東京都と地方の財政力格差が、再び大きな政策課題となっています。
東京都には企業や人口が集中し、法人関係税や個人住民税などの税収が集まりやすい構造があります。一方、地方では人口減少や高齢化が進み、行政サービスを維持するための財源確保が難しくなっています。
こうした状況を受け、政府は2027年度税制改正に向けて、地方税収の偏在を是正する追加的な措置を検討しています。
しかし、東京都の小池百合子知事は、東京の税収を地方に再配分するだけでは根本的な解決にならないと主張しています。
重要なのは、限られた税収を分け合うことではなく、それぞれの地域が自らの強みを生かして成長し、その成果を地域に還元できる制度を構築することです。
この問題は、単なる東京都と地方の財源争いではありません。人口減少社会における地方自治のあり方、税制の公平性、そして日本経済の成長戦略を考えるうえで重要な論点です。
東京への税収集中と財政力格差の拡大
東京都の財政力は、他の道府県と比較して突出しています。
2026年度の普通交付税算定結果では、東京都の財源超過額が初めて2兆円を超えました。
財源超過額とは、地方交付税制度において算定される基準財政収入額が、基準財政需要額を上回る部分です。
ただし、これは東京都の予算に2兆円の余剰資金が存在することを意味するものではありません。
基準財政需要額は、一定の算定方法によって標準的な行政需要を計算したものであり、自治体が実際に必要とするすべての支出を反映しているわけではないためです。
東京都には、首都として特有の行政需要があります。
例えば、東京23区には近隣県から毎日約300万人が通勤・通学しています。
道路、公共交通、防災、治安維持などの行政サービスは、東京都民だけでなく、昼間に東京で活動する人々にも提供されています。
また、国会や中央省庁、外国公館などが集中することによる警備や危機管理の負担もあります。
小池知事は、こうした首都特有の財政需要が地方交付税の算定に十分反映されていないと指摘しています。
一方、地方自治体から見れば、東京都の豊富な税収を背景とする子育て支援や教育支援との格差は無視できません。
同じ日本国内で生活していても、居住する自治体によって受けられる行政サービスに大きな違いが生じているためです。
地方交付税制度が果たす役割
地方交付税は、自治体間の財政力格差を調整し、全国どこでも一定水準の行政サービスを提供できるようにする制度です。
国税の一定割合などを財源として、財政力の弱い自治体に配分されます。
普通交付税は、原則として基準財政需要額から基準財政収入額を差し引いて算定されます。
基準財政収入額には、標準的な地方税収入の原則75%が算入されます。
残りの原則25%は、自治体が独自の政策などに活用できる財源として留保される仕組みです。
この制度には、税収が少ない地域でも教育、福祉、消防、道路整備などの行政サービスを維持できるという重要な役割があります。
一方、地方税収が増加すると基準財政収入額も増加し、普通交付税が減少する場合があります。
そのため、税収増加の成果が自治体の自由に使える財源の増加に十分結びつかないという問題が指摘されています。
もっとも、増収分がすべて交付税の減少によって相殺されるわけではありません。
留保財源の仕組みなどによって、自治体にも増収効果が残ります。
問題は、その割合や仕組みが地域経済の成長を促すうえで十分かどうかです。
地方税収44%増でも一般財源は8%増
小池知事が示した数字には、地方財政の構造的な問題が表れています。
東京都を除く道府県の税収は、過去15年間で44%増加しました。
しかし、地方交付税などを含めた一般財源の伸び率は8%にとどまっています。
地方税収が増加しても、自治体が自由に使える財源全体は、それほど増えていないということです。
もちろん、一般財源の伸び率には地方交付税以外の制度変更や財政措置も影響します。
したがって、この数字だけで地方交付税制度が地方の成長を妨げていると断定することはできません。
それでも、地方自治体が企業誘致や産業振興に取り組み、税収を増やした成果を地域に還元しやすくする仕組みは重要です。
地域経済が成長しても、行政サービスの充実や将来投資に十分な財源を振り向けられなければ、自治体の成長意欲が弱まる可能性があります。
地方財政制度には、財政力格差を調整する機能と、地域の自主的な成長を促す機能の両立が求められています。
税収の再配分だけでは解決しない構造問題
東京都の税収の一部を地方に再配分すれば、短期的には地方自治体の財源が増加します。
しかし、それだけで地方経済の成長力が高まるとは限りません。
地方の財政問題の背景には、人口減少、企業の集積不足、労働力不足、地域産業の競争力低下などがあります。
財源の再配分は、行政サービスの地域間格差を緩和するために必要な場合があります。
一方、持続的な成長を実現するには、地域自らが所得や雇用、税収を生み出す仕組みも必要です。
例えば、地域の大学や研究機関と企業が連携し、新しい産業を育成することが考えられます。
観光資源や農林水産物の高付加価値化、再生可能エネルギー、半導体関連産業、デジタル技術なども地域経済を支える可能性があります。
こうした取り組みによって生まれた税収を、地域の人材育成や生活環境の改善に再投資できれば、成長の好循環につながります。
地方税制改革では、再配分の公平性だけでなく、地域の成長成果をどの程度自治体に残すかという視点が欠かせません。
