会社経営そのものに関係する制度だからです。

後継者を誰にするのか。

株式をどのように移すのか。

会社の経営課題は何か。

承継後にどのように事業を成長させるのか。

こうした内容を整理したうえで計画を作成します。

認定経営革新等支援機関とは何か

特例承継計画では、「認定経営革新等支援機関」が重要な役割を担います。

認定経営革新等支援機関とは、中小企業の経営支援について一定の専門知識や実務経験を持つとして国から認定を受けた機関や専門家です。

例えば、税理士や公認会計士、金融機関、商工会、商工会議所などが認定を受けている場合があります。

認定経営革新等支援機関は、特例承継計画について指導や助言を行います。

単に書類の形式を確認するだけではありません。

会社の経営状況や事業承継後の計画などを踏まえて、事業承継について専門的な立場から関与します。

事業承継税制が単なる相続税対策ではなく、中小企業の事業継続を支援する制度であることが、この仕組みに表れています。

なぜ事前に計画を提出する必要があるのか

特例承継計画を事前に提出させる理由の一つは、制度の対象を実際に事業承継する企業に絞るためです。

事業承継税制の特例措置では、対象となる株式について非常に大きな納税猶予を受けられます。

そのため、相続が発生した後に、

「税金が高いので事業承継税制を使いたい」

というだけではなく、事前に事業承継について考えていることを確認する仕組みが必要になります。

もう一つ重要なのは、経営者に早めの準備を促すことです。

事業承継は、相続が発生してから考えるのでは遅い場合があります。

後継者の選定や育成には時間がかかります。

自社株をどのように移転するのかも考えなければなりません。

取引先や金融機関との関係を後継者へ引き継ぐ必要もあります。

特例承継計画を作ること自体が、経営者に事業承継について具体的に考えてもらうきっかけになります。

計画を提出しただけでは納税猶予は受けられない

ここは誤解しやすいところです。

特例承継計画を都道府県へ提出したからといって、その時点で相続税や贈与税が納税猶予されるわけではありません。

計画提出は、特例措置を利用するために必要となる手続きの一つです。

実際に株式の贈与や相続が行われた場合には、会社や後継者などについて所定の要件を満たし、都道府県知事の認定を受ける必要があります。

さらに、相続税や贈与税の申告期限までに税務署で必要な手続きを行います。

したがって、

特例承継計画を提出する

実際に株式を承継する

都道府県の認定を受ける

相続税や贈与税を申告する

納税猶予を受ける

という複数の手続きを経ることになります。

計画を提出することと、実際に税制の適用を受けることは別の段階です。

計画を提出しても必ず事業承継する必要があるわけではない

特例承継計画を提出した後、経営環境や家族の事情が変わることもあります。

当初予定していた後継者が会社を引き継がないことになるかもしれません。

親族内承継ではなく、従業員承継やM&Aを選択する可能性もあります。

特例承継計画を提出したことだけによって、必ずその計画どおりに株式を贈与しなければならないという意味ではありません。

重要なのは、特例措置を利用する可能性があるのであれば、期限までに必要な準備をしておくことです。

実際にどのような方法で事業を承継するかは、会社の状況を見ながら判断することになります。

提出期限と実際の事業承継期限は別に考える

特例承継計画には提出期限があります。

一方、実際に贈与や相続によって株式を取得し、特例措置の対象となるための期間もあります。

この二つは同じものではありません。

つまり、

計画をいつまでに提出するのか

実際の事業承継をいつまでに行うのか

を分けて確認する必要があります。

期限については税制改正によって変更されることもあるため、実際に制度を利用するときには、その時点の最新の法令や行政機関の案内を確認することが重要です。

特に事業承継は数年単位で準備することが珍しくありません。

期限直前になって初めて検討するのではなく、後継者候補が決まった段階から準備しておくことが重要です。

新しい免税制度でも計画の重要性は高まる可能性がある

今回、経済産業省は、成長投資や賃上げに取り組む企業を対象として、相続税や贈与税を免税とする仕組みを検討しています。

具体的な制度設計はこれからですが、税負担を大幅に軽減するのであれば、どの企業を対象にするのかを確認する仕組みが一段と重要になります。

例えば、

誰が事業を承継するのか

承継後にどのような投資を行うのか

どの程度賃上げするのか

会社をどのように成長させるのか

といった計画が重視される可能性があります。

従来の事業承継税制が「会社を引き継ぐための計画」を求めていたとすれば、今後は「引き継いだ会社をどう成長させるか」まで問われる制度へ発展する可能性があります。

結論

特例承継計画とは、事業承継税制の特例措置を利用するために、中小企業が事業承継の予定や承継後の経営方針などを記載して都道府県へ提出する計画です。

会社だけで作成するのではなく、認定経営革新等支援機関による指導や助言を受ける仕組みになっています。

重要なのは、特例承継計画を提出しただけで相続税や贈与税の納税猶予が受けられるわけではないことです。

実際の株式承継、都道府県による認定、税務署への申告など、その後にも必要な手続きがあります。

事業承継税制は、相続が発生してから慌てて利用する制度ではありません。

誰に会社を渡し、その後どのように経営してもらうのかを早い段階から考えることが重要です。

特例承継計画は、税制優遇を受けるための書類であると同時に、中小企業が事業承継そのものを具体化するための計画でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月23日 朝刊 相続・贈与税、賃上げで免除 中小、事業承継しやすく 経産省要望へ

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