企業が大型設備を導入するとき、国や自治体などから補助金を受けることがあります。
補助金を受けて設備を取得した場合に重要になる税務処理の一つが圧縮記帳です。
圧縮記帳を適用すると、税務上の帳簿価額が圧縮されます。
そこで問題になるのが、設備投資税制に設けられている取得価額要件です。
令和8年度税制改正で創設された大胆な投資促進税制では、一定規模の特定機械装置等が対象になります。
国税庁が公表した租税特別措置法関係通達でも、圧縮記帳の適用を受けた場合の特定機械装置等の取得価額要件の判定について、新たな取扱いが設けられました。
圧縮記帳と設備投資税制を組み合わせる場合には、帳簿上の金額だけを見て判断しないことが重要です。
圧縮記帳とは何か
圧縮記帳は、一定の補助金などを受けて固定資産を取得した場合に利用される税務上の仕組みです。
たとえば企業が1億円の設備を取得し、その取得に関連して一定の補助金を受けたとします。
補助金をそのまま益金として認識する一方、設備について通常の減価償却だけを行うと、補助金を受け取った年度の課税所得が大きくなることがあります。
そこで、一定の要件を満たす場合に固定資産の取得価額を圧縮するなどの処理によって課税関係を調整するのが圧縮記帳です。
補助金を受け取った時点で生じる税負担を調整し、設備投資に使える資金が税負担によって減少することを抑える役割があります。
圧縮記帳をすると帳簿価額が小さくなる
圧縮記帳を理解するときに重要なのが、取得した設備の帳簿上の金額が小さくなるという点です。
たとえば1億円の設備を取得し、一定の要件の下で3,000万円を圧縮したとします。
単純化すれば、圧縮後の帳簿価額は7,000万円になります。
その後の減価償却も、圧縮後の金額を基礎として行われることになります。
つまり、補助金を受け取った年度の課税を調整する代わりに、将来計上できる減価償却費も小さくなる仕組みです。
税金そのものが単純になくなる制度ではなく、課税時期を調整する性格があります。
取得価額要件との関係が問題になる
ここで大胆な投資促進税制との関係が問題になります。
同制度では、一定の規模の特定機械装置等であることが要件となります。
設備の取得価額が基準となる場合、圧縮記帳によって帳簿上の金額が小さくなっていると、どの金額で判定するのかという疑問が生じます。
実際に設備を取得するために支払った金額を見るのか。
圧縮記帳後の帳簿価額を見るのか。
この違いによって、一定の取得価額要件を満たすかどうかが変わる可能性があります。
そのため、圧縮記帳を適用した設備については、取得価額要件の判定方法を正しく確認する必要があります。
帳簿価額と取得価額は同じとは限らない
税務を考える際には、取得価額と帳簿価額を区別することが重要です。
取得価額は、資産を取得するために要した金額を基礎として考えます。
これに対して帳簿価額は、取得後の減価償却や圧縮記帳などによって変化していきます。
取得時点では同じように見えても、その後の税務処理によって金額が異なってくるわけです。
設備投資税制で取得価額という言葉が使われている場合には、単純に現在の固定資産台帳に記載されている帳簿価額を見ればよいとは限りません。
どの金額を基礎として制度上の要件を判定するのかを確認する必要があります。
補助金を受けたから投資規模そのものが小さくなるわけではない
たとえば企業が10億円の設備を取得し、そのうち一定額について補助金を受けたとします。
企業の実際の設備投資としては10億円規模の設備が導入されています。
圧縮記帳を行った結果、税務上の帳簿価額が小さくなったとしても、導入された設備そのものが小さくなるわけではありません。
このため、設備投資税制における取得価額要件と圧縮記帳後の帳簿価額をどのように関係付けるのかについて、明確な取扱いが必要になります。
今回の通達でこの論点について取扱いが新設されたことには、こうした実務上の問題を整理する意味があります。
補助金と税制優遇は別々に確認する
大型設備投資では、補助金と税制優遇を同時に検討するケースがあります。
しかし、補助金を受けられることと、大胆な投資促進税制を利用できることは別の問題です。
補助金には補助金の要件があります。
大胆な投資促進税制には、特定生産性向上設備等への該当性や取得価額、事業供用などの要件があります。
さらに、補助金を受けたことによる圧縮記帳が、設備投資税制の計算にどのような影響を与えるのかも確認する必要があります。
補助金を受けたから税制優遇も当然に受けられるというものではありません。
逆に、圧縮記帳をしたから直ちに税制優遇を利用できなくなると考えるのも適切ではありません。
それぞれの制度を分けて確認する必要があります。
税額控除を選ぶ場合にも取得価額が重要になる
大胆な投資促進税制では、即時償却だけでなく税額控除を選択できます。
機械装置などでは取得価額の7%、建物、建物附属設備、構築物については4%相当額が税額控除の計算に関係します。
そのため、取得価額をどのように取り扱うのかは、対象設備に該当するかどうかだけの問題ではありません。
税額控除額の計算にも関係します。
圧縮記帳を行う設備について税額控除を検討するときには、圧縮記帳と取得価額の関係を確認したうえで計算する必要があります。
単純に設備の購入代金へ7%や4%を掛ければよいと考えるのは注意が必要です。
即時償却との組み合わせでも確認が必要になる
即時償却を選択する場合も同じです。
即時償却は対象設備の取得価額を基礎として、普通償却と特別償却を通じて早期に費用化する仕組みです。
一方、圧縮記帳も設備の税務上の金額に影響します。
そのため、両方の制度を利用する場合には、どの順序でどの金額を基礎として計算するのかを正しく確認する必要があります。
大型設備では金額が大きいため、取得価額の認識が少し違うだけでも税額への影響が大きくなる可能性があります。
投資計画の段階で補助金と税制を一緒に考える
設備投資を決めた後で補助金と税制を別々に検討するよりも、投資計画の段階から両方を確認することが重要です。
設備の取得価額はいくらになるのか。
どの補助金を利用するのか。
圧縮記帳を適用するのか。
大胆な投資促進税制の対象になるのか。
即時償却と税額控除のどちらを選択するのか。
こうした項目をまとめてシミュレーションすれば、投資後のキャッシュフローも把握しやすくなります。
大規模な設備投資ほど、補助金担当、設備担当、経理、税務など複数部門の連携が重要になります。
結論
圧縮記帳を利用すると、設備の税務上の帳簿価額が圧縮されます。
そのため、大胆な投資促進税制のように取得価額が重要となる制度では、どの金額を使って要件を判定するのかが問題になります。
重要なのは、取得価額と圧縮記帳後の帳簿価額を同じものとして考えないことです。
補助金を受けて圧縮記帳を行っても、企業が実際に導入した設備の規模そのものが変わるわけではありません。
一方、圧縮記帳はその後の減価償却や税制上の計算に影響します。
今回の国税庁通達では、圧縮記帳の適用を受けた場合の特定機械装置等の取得価額要件の判定について取扱いが新設されています。
大型設備投資では、補助金、圧縮記帳、即時償却、税額控除をそれぞれ別々に考えるのではなく、一つの投資計画として整理することが重要です。
設備を購入してから税務処理を考えるのではなく、投資を決定する段階で補助金と税制の双方を確認することが、制度を適切に活用する第一歩になります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など
国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について