未上場株の価格はどう決まるのか 株価が表示される市場がなくても企業価値を決められる理由編

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上場会社の株式であれば、証券会社のアプリなどを開けば現在の株価を確認できます。

買いたい投資家と売りたい投資家の注文が証券取引所に集まり、取引が成立するたびに株価が形成されているからです。

ところが未上場企業には、このような市場価格がありません。

それでもスタートアップは数十億円、数百億円、場合によっては1000億円を超える企業価値で資金調達を行います。さらに既存株主が保有する未上場株を別の投資家へ売却する2次流通でも、一株当たりの売買価格を決めなければなりません。

市場価格が存在しないのに、どうやって株価を決めるのでしょうか。

未上場株の価格を理解するには、企業価値と一株当たり価格を分けて考えることが重要です。

未上場株には市場価格がない

上場株の価格は市場で決まります。

例えばある上場企業の株式について、一株1000円なら買いたい投資家と、一株1000円なら売りたい投資家がいれば取引が成立します。

多くの投資家が毎日注文を出すため、企業の業績や金利、景気、ニュースなどを反映して株価が変動します。

一方、未上場企業の株式は原則として証券取引所で売買されません。

昨日1000円だったから今日も1000円前後という基準になる市場価格がないのです。

さらに取引回数も限られています。

数カ月、場合によっては数年間まったく株式取引が行われない企業もあります。

そのため未上場株では、取引をするたびに企業価値を評価し、売り手と買い手が価格を決める必要があります。

まず会社全体の価値を考える

スタートアップの株価を考えるとき、最初から一株1000円といった価格を決めるわけではありません。

まず会社全体にどのくらいの価値があるのかを考えます。

例えば投資家と会社が交渉し、あるスタートアップの企業価値を100億円と評価したとします。

発行済株式数が100万株で、すべて同じ条件の普通株だと単純化すると、一株当たりの価値は1万円になります。

100億円を100万株で割るからです。

企業価値が200億円なら、一株当たり2万円になります。

つまり一株当たり価格は、会社全体の評価額と発行済株式数を基礎として計算できます。

重要なのは、その前提となる企業価値をどう決めるかです。

利益が出ていない会社をどう評価するのか

成熟した企業であれば、利益やキャッシュフローを基準として企業価値を考えやすくなります。

しかしスタートアップでは事情が違います。

創薬企業であれば研究開発中で売上高がほとんどないこともあります。

宇宙関連企業なら、ロケットや人工衛星の開発に巨額の先行投資が必要になることがあります。

成長期のソフトウエア企業も、人材採用や営業活動へ積極的に投資するため赤字になっている場合があります。

現在赤字だから企業価値がゼロというわけではありません。

将来どれだけ大きな市場を獲得できるのか。

売上高はどの程度成長しているのか。

独自の技術や特許を持っているのか。

顧客を継続的に獲得できているのか。

競合企業に対してどのような優位性があるのか。

こうした将来の収益力を考えながら企業価値を評価します。

類似企業との比較も使われる

企業価値を考える方法の一つが、似た事業を行っている企業との比較です。

例えば上場している同業企業について、売上高が100億円で企業価値が500億円だったとします。

単純化すると、売上高の5倍程度で評価されていることになります。

同じ業界の未上場スタートアップの売上高が50億円であれば、売上高の5倍を一つの参考にして250億円程度という企業価値を考えることができます。

もちろん実際にはこれほど単純ではありません。

売上高の成長率、利益率、市場規模、技術力、顧客構成などによって評価は変わります。

それでも上場企業の評価は、未上場企業の企業価値を考える重要な参考材料になります。

直近の資金調達価格が重要になる

未上場企業の株価を考えるうえで特に重要なのが、直近の資金調達価格です。

例えば1年前にスタートアップが第三者割当増資を行い、一株1万円で新しい投資家へ株式を発行したとします。

この一株1万円は、その時点で会社と投資家が合意した価格です。

その後に2次流通で既存株を売買するとき、一株1万円が重要な参考価格になります。

ただし、直近の資金調達価格がそのまま現在の適正価格になるとは限りません。

1年間で会社が大きく成長していれば、企業価値は上昇している可能性があります。

反対に業績が計画を下回っていれば、企業価値が低下している可能性もあります。

金利や株式市場など外部環境も変化します。

直近の資金調達価格は重要な出発点ですが、絶対的な価格ではないのです。

資金調達価格と2次流通価格は同じとは限らない

プライマリー取引とセカンダリー取引で価格が異なる場合もあります。

例えば会社が直近の増資で一株1万円の価格を付けていたとします。

その半年後、VCが保有株式を売却しようとしても、一株1万円で買ってくれる投資家がいるとは限りません。

未上場株は簡単に換金できないからです。

新しい投資家は、購入後に何年間保有することになるのか分かりません。

IPOが延期される可能性もあります。

業績が悪化しても市場ですぐ売却することはできません。

こうした流動性の低さを考慮して、一株8000円なら購入するという投資家が現れることがあります。

直近の増資価格より2次流通価格が安くなる可能性があるのです。

