正社員には賞与があるのに、契約社員にはない。
正社員には住宅手当が支給されるのに、パート社員には支給されない。
このような待遇差があるとき、非正規社員は会社に対して、
なぜ自分には支給されないのですか
と説明を求めることができます。
そして会社には、その待遇差の内容や理由を説明する義務があります。
ところが、制度として説明を求める権利があっても、非正規社員本人がそのことを知らなければ利用されません。
資料では、待遇差の内容や理由について説明を求めたことがある労働者は8%にとどまっていたとされています。
そこで2026年10月から制度が変わります。
パート社員や有期雇用社員を雇い入れる際に、正社員との待遇差について会社へ説明を求めることができる旨を、労働条件として明示することになります。
つまり、説明を求められたら答える制度から、説明を求めることができると最初から本人に知らせる制度へ一歩進むわけです。
説明義務とは何か
パートタイム有期雇用労働法では、パート社員や有期雇用社員から求めがあった場合、会社に待遇差について説明する義務が課されています。
正社員と非正規社員の待遇が違っている場合、会社が、
会社の制度なので決まっています
正社員と契約社員では待遇が違います
と答えるだけでは、十分な説明にならない可能性があります。
なぜ待遇に違いがあるのかを、その待遇の性質や目的、仕事内容、責任、人材活用の違いなどに基づいて説明することが重要になります。
同一労働同一賃金では、待遇差そのものが直ちに禁止されているわけではありません。
だからこそ、その待遇差にどのような理由があるのかを会社が説明できることが重要なのです。
何を説明するのか
説明の対象になるのは、正社員と非正規社員の待遇の違いです。
たとえば、
基本給
賞与
退職金
住宅手当
家族手当
休暇
福利厚生
などについて待遇差があれば、その内容と理由が問題になります。
重要なのは、待遇差を一括して説明するのではなく、それぞれの待遇について理由を整理することです。
たとえば、
正社員と契約社員では責任が違うので待遇が違います
という説明だけでは、住宅手当や家族手当まで違う理由になるとは限りません。
基本給は職務や責任との関係が強い一方、家族手当や福利厚生などは異なる目的を持っているからです。
したがって、
この手当は何のために支給しているのか
その目的は非正規社員にも当てはまるのか
なぜ正社員だけを対象にしているのか
というところまで整理しておく必要があります。
説明では待遇の目的が重要になる
同じ名称の待遇であっても、会社によって制度の目的が違う場合があります。
代表的なのが住宅手当です。
ある会社では、転居を伴う配置転換がある社員の住宅費負担を軽減する目的で住宅手当を支給しているかもしれません。
一方、別の会社では単純に従業員の生活費を補助する目的で支給しているかもしれません。
名称はどちらも住宅手当です。
しかし制度の目的が違えば、非正規社員に支給しないことを合理的に説明できるかどうかも変わります。
会社が説明義務に対応するためには、就業規則に書かれている支給条件を読み上げるだけではなく、
そもそもなぜこの待遇を設けているのか
まで整理しておくことが重要になります。
説明を求められるタイミング
待遇差についての説明義務は、非正規社員から求めがあった場合に問題になります。
たとえば働いている途中で、
なぜ正社員には賞与があるのに自分にはないのか
なぜ正社員だけ家族手当を受け取れるのか
と質問されることが考えられます。
契約更新の際に待遇について疑問を持つこともあるでしょう。
これまでの制度では、労働者自身が説明を求めることができると知らなければ、そもそも会社へ質問しない可能性がありました。
資料では、待遇差の内容や理由について説明を求めることができる制度をより実効的にするため、2026年の改正が行われたと説明されています。
つまり今回の改正では、説明義務そのものだけではなく、
説明を求めることができることを労働者に知らせる
ことが重要になります。
2026年10月改正で何が変わるのか
2026年10月1日から、パートタイム有期雇用労働法施行規則が改正されます。
雇い入れ時の労働条件明示事項として、
通常の労働者との待遇の相違の内容や理由について説明を求めることができる旨
が追加されます。
資料に掲載されている改正後の労働条件通知書の様式例でも、通常の労働者との待遇の相違について説明を求めることができる旨と、その窓口を記載する形になっています。
この変更の意味は大きいといえます。
これまでは、説明を求める制度を知っている非正規社員が自ら会社に質問する必要がありました。
2026年10月以降は、雇い入れ時に会社側からその権利の存在を明示することになります。
その結果、待遇差について説明を求める社員が増える可能性があります。
施行日前から働いている社員はどうなるのか
ここで注意したいのが、2026年10月1日より前から働いているパート社員や有期雇用社員です。
今回の改正による新しい労働条件明示は、施行日以降に新たに雇用される従業員について必要になります。
資料では、施行日前から雇用されていた人に対して、今回の改正だけを理由として改めて労働条件を明示する必要はないとされています。
