同一労働同一賃金を理解するときに、特に重要なのが均等待遇と均衡待遇という二つの考え方です。
名前がよく似ているため混同されやすいのですが、意味は異なります。
均等待遇は、正社員と非正規社員の働き方に実質的な違いがない場合に、雇用形態だけを理由として待遇に差をつけてはいけないという考え方です。
一方、均衡待遇は、仕事内容や責任、配置変更の範囲などに違いがある場合でも、その違いに見合わない不合理な待遇差を設けてはいけないという考え方です。
つまり、
同じなら同じ待遇にする
違いがあるなら、その違いに応じたバランスを取る
という二段階の考え方になっています。
では、均等待遇と均衡待遇は具体的にどのように違うのでしょうか。
均等待遇とは何か
均等待遇とは、正社員と非正規社員の間で、職務内容や人材活用の仕組みに違いがない場合には、待遇について差別的な取扱いをしてはいけないという考え方です。
ここでいう職務内容とは、単に担当している作業だけではありません。
業務の内容に加えて、その業務に伴う責任の程度も含まれます。
さらに、将来どこまで配置転換される可能性があるのかという範囲も重要です。
たとえば正社員と有期雇用社員が同じ売り場で同じ接客業務を行い、売上管理などの責任も同じだとします。
さらに、両者とも店舗間の異動や職種変更の可能性が同じであるとすれば、実質的な働き方に大きな違いはありません。
このような場合に、
正社員だから高い手当を支給する
有期雇用社員だから支給しない
という扱いをすれば、雇用形態だけを理由とした差別的な待遇になり得ます。
均等待遇では、正社員か非正規社員かという名称ではなく、実際の働き方が同じかどうかが問われるのです。
均衡待遇とは何か
一方、均衡待遇は、正社員と非正規社員の働き方に違いがある場合に問題になります。
たとえば正社員には管理業務があり、パート社員には管理責任がないとします。
あるいは正社員には全国転勤がありますが、パート社員は勤務地が限定されている場合もあります。
このような場合まで、すべての待遇を完全に同じにする必要があるわけではありません。
働き方に違いがある以上、その違いを待遇に反映すること自体は認められます。
ただし、どれだけ差をつけてもよいわけではありません。
仕事内容や責任、人材活用の違いに照らして、待遇差が不合理ではないかを判断します。
これが均衡待遇です。
均衡という言葉のとおり、
違いに応じて釣り合いが取れているか
を見る考え方です。
均等待遇では雇用形態だけで差をつけられない
均等待遇で特に重要なのは、正社員という肩書そのものには特別な意味がないという点です。
正社員だから待遇を高くしてよい、非正規社員だから低くしてよい、という仕組みではありません。
会社は実際の職務内容や責任、配置転換などを見なければなりません。
たとえば正社員と契約社員が同じ業務を担当し、責任も同じで、異動範囲まで同じだったとします。
そのとき、
契約社員だから賞与はありません
という説明だけでは、待遇差の合理性を説明することは難しくなります。
つまり均等待遇とは、雇用契約の名称ではなく実態を見る仕組みです。
正社員、契約社員、パート社員という名前が違っていても、働き方が同じであれば同じように扱う必要があるという考え方なのです。
均衡待遇では違いの程度を見る
均衡待遇では、正社員と非正規社員の働き方が完全には同じではありません。
そのため待遇差そのものはあり得ます。
問題になるのは、
働き方の違いと待遇差の大きさが釣り合っているか
という点です。
たとえば正社員は店舗責任者として人員管理や売上管理を行い、パート社員は接客のみを担当しているとします。
この場合、基本給や役職手当などに差があることには一定の理由があります。
しかし、仕事内容に違いがあるからといって、住宅手当や休暇、福利厚生まで自動的にすべて違ってよいわけではありません。
待遇ごとに何のための制度なのかを確認する必要があります。
同一労働同一賃金では、待遇差の不合理性を基本的に待遇ごとに個別に判断する考え方が採られています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
職務内容には責任の程度も含まれる
正社員と非正規社員を比較するとき、
同じ作業をしているから同じ仕事だ
と単純には判断できません。
重要なのが責任の程度です。
たとえば正社員とパート社員がどちらもレジ業務を担当しているとします。
見た目には同じ仕事です。
しかし正社員だけがクレーム対応を担当し、売上金の管理を行い、新人教育や店舗閉鎖時の責任まで負っているのであれば、責任の程度は異なります。
この場合、表面的には同じ業務をしていても、職務内容が完全に同じとは限りません。
逆に、会社が正社員の責任が重いと主張していても、実際には非正規社員も同じ責任を負っているのであれば、その説明は通りにくくなります。
