企業年金が国内債券へ回帰するなかで、国債だけでなく事業債への関心も高まっています。
参考記事では、2025年度に国債より利回りの高い事業債の商品を新しく採用する企業年金が増えたとされています。
事業債とは、企業が資金を調達するために発行する債券です。
企業年金から見ると、国債と同じ債券という資産でありながら、一般的には国債より高い利回りを期待できます。
それなら国債ではなく、すべて事業債に投資すればよいようにも思えます。
しかし事業債の利回りが高いのには理由があります。
企業が倒産するなどして元本や利息を受け取れなくなる信用リスクを負うからです。
企業年金が事業債を利用する意味は、国債より少し高い収益を得ながら、株式ほど大きな価格変動リスクを取らずに必要な運用水準へ近づけるところにあります。
事業債とは何か
事業債は、一般の企業が事業資金などを調達するために発行する債券です。
一般には社債と呼ばれることも多くあります。
企業がお金を必要とするときには、銀行から借りる方法があります。
しかし資金調達の方法は銀行借入だけではありません。
投資家から直接お金を借りるために債券を発行することもできます。
例えば企業が額面100万円の債券を発行したとします。
投資家はその債券を購入することで企業へ資金を提供します。
企業は決められた条件に従って利息を支払い、満期には元本を返済します。
企業年金は投資家として事業債を購入し、利息収入を得ることができます。
国債と事業債は何が違うのか
基本的な仕組みは国債と似ています。
国債は国が発行します。
事業債は企業が発行します。
最大の違いは、誰がお金を返すのかです。
国債の場合、元本や利息を支払うのは国です。
事業債の場合、元本や利息を支払うのは発行企業です。
そのため投資家は、その企業に返済能力があるのかを考える必要があります。
企業の経営が悪化すれば、利息の支払いが滞ったり、元本の一部または全部を回収できなくなったりする可能性があります。
これが信用リスクです。
なぜ事業債の利回りは国債より高いのか
仮に国債と事業債の利回りがまったく同じだったとします。
国債の利回りが3%で、ある企業の事業債も3%だったとします。
投資家から見ると、信用リスクのある企業へお金を貸しても、国債と同じ収益しか得られません。
それなら一般的には信用力の高い国債を選ぶでしょう。
事業債を買ってもらうためには、国債より高い収益を提示する必要があります。
例えば、
国債3%
事業債3.5%
というように差をつけます。
この追加的な利回りは、投資家が信用リスクなどを引き受ける対価と考えることができます。
利回りが高いほど得とは限らない
事業債を見るときには、利回りの高さだけで判断してはいけません。
例えば二つの事業債があったとします。
信用力の高い企業の事業債が3.5%。
経営状態の不安定な企業の事業債が7%。
利回りだけなら7%の方が魅力的です。
しかし高い利回りには、高い信用リスクが織り込まれている可能性があります。
元本が返ってこなければ、数年間高い利息を受け取っても大きな損失になることがあります。
企業年金にとって重要なのは最高の利回りを得ることではありません。
将来の年金給付に必要な資金を安定して確保することです。
そのため利回りと信用リスクのバランスを見る必要があります。
信用リスクとは何か
信用リスクとは、お金を貸した相手が約束通りに元本や利息を支払えなくなるリスクです。
企業の業績が悪化したからといって、直ちに事業債が返済されなくなるわけではありません。
しかし企業の財務状態が深刻に悪化すれば、債務の返済能力も低下します。
最悪の場合には経営破綻し、債券保有者が元本の一部しか回収できないこともあります。
国債にもさまざまなリスクがありますが、国内企業の事業債では発行企業ごとの信用力を分析する必要があります。
企業年金が事業債へ投資するときには、この信用リスクの管理が重要になります。
格付けが信用力を判断する目安になる
事業債の信用力を判断する材料の一つが格付けです。
格付け会社は、企業や債券について元本や利息を約束通り支払う能力などを分析し、一定の記号によって信用力を示します。
一般的には信用力が高いと評価される債券ほど利回りは低くなりやすくなります。
反対に信用力が低いと評価される債券ほど、投資家から高い利回りを求められやすくなります。
企業年金は格付けだけで投資判断をするわけではありませんが、事業債を選別する重要な材料になります。
国債と株式の中間的な役割を持つ
事業債は企業年金の資産配分の中で、国債と株式の間に位置するような役割を持つことがあります。
国債は信用リスクが相対的に小さい一方、利回りも比較的低くなります。
株式は高い収益を期待できますが、株価が大きく変動します。
事業債なら国債より信用リスクを取る代わりに、国債より高い利回りを期待できます。
一方、満期まで保有し、発行企業が契約通り元本と利息を支払えば、株式のように企業価値の上昇を待たなくても一定の収益を得ることができます。
企業年金にとって使いやすい理由の一つです。
超低金利時代には事業債も利回りが低かった
