日本では人口減少が進んでいます。
人口が減るのであれば、新築住宅の数が減るのは自然なことのように思えます。
しかし、住宅市場を見るときには、単純に人口が減っているから住宅も減っていると考えるだけでは十分ではありません。
重要なのは、住宅を必要とする需要に対して、新築住宅を供給する力がどの程度あるのかを見ることです。
その代表的な指標が新設住宅着工戸数です。
新設住宅着工戸数を見ると、日本でどれだけ新しい住宅が建てられようとしているのかが分かります。
そして、この着工戸数が人口減少以上のペースで減っていけば、住宅が余るどころか、条件の良い住宅が不足し、価格が下がりにくくなる可能性があります。
新設住宅着工戸数とは何か
新設住宅着工戸数とは、新しく建設工事が始まった住宅の戸数を示す統計です。
戸建て住宅だけではありません。
マンションやアパートなども含まれます。
住宅は完成するまでに一定の期間がかかるため、完成戸数ではなく、工事を始めた段階である着工戸数を見ることで、今後どれくらい住宅が供給されるのかを把握できます。
例えば、ある年の新設住宅着工戸数が80万戸だった場合、その年に約80万戸分の新しい住宅建設が始まったということになります。
その後、工事が進み、一定期間を経て実際に入居できる住宅になります。
そのため、新設住宅着工戸数は住宅市場の将来を先取りして見る指標の一つです。
着工戸数が増えていれば、今後住宅供給が増える可能性があります。
逆に着工戸数が減れば、数カ月後から数年後にかけて市場に出てくる新築住宅も減っていく可能性があります。
持ち家と貸家と分譲住宅は何が違うのか
新設住宅着工戸数は、住宅の使われ方によっていくつかに分けられています。
代表的なのが持ち家、貸家、分譲住宅です。
持ち家とは、建てる人自身が住むための住宅です。
例えば、自分が所有する土地に注文住宅を建てる場合などが該当します。
建築主と実際に住む人が基本的に同じ住宅です。
貸家とは、他人に貸すことを目的として建てられる住宅です。
賃貸アパートや賃貸マンションなどが代表例です。
オーナーが住宅を建て、入居者から家賃を受け取ります。
分譲住宅とは、販売することを目的として建てられる住宅です。
建売住宅や分譲マンションなどが該当します。
不動産会社などが住宅を建設し、それを個人に販売します。
つまり、
自分で住むために建てるのが持ち家
貸すために建てるのが貸家
売るために建てるのが分譲住宅
という違いがあります。
新設住宅着工戸数を見る場合には、全体の数字だけでなく、どの種類の住宅が増えているのか、減っているのかを見ることも重要です。
新築住宅着工戸数はなぜ減少するのか
新築住宅着工戸数が減る理由は一つではありません。
まず考えられるのが人口減少です。
人口が減れば、長期的には住宅を必要とする人の数も減少します。
ただし、住宅需要は人口だけで決まるわけではありません。
1人暮らしが増えれば、人口が減っても必要となる住宅数が大きく減らないことがあります。
そのため、人口と住宅需要は必ずしも同じ動きをしません。
もう一つ大きな要因が住宅価格の上昇です。
土地価格や建築資材、人件費が上昇すれば、新築住宅の販売価格も上がります。
住宅価格が高くなりすぎれば、購入できる人が減ります。
購入需要が弱くなれば、住宅会社も新しい住宅の供給を慎重にします。
金利も影響します。
住宅ローン金利が上昇すると、同じ金額を借りても毎月の返済額が増えます。
その結果、住宅購入を延期したり、購入価格を下げたりする人が増える可能性があります。
さらに近年では、建設人材不足の影響も大きくなっています。
住宅を建てたい需要があっても、大工や施工管理者などの人材が不足すれば、建設できる住宅数には限界があります。
つまり、住宅着工戸数の減少は、需要が減った結果だけではありません。
住宅を供給する能力そのものが低下している可能性もあるのです。
人口が減る以上に住宅供給が減るとはどういうことか
仮に人口が毎年1パーセントずつ減っているとします。
住宅需要も同じように1パーセントずつ減るのであれば、新築住宅の供給も1パーセント程度減れば、需給のバランスは大きく変わらないかもしれません。
しかし、新築住宅の供給が毎年3パーセントや5パーセントずつ減ると状況が変わります。
住宅を必要とする人の減少よりも、新しい住宅が市場に出てくるペースの方が速く縮小するからです。
すると、住宅全体では余っていたとしても、一定の条件を満たす住宅が不足することがあります。
例えば、
駅に近い住宅
耐震性能の高い住宅
断熱性能の高い住宅
管理状態の良いマンション
比較的新しい中古住宅
などに需要が集中します。
人口が減少していても、人気のある住宅の供給まで十分に増えるとは限りません。
その結果、住みたい住宅だけが不足するという現象が起こります。