子育て支援に表れる自治体間格差
東京都と地方の財政力格差が分かりやすく表れる分野の一つが、子育て支援です。
東京都は、18歳以下の子どもを対象に1人当たり月5,000円を支給する「018サポート」を実施しています。
年間では1人当たり6万円となります。
子どもが2人いれば年間12万円、3人いれば年間18万円です。
さらに、東京都は高校授業料の実質無償化など、教育費負担の軽減にも積極的に取り組んできました。
こうした政策は、子育て世帯の家計に直接的な効果をもたらします。
一方、地方自治体では、同水準の支援を実施したくても財源を確保できない場合があります。
その結果、居住地によって子育て世帯が受けられる支援に差が生じます。
子育て支援の充実が自治体間の人口移動にも影響すれば、財政力の強い自治体に人口が集まり、さらに税収格差が広がる可能性があります。
ただし、東京都の支援策と出生数の増加との因果関係は慎重に検証する必要があります。
出生数には、出産年齢人口の変化や婚姻動向など複数の要因が影響するためです。
重要なのは、全国共通で保障すべき支援と、自治体独自の政策として認める支援を整理することです。
東京と地方の連携による新しい成長戦略
小池知事は、東京と地方を対立する存在として捉えるのではなく、共存共栄を目指すべきだと主張しています。
その具体例として、東京都と山梨県による水素関連分野での連携があります。
山梨県が持つ技術や研究開発力と、東京都の大きなエネルギー需要を結びつける取り組みです。
地方には、東京にはない産業基盤や技術、人材、自然資源があります。
一方、東京には大きな市場、資金調達機能、企業の本社機能、国際的なネットワークがあります。
双方の強みを組み合わせれば、新たな産業や雇用を創出できる可能性があります。
例えば、地方で開発された技術を東京の企業が事業化し、国内外の市場に展開する仕組みが考えられます。
地方で製造や研究開発を行い、東京で資金調達や販売を担うという役割分担も可能です。
こうした広域連携を支援する税制や財政制度を整備することは、単なる税収の再配分とは異なる成長戦略になります。
大学定員規制と地方創生の関係
東京一極集中への対応として、東京23区内の大学の定員増を原則として抑制する規制も設けられています。
この規制は、若者の東京への集中を緩和し、地方大学への進学を促すことなどを目的としています。
しかし、小池知事は、大学の立地だけを理由に定員増や学部再編を制限することは、人材育成や大学改革の妨げになると批判しています。
特に、AIやサイバーセキュリティーなどの高度専門人材の育成は、日本経済の成長に直結する課題です。
大学定員規制の効果については、地方への進学者数だけでなく、卒業後の就職先や地域への定着状況なども含めて検証する必要があります。
地方創生に必要なのは、若者が東京に進学できないようにすることだけではありません。
地方にも魅力的な大学、研究環境、就職先、生活環境を整えることです。
教育政策と地方財政政策を一体的に考えることが重要になります。
税制改革に求められる3つの視点
今後の地方税制改革では、3つの視点が重要です。
第一は、行政サービスの最低水準を全国で確保することです。
居住地によって必要な医療、教育、福祉サービスを受けられない状況は避けなければなりません。
第二は、自治体が独自に税収を増やした成果を地域に還元できる制度を整えることです。
企業誘致や産業育成、人口定着などの努力が財政面でも報われる仕組みが必要です。
第三は、東京と地方の広域的な連携を促すことです。
地域間で財源を奪い合うのではなく、企業、大学、自治体が協力して新しい経済活動を生み出す仕組みが求められます。
これらは相互に対立するものではありません。
財政調整によって全国の生活基盤を守りながら、自治体の成長努力を後押しし、地域間連携によって日本全体の経済規模を拡大することが理想です。
結論
東京都と地方の税収格差は、日本の人口、企業、経済活動が東京に集中している構造を反映しています。
地方交付税制度は、全国で一定水準の行政サービスを確保するために欠かせない制度です。
しかし、人口減少と経済構造の変化が進むなかで、財政力格差の調整だけでなく、地域の成長を促す仕組みとしても見直す必要があります。
東京都の財政力を維持することと、地方の財源を充実させることは、必ずしも二者択一ではありません。
重要なのは、全国共通で保障する行政サービスの水準を明確にしたうえで、自治体が地域の特性を生かして成長できる制度を構築することです。
そのためには、地方交付税の算定方法、税収増加に対する自治体のインセンティブ、首都特有の財政需要、地域間連携への支援などを総合的に検討する必要があります。
人口減少社会では、限られた財源を公平に配分するだけでなく、新たな経済価値を生み出す政策が一段と重要になります。
東京の成長が地方の発展につながり、地方の活力が日本全体の競争力を高める関係を築くことが、これからの税制改革に求められています。
税収を奪い合う地方財政から、地域の強みを生かして共に成長する地方財政へ転換できるか。
2027年度税制改正に向けた議論は、日本の地方自治と経済成長の将来を左右する重要な機会となります。
参考
日本経済新聞 2026年11月1日 朝刊「東京都と地方、共栄の税改革を 小池百合子都知事『地域の強み生かす』」
総務省「令和8年度普通交付税の算定結果」
総務省「地方交付税制度の概要」
東京都「018サポート」