未上場株の2次流通市場を育てるうえで、流動性と並んで重要になるのが価格発見です。
価格発見とは、売り手と買い手が取引を重ねることによって、その資産について市場参加者が納得できる価格が形成されていく仕組みです。
上場株では証券取引所で大量の売買が行われています。企業の業績や将来性について異なる考えを持つ投資家が注文を出し、その結果として株価が形成されます。
ところが未上場株では取引そのものが少なく、買い手も限られています。
そのため、あるスタートアップの企業価値が本当に500億円なのか、それとも300億円なのかを判断することが簡単ではありません。
未上場株の2次流通が拡大する意味は、株式を売りやすくすることだけではありません。取引を増やすことによって企業価値を発見する機能を育てることにもあります。
価格発見とは何か
価格発見という言葉から、どこかに正しい価格が存在し、それを探し当てる仕組みのように感じるかもしれません。
実際には、企業に絶対的な正解となる株価が最初から存在するわけではありません。
投資家によって将来予測が違うからです。
例えば、あるスタートアップが新しい人工知能サービスを開発しているとします。
投資家Aは、この市場が今後急成長すると考え、企業価値1000億円でも投資したいと判断するかもしれません。
投資家Bは競争が激しくなると考え、企業価値600億円程度が妥当だと判断するかもしれません。
投資家Cはさらに慎重で、400億円なら投資すると考えるかもしれません。
こうした異なる評価を持つ投資家が売買に参加し、実際に取引が成立することで価格が形成されます。
この過程が価格発見です。
上場株では毎日価格発見が行われている
上場株では価格発見が日常的に行われています。
例えば企業が好決算を発表したとします。
今後さらに利益が増えると考える投資家が増えれば、現在の株価より高い価格でも買いたいという注文が増えます。
株価は上昇します。
反対に業績悪化が発表されれば、保有株を売却したい投資家が増え、株価が下落することがあります。
金利上昇や景気後退など、企業外部の環境変化も株価に反映されます。
数多くの投資家がそれぞれの情報や予測を持ち寄り、売買することで、その時点での市場価格が形成されます。
つまり株価は誰か一人が決めているわけではありません。
多数の投資家による評価の結果なのです。
未上場株では価格発見が難しい
未上場株では、この仕組みが十分に働きにくいという問題があります。
最大の理由は取引が少ないことです。
例えばあるスタートアップが2年前に資金調達し、そのとき企業価値300億円と評価されたとします。
その後、一度も株式取引が行われていなければ、現在の企業価値を示す新しい価格情報がありません。
この2年間で売上高が3倍になっているかもしれません。
反対に事業計画が遅れているかもしれません。
競争環境や金利も変化している可能性があります。
それでも最後に確認できる取引価格は2年前の300億円です。
この価格が現在も適正なのか分からない状態になります。
資金調達時の価格だけでは分からない
スタートアップの企業価値を考えるとき、直近の資金調達価格が重要な参考になります。
しかし、プライマリー取引の価格だけで企業価値を判断することには限界があります。
会社が資金調達を行うのは毎日ではありません。
数年に一度しか増資しない会社もあります。
さらに資金調達にはさまざまな条件が付くことがあります。
例えばVCが取得する優先株には、会社が売却された場合などに普通株より優先して一定額を受け取れる権利が付いていることがあります。
そのため資金調達時に一株1万円という価格が付いていても、その価格をすべての株式にそのまま当てはめられるとは限りません。
実際の既存株式がどの価格で売買されるのかを見ることにも意味があります。
買い手が一社しかいないと価格が偏りやすい
未上場株市場で特に問題になるのが、買い手候補の少なさです。
例えばVCが保有する株式を売却したいとします。
その株式について買い手候補が一社しかいなければ、価格交渉はその投資家との間だけで行われます。
VCは企業価値500億円が妥当だと考えていても、買い手が企業価値300億円しか提示しなければ選択肢は限られます。
VCファンドの期限が迫っていれば、低い価格でも売却せざるを得ないかもしれません。
この取引価格だけを見て、この会社の企業価値は300億円だと判断することにも問題があります。
企業そのものの価値が300億円だったのではなく、買い手が少なかったため300億円になった可能性があるからです。
複数の投資家が参加すると何が変わるのか
そこで重要になるのが買い手を増やすことです。
例えば同じスタートアップについて5社の投資家が評価したとします。
投資家Aは企業価値300億円。
投資家Bは350億円。
投資家Cは400億円。
投資家Dは450億円。
投資家Eは500億円。
このように複数の評価が示されれば、売り手は一社だけの価格提示に依存する必要がなくなります。
さらに投資家同士の競争によって、より売り手と買い手の双方が納得できる価格に近づく可能性があります。
参加する投資家が増えることは、単に売却先が増えるだけではありません。
さまざまな投資家の企業評価を価格に反映させることにつながるのです。
取引回数が増えることにも意味がある
価格発見では、参加する投資家の数だけでなく取引回数も重要です。
例えば3年前に一株5000円、2年前に6000円、1年前に8000円、半年前に9000円で取引されたとします。
このように継続的な取引があれば、企業価値がどのように変化してきたのかを見ることができます。
一方、5年前に一度だけ5000円で取引され、その後まったく売買されていなければ、現在の価値を判断する材料としては弱くなります。