売り手と買い手では希望価格が違う

未上場株の価格形成を難しくしているのが、売り手と買い手の立場の違いです。

売り手であるVCはできるだけ高く売りたいと考えます。

例えば直近の資金調達で企業価値が500億円だったなら、少なくとも同程度の評価で売却したいと考えるかもしれません。

一方、新しい投資家は今後の利益を大きくするため、できるだけ安く買いたいと考えます。

さらに新しい投資家は、将来IPOできなかった場合や企業価値が下落した場合のリスクも考えます。

そのため500億円では高すぎるので400億円なら投資すると判断する可能性があります。

この売り手と買い手の交渉によって実際の取引価格が決まります。

売却期限が価格に影響する

売り手がいつまで株式を保有できるのかも重要です。

例えばVCファンドの運用期限まで5年残っていれば、希望価格で買ってくれる投資家が現れるまで待つことができます。

しかし半年後にファンドを終了しなければならない場合は事情が違います。

多少安い価格でも売却する必要があるかもしれません。

買い手はその事情を理解しています。

その結果、売り手側が考えている企業価値より低い価格で取引されることがあります。

未上場株の価格は会社そのものの価値だけではなく、売り手と買い手の事情にも左右されるのです。

一株当たり価格だけでは比較できない場合がある

スタートアップ株の価格を見るときには、さらに注意が必要です。

同じ会社の株式でも、すべて同じ権利を持っているとは限らないからです。

創業者や従業員が普通株を持ち、VCが優先株を持っていることがあります。

優先株には、会社が売却された場合などに普通株より先に一定額を受け取れる権利が付いていることがあります。

その場合、同じ一株でも経済的な価値が違います。

例えば直近の資金調達で優先株が一株1万円だったとしても、普通株も必ず一株1万円の価値があるとは限りません。

未上場株の価格を比較するときには、株式の種類や権利内容まで確認する必要があります。

企業価値1000億円でも現金が1000億円あるわけではない

スタートアップの記事では、企業価値1000億円という表現がよく登場します。

これは会社が1000億円の現金を持っているという意味ではありません。

また、1000億円で会社全体の株式が実際に売買されたという意味でもありません。

例えば新しい投資家が一部の株式を一定価格で取得し、その一株当たり価格を会社全体の株式に当てはめることで企業価値が算出される場合があります。

わずかな株式の取引価格から会社全体の価値を推計していることもあるのです。

そのため未上場企業の企業価値を見るときには、どの取引を基準に算定された数字なのかを考えることが重要です。

2次流通が増えると価格情報も増える

未上場株市場では取引が少ないため、企業価値を判断する材料も限られています。

しかし2次流通が活発になれば状況が変わります。

例えば1年前の増資価格だけでなく、半年前のVCによる売却価格、3カ月前の従業員株式の売却価格など、複数の取引価格が生まれます。

さらに複数の機関投資家が買い手として参加すれば、企業価値についてさまざまな評価が示されます。

この取引の積み重ねによって、未上場企業であっても現在の企業価値が少しずつ見えやすくなります。

これが未上場市場における価格発見につながります。

証券会社が仲介する意味

未上場株の専門証券会社が登場することには、価格形成という意味もあります。

従来はVCが自分で買い手を探すケースも多く、購入候補が限られていました。

買い手が一社しかいなければ、その一社との交渉で価格が決まります。

その価格が本当に市場参加者全体から見て妥当なのか判断することは簡単ではありません。

証券会社が複数の機関投資家やCVCなどへ情報を提供し、買い手候補を集められれば、複数の投資家が企業価値を評価できます。

取引参加者を増やすことが、より納得感のある価格形成につながります。

証券会社には単なる売買の仲介だけでなく、未上場株の価格を発見する市場をつくる役割も期待されているのです。

結論

未上場株には、上場株のように証券取引所で毎日表示される市場価格がありません。

そのため株式を発行したり売買したりするときには、まず会社全体の企業価値を評価し、そこから一株当たり価格を考えます。

企業価値の評価では、売上高や利益だけではなく、成長率、技術力、市場規模、将来の収益力、類似する上場企業の評価などさまざまな材料が使われます。

直近の資金調達価格も重要な基準になります。

ただし、直近の増資価格と2次流通価格が同じになるとは限りません。

未上場株は換金しにくいため、そのリスクを考慮して安い価格が提示される場合があります。VCファンドの期限など売り手側の事情も価格に影響します。

さらに普通株と優先株では権利が異なることがあり、一株当たり価格だけを単純比較できない場合もあります。

だからこそ2次流通市場の拡大が重要になります。

取引が増え、複数の投資家が企業価値を評価するようになれば、一つの資金調達価格だけでは分からなかった現在の企業価値が見えやすくなります。

未上場株には株価がないのではありません。

常に表示される市場価格がないため、取引のたびに売り手と買い手が企業価値を探しているのです。

その価格を探す機能をどこまで発達させられるかが、日本の未上場株市場を育てる重要な課題になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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