住宅が余っているのに新築不足になる理由
日本には多くの住宅ストックがあります。
空き家も増えています。
そのため、住宅が余っているのであれば新築が減っても問題ないように思えます。
しかし、住宅はどこにあっても同じ価値があるわけではありません。
地方に空き家が大量に存在していても、東京や大阪などで住宅を探している人の需要をそのまま満たすことはできません。
また、築年数が古く、耐震性や断熱性能に問題がある住宅では、大規模な改修が必要になることがあります。
つまり、
住宅の数が足りていること
と
住みたい住宅が足りていること
は別の問題です。
新築住宅の供給が減れば、古い住宅を取り壊して新しい住宅に置き換える動きも弱くなります。
その結果、住宅全体の老朽化が進む可能性もあります。
着工戸数が減ると住宅価格は下がるのか
一般的には需要が減れば価格は下がりやすくなります。
しかし、住宅市場では供給も同時に減れば、価格が必ず下がるとは限りません。
例えば住宅を買いたい人が100人から90人に減ったとしても、販売される住宅が100戸から70戸に減れば、むしろ住宅1戸をめぐる競争は強くなります。
住宅市場でも同じことが起こります。
人口減少によって住宅需要が弱くなっても、新築供給がそれ以上に減少すれば、条件の良い住宅の価格は下がりにくくなります。
特に都市部や駅前など、土地そのものの供給が限られている地域では、この傾向が強くなります。
さらに建築費の上昇も住宅価格を下がりにくくします。
土地が安くなっても、建物を建てるための資材費や人件費が上昇すれば、新築価格は下がりにくくなります。
新築価格の上昇は中古住宅にも影響する
新築住宅の価格が上昇すると、その影響は新築住宅だけにとどまりません。
新築住宅を購入できない人が中古住宅へ流れるからです。
例えば、新築マンションが7000万円まで上昇したとします。
予算が5000万円の人は新築を諦め、築10年程度の中古マンションを探す可能性があります。
すると、比較的新しい中古マンションの需要が増えます。
需要が増えれば中古住宅価格も上昇しやすくなります。
さらに築10年程度の住宅が高くなれば、今度は築20年や築30年の住宅にも需要が広がります。
つまり、
新築住宅の供給減少
新築住宅価格の上昇
中古住宅への需要移動
中古住宅価格の上昇
という形で、新築不足が中古市場にも波及することがあります。
新築不足時代には住宅選びの考え方も変わる
これまで日本では、新築住宅が継続的に大量供給されることを前提として住宅市場が形成されてきました。
新築マンションや建売住宅が次々と供給され、その中から条件の良い住宅を選ぶことができました。
しかし、新築住宅着工戸数が長期的に減少すれば、この前提が変わります。
希望する地域で新築住宅が販売されるとは限りません。
販売されても、建築費や人件費の上昇によって価格が高くなる可能性があります。
そこで住宅選びでは、
新築だけに限定しない
中古住宅も検討する
対象地域を広げる
購入後の修繕費まで考える
といった考え方が重要になります。
住宅価格が下がるまで待つという考え方にも注意が必要です。
人口減少だけを理由に住宅価格が大幅に下落すると考えていると、新築供給の減少によって、希望する住宅の価格がむしろ高止まりする可能性があります。
結論
新設住宅着工戸数とは、新しく建設工事が始まった住宅の戸数を示す指標です。
持ち家、貸家、分譲住宅などに分けて公表され、日本の住宅供給が今後どのように変化するのかを見る重要な材料になります。
人口が減少すれば、長期的には住宅需要も減少すると考えられます。
しかし、住宅市場では人口だけを見ることはできません。
単身世帯の増加などによって世帯数がすぐには減らない一方、住宅を建設する大工などの人材不足が進めば、新築住宅の供給能力そのものが低下します。
その結果、人口が減る以上のペースで新築住宅が減る可能性があります。
住宅全体では余っていても、立地が良く、耐震性や断熱性が高く、すぐに住める住宅は不足することがあります。
新築供給が減れば、新築価格が高止まりし、購入希望者が中古住宅へ流れることで、中古住宅価格にも影響します。
つまり、人口減少社会だから住宅価格は下がるとは限りません。
これから住宅市場を見るときには、人口だけではなく、新設住宅着工戸数、世帯数、建設人材、建築費などを合わせて考えることが重要です。
新築住宅着工戸数の減少は、単に家が建たなくなるという話ではありません。
私たちが将来、住みたい場所で、希望する品質の住宅を、負担できる価格で確保できるかどうかに直結する問題なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 新築不足時代の住宅選び 立地や資金計画を見直し