相続税がかかる相続では、財産を調べて税額を計算するだけでは手続きは終わりません。
決められた期限までに相続税の申告と納税を行う必要があります。
相続税の申告期限は、原則として「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。
一般的には、亡くなったことを死亡当日に知ることが多いため、「死亡から10か月以内」と覚えておくと分かりやすいでしょう。
しかし、この10か月の間には、相続人の確定、遺言書の確認、財産調査、不動産などの評価、遺産分割協議、納税資金の準備まで進めなければなりません。
相続直後には長く感じる10か月も、実際には決して余裕のある期間ではありません。
相続税の申告期限は原則10か月
相続税の申告が必要な場合には、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告書を提出します。
例えば、2026年8月15日に父親が亡くなり、相続人が同日に死亡を知ったとします。
原則的な申告期限は2027年6月15日です。
期限の日が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合には、原則としてその翌日が期限になります。
単純に「死亡した年の翌年に申告すればよい」という仕組みではありません。
死亡した日によって申告期限が変わります。
10か月の起算点は死亡日とは限らない
一般的には死亡日から10か月と説明されますが、法律上の基準は「相続の開始があったことを知った日の翌日」です。
相続は死亡によって開始します。
通常、配偶者や同居している子などは死亡した日に相続開始を知るため、死亡日の翌日から10か月を計算します。
しかし、長期間交流がなく、死亡したことを後になって知った相続人などでは、具体的な事情によって起算点が異なる場合があります。
相続税の期限を判断するときには、単に戸籍上の死亡日だけを見るのではなく、相続開始を知った時期も重要になることがあります。
申告だけでなく納税も10か月以内
相続税では、申告書を期限までに提出するだけではありません。
原則として納税も同じ期限までに行います。
例えば相続税額が1000万円だった場合、申告書だけを10か月以内に提出し、税金は後から用意すればよいというわけではありません。
原則として申告期限までに1000万円を納付する必要があります。
そのため相続税対策では、税額の計算だけでなく「どの財産を使って納税するのか」という納税資金の準備が非常に重要になります。
相続税は原則として金銭で一括納付する
相続税は原則として金銭で一括して納付します。
相続財産が預貯金中心であれば、納税資金を確保しやすいでしょう。
しかし、相続財産の大部分が自宅や賃貸不動産、非上場株式などの場合には事情が異なります。
例えば相続財産が1億円あっても、そのうち9000万円が不動産で、預貯金が1000万円しかないケースがあります。
財産額は大きくても、すぐに納税へ使える現金が少ない「資産はあるが現金がない相続」が起こります。
だからこそ、財産評価と同時に納税資金についても早い段階で確認する必要があります。
10か月の間に相続人を確定する
相続税を計算するためには、まず法定相続人を確定する必要があります。
相続税の基礎控除は、
3000万円プラス600万円掛ける法定相続人の数
で計算するからです。
さらに相続税の総額を計算するときにも法定相続分を使用します。
前婚の子や認知された子、代襲相続人などがいる場合には、家族が認識していた相続人と法律上の相続人が異なることもあります。
出生から死亡までの戸籍などを確認し、誰が法定相続人なのかを早い段階で確定する必要があります。
相続財産を漏れなく調査する
次に必要になるのが相続財産調査です。
代表的な財産には、
預貯金
土地や建物
上場株式
投資信託
非上場株式
生命保険金
貸付金
自動車
貴金属
などがあります。
一方で、借入金、未払医療費、未払税金などの債務も確認します。
家族が知らなかった銀行口座や証券口座、不動産が後から発見されることもあります。
10か月という期限を考えると、死亡後できるだけ早い段階から財産調査を始めることが重要です。
相続税では財産評価が必要になる
相続財産が判明したら、それぞれの財産を相続税のルールに従って評価します。
預貯金であれば死亡時点の残高を基本に確認するため比較的分かりやすいでしょう。
しかし、不動産や非上場株式などは簡単ではありません。
土地については路線価方式や倍率方式などによって評価します。
土地の形状や利用状況などによって評価額が変わる場合もあります。
賃貸されている土地や建物についても一定の評価方法があります。
非上場株式については、会社規模や株主の状況などによって評価方法が異なります。
相続財産の内容によっては、財産評価だけでも相当な時間が必要になります。
遺産分割協議も並行して進める
相続人が複数いる場合には、誰がどの財産を取得するのかを決める遺産分割協議も進めます。
例えば、
配偶者が自宅
長男が賃貸不動産
長女が預貯金
というように具体的な分け方を決めていきます。
相続税には、実際に誰がどの財産を取得したのかによって税負担が変わる制度があります。
代表的なのが配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例です。
そのため、遺産分割と相続税計算は切り離して考えにくい関係にあります。
遺産分割が終わらなくても申告期限は延びない