同一労働同一賃金では、肩書ではなく実態が重要なのです。
配置変更の範囲とは何か
もう一つ重要なのが、職務内容や配置変更の範囲です。
これは、将来どのように人材を活用する予定なのかを見る考え方です。
たとえば正社員には、
全国転勤がある
他部署への異動がある
職種変更がある
管理職への登用がある
といった可能性がある一方、パート社員は勤務地も仕事も限定されている場合があります。
現在は同じ仕事をしていても、将来の人材活用の仕組みが大きく違うことになります。
この違いは待遇差を判断するときの重要な要素になります。
資料でも、待遇差の不合理性を判断するときには、業務内容、責任の程度、職務内容や配置変更の範囲、その他の事情を総合的に見る考え方が示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり、今日何をしているかだけではなく、会社がその社員を将来どのように配置し、どのような役割を期待しているかまで見るわけです。
転勤可能性があるだけでは十分ではない
ただし、
正社員には転勤があります
と会社が就業規則に書いておけば、それだけで大きな待遇差が認められるわけではありません。
重要なのは実態です。
制度上は全国転勤があることになっていても、実際には何十年も転勤が行われていないのであれば、その違いがどこまで待遇差を説明できるかは別問題です。
反対に、実際に正社員が広い範囲で配置転換され、管理職候補として育成されているのであれば、非正規社員との人材活用の違いは明確になります。
資料でも、正社員人材確保目的について、単にその目的を掲げるだけでは足りず、客観的かつ具体的な実態に照らして判断されることが示されています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
均衡待遇を考えるときも、制度の建前だけではなく、実際の運用を見ることが重要です。
仕事が違えばすべての待遇を変えられるわけではない
均衡待遇で特に注意したいのは、
仕事内容が違うから待遇も全部違ってよい
という考え方ではないことです。
待遇には、それぞれ異なる目的があります。
基本給や役職手当などは、職務内容や責任との関係が強い待遇です。
そのため仕事内容や責任の違いが、そのまま待遇差の理由になりやすいといえます。
一方、給食施設、休憩室、更衣室などの福利厚生は、業務上の責任との関係がそれほど強くありません。
正社員の責任が重いからといって、
正社員だけ休憩室を使える
という待遇差を合理的に説明することは難しいでしょう。
資料でも、福利厚生施設について給食施設、休憩室、更衣室などが具体的に挙げられています。 02121ea7-51b0-43f2-ab19-7ccfb5f…
つまり、均衡待遇では社員全体を一括して比べるのではなく、待遇ごとに違いの理由を考える必要があります。
均等待遇と均衡待遇を分ける意味
この二つの考え方を分ける最大の理由は、働き方が違う社員を無理にすべて同じ待遇にすることを避けるためです。
会社にはさまざまな働き方があります。
管理職を目指して広く異動する正社員もいれば、勤務地や勤務時間を限定して働く社員もいます。
その違いをまったく無視して待遇を同一にすれば、かえって人事制度を作りにくくなります。
そこで、
働き方が同じなら均等待遇
働き方が違うなら均衡待遇
という二つの考え方を使い分けます。
ただし、働き方が違うという理由だけで待遇差が自由になるわけではありません。
何が違うのか、その違いがその待遇とどのように関係しているのかまで説明できる必要があります。
結論
均等待遇と均衡待遇は、同一労働同一賃金を理解するうえで中心となる二つの考え方です。
均等待遇は、正社員と非正規社員の職務内容や責任、配置変更の範囲などが同じである場合に、雇用形態だけを理由として差別的な待遇を設けてはいけないという考え方です。
一方、均衡待遇は、働き方に違いがある場合でも、その違いに照らして不合理な待遇差を設けてはいけないという考え方です。
したがって、
同じ仕事なら同じ待遇
というだけでは十分ではありません。
責任の程度や将来の配置変更の範囲まで同じなのかを確認する必要があります。
逆に仕事に違いがあっても、福利厚生や休暇など、その違いと関係の薄い待遇まで自由に変えられるわけではありません。
同一労働同一賃金では、
社員の働き方にどのような違いがあるのか
その違いが個々の待遇とどのように関係しているのか
を一つずつ確認することが重要です。
均等待遇は同じものを同じように扱う考え方であり、均衡待遇は違いのあるものをその違いに応じてバランスよく扱う考え方なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 同一労働同一賃金改正対応の総点検