つまり、既存社員全員に新しい労働条件通知書を一斉に出し直さなければならないという改正ではありません。
ただし、既存社員から待遇差について説明を求められる可能性がなくなるわけではありません。
会社としては、新規採用者への書面対応だけでなく、既存社員を含めて待遇差を説明できる体制を整えておくことが重要です。
口頭説明だけで終わらせないことが重要になる
2026年改正では、雇用管理指針についても見直しが行われています。
資料では、パート社員や有期雇用社員に待遇差を説明する際には、資料を活用して説明したり、容易に理解できる内容の資料を交付したりする方法が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
口頭で説明する場合についても、説明に使用した資料などを交付することが望ましいとされています。
つまり、
人事担当者がその場で説明できればよい
という話ではありません。
誰が説明しても基本的な内容が変わらないように、会社として説明内容を整理しておくことが重要になります。
説明資料を事前に作る
2026年改正への実務対応として重要になるのが、待遇差の説明資料です。
会社はまず、正社員と非正規社員の待遇を比較します。
そのうえで待遇差が存在する項目について、
待遇の内容
制度の目的
支給対象者
職務内容の違い
責任の違い
配置変更の範囲
その他の事情
などを整理します。
資料に掲載された2026年改正対応のチェックリストでも、正社員と非正規社員の待遇差を確認し、不合理性を検証したうえで、待遇差の内容や理由を説明できる資料を作成したかが確認項目になっています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
質問されてから理由を考えるのではなく、質問される前に説明できる状態を作っておくわけです。
説明内容は裁判でも重要になる
待遇差の説明資料には、もう一つ重要な意味があります。
会社が待遇差についてどのように説明したかは、後に待遇差の合理性が争われた場合にも関係してきます。
資料では、説明義務に基づく説明内容は、非正規社員から待遇差が不合理であると主張された場合に、会社側の主張の根拠となり得ると指摘されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
そのため、説明義務への対応を単なる人事担当者の問い合わせ対応と考えるべきではありません。
待遇制度の目的と実際の人事制度が一致しているかを確認したうえで説明する必要があります。
会社が説明した理由と実際の運用が違っていれば、かえって問題になる可能性があります。
説明を求めた社員を不利益に扱ってはいけない
待遇差について質問することは、非正規社員に認められた制度上の権利です。
そのため、
待遇について質問したから契約更新で不利にする
説明を求めたから職場で不利益に扱う
といった対応をすることは適切ではありません。
企業側にとっては、説明を求められること自体を問題と考えるのではなく、自社の待遇制度を説明する通常の人事手続きとして対応できる体制を作ることが重要になります。
2026年10月以降は、雇い入れ時から説明を求めることができる旨を知らせるため、こうした問い合わせがこれまでより身近になることも考えられます。
2026年改正は説明できる人事制度への転換でもある
今回の改正は、労働条件通知書に一文を追加すれば終わるものではありません。
むしろ重要なのは、その一文を見た社員から実際に、
では、なぜ私はこの手当を受け取れないのですか
と質問されたときに答えられるかどうかです。
そのためには、会社自身が待遇制度の目的を理解していなければなりません。
昔からこの制度だから
正社員とパート社員では違うから
という説明だけではなく、職務や責任、人材活用、待遇の性質や目的などと結び付けて説明する必要があります。
待遇差の説明義務とは、単に社員からの質問に回答する制度ではありません。
企業自身に、自社の賃金や福利厚生制度について合理的に説明できる状態を求める仕組みでもあるのです。
結論
待遇差の説明義務とは、パート社員や有期雇用社員から求められた場合に、会社が正社員との待遇差の内容や理由を説明する仕組みです。
同一労働同一賃金では、正社員と非正規社員の待遇をすべて同じにすることが求められているわけではありません。
だからこそ、待遇に差を設けるのであれば、
どのような違いがあるのか
なぜその違いが必要なのか
を説明できることが重要になります。
そして2026年10月1日からは、雇い入れ時の労働条件明示事項に、待遇差の内容や理由について説明を求めることができる旨が追加されます。
これによって企業は、説明を求められてから対応するのではなく、あらかじめ待遇差を点検し、説明資料を整えておく必要性が高まります。
同一労働同一賃金への対応は、待遇差をなくすことだけではありません。
待遇差が残るのであれば、その理由を社員にきちんと説明できる人事制度を作ることも重要なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検