企業年金が事業債へ投資する場合でも、基準となる国債金利が非常に低ければ十分な利回りを得にくくなります。
例えば国債利回りがほぼ0%だったとします。
事業債に一定の上乗せ金利があっても、企業年金が必要とする2%台の運用水準へ届かないことがあります。
そのため超低金利時代には、企業年金がさらに高い収益を求めて、
外国債券
株式
不動産
インフラ
その他のオルタナティブ資産
などへ投資対象を広げてきました。
国内の債券だけでは必要な利回りを確保しにくかったからです。
国債3%なら事業債の魅力も変わる
国内金利が上昇すると、事業債を取り巻く環境も変わります。
例えば国債から3%程度の利回りを期待できるとします。
信用力の高い事業債に一定の上乗せ利回りが付けば、それ以上の利回りを期待できる可能性があります。
参考記事によると、回答した企業年金の2026年度の予定利率は平均2.28%です。
予定利率と市場利回りを単純に同じものとして比較することはできませんが、企業年金が必要とする運用水準を考えるうえで重要な変化です。
以前なら株式などのリスク資産を組み合わせなければ届きにくかった収益水準を、国内の債券中心でも目指しやすくなる可能性があります。
事業債も金利上昇で価格が下がる
事業債には信用リスクだけでなく、金利リスクもあります。
固定金利の事業債を購入した後に市場金利が上昇すれば、既存の事業債の市場価格は下落します。
これは国債と同じです。
例えば利回り3.5%程度で購入した事業債があるとします。
その後、同程度の信用力を持つ新しい事業債から5%程度の利回りを得られるようになれば、古い事業債の魅力は低下します。
市場で売却するためには価格を下げる必要があります。
したがって事業債だから金利変動の影響を受けないわけではありません。
満期保有と事業債は相性がよい
企業年金が事業債を利用するときにも、満期まで持ち切るという考え方があります。
例えば10年後の年金給付に使う資金として、10年後に満期となる信用力の高い事業債を購入します。
途中で金利が上昇して債券価格が下落しても、売却する必要がなければ途中の市場価格に左右されにくくなります。
発行企業が債務を履行すれば、満期には契約に基づく償還を受けることができます。
ただし国債以上に重要になるのが発行企業の信用力です。
満期まで保有するつもりでも、その企業が途中で経営破綻すれば元本を回収できない可能性があります。
満期保有だから安全というわけではありません。
一つの企業へ集中しないことが重要になる
事業債では分散投資も重要です。
例えば企業年金が100億円を事業債へ投資するとします。
その100億円すべてを1社の事業債へ投資していた場合、その会社が経営危機に陥れば年金資産に大きな影響が出ます。
そこで多くの企業の事業債へ分散します。
業種も分けます。
満期も分散します。
こうすることで特定の企業や特定の時期にリスクが集中することを避けます。
企業年金では一つの高利回り債券を当てることより、多数の債券を組み合わせて全体として安定した収益を確保することが重要なのです。
国内債券回帰は国債だけを意味しない
企業年金が国内債券へ回帰すると聞くと、日本国債を大量に購入する姿を想像しがちです。
しかし国内債券には国債だけでなく、事業債などもあります。
企業年金は、
国債で安全性を確保する
事業債で少し高い利回りを上乗せする
という組み合わせを考えることができます。
国内債券全体でポートフォリオを組み、必要な利回りとリスクのバランスを取るわけです。
国内金利の上昇は、国債だけでなく国内の事業債市場も企業年金にとって利用しやすくする可能性があります。
結論
事業債とは、企業が資金を調達するために発行する債券です。
投資家は企業へお金を貸し、その対価として利息を受け取り、満期には契約に基づく元本の償還を受けます。
国債との大きな違いは、発行企業の信用リスクを負うことです。
企業が経営破綻すれば、元本や利息を予定通り受け取れない可能性があります。
そのリスクを引き受けるため、事業債には一般的に国債より高い利回りが求められます。
企業年金にとって事業債の魅力は、この上乗せされた利回りにあります。
国債だけでは少し足りない収益を、信用力の高い事業債を組み合わせることで補える可能性があります。
超低金利時代には、国債だけでなく事業債の利回りも低く、企業年金は株式や外国資産、オルタナティブ資産へ投資を広げざるを得ませんでした。
しかし国債利回りそのものが上昇すれば、そこに一定の上乗せ利回りが付く事業債の投資妙味も高まります。
企業年金の国内債券回帰とは、国債だけに戻ることではありません。
国債を土台としながら事業債で少し高い利回りを確保し、株式ほど大きな価格変動リスクを取らずに必要な収益へ近づける。
金利のある世界では、国内債券の中だけでもリスクと収益を調整できる余地が再び広がっているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 企業年金、国内債に回帰 配分増加意向、過去最大 利回り回復で投資妙味