相続税の相談でよく聞かれる言葉があります。
「配偶者には相続税がかからないと聞いたので安心しています。」
確かに、配偶者には「配偶者の税額軽減」という非常に大きな優遇制度があります。そのため、一次相続では相続税がゼロになるケースも珍しくありません。
しかし、この安心感が思わぬ落とし穴になることがあります。
相続は一度で終わるものではありません。夫婦のどちらかが亡くなる一次相続と、その後に残された配偶者が亡くなる二次相続まで含めて考えて初めて、本当の相続対策になります。
今回は、なぜ一次相続だけを考えてはいけないのか、その理由を分かりやすく解説します。
一次相続と二次相続とは何か
夫婦のうち、最初に亡くなったときの相続を一次相続といいます。
その後、残された配偶者が亡くなったときの相続が二次相続です。
例えば父親が亡くなり、母親と子どもが相続するのが一次相続です。
その後、母親が亡くなり、子どもだけが相続するのが二次相続になります。
実際には、多くの家庭で必ずこの二回の相続が発生します。
ところが、相続対策は一次相続だけで終わってしまうことが少なくありません。
配偶者の税額軽減は非常に強力な制度
一次相続では、配偶者に対して大きな優遇制度があります。
配偶者が取得した財産については、一定額までは相続税がかからないため、多くの家庭で配偶者の税額はゼロになります。
この制度は、残された配偶者の生活を守るために設けられた重要な制度です。
そのため、「配偶者が多く相続すれば相続税は少なくなる」と考える人も多いでしょう。
確かに一次相続だけを見れば、その考え方は間違いではありません。
しかし、そこで話は終わりではないのです。
二次相続では状況が大きく変わる
配偶者が亡くなる二次相続では、一次相続とは条件がまったく異なります。
まず、配偶者の税額軽減は使えません。
さらに、法定相続人が減るため、基礎控除額も小さくなります。
例えば、父・母・子二人の家庭では、
一次相続では法定相続人が三人ですが、
二次相続では子ども二人だけになります。
その結果、基礎控除額が減少し、課税対象となる財産が増えてしまいます。
つまり、一次相続では税金がゼロだったとしても、二次相続では思った以上の税負担になることがあるのです。
配偶者が多く相続すると税金が増えることもある
「税金がかからないなら、財産は全部配偶者が相続した方が良い。」
一見すると合理的に思えます。
しかし、その財産は将来すべて配偶者の財産になります。
二次相続では、その財産を子どもたちが相続することになります。
つまり、一次相続で先送りした税金が、二次相続でまとめて課税される可能性があるのです。
その結果、夫婦二人の相続全体で見ると、税負担が大きくなってしまうことがあります。
相続税は、一回ごとの税額ではなく、夫婦二人の相続全体で比較することが重要です。
財産の分け方で税負担は変わる
講義資料では、一次相続で配偶者が法定相続分を取得した場合と、子どもだけが相続した場合について比較しています。
その結果、一次相続だけを見ると配偶者が相続した方が税負担は軽くなりますが、二次相続まで含めた全体では、財産の配分によって総額が変わることが示されています。
もちろん、すべての家庭で同じ結論になるわけではありません。
家族構成や財産内容、自宅の有無、今後の生活資金などによって最適な分け方は異なります。
だからこそ、「税金が安いから」という理由だけで配偶者へ集中させるのは危険なのです。
二次相続まで見据えた対策が重要
相続対策では、二次相続を前提に考えることが大切です。
例えば、
子どもへ一部の財産を一次相続で承継する。
生前贈与を計画的に進める。
小規模宅地等の特例をどちらの相続で使うか検討する。
納税資金を確保しておく。
このような準備を早い段階から行えば、二次相続で慌てることはありません。
相続税は税率だけではなく、制度をいつ、どこで使うかによって大きく変わる税金なのです。
家族全体の生活も考える
もちろん、税金だけを考えればよいわけではありません。
残された配偶者の生活資金は十分か。
介護費用は必要になるか。
自宅を維持できるか。
子どもたちとの関係はどうか。
こうした生活設計も重要です。
節税だけを優先して配偶者の生活が不安定になってしまっては、本末転倒です。
相続対策とは、税金と生活設計の両方をバランスよく考えることでもあります。
結論
一次相続だけを見れば、配偶者の税額軽減は非常に有効な制度です。
しかし、二次相続まで視野に入れると、財産の分け方によって夫婦全体の相続税額は大きく変わる可能性があります。
相続は二回で一つの手続きと考え、一次相続と二次相続を一体で設計することが重要です。
「今の税金」だけではなく、「将来の税金」と「家族の暮らし」の両方を見据えた相続対策こそが、令和時代の資産承継には求められています。
参考
東京地方税理士会 令和の資産家の相続税対策 近年の税制改正をふまえて 江本尚浩 講義資料