取引事例が蓄積されるほど、未上場企業でも企業価値の変化を把握しやすくなります。
これが2次流通市場を拡大する重要な意味です。
価格が下がることも価格発見
価格発見というと、企業価値を高く評価してもらう仕組みと思われるかもしれません。
しかし、価格発見は必ずしも株価上昇を意味しません。
例えば直近の資金調達では企業価値1000億円だったスタートアップがあるとします。
その後、成長率が鈍化したとします。
2次流通で複数の投資家が評価した結果、企業価値700億円程度でなければ買い手が現れないこともあります。
この場合、企業価値が下がったことが市場によって明らかになります。
会社や既存株主には厳しい結果です。
しかし、これも重要な価格発見です。
過去の資金調達価格を維持することより、現在の投資家がどの程度の価値を認めているのかを把握することの方が市場にとって重要だからです。
IPO直前に突然価格が決まる問題
未上場株の価格発見が十分に行われていないと、IPO時に問題が表面化する可能性があります。
例えば未上場時には企業価値1000億円とされていた会社がIPOするとします。
しかし上場市場の投資家が、その企業価値では高すぎると判断するかもしれません。
結果としてIPO価格を大幅に引き下げる必要が生じることがあります。
反対にIPO価格が低すぎれば、上場直後に株価が急騰することがあります。
未上場市場と上場市場で企業価値に対する評価が大きく違っていたことになります。
IPOの瞬間に初めて多数の投資家による価格発見が行われるため、価格の断絶が起きやすくなるのです。
2次流通とIPO価格の関係
未上場段階から2次流通が活発になれば、IPO前にも価格発見が行われるようになります。
例えばIPOの3年前に企業価値500億円、2年前に700億円、1年前に900億円、直前に1100億円という取引が行われていたとします。
複数の機関投資家がこれらの取引に参加していれば、企業価値について市場参加者の評価が少しずつ形成されます。
IPO時に突然ゼロから価格を考える必要がなくなります。
未上場市場の価格とIPO価格、さらに上場後の株価が連続しやすくなる可能性があります。
特に未上場株と上場株の双方へ投資するクロスオーバー投資家が参加すれば、二つの市場をつなぐ価格形成が期待できます。
証券会社が重要になる理由
ここで未上場株専門の証券会社が重要になります。
VCが自分で売却先を探すだけでは、接触できる投資家の数に限界があります。
証券会社が機関投資家や事業会社、CVCなど幅広い買い手候補を集められれば、一つの株式について複数の評価が集まります。
さらに取引事例が積み上がれば、過去にどのような条件で売買されたのかという情報やノウハウも蓄積されます。
未上場株の仲介会社は、単に売り手と買い手を紹介するだけではありません。
多くの投資家を取引へ参加させることで、価格発見機能を支える市場インフラとしての役割を担うことになります。
価格発見が次の投資を呼び込む
価格が分からない資産には投資しにくいという問題があります。
例えば機関投資家が100億円の未上場株を購入しようとしても、適正価格がまったく分からなければ投資判断は難しくなります。
さらに購入後に売却できる価格の目安もなければ、大きなリスクになります。
2次流通市場が発達し、複数の取引価格を確認できるようになれば、企業価値を判断する材料が増えます。
投資しやすくなることで参加者が増えます。
参加者が増えれば取引が増えます。
取引が増えればさらに価格情報が増えます。
価格発見と流動性は互いを強める関係にあるのです。
価格発見は企業側にも重要
価格発見は投資家だけの問題ではありません。
スタートアップ自身にも影響します。
現在の企業価値が分かれば、次の資金調達でどの程度の価格を設定できるのか判断しやすくなります。
ストックオプションなど株式報酬を設計するときにも参考になります。
M&Aの交渉でも、自社の企業価値を考える材料になります。
さらに市場から厳しい評価を受ければ、経営戦略を見直すきっかけにもなります。
未上場だから市場評価を受けなくてよいのではなく、未上場の段階から一定の市場規律が働くようになるのです。
結論
未上場株の価格発見とは、多くの売り手と買い手が企業価値を評価し、実際の取引を重ねることで、その時点で納得できる価格が形成されていく仕組みです。
上場株では証券取引所で毎日大量の取引が行われるため、価格発見が継続的に行われています。
一方、日本の未上場株市場では取引回数が少なく、買い手候補も限られてきました。
その結果、数年前の資金調達価格しか企業価値を判断する材料がないことや、一社の買い手が提示した価格に売り手が左右されることがあります。
2次流通が拡大し、複数の機関投資家やCVC、クロスオーバー投資家などが参加すれば、企業価値について多様な評価が集まります。
取引事例が蓄積されれば、企業価値が時間とともにどう変化しているのかも見えやすくなります。
重要なのは、価格発見が必ず企業価値を高めるわけではないことです。
過去の資金調達価格より低い価格が示される場合もあります。
それでも現在の企業価値を市場参加者が評価することには意味があります。
未上場市場で十分な価格発見が行われれば、IPOの瞬間に初めて市場価格が形成されるのではなく、未上場株の価格からIPO価格、上場後の株価へと連続した価格形成が期待できます。
株式を売れる市場をつくるだけではなく、企業の価値を見つけられる市場をつくる。
それが日本の未上場株の2次流通市場を発展させるうえで重要な課題なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く
日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題