相続人同士の話し合いがまとまらず、10か月以内に遺産分割が終わらない場合もあります。
しかし、遺産分割が終わっていないことを理由として、相続税の申告期限が自動的に延長されるわけではありません。
未分割でも原則として10か月以内に申告と納税が必要です。
その場合には、各相続人が民法上の相続分などに従って財産を取得したものとして相続税を計算し、いったん申告することになります。
「遺産分割が終わるまで相続税申告を待とう」という対応はできません。
未分割では使えない特例がある
遺産が未分割の状態では、相続税の重要な特例を当初の申告で適用できない場合があります。
代表的なのが、
配偶者の税額軽減
小規模宅地等の特例
です。
これらは、原則として誰が財産を取得したのかが決まっていることが重要になります。
そのため、申告期限までに遺産分割がまとまらないと、いったん特例を適用せずに相続税を計算しなければならないことがあります。
結果として、当初の納税額が大きくなる可能性があります。
後から分割して特例を使える場合がある
申告期限までに遺産分割が終わらなかったからといって、配偶者の税額軽減などを永久に使えなくなるとは限りません。
一定の手続きを行い、原則として申告期限から3年以内に遺産分割が成立すれば、その後に特例を適用できる場合があります。
その際には、更正の請求などによって納め過ぎた相続税の還付を求めることがあります。
ただし、自動的に税金が戻るわけではありません。
必要な書類の提出や期限管理が重要になります。
未分割の場合の扱いについては次の記事で詳しく取り上げます。
期限までに納税できない場合はどうするのか
相続税は原則として金銭による一括納付ですが、一定の要件を満たす場合には「延納」が認められることがあります。
延納とは、相続税を一定期間にわたって分割して納付する制度です。
ただし、自由に分割払いを選べる制度ではありません。
一定額を超える相続税があり、金銭で一括納付することが困難であるなどの要件があります。
延納期間中には利子税もかかります。
また、税額などによっては担保が必要になる場合があります。
延納でも難しければ物納という制度がある
延納によっても金銭で納付することが困難な場合には、一定の要件のもとで「物納」が認められることがあります。
物納とは、相続した財産そのものを国に納める方法です。
ただし、好きな財産を自由に物納できるわけではありません。
物納できる財産には種類や順位があり、管理や処分に適さない財産については認められない場合があります。
物納はあくまで一定の条件を満たした場合の例外的な納税方法です。
まず金銭による一括納付、次に延納、それでも困難な場合に物納という関係になります。
期限を過ぎると税負担が増える可能性がある
相続税の申告や納税が期限に遅れると、本来の相続税だけで済まない場合があります。
納付が遅れれば延滞税が発生する可能性があります。
申告そのものが遅れれば、無申告加算税などが課される場合もあります。
また、期限内申告などが要件となっている制度にも影響する可能性があります。
「税額は最終的に払えば同じ」と考えることはできません。
期限を守ること自体が相続税手続きの重要なポイントです。
死亡後の主な期限を整理する
相続では相続税だけでなく、さまざまな期限があります。
死亡届は原則として死亡の事実を知った日から7日以内です。
相続放棄や限定承認は原則として相続開始を知った時から3か月以内です。
準確定申告は原則として相続開始を知った日の翌日から4か月以内です。
そして相続税の申告と納税は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
これらは別々の手続きですが、同じ相続の中で順番に期限が到来します。
死亡後の手続きを一覧化して管理することが重要です。
10か月あるではなく10か月しかない
相続税申告まで10か月と聞くと、かなり時間があるように感じるかもしれません。
しかし実際には、葬儀や各種届出を行った後に、戸籍を集めて相続人を確定し、遺言書を確認し、金融機関や不動産などを調査します。
さらに財産評価を行い、相続人全員で遺産分割を話し合い、相続税を計算し、納税資金を準備しなければなりません。
相続人間で意見が分かれたり、不動産や非上場株式など評価が難しい財産があったりすれば、さらに時間がかかります。
10か月は、相続手続きを一つずつ進めていると意外に早く過ぎていきます。
結論
相続税の申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
そして同じ期限までに相続税を納付する必要があります。
この10か月の間に、相続人の確定、相続財産と債務の調査、財産評価、遺産分割協議、相続税計算、納税資金の準備まで進めなければなりません。
特に注意したいのは、遺産分割が終わっていなくても相続税の申告期限は原則として延びないことです。
また、相続財産の多くが不動産などで現金が少ない場合には、納税資金の確保も大きな問題になります。
一定の要件を満たせば延納や物納という制度もありますが、まずは期限内に申告と納税ができるよう準備することが基本です。
相続税の10か月は、単なる税務申告の期限ではありません。
相続人、財産、遺産分割、税額、納税資金という相続全体を整理する期限でもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日 朝刊 <マネーの知識ここから>相続の基礎(1) 故人の財産、死亡後に「凍結」