生成AIの活用が企業や行政機関に広がる中、国税庁も最新技術を税務行政に取り入れようとしています。
青木孝徳国税庁長官は、2026年9月24日に導入される新しい基幹システムKSK2について、利用可能なデータの増加を予測モデルの精度向上につなげるとともに、生成AIなどの最新技術も活用していく考えを示しています。
では、生成AIによって税務調査の判断まで自動化されるのでしょうか。
現時点で示されている方針から重要なのは、AIが国税職員に代わってすべてを判断するということではありません。
大量のデータを効率的に活用し、限られた人員で適正かつ公平な課税を実現するために最新技術を利用するという考え方です。
国税庁はすでにAIを活用している
税務行政におけるAI活用は、これからゼロから始まるわけではありません。
国税庁ではすでに、過去の税務調査の実績、申告や決算情報、法定調書などのデータを使い、申告漏れのリスクをスコア化する予測モデルを構築しています。
大量の申告の中から、より詳しく確認する必要性が高い案件を探すためです。
国税庁には全国で約5万6,000人の職員がいます。
すべての申告を同じ深さで確認することはできないため、データを使って調査の必要性を判断することが重要になります。
予測AIと生成AIは同じではない
ここで区別しておきたいのが、申告漏れリスクを分析する予測モデルと生成AIです。
予測モデルは、過去のデータなどから一定のリスクを予測したり分類したりするために利用されます。
一方、生成AIは文章を生成したり、大量の情報を整理したりすることなどを得意とする技術です。
税務行政でAIという言葉が使われても、すべて同じ仕組みを意味するわけではありません。
青木長官は生成AIなどの最新技術を活用する方針を示していますが、具体的にどの業務へどのような形で利用するのかについては、今後の運用を確認していく必要があります。
KSK2でデータ活用の基盤が広がる
生成AIを含む最新技術を行政で活用するためには、その前提としてデータを利用できる環境が必要です。
そこで重要になるのがKSK2です。
国税庁によれば、KSK2の導入によって利用可能なデータが増える予定です。
さらに、書面処理からデータ処理への転換も進めます。
紙で保管されている情報より、整理されたデータの方が検索、照合、分析などに利用しやすくなります。
AIを高度化する前に、その材料となるデータを扱える基盤を整える必要があるわけです。
生成AIは職員を支援する道具になり得る
税務行政では非常に多くの情報を扱います。
申告や決算情報、法定調書、過去の調査実績など、確認しなければならない資料は膨大です。
生成AIには、大量の文章や情報を整理したり、必要な情報を探す作業を支援したりする可能性があります。
こうした技術を適切に利用できれば、職員が情報整理などに費やしていた時間を減らし、専門的な判断が必要な仕事へ時間を使いやすくなります。
ただし、国税庁が今回示しているのは生成AIなどを活用していくという方向性です。
具体的な利用方法については、実際に公表される仕組みと運用を確認することが重要です。
最終判断を人が行う仕組みは重要
現在の税務調査におけるAI活用を見ると、人による判断が重要な位置を占めています。
申告漏れリスクの予測モデルについても、その判定結果だけで調査対象を決めるわけではありません。
国税職員が各種の保有資料などをさらに分析し、調査の要否や優先度を最終的に判断します。
税務には個別事情があります。
同じ数字の動きでも、取引内容や事業環境によって意味が異なることがあります。
AIが示した結果をそのまま結論とするのではなく、専門知識を持つ職員が確認する仕組みが重要になります。
AI活用の目的は人を減らすことだけではない
行政でAIを使うというと、人員削減を連想することがあります。
しかし、国税庁が掲げている目的は、限られた予算と人員の中で、効果的、効率的に納税コンプライアンスを確保することです。
調査の必要性が低い案件に多くの時間を使えば、本当に詳しく確認する必要がある案件へ十分な人員を投入できません。
AIやデータ分析によって優先順位をつけることができれば、調査必要度の高い案件に職員を集中できます。
技術を使って人を完全に置き換えるというより、人が専門性を発揮すべき仕事へ集中できる環境を作ることが重要になります。
納税者にとっても無関係ではない
生成AIやデータ分析は国税庁内部の話に見えますが、納税者にも影響します。
税務行政のデータ活用が進めば、さまざまな情報を組み合わせて申告内容を確認しやすくなります。
一方で、KSK2によって税務署からの問い合わせにWeb上で回答できるようになったり、通知をデータで受領、閲覧できる範囲が広がったりするなど、納税者の利便性向上も進みます。
税務行政DXでは、納税者側の便利さと税務当局側の分析能力向上が同時に進むことになります。
AI時代でも適正申告という基本は変わらない
AIが高度化すると、納税者として何か特別な対応が必要になるように感じるかもしれません。
しかし、基本は変わりません。
取引を正確に記録し、必要な資料を保存し、税法に従って正しく申告することです。
AIが利用するデータが増えれば、申告内容とほかの情報との整合性を確認しやすくなる可能性があります。
だからこそ、AIへの対策を考えるのではなく、帳簿、証拠資料、申告内容を適切に整えておくことが重要になります。
結論
国税庁は、KSK2の導入によって利用可能なデータを増やし、予測モデルの精度向上を進めるとともに、生成AIなどの最新技術も活用していく方針です。
ただし、生成AIが税務調査や課税について自動的に最終判断する仕組みが示されているわけではありません。
現在の予測モデルでも、AIやデータ分析の結果に加え、国税職員が資料を分析し、調査の要否や優先度を判断しています。
これからの税務行政では、AIが大量の情報を処理し、人が専門的な判断を担うという役割分担がさらに重要になると考えられます。
KSK2と生成AIによって目指されているのは、人を税務行政から外すことではなく、データと技術を活用して限られた人員をより必要な仕事へ振り向け、適正かつ公平な課税につなげていくことなのです。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 青木新長官にインタビュー、KSK2導入で納税者の利便性向上へ